足がつる人に使う漢方薬について【何番・芍薬甘草湯・副作用】

「イタタタ!」 夜中に突然、ふくらはぎに激痛が走って目が覚める……。そんな経験はありませんか? いわゆる「こむら返り(筋痙攣)」は、若い方からご高齢の方まで、多くの人を悩ませる症状です。

「水分をとれば治る」「ビタミン不足かな?」と考える方も多いですが、実は日本において、このこむら返りの治療で一番使われる薬が、意外にも「漢方薬」です。

それが「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」。非常に即効性もあり、西洋薬にないほどの効果があります。そのために、非常に重宝されいるのですが、中には「効かない」という人もいます。

そのため体質や症状に合わせて使い分けることが大切なんですが、実際、ぴったり自分にあった薬が見つかると、劇的な効果を発揮することがありますね。

今回は、「足がつる人のための漢方薬」について、実際な番号、実際の臨床研究や副作用も含めて、わかりやすく解説していきます。

足がつる原因などは【こむら返り】足がつる原因と治し方・予防について解説【漢方薬も】も参照してください。

足がつる人に使う漢方薬①:芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)

まず最初にご紹介するのは、急性期のゴールドスタンダード(標準治療薬)ともいわれている「芍薬甘草湯(ツムラ68番など)」です。

芍薬甘草湯は「体力に関わらず使用でき、筋肉の急激なけいれんを伴う痛みのあるものの次の諸症:こむらがえり、筋肉のけいれん、腹痛、腰痛」が効果効能となっており、まさに足がつる時に使う漢方薬という感じですね。

実際、急激に起こる筋肉の痙攣、腹痛、腰痛。とにかく「今、痛い!」という発作時に適しています。「即効性」が最大の特徴で、服用してから数分で効果が現れることも珍しくありません 。

この処方は、たった2種類の生薬から成るシンプルかつ強力な薬です 。

  • 芍薬(シャクヤク):ボタン科のシャクヤクの根。美しい花を咲かせますが、根には強力な鎮痛作用があります。有効成分であるペオニフロリンがカルシウムイオンの細胞内流入を遮断し、筋肉の収縮を抑えます。
  • 甘草(カンゾウ):マメ科のウラルカンゾウ等の根。砂糖の何倍も甘いのが特徴です。有効成分であるグリチルリチンがリウムイオンの動きに影響を与え、神経の過剰な興奮を鎮めます。

簡単にいうと、「筋肉を収縮させるスイッチ(カルシウム)をオフにし、神経の興奮を鎮めることで、ギュッと固まった筋肉を瞬時にゆるめる」作用がある漢方薬ですね。

足がつるのは、カルシウムイオンをはじめとしたミネラルのバランスが崩れて過剰に収縮することで起こるのですが、芍薬甘草湯では、ペオニフロリンが神経筋接合部でのカルシウムイオン流入を抑制して過剰に興奮するのを抑えて、グリチルリチンがカリウムチャネルに作用して、筋肉の膜電位を安定化させて作用します。

芍薬甘草湯の効果は、多くの臨床試験で証明されています。

  • 肝硬変患者への効果: プラセボ(偽薬)と比較した二重盲検試験において、芍薬甘草湯は肝硬変患者の筋痙攣の頻度を有意に減少させました。
  • 透析中の即効性: 透析中に痙攣が起きた際、その場で服用(頓用)させることで、数分以内に痙攣が消失することが確認されています。
  • 腰部脊柱管狭窄症(LSS)への効果: LSS患者30名を対象とした比較試験では、一般的な筋弛緩薬(エペリゾン)を使ったグループでは著効した人が29%だったのに対し、芍薬甘草湯グループでは81%の人で痙攣頻度が半減しました。オッズ比でいうと約2.86倍の効果です。

81%の方が効果を実感しているのは、漢方薬としては驚異的な数字ですね。

しかし、甘草がかなり多く(1日6g相当)入っているので、通常量毎日飲むと、「偽アルドステロン症(低カリウム血症、血圧上昇、むくみ)」のリスクが高まってしまいます。特に、利尿薬(ラシックスなど)やステロイド薬との併用には注意が必要ですね。

そのため、漫然と毎日飲むのではなく、「つった時だけ飲む(頓服)」あるいは「就寝前だけ飲む」という使い方をするとよいでしょう。

(参照:Effect of Shakuyaku‐kanzo‐to in patients with muscle cramps: A systematic literature review
(参照:Immediate Effect of Shakuyaku-kanzo-to on Muscle Cramp in Hemodialysis Patients
(参照:Kampo for the Treatment of Pain in Japan: A Review

足がつる人に使う漢方薬②:牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)

次にご紹介するのは、慢性的な予防と体質改善を得意とする「牛車腎気丸(ツムラ107番など)」です。

牛車腎気丸は「体力中等度以下で、疲れやすくて、四肢が冷えやすく尿量減少し、むくみがあり、ときに口渇があるものの次の諸症:下肢痛、腰痛、しびれ、高齢者のかすみ目、かゆみ、排尿困難、頻尿、むくみ、高血圧に伴う随伴症状の改善(肩こり、頭重、耳鳴り)」に使います。

結構適応症が多い漢方薬ですよね。実際、かすみ目や頻尿などにも使ったりします。「柔の治療薬」と呼ばれ、血流を良くし、体を温めることで痙攣を予防します。

生薬の種類も多いのですが、大まかに分類分けして紹介すると次の通りです。

  • 地黄(ジオウ)、山茱萸(サンシュユ)、山薬(サンヤク) 他:ゴマノハグサ科など。有効成分イリドイド配糖体などにより、滋養強壮、ホルモンバランスの調整、体を潤す作用があります。
  • 附子(ブシ):キンポウゲ科トリカブトの塊根を減毒加工したもの。末梢血管を拡張させ、強力に体を温め、痛みを鎮めます。
  • 牛膝(ゴシツ)、車前子(シャゼンシ):それぞれヒユ科、オオバコ科。下半身のうっ血を取り除き、余分な水分を排出(利尿)します。

簡単にいうと「体を芯から温めて血の巡りを良くし、神経の栄養不足や老化による機能低下を補うことで、つりにくい体を作る」漢方薬といえますね。芍薬甘草湯は即効性を求めた鎮痛薬な位置づけに対して、こちらは継続してのることで効果を発揮します。

実際、牛車腎気丸の附子に含まれるアルカロイドが血流を改善し鎮痛作用を発揮します。また、糖尿病性神経障害においては、高血糖によるソルビトール蓄積を抑制する作用が報告されています。最近では、痛みや疲労感を軽減して身体活動量を維持し、サルコペニア(筋肉減少)を防ぐメカニズムもいわれているんですよ。

そんな牛車腎気丸も特に「しびれ」を伴うような痛みに対しての臨床研究がいくつかあります。例えば次の通りです。

  • 腰部脊柱管狭窄症(LSS)への効果: 観察研究において、牛車腎気丸を使用することで、プレガバリン(リリカ)やオピオイドといった強い鎮痛薬の使用量を減らし、副作用を抑えられたという報告があります。
  • 抗がん剤のしびれ(CIPN): オキサリプラチンなどの抗がん剤による末梢神経障害(しびれ・痛み)に対して、症状緩和のために用いられ、一定の評価を得ています。

ただし、牛車腎気丸は附子が含まれているため、動悸やのぼせ、舌のしびれを感じる場合は医師に相談してください。地黄は胃腸が極端に弱い方は、食欲不振や下痢になる可能性がありますので注意してください。(あまり言われたことはありません)

(参照:Kampo Medicine for Various Aging-Related Symptoms: A Review of Geriatric Syndrome
(参照:Significance of Kampo, Traditional Japanese Medicine, in Supportive Care of Cancer Patients

足がつる人に使う漢方薬③:疎経活血湯(そけいかっけつとう)

3つ目は、「経(けいろ)を疎(とお)し、血を活(めぐ)らせる」という名の通り、血流障害や神経痛に強い「疎経活血湯(ツムラ53番など)」です。

疎経活血湯は「体力中等度で、痛みがあり、ときにしびれがあるものの次の諸症:関節痛、神経痛、腰痛、筋肉痛」に使う漢方薬ですね。特に「夜間や明け方の冷え」で悪化するタイプに適しています。痛み止めと血流改善のセットのような処方です。

17種類もの生薬からなる複雑な処方で、複数の役割を持つグループが含まれています。大まかに分けると次の通りです。

  • 当帰(トウキ)、芍薬、川芎(センキュウ)、地黄:後述する「四物湯」の成分。血液を補い、栄養を与える作用があります。
  • 桃仁(トウニン):バラ科モモの種子。滞った血(瘀血)を強力に流す作用があります。
  • 蒼朮(ソウジュツ)、威霊仙(イレイセン) 他:余分な水分(湿気)を取り除き、痛みを止める作用があります。

簡単にいうと、「血流が悪くて痛む場所(古血)を掃除し、冷えや湿気からくる関節や神経の痛みをブロックする」漢方薬ですね。

「瘀血(血流停滞)」と「寒湿(冷えと湿気による痛み)」を同時にアプローチ。鎮痛作用のある生薬と、血液循環を改善する生薬が組み合わさることで、神経因性の疼痛を緩和していきます。

実際、症例報告ベースですが、明け方に連日こむら返りを起こしていた83歳の女性(坐骨神経痛)に、疎経活血湯を就寝前に投与したところ、2週間でこむら返りがほぼ消失したという報告もあります。

この患者さんは、普段は疎経活血湯で「地固め(予防)」をし、発作の前兆がある時だけ芍薬甘草湯を「火消し(頓用)」として使うことで、よくなっていますね。

ただ、17種類も生薬を使っているので、他の漢方薬と合わせにくいのはネックです。

(参照:第8回 こむら返り

足がつる人に使う漢方薬④:四物湯(しもつとう)

最後は意外かもしれませんが栄養補給を主目的とする「四物湯(ツムラ71番など)」です。

もともと四物湯は「皮膚が枯燥し、色つやの悪い体質で胃腸障害のない人の次の諸症:産後あるいは流産後の疲労回復、月経不順、冷え症、しもやけ、しみ、血の道症」に使われます。

こう見ると適応はなさそうに見えますよね。しかし、漢方医学では、筋肉の痙攣を「肝血虚(筋肉への栄養供給不足)」と捉えることがあります。四物湯は、血を補うことで筋肉に柔軟性を取り戻させると考えられています。

四物湯は「当帰(トウキ)、芍薬(シャクヤク)、川芎(センキュウ)、地黄(ジオウ)」の4つからなっています。いずれも「補血(ほけつ)」の基本セットであり、体に栄養を行き渡らせ、筋肉や皮膚を潤す作用があるのです。

実際、26名を対象とした研究によると、四物湯エキスを服用した結果、3ヶ月以内に約69%(18名)の患者さんで痙攣が消失したという高い有効率が報告されています。平均年齢70歳なので、特に高齢者の足のつりにはいいかもしれませんね。

(参照:The Effectiveness of Shimotsuto Extract for Patients with Muscle Cramp

足がつる人に使う漢方薬のまとめ

足がつる原因は1つではありません。だからこそ、ご自身の体質に合った漢方薬を選ぶことが大切です。例えば、今までをまとめると以下の通りとなります。

  • とにかく今痛い、発作を止めたい芍薬甘草湯(ただし、連用せず頓服で)
  • 冷えがあり、足腰が弱っている、高齢の方牛車腎気丸
  • しびれや痛みが強く、天候で悪化する疎経活血湯
  • 皮膚がカサカサして、栄養不足気味四物湯
  • むくみがひどい(肝硬変や立ち仕事など) ➡ 柴苓湯(さいれいとう)なども有効なことも

もちろん、それ以外にも体全体を考えて処方を決めるので、「足のつり」だけで処方しないケースもあります。

漢方薬はドラッグストアでも購入できますが、飲み合わせや体質の判断に迷ったら、ぜひ一度、漢方に詳しい医師や薬剤師に相談してみてくださいね。あなたの足の痛みが、少しでも楽になることを願っています。

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