「健康診断で血圧が高めと言われた」という人、いらっしゃいませんか?
高血圧は、自覚症状がないまま静かに進行し、私たちの「健康寿命」を脅かす大きな要因の一つといわれています。
そのため、「高血圧の基準値がどれくらいであるのが最適か」を巡って、多くの論文で議論されています。そして日本高血圧学会が、2025年に6年ぶりとなる新しい診療ガイドライン(JSH 2025)を発表したのです。
今後は同ガイドラインを中心に高血圧診療が行われることになるでしょう。
今回、国内外の最新の研究結果を交えながら、新しい高血圧の基準と、私たちが今日から始められる対策について、わかりやすく解説していきます。
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高血圧の新しい基準とは?

まず、2025年に改訂された高血圧の基準についてです。
基準値は主に「高血圧と診断する基準値(診断基準)」と「血圧を下げる目標(降圧基準)」に分かれます。
このうち、「診断基準」については従来と同じ
- 診察室血圧:140/90 mmHg以上
- 家庭血圧:135/85 mmHg以上
となっています。より詳しくいうと以下の通りとなります。
- 正常血圧
- 診察室血圧: 最高血圧 120未満 かつ 最低血圧 80未満
- 家庭血圧: 最高血圧 115未満 かつ 最低血圧 75未満
- 正常高値血圧
- 診察室血圧: 最高血圧 120~129 かつ 最低血圧 80未満
- 家庭血圧: 最高血圧 115~124 かつ 最低血圧 75未満
- 高値血圧
- 診察室血圧: 最高血圧 130~139 かつ/または 最低血圧 80~89
- 家庭血圧: 最高血圧 125~134 かつ/または 最低血圧 75~84
- Ⅰ度高血圧
- 診察室血圧: 最高血圧 140~159 かつ/または 最低血圧 90~99
- 家庭血圧: 最高血圧 135~144 かつ/または 最低血圧 85~89
- Ⅱ度高血圧
- 診察室血圧: 最高血圧 160~179 かつ/または 最低血圧 100~109
- 家庭血圧: 最高血圧 145~159 かつ/または 最低血圧 90~99
- Ⅲ度高血圧
- 診察室血圧: 最高血圧 180以上 かつ/または 最低血圧 110以上
- 家庭血圧: 最高血圧 160以上 かつ/または 最低血圧 100以上
- (孤立性)収縮期高血圧
- 診察室血圧: 最高血圧 140以上 かつ 最低血圧 90未満
- 家庭血圧: 最高血圧 135以上 かつ 最低血圧 85未満
一方、今回の改訂で最も大きな注目点は、これまで年齢や持病によって複雑に分かれていた血圧を下げる目標(降圧目標)が、すべての成人で統一されたことです。
JSH 2025では、年齢や合併症にかかわらず、すべての成人高血圧患者さんにおける主要な降圧目標が、以下のようにシンプルで明確なものになりました。
- 診察室血圧:130/80 mmHg未満
- 家庭血圧:125/75 mmHg未満
家庭での血圧は、リラックスした状態で測れるため、より正確に普段の血圧を反映するといわれています。
今までは、持病や年齢によって多少緩やかだったり、厳格だったりというのがあったのですが、降圧目標がシンプルになった分、わかりやすくなりましたね。
(参照:「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(JSH2025))
高齢者の高血圧の基準値は「ADL」を重視

もう1つ、高血圧の新しい基準で重要なポイントがあります。それは、75歳以上の高齢者の「ADL」(Activity of Daily Living: 日常生活動作)によって、降圧目標が変わってくるということです。ADLとは、人が日常生活を送るために必要な最低限の基本的な動作のこと。具体的には、
- 基本的ADL:日常生活を送るために必須の基本的な動作のこと。例えば、起き上がり、移乗、移動、食事、更衣、排泄、入浴、整容、洗顔など。
- 手段的ADL:日常生活を送る上でより複雑で高次の判断力と労力を必要とする活動のこと。例えば、買い物、食事の準備、家事(掃除・洗濯)、服薬管理、金銭管理、交通機関の利用、電話対応など。
をまず評価します。そして、ADLが低下していれば、降圧目標が緩やかになっていきます。具体的には次の通りです。
カテゴリー | どんな人か | 降圧目標 |
カテゴリー1 | 自力で外来通院可能な ADLが保たれた方 | 130/80 mmHg未満 |
カテゴリー2 | 外来通院に介助が必要な 手段的ADLが低下した方 | 収縮期血圧 140 mmHg 未満 |
カテゴリー3 | 外来通院が困難となった 基本的ADLが低下した方 | 収縮期血圧 150 mmHg 未満 |
カテゴリー4 | エンド・オブ・ライフの方 | 個別判断 (目安は 140~ 160 mmHg) |
高血圧は、将来心筋梗塞や脳卒中などの未来のリスクを予防するために、長期間にわたり治療が行われます。ADLが低下している高齢者の場合、健康寿命としても長くないことが多いです。そのため、将来のリスクよりも、今残された人生を有意義に過ごすかの方が重要視されるべきでしょう。
このように、年齢だけではない「ADL」を用いて、明確に表現されたのは大きいのではないでしょうか。
(参照:「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(JSH2025))
日本の高血圧の基準は厳しい?

さて、高血圧の基準は世界的にみても「厳しい」ものなのでしょうか?確かにかつてはは「年齢+90歳でいい」なんて言ってましたし、2014年のガイドラインでは75歳以上の方の目標は「150/90 mmHg未満」と、比較的緩やかでした。それが、ゆっくり厳しくなっているので
- 医療機関や製薬会社が儲けるためにわざと基準値を下げてるんだ。
- 陰謀で「高血圧」という「病気」を作り出している。
と勘ぐる人もいるようです。しかし、なんの裏付けもなく高血圧の基準を変更できるわけがありません。そこには(1つではない)膨大の臨床研究によって裏付けされた「結果」があるのです。
その代表的な試験が、2015年に発表された「SPRINT試験」と呼ばれるものですね。同試験では、50歳以上の高血圧患者(糖尿病合併例や脳卒中既往例は除く)9361人を以下の2つのグループに分けて、心血管病の発症を比較しました。
- 厳格降圧群: 上の血圧を120 mmHg未満に下げることを目指す
- 標準降圧群: 従来の目標である140 mmHg未満を目指す
その結果は、世界中の専門家を驚かせるものでした。厳格に血圧を下げたグループで、あまりにも明白な良い結果が出たため、試験が予定より早く中止されたほどです。具体的には、標準降圧群と比べて、厳格降圧群では
- 心筋梗塞や脳卒中、心不全などの発生リスクが25%減少
- 総死亡リスク(原因を問わない死亡)が27%減少
という結果だったのです。この結果は、血圧をこれまで考えられていたよりもずっと低いレベルまで下げることで、命そのものを救えることを科学的に証明したわけですね。
もちろん、血圧を厳しく下げれば、めまいやふらつきといった副作用のリスクも少し上がります。しかし、SPRINT試験は、そうしたリスクを考慮してもなお、心臓や血管の重大な病気を劇的に減らすという利益がはるかに上回ることを示しました 。
その後、「RESPECT試験(2019年)」「STEP試験(2021年)」「ESPRINT試験(2024年)」など数多くの試験が行われたて、70歳や75歳以上でも降圧目標を収縮期血圧130mmHg未満に保つことはそれなりの意義があるだろうということになっています。
もちろん、「130/80 mmHg未満」という目標は日本だけの動きではありません。世界的にも、より積極的に血圧を管理する方向へとシフトしています。
- アメリカ (AHA/ACC 2025): アメリカでは一足早く、高血圧の診断基準そのものを130/80 mmHg以上とし、治療目標も同じく130/80 mmHg未満としています 。
- ヨーロッパ (ESC 2024): ヨーロッパでも、ほとんどの患者さんで、治療の早い段階から上の血圧(収縮期血圧)を120~129 mmHgの範囲にコントロールすることが推奨されるようになりました 。
このように、世界の専門家たちの間で「より厳格な血圧管理が、心臓や血管の病気を防ぐ」という共通認識が確立されているのです。
(参照:A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control)
(参照:Lowering of systolic blood pressure in hypertensive patients: insights and questions from the ESPRIT study)
(参照:2025 AHA/ACC/AANP/AAPA/ABC/ACCP/ACPM/AGS/AMA/ASPC/NMA/PCNA/SGIM Guideline for the Prevention, Detection, Evaluation and Management of High Blood Pressure in Adults: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines)
(参照:2024 ESC Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension)
高血圧の基準値についてのまとめ

今回は、高血圧の新しい基準値について解説していきました。みなさんの血圧、基準値内だったでしょうか?まとめると次のようになります。
- 高血圧の診断基準は2025年以降も変わらず「診察室血圧:140/90 mmHg以上、家庭血圧:135/85 mmHg以上」で同じ。
- ただし、基本的な降圧基準は年齢や合併症に関わらず「診察室血圧:130/80 mmHg未満、家庭血圧:125/75 mmHg未満」。
- 75歳以上の高血圧については、「外来に一人で来られるか」「ADL(どこまで日常生活を自分の力で送れるか)」によっても考え方が変わってくる。
基準値は、決して一個人や一団体で決められた「恣意的なもの」ではありません。そこには様々な臨床研究での裏付けがされています。
しかし、自分の人生を決めるのは最終的には自分自身です。医学的には血圧の基準を守った方が望ましい。けど、基準を守ることで何かしらの弊害を感じるなら緩めなければいけないこともあるでしょう。
ぜひ高血圧の方は、一度、かかりつけの医師と高血圧の基準値について話あってみてください。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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