【ゾコーバ・ラゲブリオ・パキロピッド】新型コロナ感染症「軽症」の治療薬について

2022年11月に日本で緊急承認がされた日本製の新型コロナ治療薬「ゾコーバ®」。

他にも抗ウイルス作用をもつ「治療薬」は複数ありますが、それぞれの治療薬は有効性も副作用も異なります。色々ありすぎて

今回は、現在新型コロナの「軽症」の治療薬として使われている

  • ゾコーバ®(エンシトレルビル フマル酸)
  • ラゲブリオ®(モルヌピラビル)
  • パキロビッド®(ニルマトレルビル・リトナビル
  • 中和抗体薬(ソトロビマブ・カシリビマブ/イムデビマブ)
  • レムデシビル

を中心に、有効性と副反応などの観点からわかりやすく解説していきます。

新型コロナウイルス感染症の「軽症」とは

重症度臨床状態酸素飽和度
軽症呼吸器症状なし または 咳のみで呼吸困難なし。肺炎の所見なし。SpO2 ≧ 96%
中等症I呼吸困難・肺炎の所見93% < SpO2 < 96%
中等症II酸素投与が必要(呼吸不全)SpO2 ≦ 93%
重症ICUに入室 または 人工呼吸器が必要 
(新型コロナウイルス診療の手引きから引用)

そもそも新型コロナウイルス感染症の「軽症」とはどのような状態を指すのでしょうか。

厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」では、呼吸の状態、症状によって、次の表のように重症度が定義されています。それによると、新型コロナウイルス感染症「軽症」は症状がせいぜい咳のみで呼吸困難はない状態です。パルスオキシメーターで測れる酸素飽和度は96%以上に相当します。

新型コロナ「軽症」治療薬のまとめ

新型コロナ「軽症用」治療薬のまとめ:各添付文書などをもとに著者作成

新型コロナの「軽症用」の治療薬もさまざまな治療薬がでてきましたが、大きく分けるとこの5種類(2022年11月現在)。それぞれの特徴は次の通りです。

  • ゾコーバ®:重症化リスクがなくても使える薬。副作用がすくないのも特徴。ただし、多くの薬と飲み合わせが悪く、発症期間が少なくなるだけで重症化予防効果は認められていない。
  • ラゲブリオ®:他の薬の飲み合わせも問題なく使え、重症化予防効果も30%減が認められる。ただし、他の薬よりは重症化予防効果が少なく、粒が大きいため高齢者などは飲みにくい。
  • パキロピッド®:重症化予防効果が最も高い経口内服薬。妊婦にも投与可能。ただし、多くの薬との飲み合わせが悪い点に注意が必要。
  • 中和抗体薬:ウイルスときちんと結合できれば高い効果を発揮する注射薬。BA.5株になり一部の中和抗体薬は大きく効果が少なくなっているため、変異株ごとの検証が必要
  • レムデシビル:高い重症化予防効果が認められている薬で発症7日以内なら投与可能。ただし、3日以上の点滴が必要

ということになります。それでは、それぞれの特徴をもう少し詳しくみていきましょう。

コロナ軽症用治療薬その1:ゾコーバ®

ゾコーバ®(エンシトレルビル フマル酸)は塩野義製薬で作成された日本製の新型コロナ軽症治療薬。ゾコーバ®は後述する「パキロビッド®」と同様、ウイルスの増殖の起点である「3CLプロテアーゼ」を阻害して、新型コロナの増殖を抑えます。ゾコーバ®の最大の特徴は、重症化リスクの低い方でも投薬できる点。

他の薬では、「重症化の高い方」に限定して臨床試験が行われましたが、ゾコーバ®では重症化リスクの低い方も含めた臨床試験を行い有効性が評価されましたので、重症化リスクに関わらず投薬することができます。

元となる1,215例(日本人662例)のランダム化比較試験では、「発症後3日以内に服用を開始すると、オミクロン株に特徴的な咳や喉の痛み、鼻水・鼻づまり、だるさ、発熱・熱っぽさの5つの症状が平均7日前後でなくなり、プラセボ(偽薬)群と比べても25時間短縮された」としています。オミクロン株やBA.5株についても抗ウイルス活性が評価されており、第2相試験では、4日目でウイルス力価を90%減少させました。

ゾコーバ®の臨床試験では「体重40kg以上の12歳以上から70歳未満の方」に限っていましたが、実際の投薬基準では12歳以上なら重症化リスクに関わらず投薬可能です。新型コロナがより市中感染に近くなった点では大きいですよね。

さらにゾコーバ®は副作用もほとんどないことも特徴。ゾコーバ®も最も多い副作用の症状として頭痛・発疹・吐き気などの消化器症状があげられますが、いずれも1%未満。ゾコーバ®は副作用の観点からも使いやすい薬といえます。

ただし服用するにあたり2点、重要な注意点があります。

まずゾコーバ®は重症化リスクを下げる薬ではないということ。他の薬では重症化リスクを30~88%低下させますが、ゾコーバ®は重症化リスクを低下させる薬ではありません。臨床試験でも、実施時期が重症化しにくいオミクロン株が主体であったことやワクチン接種されていたこともあり、重症化については確認されていません。「ゾコーバ®を飲んでいれば重症化しない」は間違いなので注意しましょう。

次に、ゾコーバ®は非常に多くの薬との飲み合わせが悪い薬だということ。例えばゾコーバと飲み合わせの悪い薬(併用禁忌薬)として以下があげられます。

  • 循環器の薬:セララ®・カルブロック®・レザルタス®・イグザレルト®など
  • 片頭痛や神経系の薬:クリアミン®・テグレトール®など
  • 睡眠薬:ハルシオン®・ベルソムラ®など
  • 前立腺肥大・ED薬:タダラフィル®・レビトラ®など

そのため、持病をもっていて定期的に飲んでいる方はゾコーバ®服用の際、十分注意する必要があります。また、妊娠している方や授乳している方は投与できませんのでご注意ください。

(参照:ゾコーバ®の添付文書

コロナ軽症用治療薬その2:ラゲブリオ®

モルヌピラビル(ラゲブリオ®)の製品写真
MSD社HPより転載)

ラゲブリオ®は軽症者に用いられる経口の治療薬です。リボヌクレオシドアナログという、RNAの部品に類似した物質で、ウイルスRNAの複製にエラーを起こし、ウイルスの増殖を阻害します。1回800㎎(4カプセル)を1日2回5日間服用します。次の方が適応です。

  • 酸素投与を要しない(軽症・中等症I)の方18歳以上の方(18歳未満の臨床試験は行われていません)
  • 重症化リスク因子を有する方:61歳以上・活動性のがん・慢性腎臓病・慢性閉塞性肺疾患・肥満(BMI30以上)・重篤な心疾患・糖尿病の方など

症状発現してから6日以降での有効性は認められていないので、症状発現5日以内に投与します。上記1つ以上の重症化リスク因子をもつ臨床試験では、症状発現から5日以内の患者で試験し、投与開始後29日目までの入院と死亡のリスクが30%減少(中間解析では50%減少)しています。

さらに、現在話題になっているBA.4株/BA.5株に関してもモルヌピラビルと反応する部分の変異がみられないことが確認されていますので、少なくとも細胞レベルにおいては、BA.4株・BA.5株にも同様の効果が期待できるでしょう。

ラゲブリオ®は動物実験で催奇形性などが認められているため、妊娠している女性又は妊娠している可能性のある女性は服用できません。授乳している方は有益性が危険性を上回る場合に投与します。(臨床試験では、服用中と服用後4日間は避妊を行い、授乳をさけるように求めていました。)

主な副反応は、下痢(3.1%)・悪心(2.3%)・めまい(1.3%)・頭痛(1.0%)となります。

ラゲブリオ®は2022年1月現在、登録医療機関からの要請のうえ処方されます。(当院も登録医療機関です)しかし、供給量も潤沢ではないため、抗インフルエンザ薬のように誰もが使える薬ではないことに注意が必要です。

(参照:モルヌラビルの添付文書
(参照:SARS-CoV-2 therapeutics technical briefing 3 Genomic surveillance)

コロナ軽症用治療薬その3:パキロビッド®

ニルマトレルビル・リトナビル(パキロビッド®)の製品写真
(ファイザー社より提供)

パキロビッド®は2022年2月10日に特例承認された、新型コロナに対する2番目の飲み薬です。新型コロナウイルスが持つ「3CLプロテアーゼ」を阻害することで、ウイルスの増殖を抑え重症化を防ぐ働きがあります。

他の薬と同様に、新型コロナ感染症の重症リスクがある方で、軽症~中等症の方に投与されます。

日本も参加している国際共同第2/3相EPIC-HR試験では、重症化リスクの高い18歳以上を対象としており、発症後5日以内に投与した結果プラセボと比較して入院または死亡のリスクを88%低下させました。モルヌピラビルと比べると非常に高い重症化予防効果ということになりますね。

ただし、発症6日目以降に投与した場合の有効性は確認されていないので注意が必要です。

さらに、BA.4株/BA.5株に関してもパキロピッド®と反応する部分の変異がみられないことがいわれています。つまり、ニルマトレビル・リトナビルについてもモルヌピラビル同様に、細胞レベルではBA.4株・BA.5株に対しても有効というわけですね。

実際には、成人か40kg以上の12歳以上の方には投与することができます。1日2回で5日間投与です。

主な副作用として味覚不全(1%~5%)・下痢や軟便(1%~5%)・中毒疹(頻度不明)・肝機能障害などありますが、いずれも確率は低く、副作用は強い方のお薬ではありません。

しかしパキロピッド®で最も慎重になるべきポイントは他の薬との相互作用です。実際投与時に中止や慎重にならなければならない薬が多数あります。併用禁止薬や併用に慎重になる薬として代表的なものは、例えば以下の通りです。

  • 心血管系の薬:クレストール®・リピトール®・オルメテック®・カルブロック®・セララ®・エリキュース®など
  • 精神に関わる薬:ベルソムラ®・テグレトール®・ソラナックス®・ハルシオン®・セロクエル®・セルシン®・
  • 鎮咳薬: リン酸コデイン®・フスコデ®・セキコデ®など
  • 前立腺肥大や男性機能に関わる薬:ハルナール®・バイアグラ®・シアリス®など
  • その他: 痛み止めのトラマール®や吐き気止めのナウゼリン®など

その他にも様々なお薬が併用禁止になるので「パキロビッド®パックとの併用に慎重になるべき薬剤リストも参照してください。また、腎臓の機能が悪い方は処方量を減らす必要があり、取り扱いには十分注意が必要になります。実際に処方を検討する際には必ずお薬手帳を持参するようにしましょう。

(参照:パピロキッド®添付文書)
(参照:SARS-CoV-2 therapeutics technical briefing 3 Genomic surveillance)

コロナ軽症用治療薬その4:中和抗体薬

新型コロナ感染症に対する中和抗体薬のしくみ

中和抗体薬とは、新型コロナウイルスに感染した方から得られた抗体を基にした治療薬であり、ウイルスの増殖を抑える効果を期待できます。ウイルスが細胞と付着させないようにする中和抗体そのものを注射するわけですから、原理としてはシンプルですね。

もちろん、ウイルスそのものに対してアプローチするので、抗体とウイルスがきちんと結合すれば効果を十分発揮することができます。日本で使用される中和抗体薬は「ソトロビマブ」と「カシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ®)」です。

では、昨今日本でも感染拡大されているBA.5株などのオミクロン変異株についてはどうなのでしょうか。

日本での中和抗体薬とオミクロン変異株との中和感受性をみた論文だと、ソトロビマブもカシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ®)もBA.5株だと著しく中和感受性が低下しています。つまり、日本で認可されている中和抗体薬ではBA.5株に対して効果を示す可能性がとても低いということですね。(BA.1株での感受性はソトロビマブ 94,ロナプリーブ® 6.2に対して、BA.4/BA.5株ではソトロビマブ1261, ロナプリーブ®>2400)

BA.4株・BA.5株に対しても感受性をもつ中和抗体薬は「ベブテロビマブ」があげられますが、2022年7月時点ではまだ日本で認可されていません。

(参照:新型コロナ診療の手引き 7.2版)
(参照:Neutralisation sensitivity of SARS-CoV-2 omicron subvariants to therThe lancet Infectious Diseases。The Lancet Infectious Diseases.JULY 01, 2022

コロナ軽症用治療薬その5:レムデシビル

レムデシビルは、もともと中等症・重症の新型コロナ感染症に使用していた注射薬です。

しかし、発症7日以内の軽症・中等症Iの患者さんでもレムデシビルを3日間投与された方は入院や死亡を87%減少させた臨床試験が発表され、欧米では「酸素投与を必要としない重症化リスク因子のある方」への適応拡大が承認され、日本でも認められるようになりました。また、BA.4株/BA.5株に関しても反応する部分の変異がみられないことから影響が少ないのも特徴の1つですね

ただし、注射薬なので、点滴中新型コロナの患者さんをしばらく待機できるスペースが十分確保されていることが前提となるので、クリニックで外来運用するのは上記2つより難しいことが欠点として挙げられますね。

また、急性腎障害や肝機能障害が現れることがあるので、定期的なモニタリングが必要になります。

(参照:ベクルリー点滴静注用100mg添付文書
(参照:SARS-CoV-2 therapeutics technical briefing 3 Genomic surveillance)

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新型コロナ感染症「軽症」の治療薬の注意するべき点は?

実は、新型コロナ「軽症」の治療薬には2つの注意しなければならないポイントがあります。

① 原則「重症化リスクの高い方」しか使えない

ゾコーバ®を除いた軽症治療薬は、原則「リスクが高い方」にしか使用することができません。

これは、治療薬を検証している臨床治験では主に「重症化リスクの高い方」をターゲットにしているためです。例えば「重症化しやすい方」というのはアメリカのCDCの研究によると以下の通りとなります。

  • 65歳以上の方(治療薬の適応年齢は治療薬の種類によって違います)
  • がんの方
  • 長期間タバコを吸っていて、息切れがある方(COPD)
  • 腎臓が悪い方
  • 糖尿病の方
  • 高血圧の方
  • 悪玉コレステロール(LDL)が高い方、中性脂肪の高い方
  • 肥満(BMI30以上)の方
  • 喫煙されている方
  • 移植後で免疫不全の方
  • 妊娠後期の方

このように、(少なくとも7月時点では)軽症と診断されてもすぐ新型コロナの治療薬を使えるわけではない点に注意が必要ですね。

② 新型コロナ発症早期にしか使えない

実際には、新型コロナウイルス感染症には2つの「フェーズ」があります。

  • 新型コロナウイルスが増殖する時期: 発症日をピークにして3週間かけて感染が治まります。この時は「ウイルスの増殖による症状」が主体になります。もちろんこの時期のウイルス量によって免疫応答
  • 「免疫による過剰な炎症反応」が主体の時期: 発症日7日前後からウイルスによる私たちの「過剰な炎症」が主体の時期になります。様々な後遺症や肺炎の重症化はこの「過剰な炎症」が原因といわれています。

このように「新型コロナの経過」には2つの時期があり、時期によって求められる治療薬も異なってきます。一般的に軽症の方・発症早期の方は「ウイルスの増殖を抑える薬」が、中等度IIや重症で時期が発症後期の方は「炎症を抑える薬」が特に重要ということになります。

そのため、軽症の治療薬は発症早期にしか適応されません。その意味でも「なるべく早く病院で診断をうけること」が大切といえるでしょう。

新型コロナ感染症治療におけるイベルメクチンについて

イベルメクチンはもともと腸管糞線虫症や疥癬の治療薬として承認されていますが、新型コロナウイルスの感染症の治療で、適応外使用として用いられている施設もあります。

それをうけてMSD株式会社の米国本社では「規制当局によって承認された添付文書に記載されている用法・用量や適応症以外におけるイベルメクチンの安全性と有効性を支持するデータは、現時点では存在しないと当社は考えます(原文まま)」と発表しており、(詳細はこちら

WHOでも「新型コロナ感染症に対する治療薬として使用することは臨床試験以外では推奨されない」と声明を発表しています。(詳細はこちら

興和株式会社から「オミクロン株に対して抗ウイルス効果を確認」と発表されておりますが、非臨床試験であり、ヒトを対象して十分検証されておりません。

当ひまわり医院では興和株式会社と軽症の新型コロナ感染者を対象にイベルメクチン投薬に関する「ランダム化試験」に参加しています。(詳細はこちら)「どうしてもイベルメクチンを処方してほしい」という方は、臨床試験の参加をお願いいたします。(もちろん発熱外来受診の上、陽性であることなどが必要です)

新型コロナ感染症「軽症」の治療薬のまとめ

いかがでしたか?軽症の新型コロナウイルス感染症に使用される抗ウイルス薬を紹介しました。現在のところ、軽症の治療薬は重症化リスクが高い方しか使用できません。一般の方でも気軽に処方できる新型コロナ治療薬ができるとよいですね。

ただし、いずれの治療薬も重症化のリスクを下げるものですが、完全に重症化を阻止できるわけでも、隔離期間を短くできるわけでもありません。

早期発見・早期治療も大切ですが、ワクチンや予防行動で感染しないように努めることも重要ですので、引き続き感染予防対策をお願いいたします。

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【この記事を書いた人】 
この記事は、当院院長の伊藤大介と感染症専門医と共同で作成しました。プロフィールはこちらを参照してください。

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