自分の体の状態を知るために定期的に行われる「健康診断」。会社で義務付けられているから仕方なくしている人もいるでしょうが、定期的に病院を受診していなければ、自分の体を総合的に判断できる唯一の機会と言っても過言ではありません。
しかし、健康診断に自分の本来の体の状態が反映されるためには、健康診断の「前日」の過ごし方が極めて重要です。特に食事メニューや飲酒、性行為や運動などは健康診断の結果に大きく影響されます。
では、健康診断の前日にはどのように過ごせばよいのでしょうか?具体的な根拠もあわせて解説していきます。
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健康診断の食事は何時間あける?
健康診断前日の食事をいつまでに行うかは、午前中に受ける場合は原則「健康診断の前日の夜21時まで」とするところがほとんどでしょう。
というのも、睡眠直前の食事は胃腸の働きが低下するので吸収が低下するのと、厚生労働省で推奨される「空腹時血糖・空腹時中性脂肪」の項目では以下のように記載されているからです。
空腹時中性脂肪とは、絶食10時間以上後に採血が実施されたもので、随時中性脂肪とは、食後10時間未満に採血が実施されたものです。
空腹時血糖とは、絶食10時間以上後に採血が実施されたもので、随時血糖とは、食事 開始後から3.5時間以上10時間未満に採血が実施されたものです。
朝9~10時に健康診断が実施されるとしたら、夜11時以降以内に食べると正しい数値を反映しないことになります。睡眠時の食事の吸収率の影響を考えると妥当なところではないでしょうか。
一方、午後に検査を受ける場合はクリニックや医療機関によってまちまちです。例えば、東京大学・京都大学ではそれぞれ以下のように案内されていますね。
- 東京大学の場合:午後に受診の場合:検査当日は、軽い朝食を午前7時までに済ませ、昼食を食べずに受診してください。
- 京都大学の場合(教職員一般):午後の受検者は、昼食・間食・ジュース等(水・茶を除く)をとらないでください。食後 4 時間以上の間隔をあけてお越しください。
全く朝食をとらないで過ごして、午前中の仕事のパフォーマンスも落ちる方もいますので、検査の正確性とのバランスを考慮した結果でしょう。
もちろん「全例、前日21時以降の食事はとらないこと」とするクリニックもありますので、クリニックに確認するとよいですね。厚生労働省が発行した「健診の検査実施方法及び留意事項」については以下のように記載されています。
午後に特定健康診査を実施する場合は、ヘモグロビン A1c 検査を実施する場合であっても、軽めの朝食とするとともに、他の検査結果への影響を軽減するため、特定健康診査まで水以外の飲食物を摂取しないことが望ましいこと。
やむを得ず空腹時以外に採血を行う場合には、食後 3.5 時間以降に採血を行うこと。
このような現状から、当院では午後健康診断を受診される場合には、午前7時までに軽い朝食を済ませるくらいで、昼食や間食は取らずに受診していただくようにしています。食事をどうしても食べてしまった方は中性脂肪や血糖の値に反映させますので、ぜひスタッフにお伝えください。
(参照:厚生労働省「【第4期】特定健診・高齢者健診検査項目」)
(参照:京都大学「職員一般定期健康診断(従来型)のご案内と注意事項」)
(参照:東京大学「各健康診断の検査項目と受診上の注意点について」)
(参照:厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版))
健康診断前日の飲酒は?
では健康診断のどれくらい前から飲酒は控えるべきなのでしょうか?
厚生労働省から発行される「標準的な健診・保健指導プログラム」によると、「アルコールは特定健診の前日から控えること」としています。
アルコールは体に非常に多くの影響を与えます。一例をあげると次の通りです。
- 肝臓への影響: アルコールが肝臓に負担をかけ、肝機能検査(AST、ALT、γ-GTPなど)の結果に異常が生じりゃすくなります
- 脱水症状: アルコールは利尿作用があり、脱水状態になりやすくなります。脱水になると血液濃度が変わり、血液検査の結果(尿素窒素が高くなりやすくなる、ヘマトクリットが高くなりやすくなる)に影響が出てくることがあります。
- 血圧や心拍数の変動: アルコールを摂取すると一時的に血圧や心拍数が上昇することがあります。そのため、血圧測定や心電図の結果にも影響があるかもしれません。
- 血糖値への影響: アルコールは血糖値の変動を引き起こす可能性があり、糖尿病の診断や血糖値に影響が出てくる可能性があります。
- 消化器系への影響: アルコールは胃腸にも影響を与え、消化器系の検査結果を変える可能性があります。例えば、お酒の飲みすぎて食道が傷つき出血する「マロリーワイス症候群」などは有名です。
もちろん、前日さえやめれば完全にアルコールの影響がなくなるかというとそうではありません。例えばγGTPの値をアルコールを飲まない状態にするには2週間くらいかかるでしょう。
健康診断をきっかけに禁酒ができる方はそれに越したことはないですが、自分の体を正確に測定されたい方は、せめて前日はお酒を控えるようにしてください。
健康診断前日の運動は?
では、健康診断前日の運動についてはいかがでしょうか?運動なら「健康にいい行動だから控える必要はない」と思うかもしれませんね。
しかし、厚生労働省の指針によると「激しい運動は特定健診の前日から控えること」としています。
意外にも直前の激しい運動は健康診断の数値に大きな影響を与えます。例えば次の通りです。
- 筋肉酵素の増加: 激しい運動により筋肉が損傷すると、筋肉からクレアチンキナーゼ(CK)や乳酸脱水素酵素(LDH)などの酵素が血液中に放出されます。そのため、これらの数値が異常に高くなり、筋肉や心臓の異常が疑われやすくなります。
- 腎機能への影響: 激しい運動により、一時的に腎機能の指標(クレアチニンや尿素窒素など)が上昇することがあります。
- 脱水症状: 激しい運動は大量の汗をかき、体液のバランスが崩れることがあります。
- 心拍数や血圧への影響: 激しい運動は心拍数や血圧を一時的に上昇させるため、これが心電図や血圧測定の結果に影響を与えることがあります。
もっともよくありがちなのは、クレアチニンキナーゼ(CK)が上昇ししたり、尿たんぱくが陽性になってしまうケースですね。その場合は、激しい運動を控えて再検査に回されることが多いです。
前日の運動だけで「再検査」に回されてしまうのは、時間ももったない話です。前日には激しい運動はしないようにしましょう。
健康診断前日の性行為は?
では、健康診断前日の性行為についてはどうでしょうか。厚生労働省では明らかな指針はないものの「健康診断の前日は性行為は控えるべき」と考えた方がいいですね。
理由としては以下の3つが挙げられます。
- 尿検査への影響: 性行為によって精液が尿に混入すると、尿蛋白の結果に影響を与える可能性があります。そのため、男性は検査前日の性行為は避けるべきです。女性の場合は、コンドームを使用することで影響を避けることができるとされています。
- 婦人科の検査への影響:子宮頸がん検査や膣分泌物検査など、婦人科系の検査がある場合は、性行為によって細胞や分泌物が採取されにくくなる可能性があります。また、性行為によって出血が起こると、検査結果の解釈が難しくなりますね。
- 長時間の性行為はそれなりの運動量になる:国立健康・栄養研究所による発表によると性行為は1.8~2.8METS(メッツ)くらいの運動量。平地を普通に歩行するレベル(3.0METS)に相当するので、「激しい運動」というわけではありません。しかし、30分以上になると15分ジョギングしたくらいの消費カロリーになります。
したがって、健康診断前日の性行為は検査結果を正しく反映させるなら、避けるに越したことはないでしょう。
(参照:国立健康・栄養研究所「改訂版『身体活動のメッツ(METs)表』」)
健康診断前日のオススメの食べ物や避けるべき食べ物は?
健康診断前日や当日にとる食事はどんなものがよいでしょうか?
まず検査結果に影響を与えないように、消化の良いものを選び、脂っこいものや刺激物を避けるようにしましょう。(特に胃カメラや胃透視検査がある場合)具体的には次のようなものですね。
- 口当たりがよいもの
- 味がうす味で辛くないもの
- 食物繊維の割合が低いもの
- 調理されており、やわらかいもの
具体例としてあげるなら、次の通りです。
- 低脂肪の乳製品
- 卵
- スープ(コンソメスープやミネストローネなど)
- プリン
- 豆腐
- 赤身の肉(皮のない鶏肉、魚など):ただし十分加熱し細かく刻み食べやすくする必要あり
- ほうれん草・じゃがいも・リンゴ・にんじん・豆などを加熱処理したもの
特に、胃透視検査がある場合は、いろいろな方向に回転したり、バリウムの影響などで気持ち悪くなったり、腹痛が生じることがありますので、前日の食事は大切ですね。もちろん絶食期間を忘れてはいけません。過剰に食事制限する必要はないと思います。水分はよくとってください。
逆に健康診断前日に避けるべきものは次の通りとなります。
- 脂っこいもの: 揚げ物、炒め物、ラーメン、カレー、ファーストフードなど
- 刺激物: 香辛料の多い料理、コーヒー、アルコールなど
- 食物繊維が豊富な野菜: ごぼう、れんこん、セロリなど
- その他: アルコール、炭酸飲料、カフェイン飲料、乳製品(牛乳、チーズなど)
意外としてしまうのが、食物繊維が豊富な食事です。食物繊維が豊富なものも消化に時間がかかるため、控えめにすると良いですね。
健康診断の結果を正しく反映させるためにも、当日だけでなく、健康診断前日の過ごし方も気を付けてみましょう。意外と結果もかわってくるかもしれませんよ。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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