過活動膀胱の症状や治療薬、自分でできる対処法について解説【女性の頻尿】

  • 夜、何度もトイレに起きてよく眠れない
  • 家事をしているとすぐトイレに行きたくなる
  • トイレが急に行きたくなったり間に合わないかひやひやしている

といった尿トラブルを抱えている方はいませんか?これらは「過活動膀胱」と呼ばれる膀胱の神経が過敏になった状態です。過活動膀胱は女性の頻尿の原因になっていることが多く、また中々相談しにくい悩みの1つですよね。

今回は、そんな女性の頻尿になりやすい過活動膀胱の具体的な症状や治療薬・過活動膀胱に対して自分でできる対処法や対策についてお話していきます。

過活動膀胱とは?

過活動膀胱とは、「膀胱の神経が過敏になり、尿が十分にたまっていないうちに、本人の意思と関係なく勝手に膀胱が収縮してしまう状態」のことです。膀胱そのものより神経自体が過敏になっている状態といえます。例えば

  • 日中、8回以上トイレに行きたくなる
  • 思わずトイレが間に合わず尿がもれてしまう
  • 夜間、尿意で目が覚めて2回以上トイレにいく
  • 急におしっこでトイレに行きたくなり抑えられない

などの場合、過活動膀胱を疑います。

2003年の日本人を主体とした大規模疫学調査では、過活動膀胱は40歳以上の男女の14.1%、すなわち約1,040万人の方が過活動膀胱であるといわれています。40歳以上の7人に1人以上が過活動膀胱、というのは驚きですよね!

さらに、高齢になるほどその頻度は進み、70歳以上の20%以上80歳以上の35%以上が過活動膀胱の症状に悩まされています。高齢の方にとってまさに「付き合っていかなければならない病気」といえるのではないでしょうか。

(参照:(参照:日本排尿機能学会 雑誌14:266-277, 2003))
(参照:Sever N, Oskay U. An investigation of lower urinary tract symptoms in women aged 40 and over. Low Urine Tract Symptoms 2017; 9: 21–26)

過活動膀胱の原因は?

過活動膀胱の主な原因は、膀胱が「勝手に」収縮を始めてしまい、尿量があまりたまっていない時も無意識に尿を排泄しようするところにあります。

睡眠中であろうが、周りの状況に関係なく「勝手に」膀胱の神経が暴走するので、「急にトイレに行きたくなる」「夜に何度もトイレに起きる」といった症状がでてきてしまうのです。

過活動膀胱になる原因は非常に多彩ですが、他の疾患に伴って起こる「二次性」のものと生活習慣などが原因で起こる「一次性」のものに分かれます。「他の疾患で起こる過活動膀胱」の一例は次の通りです。

  • 尿路感染症
  • 薬剤性(特に利尿薬など)
  • 膀胱異常(膀胱結石など)
  • 脊椎疾患(多発性硬化症や脊椎損傷など)
  • 全身性疾患(女性ホルモンの変化や糖尿病など)
  • 脳神経疾患(脳梗塞やパーキンソン病・アルツハイマー症など)

また、生活習慣で過活動膀胱になりやすい原因としては、肥満や加齢に加えて便秘・高血圧・糖尿病が一般的です。アルコール摂取や喫煙・運動の有無も過活動性膀胱のなりやすさに関わってきます。

女性の場合は、経腟分娩や出産回数が特に腹圧性尿失禁には大きくかかわります。

(参照:女性株症状診療ガイドライン 第2版)
(参照:一般内科医のための高齢者排尿障害診療マニュアル)

過活動膀胱の症状は?セルフチェックしてみましょう

過活動膀胱の主な症状は「尿意切迫感」「夜間頻尿」「昼間之繞」「切迫性尿失禁」の4つ。それぞれの症状は次の通りです

① 尿意切迫感

尿意切迫感とは、何の前ぶれもなく突然トイレに行きたくなり、我慢することが難しい症状です。過活動膀胱の方には必ずみられる症状なので特に重視して問診します。

② 夜間頻尿

夜寝てから、オシッコのために起きる症状のことです。1回以上で夜間頻尿といえます。夜間2回以上の場合、過活動膀胱の可能性が高くなります。

③ 昼間頻尿

朝起きた時から夜寝るまでにオシッコでトイレに行く回数が多くなる症状です。1日8回以上の場合、昼間頻尿といえます。

④ 切迫性尿失禁

突然強い尿意のために、トイレまで我慢できず、尿がもれてしまう症状です。過活動膀胱では、この症状は伴わない場合もあります。

このような症状を医師は「スコア」にして考え、過活動膀胱に当てはまるかを考えます。もっともよく使われるスコアは「過活動膀胱症状質問票(OASBB)」です。ぜひセルフチェックしていただき、自分が過活動膀胱はチェックしてみてください。次の4つの質問からなります。

  1. 朝起きた時から寝るまでに何回くらい尿をしましたか?7回以下(0点)8~14回(1点)15回以上(2点)
  2. 夜寝てから朝起きるまでに何回くらい尿をするために起きましたか?0回(0点)・1回(1点)2回(2点)3回以上(3点)
  3. 急に尿がしたくなり、がまんが難しいことがありましたか?なし(0点)・週に1回より少ない(1点)週に1回以上(2点)・1日1回くらい(3点)1日2~4回(4点)・1日5回以上(5点)
  4. 急に尿がしたくなり、がまんできずに尿をもらうことが尿をもらすことがありましたか?なし(0点)・週に1回より少ない(1点)週に1回以上(2点)・1日1回くらい(3点)1日2~4回(4点)・1日5回以上(5点)

質問3が2点以上・かつ合計3点以上で過活動膀胱、といえます。さらに合計点数が5点以下が「軽症」6~11点が「中等症」12点以上が「重症」となります。(私もこの質問票を念頭におきつつ質問をしています)

みなさんは何点だったでしょうか?

過活動膀胱の検査や診察は?

実際には「頻尿」といっても、神経トラブルだったり、尿自体に異常があったり、骨盤底筋群のトラブルだったり、さまざまな原因な原因が考えられます。原因を追究するために。当院では主に次の診察や検査を進めていきます。

① 問診

過活動膀胱の診断にとって問診は極めて重要です。実際の頻尿の状態を症状に合わせて丁寧に聞いていきます。また、背景の生活環境から詳しく聞いていき、患者さんに合わせた過活動膀胱に対するアドバイスも行っております。

② 尿検査

尿検査では、尿の成分や性質を分析し、血尿や細菌が入っていないか確認します。過活動膀胱と同じく頻尿を呈する疾患に、膀胱炎(間質性膀胱炎)があります。過活動膀胱は一般的に尿を「止める」治療になるので、膀胱炎がある場合悪化してしまいます。尿トラブルにおいては必須の検査です。

③ エコー検査

超音波検査(エコー検査)では、膀胱に残っている尿の量を計測したり、腎臓や膀胱の形や状態、がんや結石がないかなどを調べます。(超音波検査についてはこちらも参照してください)

他、状態に合わせて血液検査など行うこともありますが、場合により連携施設から泌尿器専門医を紹介していきます。

過活動膀胱の治療薬は?

過活動膀胱の治療薬は大きく分けて「抗コリン薬」と「β3作動薬」という2種類の薬が使用されます。あとは漢方薬が使用されることもあります。

① 抗コリン薬

抗コリン薬のコリンとは「アセチルコリン」という神経伝達物質のことです。アセチルコリンや膀胱にあるムスカリン受容体という部分に過度に作用すると、膀胱が異常に収縮するようになります。抗コリン薬では、これらの作用をおさえ、膀胱の異常な収縮を抑えます。

具体的な過活動膀胱に対する抗コリン薬は「ベシケア®」「トビエース®」「ウリトス®」「バップフォー®」などがあります。

緑内障があったり、前立腺肥大などがあったら使用することができません。

② β3作動薬

膀胱の筋肉(膀胱平滑筋)における交感神経のβ3受容体が刺激を受けると筋肉が緩み膀胱が広がり、尿道が縮みます。膀胱が広がると尿をより蓄えることができますよね。β3作動薬は膀胱の筋肉をやわらげる作用を増強して、膀胱を広げて尿道を縮ませることで、過活性膀胱による症状を改善します。

具体的な薬は「ベタニス®(ミラべグロン)」「ベオーパ®(ビベグロン)」があります。抗コリン薬とは異なる作用なので、前述の抗コリン薬の一部と併用することで作用が増強するという報告もあります。(報告の詳細はこちら

③ 漢方薬

漢方には「気・血・水」の概念があり、それぞれが乱れると体の不調が出るとされています。特に頻尿や尿漏れはこのうち「水」(血液以外の水分)の乱れで生じ、東洋の世界では、「腎虚」「水毒・水滞」などと表現されます。

こうした「水」を調節する漢方として「八味地黄丸」「牛車腎気丸」「猪苓湯」「小建中湯」を用いることがあります。また骨盤底筋群の強化に「補中益気湯」を使ったりと、それぞれの状態や「証」に合わせて使い分けていきます。

また他の治療として膀胱や尿道の神経の働きを調整する電気刺激法があります。これらの治療をご希望の場合、連携施設に紹介させていただきます。

過活動膀胱の日常生活での対処法は?

薬による治療だけでなく、、少しずつ訓練しながら日常生活で気を付けていくと、過活動膀胱は改善できます。自分ができる所から始めていきましょう。

① 膀胱訓練をする

膀胱訓練は少しずつ排尿間隔を延長することにより膀胱容量を増加させる訓練法です。

具体的な方法としては、排尿計画を立て、短時間から始めて徐々に15~60分単位で排尿間隔を延長し、最終的には2~3時間の排尿間隔が得られるように訓練をすすめます。

特に切迫性尿失禁といって「トイレをみるとおしっこに行きたくなってしまう」という方には有用です。他の楽しいことを考えたり、単純計算をしてみたりして、尿意切迫感が治まったところでトイレに行くと漏らさずに済むことができるようになるでしょう

さらに、トイレにいったたびにトイレにいった時間と尿量をカップにとって記録する「排尿日記」を付けると1回あたりの排尿が少ない時間帯(目安は150~200ml以下)に膀胱訓練を集中させることで、より効果を発揮しやすくなります。

膀胱訓練は12~90%の治癒、75%の改善率と非常に高い成功率がある治療法です。副作用もなく薬物治療(抗コリン薬)と同等の有効性をもつため、過活動膀胱診療ガイドラインでも推奨する(グレードB)になっています。

(参照:女性株尿路症状診療ガイドライン)
(参照:一般内科医のための高齢者排尿障害診療マニュアル)

② 骨盤底筋群を鍛える

骨盤庭訓体操は、腹筋に力が入らないように膣や肛門を締めるようにする方法です。特に女性において有用と言われています。

骨盤庭訓体操は図のような体位が代表的。ただし、肛門や膣が閉まっていることを自覚できればOKです。

肛門や膣をしめたりすると、尿道をしめる「尿道括約筋」も収縮するので、文字通り鍛えることで尿トラブルを防ぎます。イメージとしては、

  • 排尿を途中で止める感じ
  • 硬くて太い便が出る時、便を切る感じ
  • 満員電車の中で周期的に襲う下痢をこらえる感じ
  • 人前でおならが出そうになった時、肛門をぎゅっと締める感じ

のように肛門や膣をしめるとよいとされますが、あくまでイメージですので、自分なりの締め方でかまいません。

この膣や肛門を締める動作を1日50~100回ほど繰り返し、1日3~4回に分けて行います。日々の継続が必要ですが、鍛えると非常に効果的であり、ガイドラインでも強く推奨しています。

例えば、腹圧性尿失禁(咳をすると尿漏れする)という方に対する18編の論文をまとめた報告によると、対象群に比べて治癒例56%(対象群6%)、改善例55%とされています。

さらに、61例の日本人女性に対して、骨盤底筋体操を行った場合、尿失禁が66.7%から22.3%まで大幅に低下したというデータもあります。

日々の訓練はとても大切ですね。肛門をしめるとおなかに力がかかる方がいますが、肛門を締めないと効果がありません。息を吸いながら肛門を上半身に引き上げるようにするとイメージがつきやすいでしょう。

(参照:女性株尿路症状診療ガイドライン)
(参照:一般内科医のための高齢者排尿障害診療マニュアル)

③ 体重を減らす

過活動膀胱のガイドラインでも、特に体重減少は過活動膀胱の有効性が高いとされています。

食事と運動療法で体重を減らすと、尿失禁になりづらくなる大規模臨床試験のデータもあるので「過活動膀胱に最もよい生活習慣は?」というと「ダイエット」ということになります。

体重が8%減少すると、6か月後の尿失禁回数は47%減少したというデータもあるので、尿に困っている方はダイエットに励むと良いですね。

(参照:Weight loss to treat urinary incontinence in overweight and obese women. N Engl J Med. 2009 Jan 29;360(5):481-90.

④ アルコールやカフェイン・炭酸飲料・タバコの摂取・刺激物をさける

アルコールやカフェイン・炭酸飲料などは利尿作用があるので、水分量が多くなるだけでなく、尿失禁を悪化させる可能性があります

特に夜間の摂取は夜間頻尿の原因にもつながるため、できるだけ避けた方がよいでしょう。

また、タバコもニコチンが膀胱収縮を引き起こし、尿失禁のリスクを増大させる可能性が示唆されています。実際、喫煙者の女性はそうでない方の2倍尿失禁が多くなるという報告もあり(詳細はこちら)、尿失禁が辛いなら禁煙も考えましょう。

当院では禁煙外来も行っていますので、併せて検討してみてください。(詳しくは禁煙外来と禁煙補助薬(チャンピックス・ニコチンパッチ)についても参照してください)

⑤ 水分量を管理する

当たり前ですが、身体に入れる水の量が多い分、尿として排泄する量も多くなります。「頻尿だと思っていたら、水分の飲みすぎで多尿だった」というケースも少なくありません。

一方、水分は尿路結石の予防のほか、自律神経を整えたり血栓や便秘などを予防するなど、大切な役割があります。

過度な水分摂取は控えるくらいにして「自分が適切な水分を摂っているか」一度記録してみるのもよいでしょう。目安としては1.5リットルから2リットルくらいが目安です。

前述の排尿記録を付けていれば1日の尿量が分かるので、「体重1kgあたり25~30ml程度の尿量(50kgなら1300ml程度)になるように水分を調節・指導する」とされています。差が500ml以上あれば茶碗かコップ3倍程度控えるようにするとよいでしょう。

特に夜6時以降の水分管理は夜間頻尿にもつながるので特に大切です。

⑥ 便秘の改善

いきんで排便することで、腹圧性尿失禁や尿意切迫のリスクになる可能性があります。過活動膀胱に対する便秘改善の効果はまだはっきりしませんが、なるべく便秘につながる食生活は控えたほうがよいでしょう。特に

  • 1日3食。特に朝食をしっかりと食べる
  • 腸内環境を整える:納豆、ヨーグルト、ぬか漬けなど
  • 食物繊維を適切にとる:野菜やキノコ類、豆類、穀類など食物繊維が多く含まれるものを意識して食べるようにする

などを意識するとよいですね。便秘についてはつらい便秘症状を治すには?便秘の原因や解消法について解説もあわせて参照してください。

過活動膀胱についてのまとめ~まずは医療機関に相談を~

いかがでしたか?過活動膀胱について、幅広く解説していきました。まとめると

  • 過活動膀胱は40歳以降の7人に1人が悩む非常にポピュラーな疾患
  • 過活動膀胱の原因は、膀胱の神経が過敏になってしまうこと。日々の生活習慣の改善や背景にある疾患の解明も時に重要
  • 過活動膀胱の治療薬は、抗コリン薬、β3刺激薬、漢方薬などが使われる
  • 生活習慣に伴う過活動膀胱の場合には、生活習慣の改善も特に大切。膀胱訓練や骨盤底筋群の強化は特に有効

といえます。「過活動膀胱」と一言でいっても、病態によって指導方法も大きく異なります。まずは内科や泌尿器科など、医療機関に受診していただき、適切なアドバイスをもらうようにしてください。当院でも尿トラブルに関するご相談を、もちろん承っておりますので、気軽にご相談くださいね!

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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