フォトフェイシャル(IPL)の肝斑に対する効果と濃くなる理由について【肝斑モード】

せっかく他院でシミを消そうと思ってフォトフェイシャルを受けたのに、かえって肝斑(かんぱん)が濃くなってしまった……

当院でもそういったお悩みで相談を受けることがありますね。

SNSやネットの口コミでも、「肝斑にフォトフェイシャル(IPL)は禁忌(やってはいけない)」という意見と、「肝斑が薄くなった」という意見も混在して、どうすればいいかわからないという人も多いでしょう。

実は、かつて肝斑に対するフォトフェイシャル(IPL)治療は「禁忌」、あるいは「慎重に行うべき」とされ、議論の的となってきました 。しかし、近年の研究によって、なぜ悪化してしまうのかという理由や、どうすれば安全に治療できるのかというメカニズムが解明されつつあるのです。

今回は、当院が扱っている「ステラ社のM22」のフォトフェイシャルを中心に、フォトフェイシャルで肝斑が濃くなる理由と「M22」に搭載されている肝斑モードについて、具体的な臨床論文を交えて紹介していきます。

フォトフェイシャルで肝斑が濃くなるといわれるのはなぜか

まず、一番の不安要素である「なぜフォトフェイシャルで治療をしたのに濃くなってしまうのか」ということについて。

一般的なシミ(老人性色素斑)の治療では、光の熱エネルギーでメラニン色素を破壊する方法がとられます。しかし、肝斑はただのシミではなく、非常にデリケートで複雑な状態にあるため、同じような強い熱を与えると逆効果になってしまうのです。

具体的には、以下の4つの理由が悪化の原因として考えられています。

① 敏感なメラノサイトを「熱」で刺激してしまうから

肝斑がある部分のメラニンを作る工場(メラノサイト)は、いわば「過活動状態」にあります 。常に興奮してメラニンを作り続けている状態です。

ここに、通常のシミ治療のような高い熱エネルギーが加わると、メラノサイトが直接刺激され、さらにメラニンを爆発的に作ってしまうのですね。

また、熱でダメージを受けた周りの細胞からも「炎症を起こせ」という命令(炎症性サイトカイン)が出て、それがさらにメラノサイトを刺激するという悪循環に陥ってしまいます。

②「床」が抜けて、色素が奥に落ちてしまうから

これが非常に怖い現象なのですが、肝斑の方の肌は、表皮と真皮を隔てている「基底膜(きていまく)」という薄い膜が弱くなったり、破れたりしていることが多いことが分かっています。

強い光治療の衝撃でこの膜がさらに壊れると、表皮にあったメラニン色素やメラノサイトそのものが、肌の奥深く(真皮)へと落下してしまうのです。

奥に落ちた色素は代謝されにくく、青みがかったグレーのような色として定着してしまい、非常に治りにくくなってしまいます

➂「血管」の炎症が悪さをするから

実は、肝斑の下には異常に増えた毛細血管があることが知られています。そして、血管が増えると血流が増し、そこから栄養や炎症シグナルがメラノサイトに送られてしまいます。

そこで、通常のフォトフェイシャルで不用意に温度を上げると、血管が拡張して血流が増え、炎症反応が増幅されてしまいます。つまり、メラニンだけを叩こうとしても、その背景にある「微細な炎症」を悪化させてしまうため、結果として肝斑が濃くなるというわけです。

④ 隠れていた「潜在性肝斑」が浮き出てくるから

目に見えている肝斑の周りには、実はまだ色にはなっていないけれど活動が高まっている「隠れ肝斑(潜在性肝斑)」が広がっていることが多いです。顔全体の若返り目的などで強い出力の全顔照射を行うと、この潜伏していた部分に熱が加わり、一気に表面化してしまうことがあります 。

このように、肝斑は非常に「熱」や「刺激」に弱く、通常のシミ治療と同じ感覚で攻撃すると、防御反応として逆に色が濃くなってしまうのです。

(参照:Pathogenesis of Melasma Explained
(参照:Current and New Strategies for Managing Non-Responders to Laser Toning in the Treatment of Melasma

フォトフェイシャルで使われる「肝斑モード」とは?

では、肝斑には絶対にフォトフェイシャルをしてはいけないのでしょうか?

その答えとして登場したのが、最新機種などに搭載されている「肝斑モード」という設定です。

通常のモードと何が違うのか、技術的なポイントを見てみましょう。

① 波長のフィルターで「表面」を守り「深部」を攻める

通常のシミ治療では、メラニンによく反応する短い波長(500nm台など)を使います。しかし、これだと肌表面で急激に熱が発生し、肝斑を刺激してしまいます。

そこで肝斑モードでは、640nmや695nmといった「長い波長」だけを通すフィルターを使用します 。長い波長の光は、表面のメラニンへの反応を抑えつつ、肌の奥(真皮層)まで優しく届く性質があるんですね。そのため、表面を火傷させずに、奥にある血管や真皮の状態を改善させる効果が期待できます。

② 低出力(低フルエンス)で優しく働きかける

通常のシミ治療では20~30J/cm²といった強いパワーを使いますが、肝斑モードでは13~15J/cm²程度の低いパワーを使用することもあります。

これはメラニンを破壊するのではなく、メラノサイトの働きを正常化させ、肌の代謝を整えることを目的としているためですね。これは、レーザートーニングの考え方に近いアプローチといえますね。

他にも、1回の照射を数回に分割して行ったり(ダブルパルスやトリプルパルスなど)、が出ている時間よりも、光が出ていない「休止時間(オフタイム)」を非常に長く設定したりしてコントロールする場合もあります。

つまり、一言でいうと肝斑モードとは「肌表面への攻撃性を極限まで排除し、肌の奥の環境を優しく整えるための特殊な設定」ということになるでしょう。

フォトフェイシャルの肝斑への効果は?

「優しく打つだけで本当に効果があるの?」と不安に思われるかもしれません。

しかし、近年の研究データを紐解くと、フォトフェイシャル(IPL)は肝斑に対して、単に「色を薄くする」だけではない、さまざまなメリットがあることが科学的に示されています。

① 肝斑の重症度が「約40%」減少したというデータも

まずは、肝斑の「濃さ」や「広がり」に対しての臨床データから。

多くの臨床研究において、フォトフェイシャルは肝斑の重症度を示す指標「MASIスコア(Melasma Area and Severity Index)」を有意に改善させることが報告されています。例えば、以下の通りですね。

  • MASIスコアの大幅な減少: 複数の研究を統合して解析したメタアナリシスによると、IPL治療を受けたグループでは、治療を受けなかったグループと比較してMASIスコアの大幅な減少(標準化平均差 SMD = 0.61)が確認されています 。
  • 満足度は1.44倍 :また、同解析では患者さん自身の自己評価による満足度も、有意に高い結果(リスク比 RR = 1.44)が示されました 。
  • 6週間で約40%の改善: Baeらによる研究では、低出力(低フルエンス)のIPL治療を6週間行った結果、MASIスコアが「約40%減少した」と報告されています 。
  • 半数以上の患者に改善効果: その他の多くの研究でも、IPL単独、あるいは内服などの併用療法を受けた患者の「50%~70%以上」に臨床的な改善が認められています 。

このように、適切な設定で行えば、数値として現れるレベルでの改善が期待できるのです。

② 他の治療にはない「血管」へのアプローチ

ここがフォトフェイシャル最大の強みであり、飲み薬やトーニング(レーザー)と大きく異なる点です。

肝斑の病変部では、「VEGF(血管内皮細胞増殖因子)」という物質が増え、毛細血管が異常に拡張・増生していることが分かっています。この血管がメラノサイトに栄養を送り、炎症シグナルを出し続けることで、肝斑が消えない原因を作っています。

実は、フォトフェイシャルには血管に対しての効果が高いフィルターが搭載されているんですね。具体的には、次の通りです。

  • 異常な血管をターゲットにする: フォトフェイシャルの光には、ヘモグロビン(赤色)に反応する波長(542nmや577nmなど)が含まれています。そのため、拡張した毛細血管だけを選択的に熱凝固させ、閉塞させることが可能です。
  • 「栄養ルート」を断つ: 免疫組織化学的な研究によると、IPL治療後の組織ではVEGF(血管を増やす因子)の発現レベルが有意に低下し、それに伴って色素沈着も改善することが証明されています。

つまり、メラニンを作る工場(メラノサイト)への「栄養供給ルート」や「炎症の指令」を遮断することで、間接的に、しかし根本からメラノサイトを鎮静化させることができるのです。特に赤ら顔を伴うような「血管性肝斑」の方にとっては、非常に理にかなった治療法の1つともいえるでしょう。

➂「基底膜」の修復と肌質の底上げをする

3つ目は、肌の土台そのものを健康にする効果です。 肝斑の方の肌は、表皮と真皮を隔てる「基底膜(きていまく)」がダメージを受けて破れやすくなっていることが多いです

そこで、フォトフェイシャルの出番です。フォトフェイシャルの肝斑フィルターでは、深部に届く波長が中心なので、真皮に主に作用します。そして、以下のような働きが出てくるんです。

  • 真皮のリジュビネーション(若返り): IPLの熱作用は、真皮にある線維芽細胞を刺激し、コラーゲンやエラスチンの産生を促進します 。
  • バリア機能の再構築: コラーゲンが増えることで、損傷した基底膜の修復が促され、表皮と真皮の相互作用が正常化します 。健全な真皮環境を取り戻すことは、メラノサイトの異常な活性化を抑え、再発しにくい肌質を作る上で非常に重要です 。

治療を受けた方から「肌にハリが出た」「毛穴が目立たなくなった」という声が多いのは、この真皮への働きかけがあるためですね。

これほど肌にさまざまな効果があるフォトフェイシャルですが、決して「一度で完治する魔法」ではありません

研究では、治療終了後3~6ヶ月以内の再発率は高いとされており、場合によっては再発は「必発」とする報告もあります。 そのため、治療で良くなった状態を維持するためには、トラネキサム酸の内服やUVケアといったメンテナンスをしながら、上手に付き合っていく必要がありますね。

いずれにせよ「どの治療が最適か」は実際にお顔を見ながらの判断になりますので、ぜひ顔の肌診断をしていただき、カウンセリングをしながら最適な治療法を一緒に探していきましょう。

(参照:A Meta-analysis-Based Assessment of Intense Pulsed Light for Treatment of Melasma
(参照:Effectiveness of low-fluence and short-pulse intense pulsed light in the treatment of melasma: A randomized study

フォトフェイシャルで肝斑が濃くならないように気を付けることは?

肝斑治療におけるフォトフェイシャルは「諸刃の剣」です 。成功させるためには、クリニックでの照射以上に、日々のケアと準備が重要になります。

ではどういったケアをすればよいのか、オススメのケア方法をご紹介します。

① 治療前から「トラネキサム酸」を飲む(必須)

これが最も重要といっても過言ではありません。施術の2~4週間前からトラネキサム酸の内服を開始することが強く推奨されています。

トラネキサム酸は、メラノサイトへの「炎症指令」をブロックする働きがあります。あらかじめ内服してメラノサイトを鎮静化させておくことで、光治療の刺激によるリバウンドを防ぐことができるのです。実際に、内服を併用したほうが改善度が高く、副作用も少ないことが分かっています。

トランサミンの内服については、トランサミン(トラネキサム酸)の喉や美白への効果や副作用・授乳中・小児への適応についてを参照してください。

② 「摩擦」を徹底的に避ける

施術後の肌はバリア機能が一時的に低下しています。この時期に洗顔やメイクで肌をゴシゴシこすってしまうと、その刺激だけで肝斑が悪化してしまいます 。「こすらないケア」を徹底し、保湿をしっかり行ってバリア機能を守りましょう。

➂ 日焼け止めは「ブルーライト」もカットできるものを

紫外線対策はもちろんですが、実はスマホやPC、太陽光に含まれる「可視光線(ブルーライト)」も肝斑を悪化させることが分かっています 。 施術後は非常に敏感になっているため、紫外線吸収剤だけでなく、酸化鉄や酸化チタンを含む、色付きの日焼け止めやファンデーションを使って、物理的に光を遮断することが推奨されますね。

④ 肝斑部分の「痛み」や「変化」に敏感になる

施術中、もし強い痛みを感じたり、直後に色が濃くなったりした場合は、エネルギーが強すぎるのかもしれません。

肝斑部分での肝斑モードの照射の正解は「変化なしか、ほんのりピンク色になる程度」です。決して「かさぶたを作って剥がそう」などと思ってはいけません。

万が一、そのような場合があった時は、次の施術の時などに必ずスタッフに伝えてください。

⑤ 治療ができない時期をおさえる

妊娠中や授乳中はホルモンバランスの影響で色素が濃くなりやすいため、治療は避けるべきです 。また、日焼け直後の肌も絶対NGです。肝斑の赤みが非常に強い時期も、まずは内服薬などで炎症を抑えてから治療を検討するのが安全ですね。

まとめ

フォトフェイシャルは、以前はいわゆる「禁忌」とされてきましたが、技術の進歩により「肝斑モード」が登場し、血管へのアプローチや肌質改善も含めた有効な選択肢の1つとなりました 。

しかし、フォトフェイシャル以外にも、ハイドロキノンなどのスキンケア、トランサミンの内服、ピコトーニングなど、治療の選択肢がたくさんあります

もし肝斑もある方でフォトフェイシャルの施術を考えているなら、「肝斑モード(低出力・長波長設定)」の対応が可能か、そして内服薬との併用を推奨してくれるかなど、しっかりと相談に乗ってくれるクリニックを選ぶことをおすすめします。

どんな治療を選択したにせよ、焦らず、じっくりと、自分の肌と向き合いながら治療を進めていくとよいでしょう。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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