ノロウイルスの潜伏期間や症状、薬や検査について【消毒方法知ってる?】

冬の時期になると、「急に吐き気が…」「お腹の調子が悪い」というニュースをよく耳にしますよね。 その正体として最も有名なのが「ノロウイルス」ではないでしょうか。

名前は知っているけれど、「消毒にはアルコールが効かないって本当?」「ノロウイルスに効く薬はあるの?」といった詳しいことまでは、意外と知られていないかもしれません。

今回は、名前は知っていても意外と知らない「ノロウイルス」について、最新の医学論文を交えながら解説していきます。

ノロウイルスとは?

ノロウイルスは、世界中で急性胃腸炎を引き起こす主な原因となっているウイルスです。写真のように、直径約27〜30nmの正二十面体構造を持つプラス鎖一本鎖RNAウイルスとなります。

ちなみにアメリカのオハイオ州ノーウォークで発見されたため、「ノーウォークウイルス=ノロウイルス」と命名されていますが、2002年に国際ウイルス学会で命名されるまでは、SRSV(小型球形ウイルス)」と呼ばれていました。

実はこのウイルス、非常に「耐久力も感染力も強いという厄介な特徴を持っています。

  • 感染力が強い: わずか10〜100個ほどのウイルスが体内に入るだけで感染してしまいます。それなのに、感染者の嘔吐物などには数億個ものウイルスが含まれているといわれています。
  • 耐久力も強い: ウイルスの構造上、「エンベロープ」と呼ばれる脂質の膜を持っていません。一般的なアルコール消毒はこの膜を壊すことで効果を発揮するため、膜を持たないノロウイルスには効果が出にくいのです。一般的な界面活性剤も効果は出にくく、環境中での安定性が極めて高いですね。
  • 変異が著しい:、ウイルスの遺伝的多様性が著しく、頻繁な変異や遺伝子組換えにより新たな変異株が出現し、宿主の集団免疫を回避します。

ノロウイルスは、1年を通して発生はみられますが11月くらいから発生件数は増加しはじめ、12~翌年1月が発生のピークになる傾向があります。しばしば集団食中毒の原因になり、令和6年には、1月58件、2月70件、3月59件にも及び、患者数も1月で約1,400人~2,400人から達します。

そのため、冬の感染性胃腸炎として、もっとも警戒しなければならないウイルスの1つです。

(参照:厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」
(写真:東京都健康安全研究センター

ノロウイルスの潜伏期間は?

ノロウイルスの潜伏期間について、1022件のアウトブレイクのデータを分析した報告によると、ノロウイルスの潜伏期間の平均値は32.8時間となっています。

最小値で平均14.9時間、最大値で平均57.2時間となっているので、ほとんどの症例で1日~2日には症状が出ているということになりますね。ちなみに、他の胃腸炎となっている原因菌(ウイルス)の潜伏期間は次の通りです。

  • ノロウイルス:1~2日
  • 黄色ブドウ球菌:1~6時間(平均3時間)
  • 腸管出血性大腸菌:4~8日
  • ロタウイルス:2日
  • アデノウイルス:5日~7日
  • カンピロバクター:2日~7日
  • 腸炎ビブリオ:発症後12時間
  • サルモネラ属:通常8時間~48時間(近年3~4日後の発症もあり)
  • ウェルシュ菌:6~18時間

こう見ると、ノロウイルスは比較的早期に症状が出やすい胃腸炎の原因ウイルスということになりますね。

ノロウイルスの感染経路は?

ノロウイルスは、様々なルートで私たちの体に入り込もうとします。主な感染経路は次の通りです。

  • 経口感染:最も主要な経路です。感染者の糞便や嘔吐物に汚染された手指、食品、水を介して感染します。
  • 食品感染: ウイルスがついた手で食事をしたり、汚染された食品(カキなどの二枚貝などや魚介類)を食べたりすることで感染します。加熱不足や感染した調理従事者による二次感染も原因の1つですね。米国では食品媒介アウトブレイクの58%がノロウイルスによるものです。
  • 接触感染: ドアノブやリモコンなど、ウイルスがついた場所を触った手から感染します。
  • 飛沫・エアロゾル感染: 嘔吐した瞬間にウイルスが霧状(エアロゾル)になって空気中に舞い上がります。離れた場所にいても、それを吸い込むことで感染してしまうことがあります。

意外と盲点になりやすいのが「飛沫感染」です。2019年のスウェーデンからの報告によると、ノロウイルス感染症患者26名の近くで空気サンプルを繰り返し採取したところ、86個の空気サンプルのうち、21個(24%)からノロウイルスRNAが検出されています。

特に、最後の嘔吐のエピソードから3時間以内であると、空気中にもノロウイルスが検出されやすくなります(オッズ比8.1倍)

胃腸炎というと、接触感染や糞便感染ばかりに気を取られやすくなりますが、ノロウイルスで嘔吐されている方の世話をするときは、飛沫にも気を付けなければうつってしまいます。なので換気やマスクなどの空気への対策も重要ですね。

(参照:Sources of Airborne Norovirus in Hospital Outbreaks

ノロウイルスの主な症状は?

ノロウイルスに罹患された42例の症状や内訳を解析した論文によると、次のようになっています。(パーセントは論文上での数字)

  • 吐き気・嘔吐(それぞれ78.6%、59.5%): 最も多い症状です。特に子供に多く見られ、前触れなく吐いてしまうことがあります。
  • 下痢(45.2%):45.2%の方にみられます。水のような下痢が続くのが特徴ですね。
  • 発熱(19.2%)・腹痛:38℃前後の熱や、お腹の痛みを伴うこともあります。

他には、食欲不振や頭痛、関節痛がみられることがあります。健康な大人であれば、1〜2日(12〜60時間)ほどで自然に回復することが多いですね。論文ではも「ほとんどの症例が48~72時間に回復した」となっています。

しかし、高齢者や乳幼児は脱水症状になりやすく、重症化することもあるため注意が必要です。また、免疫不全の方がかかられると「慢性ノロウイルス感染症」といって、中央値で218日、最長8年以上、ノロウイルスによる慢性の下痢が出ることがあります。

(参照:Norovirus gastroenteritis outbreak transmitted by food and vomit in a high school
(参照:Norovirus and Foodborne Disease: A Review)
(参照:Chronic norovirus infection and common variable immunodeficiency

ノロウイルスの検査は?

「すぐに検査して白黒つけたい!」と思われるかもしれませんが、実は検査にも少し難しい点があります。まず、ノロウイルスの検査方法としては、以下の2つです。

  • 迅速抗原検査(キット): 15〜30分ですぐに結果が出ますが、感度が約61%とあまり高くありません。 つまり、「陰性(マイナス)」と出ても、実際には感染している可能性を否定できないのです。一方、特異度は97%と高いので、陽性になっていればノロウイルス感染症といっていいですね。
  • PCR検査: 非常に正確ですが、特別な機器が必要で時間がかかるため、特殊な病院でしか行うことができません。

また、ノロウイルスには特効薬がなく、治療法は対症療法が中心となるため、健常者が検査を受けることは原則として保険適用外となります。保険適用となる主な条件は次の通りで、極めて厳しいものです。

  • 3歳未満の小児
  • 65歳以上の高齢者
  • 悪性腫瘍の診断が確定している患者
  • 臓器移植後の患者
  • 抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤、または免疫抑制効果のある薬剤を投与中の患者

しかも便から採取しなければならないことや、15~30分も集団感染しやすいノロウイルスの可能性のある方を待機させなければならない関係から、多くのクリニックでは、抗原検査も取り扱っていません

したがって、ノロウイルスを検査されたい場合は、「ノロウイルスの検査をやっているか」事前に問い合わせをした方がよいでしょう。(当院では、こういった事情から現時点では取り扱いしていません

ノロウイルスの薬は?

残念ながら、現時点ではノロウイルスを直接退治する認可された「特効薬」はありません。したがって、基本的には、症状を緩和させる「対症療法」になることがほとんどです。

  • 治療の基本: 吐いたり下痢をしたりして失われた水分を補う「脱水予防(点滴や経口補水液)」が中心になります(支持療法)。
  • 下痢止めは慎重に: 無理に下痢を止めると、ウイルスが体内に留まってしまう可能性があるため、特に子供や重症の場合は慎重な判断が必要です。

唯一意義がありそうなのが整腸剤であり、ウイルス性胃腸炎の下痢の持続期間を0.7日短縮したという論文がありますね。

したがって、病院にいく意義としては「ノロウイルスかどうかを確定させる」というよりも、細菌性腸炎や虫垂炎などをはじめ、他の治療すべき消化器疾患ときちんと区別してもらうことに尽きるでしょう。

近年、mRNAワクチン(モデルナ社など)や飲み薬タイプのワクチンの開発、抗ウイルス薬の開発研究が進んでおり、臨床試験が行われています。近い将来、予防したり治療できるようになるかもしれません。

(参照:A Systematic Review and Meta-Analysis: The Effectiveness of Probiotics for Viral Gastroenteritis
(参照:A Clinical Trial of a Norovirus Vaccine for Adults
(参照:Norovirus Vaccines
(参照:Norovirus antivirals: Where are we now?

ノロウイルスの消毒方法は?

ノロウイルスは治療薬がないからこそ、もっとも大切なのは周囲に広げないこと、すなわき「消毒」になります。そして一般的なアルコール消毒はノロウイルスにはあまり効果がありません。

そのため、消毒には「次亜塩素酸ナトリウム」を使いましょう。家庭にある「塩素系漂白剤(ハイターなど)を薄めたもの」が最も効果的です。

  • 嘔吐物の処理: 高濃度(0.5%目安)で消毒。
  • ドアノブなどの消毒: 中濃度(0.1%目安)で消毒。

※汚れが残っていると消毒効果が落ちるため、まずはペーパータオルなどで汚れを拭き取ってから消毒するのが鉄則です。

では、家庭でできる「ノロウイルス消毒液」の作り方を教えましょう。用意するのは、「家庭用塩素系漂白剤(ハイター、ブリーチなど)」と「空のペットボトル(500ml)」、そして「水」だけです。

※ペットボトルのキャップ1杯は、約5mlです。

【通常用】ドアノブ・手すり・おもちゃなど(0.02%)

日常的な消毒には、こちらの薄めの液を使います。

  • : 500mlのペットボトル 1本
  • 漂白剤: キャップ 半分弱(約2ml)
    (もし2リットルのペットボトルで作るなら、キャップ 2杯(約10ml) です)

【緊急用】嘔吐物・便で汚れた場所や床(0.1%)

嘔吐物を処理する時や、直接汚れた場所には、こちらの濃い液を使います。

  • : 500mlのペットボトル 1本
  • 漂白剤: キャップ 2杯(約10ml)

消毒液を作るときは以下の3つを気を付けてください。

  1. 「作り置き」はNG!:消毒効果は時間が経つと薄れてしまいます。「使う時に、使う分だけ」作るのが鉄則です。
  2. ペットボトルの誤飲に注意:水と間違えて飲んでしまわないよう、ペットボトルにはマジックで大きく「消毒液」「飲むな」と書いておきましょう。
  3. 手指には使わない :皮膚を傷めてしまうので、手指の消毒には使わず、石けんでの手洗いを徹底してください。また、消毒する時はゴム手袋をして、換気を良くして行ってくださいね。

手にウイルスが付いた場合は、ウイルスを物理的に洗い流すことが最も重要です。 石けんで泡立てて、20秒以上かけて流水でしっかり洗い流しましょう

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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