みなさん、腎臓を気にしたことありますか?健康診断で腎臓について言われてもピンとこない人、多いのではないでしょうか?
腎臓は、肝臓と同じく病状が進行していても気づきにくい臓器の1つ。しかも末期腎不全になると腎臓の機能は失われ、それを代行する治療が必要になり、日常生活にも大きく影響が出てきます。
腎臓を早い段階でケアをしてあげることが、その後の健康寿命にとっても非常に大切なのです。
今回は、腎臓にいい食べ物や注意すべき栄養素などを紹介していきながら、腎臓に良い生活習慣について一緒に考えていきましょう。
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慢性腎臓病とは?
慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease, CKD)とは、文字通り腎臓の機能がゆっくり低下していく状態のこと。腎臓は、体内の老廃物や余分な水分を排出し、血液中の栄養素やミネラルのバランスを調整する働きがあります。しかし、糖尿病や高血圧などの病気が原因で慢性腎臓病が進行すると、これらの機能が次第に失われ、さまざまな健康上の問題が引き起こされる可能性があります。
慢性腎臓病は5つの段階に分けられ、腎臓機能の低下の程度によって進行度が評価されます。通常は「ステージG3a」といって、「腎臓の働き(GFR)が健康な人の60%未満に低下する(GFRが60mℓ/分/1.73㎡未満)か、あるいはタンパク尿が出るといった腎臓の異常が続く状態」から注視することが多いですね。(図の黄色の部分)
初期段階の慢性腎臓病では、症状がほとんど現れないことが多いので、数字でしか実感することはないでしょう。しかし、慢性腎臓病が進行すると、むくみ、だるさ、食欲不振、尿の異常などの症状が現れはじめ、腎臓機能が大幅に低下した場合、透析や腎臓移植が必要となってしまいます。
さらに、一度失ってしまった腎臓の機能はなかなか取り戻すことができません。残された腎臓の機能を大切に守っていくしかないのです。残念ながら、慢性腎不全の進行をゆっくりにする薬はあっても、大幅に改善する薬はないのですね。
そのため、いかに初期の段階で「糖尿病や高血圧の予防・管理、塩分や脂肪の適切な摂取、適度な運動、禁煙、アルコールの適量摂取などの健康的な生活習慣を心がけるか」が大切となってきます。
今回は、数ある腎臓にとっての健康習慣のなかから「腎臓にいい食べ物や注意すべき食生活」について、実際の医学論文をとりあげながら紹介していきます。
(参照:CKD診療ガイドライン2018・CKDガイドライン2023(案))
腎臓によい食べ物の「3大原則」とは?
実際に健康診断で「腎臓が悪いですね」と言われたら、どのような食生活を気を付ければよいでしょうか。腎臓が悪いレベルによっても異なりますが、特に以下は意識した方がよいでしょう。
① 塩分を控える
腎臓は、体内の塩分バランスを維持する役割も担っています。しかし、腎臓機能が低下すると、塩分の排出が難しくなり、高血圧やむくみを引き起こすリスクが高まります。そのため、腎臓に負担をかけない食生活を送るためには、塩分の摂取を適切に制限することが重要です。
実際、複数の論文を検証した論文によると、1日食塩摂取量を4.2g減少させると、収縮期血圧/拡張期血圧は6.1/3.5 mmHg低下し、4.8g減少させると尿蛋白は34%減少、アルブミン尿は36%減少していることがわかっています。
そのため、ガイドラインでは「1日食塩摂取量6g未満」が推奨されています。
日本人の1日食塩量の平均10.1g(男性11g、女性9.3g)と言われており、食塩を4g以上落とさないといけません。これを達成するためには
- しょう油を減塩にしたり、ポン酢・柑橘類・ケチャップなどの他の調味料で代用する
- 漬け物や佃煮などの高塩分食は控える
- だしのうまみで減塩をする
- ラーメンの汁などは最後まで飲まない
など普段からの減塩を意識した食生活が大切といえます。尿検査で1日食塩摂取量は推定することができるので、ご希望の方は医療機関で聞いてみるといいでしょう。(当院でも尿検査時には適宜お伝えしています)
② タンパク質の調節を適宜行う
基本的に「タンパク質はきちんと摂取した方がいい」という流れになっていますが、過剰なタンパク質の摂取は腎臓にとってはあまりよくはありません。
特に進行した腎不全の方には、タンパク質の代謝産物である「窒素化合物」が尿毒症物質として蓄積することがいわれいます。そして、タンパク質の制限により、腎機能の低下や尿たんぱくの抑制に関連することがわかっています。
そのため、慢性腎臓病の方ではステージによってタンパク質の量が決められており、
- ステージG3aの方(GFR 45-59):1日タンパク質摂取量 0.8~1.0 g/kg標準体重/日
- ステージG3bの方(GFR45未満):1日タンパク質摂取量 0.6~0.8 g/kg標準体重/日
がガイドラインでの推奨量の目安になります。例えば、身長160㎝の方だと標準体重約56㎏、170㎝だと約64㎏になるので、推奨1日タンパク質摂取量としてはそれぞれ
- ステージG3aの方: 1日タンパク質目安量は身長160㎝の方で44.8~56g、身長170㎝の方で51.2~64g
- ステージG3b以降の方: 1日タンパク質目安量は身長160㎝の方で33.6~44.8g、身長170㎝の方で38.4~51.2g
ということになります。薄切りの豚もも肉1枚 4.8g、マグロの刺身1人前11.2g、絹豆腐1丁 15.9g、卵1個6.8g、鮭1切れ18.9gのタンパク質量があります。1度計算して1日のタンパク質を見直してみるとよいですね。
なお、ガイドラインでは「CKDの進行を抑制するため,腎臓専門医と管理栄養士を含む医療チームの管理のもとで、必要とされるエネルギー摂取量を維持し,たんぱく質摂取量を制限することを推奨する」としています。
ぜひ「腎臓病で自分のすべき食生活が正確に知りたい」という方は、かかりつけの先生に一度聞いてみるとよいでしょう。(当院では管理栄養士がいないため、適切な医療機関に紹介します)
(参照:CKD診療ガイドライン2018・CKDガイドライン2023(案))
③ 心臓によい食べ物を食べる
実は、心臓と腎臓は心臓と腎臓が密接に関連しています。心臓と腎臓が一緒になって働き、血液循環や血圧調節を行い、どちらも動脈硬化や生活習慣病と大きく関係しています。
そのため、米国保険社会福祉省のNIH(National Institute of Diabetes and Digestive and Kidney Diseases)では、腎臓に正しい食事の1つとして「心臓によい食べ物を食べる」ことを取り上げており、代表例として以下の食材をあげていますね。
- ロースやもも肉などの赤身の部位
- 皮のない鶏肉
- 魚
- 豆
- 野菜
- 果物
- 低脂肪または無脂肪の牛乳、ヨーグルト、チーズ
例えば、オメガ-3脂肪酸(EPAやDHA)が含まれる魚やオリーブオイル、ナッツ類は、血管を柔軟に保ち、炎症を抑制し、血液の粘りを減らす働きがありますし、野菜や果物、豆類、ナッツ類など、抗酸化物質が豊富な食品は、細胞の酸化ストレスを減らし、腎臓への良い影響が期待されますね。
ただし、前述の通り「過剰なタンパク質にならないこと」、また後述しますが「高カリウム血症の時に過剰な野菜や果物を食べるとカリウム値の上昇を加速する可能性があること」には注意が必要です。
(参照:NIH「Eating Right for Chronic Kidney Disease」)
他に腎臓によい食べ物や注意すべき食べ物は?
腎臓によい食べ物の3大原則についてはお伝えしました。
では、他に腎臓によい食べ物は注意すべき食べ物などはあるのでしょうか?腎臓のステージによっても異なりますが、例えば次のようなことがあげられるでしょう。
① 進行したらカリウムの調節が必要
腎臓の働きが弱まることによって、カリウムの排出がうまく行かなくなります。
カリウムは、私たちの体で重要な働きをしているミネラルの1つ。神経伝達や筋肉の動きを助ける役割があります。
普段は、腎臓がカリウムを適切に体外へ排出して、体内のカリウムのバランスを保っていますが、進行した腎不全の方はカリウムの排出がうまくできなくなります。その結果、カリウムが体内に溜まってしまい、高カリウム血症(カリウムが血液中に多く含まれる状態)になることがあります。
高カリウム血症は、筋肉の弱さや不整脈(心臓のリズムが乱れる状態)などの症状を引き起こすことがあり、重篤な場合は命に関わることもあります。
このため、慢性腎不全が進行すると、食事や薬によってカリウムの摂取量や体内のカリウムバランスを調節することが重要になるのです。
実際、血清カリウム値が正常な方(3.6~5.0 mEq/L)よりも高カリウム血症の方(5.5~5.9 mEq/L)は3年死亡率の上昇がみられたとしています。また、イギリスのステージG3a~5までの慢性腎不全の方で、カリウム値が4.5~5.0 mEq/Lまでの方と5.5~ 6.0mEq/Lまでの方を比較したところ、高カリウム血症により総死亡率が1.6倍に上昇したという報告もあります。
野菜や果物にカリウムが多く含まれる傾向がありますが、後述するように「野菜果物の摂取では逆に総死亡率が低下する傾向」にあります。
そのため、医療機関で定期的にカリウム値を測定しながら、適切にモニタリング(3.6~5.0 mEq/L)することが一番大切でしょう。
② アルカリ性食品(野菜や果物の摂取など)を積極的にとる
腎臓は、体内の酸やアルカリのバランスを保つ役割も持っています。慢性腎不全の方では、腎臓の働きが弱まるため、酸性物質の排出がうまくできなくなり、体内が酸性傾向になりやすくなります。これを「代謝性アシドーシス」といいます。
代謝性アシドーシスは、筋肉の弱さや骨密度の低下、疲労感などの問題を引き起こすことがあります。アルカリ性食品(たとえば野菜や果物)には、酸性物質を中和する働きがあるため、これらの食品を積極的に摂取することで、体内の酸とアルカリのバランスを整える助けとなるのです。
実際、慢性腎不全ステージG3a ~ 4の方に対する野菜・果物による食事療法は「非介入群と比較してアルカリ療法と同じくらいのGFR低下抑制効果を認めた」としています。
さらに、野菜や果物による食事療法は、重炭酸Naによるアルカリ療法と比較してアルブミン尿低値を認めたことや、心血管障害の発症が少なかったことが報告されています。
やはり原則野菜や果物は腎臓にとってもよい影響を与えます。ただし、繰り返しますが、適切にカリウムがモニタリングされていることが原則になるでしょう。
③ 進行したらリンの制限も考える
腎臓は、体内で使われなくなったリンを尿と一緒に排出する役割があります。慢性腎臓病の方では、腎臓の働きが弱まるため、リンをうまく排出できなくなります。その結果、体内のリンの量が増えてしまいます。
リンが多すぎると、カルシウムと結びついて、血管や心臓にカルシウムリン複合体が沈着し、動脈硬化や心臓の働きが悪くなるリスクが高まります。また、骨の中のカルシウムが減って骨が弱くなることもあります。
リンを制限することで、これらの問題を防ぐことができます。つまり、腎臓の働きが弱くなった人にとっては、リンをうまく排出できなくなるため、リンの摂取量を制限して体内のリンの量を適切な範囲に保つことが大切ということですね。
リンは、肉や魚、卵、豆類、乳製品など、たんぱく質の多い食品に多く含まれます。また、最近はリンが含まれている食品添加物が増えているので、加工食品にも注意が必要。
ただし、過度なリン制限は低栄養状態になったり、筋肉が落ちたりして健康を維持できなくなりますので、適切にモニタリングしながらほどほどに制限する方がよいでしょう。
④ コーヒーは腎臓にも有用という研究も
コーヒーが腎臓に良い影響を与える理由は、適量を飲むことで抗酸化作用や利尿作用が得られるためです。
コーヒーには抗酸化物質が含まれています。抗酸化物質は、体内で活性酸素と呼ばれる悪玉物質と戦う働きがあります。活性酸素が増えると、体の細胞がダメージを受け、病気になりやすくなります。コーヒーの抗酸化物質は、この活性酸素を減らし、腎臓を守る役割を果たしてくれるのです。
また、コーヒーには尿の量を増やし、余分な水分や老廃物を体外に排出する利尿作用があります。適量のコーヒー摂取によって、利尿作用が促され、腎臓がうまく働くことを助けることができます。
実際、国内外の50万人以上の結果をまとめた論文によると、コーヒー摂取量が1日2杯以上では、1杯以下と比べて、末期腎不全への進行が18%減少し、アルブミン尿のリスクが19%減少、慢性腎不全関連の死亡も28%低下したとされています。
ただし、コーヒーは飲みすぎると逆に胃腸に負担をかけることがあります。だから、適量を飲むことが大切ですね。
腎臓にいい食べ物のまとめ
いかがでしたか?今回は腎臓にいい食べ物を中心に解説していきました。まとめると腎臓にいい食べ物、注意すべき食べ物として
- 塩分制限を行う
- タンパク質を腎臓の進行具合により調節する
- 心臓にとっていい食べ物を食べる
- カリウムを適切にモニタリングする
- 野菜や果物のアルカリ化食品を食べる
- 進行したらリンの制限を考える
- コーヒーの摂取を行う
などがあげられます。ただし、繰り返しますが「腎臓が悪い」にもいろいろな病態やありますので、進行してきたら腎臓の専門医に見てもらい、かかりつけの医師と地域連携を行いながら、きちんと見てもらうことが大切ですね。
当院でも食事指導などは行っておりますし、より詳しい検査が必要だったり進行具合が強い場合は専門の施設と地域連携を行っております。ぜひご遠慮なくご相談ください。
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【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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