こんにちは、一之江駅前ひまわり医院の伊藤大介です。
のどの痛みで病院に受診するとよく出されるのが「トランサミン(トラネキサム酸)」という飲み薬ですが、実際どんな効果があるのかを知る方は少ないと思います。
今回は、喉の痛みによく使われるトランサミンの喉への効果・添付文書に沿った副作用や安全性・妊娠中や授乳中・小児への適応などについてお話していきます。
目次
トランサミンⓇ(トラネキサム酸)の喉への効果は?

トランサミンⓇ(トラネキサム酸)はもともと術後の出血を抑える目的で作られた「止血剤」です。1962年に日本国内で開発されました。
トラネキサム酸には血栓を溶かす働きがある「プラスミン」の働きを抑えることで、出血を抑える働きがあります。しかしその後「プラスミン」は血栓を溶かすだけでなく、炎症や痛みの原因物質である「ブラジキニン」を作る働きがあることがわかりました。そのためトランサミンⓇを飲むと、のどの痛みの原因である「ブラジキニン」も作られなくなります。
こうしたことから、もともと止血剤である「トランサミンⓇ」がのどの痛みに対しても使われるようになりました。
トランサミンⓇの添付文書でも、「術中・術後出血」だけでなく「湿疹や蕁麻疹」「口内炎や扁桃腺炎・咽頭炎」なども適応であることが記されています。(自費や美容ではシミや肝斑の治療にも使われますね)
では、トランサミンⓇ(トラネキサム酸)はどれくらい効果があるのでしょうか。
古く1969年の論文によると、扁桃炎や咽喉頭炎・口内炎の方168例に対して、「のどの痛み」「のどの腫れ」「のどの赤み」に対する効果をトラネキサム酸とプラセボ(偽物の薬)で二重盲検比較試験したところ、「有効以上」はプラセボ26.2%(22例)に対しトラネキサム酸を投与した方は52.4%(44例)と有意に改善していたことがわかっています。(特に口内炎・咽頭炎に対して有意に有効)
また、1990年に行われた129例の扁桃炎・咽頭炎の方に対するトランサミンの有効性を評価した論文では「治療開始3日目時点の有意な改善なかったものの、5日後の喉の痛みが有意に緩和されている」という結果になっています。
それ以降では、耳鼻科術後の出血予防目的の論文はあるものの、いわゆる「ウイルス性咽頭炎」に対してのトラネキサム酸の有効性を評価した論文は(調べた限り)ありません。
実は、イギリスNHSでのトランサミンの使い方には「鼻出血や重い生理の出血を止める・抜歯・遺伝性血管性浮腫の際に使う」と記載されており、一般的な「のどの痛み」に対して記載がありません。
上記で紹介した論文も国内のものであり、トランサミンⓇ(トラネキサム酸)をあまり海外で使うことがないため、評価した論文がなかなか出にくいのかもしれませんね。
(参照:宮城 平:臨床と研究 1969; 46(1):243-245)
(参照:神崎ら:二重盲検法による扁桃炎・咽喉頭炎に対するK-ATの臨床評価 薬理と治療 18(2): 773-787 1990)
(参照:Tranexamic acid – Medicine – NHS)
トランサミン(トラネキサム酸)の安全性や副作用は?
では、トランサミンⓇ(トラネキサム酸)の安全性や副作用はどうなんでしょうか。結論からいうと「トランサミンは非常に安全性が高く副作用が少ない薬」と言えます。(市販薬として売られているくらいですからね)また原価も安く、非常に使いやすいのも特徴です。
しかし全ての薬剤で「副作用がゼロ」という薬はありません。例えば以下の副作用が出現する可能性があります。(トランサミン添付文書による)
- 消化器の副作用(0.1~1%未満):食欲不振、悪心、嘔吐、下痢、胸やけ
- 過敏症(0.1%未満):掻痒感、発疹など
- 眠気(0.1%未満)
他、人工透析患者に投与した場合、非常に稀にけいれんを起こす可能性があると記載されています。また本来止血剤であることから、以下の方には慎重に投与すべきとしています。(投与してはいけないわけではありません)
- 血栓のある方及び血栓症があらわれるおそれのある方
- 消費性凝固障害のある方
- 術後で寝ている状態が多い方や圧迫止血の処置を受けている方
- 腎不全のある方
- トランサミンに過敏症の既往歴がある方
また、「トロンビン」といって血栓を作る薬とは併用禁忌になっています。
トランサミンは妊娠中・授乳中に使える?

トランサミンは妊娠中・授乳中に内服しても問題ない薬です。妊娠中のリスクはオーストラリア基準では「カテゴリーB1」となっています。
これは「動物実験で胎児に対する有害作用を増大する証拠もなく、使用経験は限られているもののヒト胎児においても直接・間接的な有害事象が確認されてきない」というものです。
実際に妊娠中でも使用できるのは「カテゴリーA」と「カテゴリーB1」に限りますので、トランサミン(トラネキサム酸)は数ある薬剤の中でも妊娠中・授乳中に比較的使いやすい薬といえるでしょう。ただし、あくまで一般論の話ですので、実際に妊娠中に凝固障害や血栓傾向があるような場合には、あらかじめ産科の先生の承諾を得ておくと、より確実ですね。
トランサミンは小児にも使える?

小児から使える「トランサミンシロップ」や「トランサミン散50%」がある通り、トランサミンは1歳以下でも使用することができます。ただし、例えばトランサミンシロップの場合、年齢によって内服する量が異なるので要注意。トランサミンの年齢別の分量は以下の通りになります。
年齢 | 1日量(mg) | 1日量(mL) |
~1歳 | 75~200 | 1.5~4 |
2~3歳 | 150~350 | 3~7 |
4~6歳 | 250~650 | 5~13 |
7~14歳 | 400~1,000 | 8~20 |
15歳~ | 750~2,000 | 15~40 |
また、日本・海外を含めて有効性を検証した論文は(調べた限りでは)7歳以上のみであったことにも注意は必要ですね。したがって、実際に小児の喉の痛みに対してトランサミンを処方するかどうかは、医師の判断によっても大きく変わってくると思います。
(参照:トランサミンシロップの添付文書)
トランサミン(トラネキサム酸)についてのまとめ
いかがでしたか?のどの痛みでよく使われる「トランサミン(トラネキサム酸)」について解説していきました。まとめると次のようになります。
- トランサミンはプラスミンの働きを抑え、痛みの原因物質であるブラジキニンの産生を低下させることで、のどの腫れと痛みに対して効果的に働く
- 喉の痛みに対しては、日本でよく用いられており、日本の研究が中心であるものの、海外で使われることは一般的ではないため、エビデンスとして低いものになっている。しかし、臨床試験上での効果は認められる。
- ただし、安価で安全性は非常に高く、妊娠中や授乳中・小児にも使用することができるため、日本ではのどの痛みに対して、医師の間でも頻用される薬である
といえます。ただし、トランサミンにも使用上の注意点はあるので、医師や薬剤師の方に一度相談しながら、内服されるとよいですね。また、のどの痛みが主体となる疾患の中には、抗生剤を始めとした特殊な治療が必要なケースがしばしばあります。
ぜひなるべく早く医療機関に受診していただきながら、その「つなぎ」としてトランサミンを活用してもらえたら幸いです。
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【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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