今年もインフルエンザが流行する季節になりましたね。
みなさんも学級閉鎖や職場でのクラスター感染などで、「いつ自分もかかるかわからない」状況が続いていることでしょう。
インフルエンザも発熱や頭痛、関節痛などつらい症状が続く感染症の1つ。そこで頼りになるのが治療薬です。
実際インフルエンザにかかったら、どのような治療薬が出されるのでしょうか。今回は、インフルエンザの治療薬「タミフル」「リレンザ」「イナビル」「ゾフルーザ」「ラピアクタ」の5つについて記載していきます。
また、併せて「インフルエンザ治療薬は何時間以内に飲むべきなのか」「インフルエンザ治療薬で異常行動がでるのか」についてもあわせて解説します。
Table of Contents
インフルエンザの治療薬とは?
インフルエンザの治療薬というのは、文字通り「インフルエンザウイルスの量を減らすことで、症状や重症化を改善させやすくする薬」のこと。対症療法薬である「解熱剤」などはふくまれません。
インフルエンザの治療薬は漢方薬以外、すべて「ノイラミニダーゼ阻害薬」や「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬」などの「ウイルスの増殖を抑える薬」になります。
インフルエンザウイルスは細胞内に侵入した後、細胞の中で新たなウイルスを作って、満を持して細胞の外へ飛び出してどんどん増殖していきます。
その新しいインフルエンザウイルスが細胞の外へ飛び出す時に「ノイラミニダーゼ」という酵素が必要なのですが、インフルエンザ治療薬はこの「ノイラミニダーゼ」の働きを抑えることで、新たに作られたインフルエンザウイルスが細胞の外に放出できなくなるようにします。
細胞の外に飛び出すことができないインフルエンザは細胞の中にとどまったまま死滅していき、ウイルスの増殖がうまくできなくなるというわけです。
また、ゾフルーザに代表される「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬」では、ウイルスのmRNA合成に必要なRNA断片を生成するのに必要な「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ」を阻害し、ウイルスの増殖を抑えます。
いずれの抗ウイルス薬も、リスクの高い方へは早期に投与した方がよいとされています。具体的には下記に該当する方です。
- 5歳未満(とりわけ2歳未満)の幼児
- 65歳以上の高齢者
- 慢性の、肺疾患(気管支喘息を含む)・心血管疾患・腎疾患・肝疾患・血液疾患・代謝性疾患
(糖尿病を含む)・神経疾患(脳脊髄障害、末梢神経障害、筋障害、てんかん、脳卒中、精神遅滞、中等度以上の発達異常、筋萎縮、脊髄外傷を含む) - 免疫抑制状態の患者(免疫抑制治療を受けているあるいはHIV感染を含む)
- 妊婦および出産後2週以内の産褥婦
- アスピリンまたはサリチル酸を含む薬物治療を受け、ライ症候群のリスクのある18歳以下
- BMI 40以上の肥満者
- ナーシングホーム等の長期療養施設入居者
(参照:日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」)
インフルエンザ治療薬の一覧表
では、どれも同じ作用機序のインフルエンザの治療薬であるなら、どういった点が違うのでしょうか。抗インフルエンザ薬を一覧表でまとめると、上図のようになります。ポイントは次の通りです。
① 剤型の違い
まず投与する経路が異なります。大きく分けると「吸入タイプ」「内服タイプ」「点滴タイプ」の3つです。
- 吸入タイプ:リレンザⓇ・イナビルⓇ
- 内服タイプ:タミフルⓇ・ゾフルーザⓇ
- 点滴タイプ:ラピアクタⓇ
ちなみに、内服タイプでは子供も飲めるように、ドライシロップや顆粒タイプもありますね。例えば、吸入も内服もできないような人なら点滴タイプである「ラピアクタⓇ」、そうでない方は吸入や内服のタイプが選ばれますね。
吸入薬は重症例や肺炎・気管支喘息を合併している方は使用しない方がよいことになっています。
② 使用する回数の違い
投与する回数も薬剤によって異なります。
- 1日2回5日投与:タミフルⓇ(内服)・リレンザⓇ(吸入)
- 1回だけ投与:イナビルⓇ(吸入)・ゾフルーザⓇ(内服)・ラピアクタⓇ(点滴)
となっています。このように見ると「1回だけの方がラク」と思われますよね。実際、飲み忘れの問題もなくなりますし、途中で飲まなかったりすると耐性ウイルスの問題が出てきます。
しかし1回だけの薬の方が新しくできた薬のため、薬価の問題などもあります。そのため、状況にあわせて処方内容を変えたりしています。
それでは、各インフルエンザ治療薬の特徴について見ていきましょう。
インフルエンザ治療薬 その1:タミフル
タミフル(オセルタミビル)は、インフルエンザウイルスへの抗ウイルス薬の1つです。最もインフルエンザ治療薬として使われており、臨床実績も高い薬ですね。ポイントは
- 小児にも使用することができ、効果も確認されている点
- 経口薬であり、ドライシロップもある点
- 1日2回で5日間投与である点
となります。では、タミフルはどれくらい効果が確認されているのでしょうか。
例えば、タミフル(オセルタミビル)に関しての83の論文をまとめた報告によると、以下のことが言われています。
- 成人の場合、症状が軽減するまでの時間を16.7時間短縮させる(8.4~25.1時間)。つまり、症状が最初に軽減されるまでの時間が7日から6.3日くらいになる見込みです。
- 小児の場合は、症状が軽減するまでの時間を29時間短縮させるといわれており、より小児では効果が高い。
- 成人の未確認の肺炎の確率を45%軽減させた(NNT100)。
このように、症状を短縮させる効果や肺炎などの重症化に関する効果はある程度確認されているといえますね。
タミフルの副作用として挙げられるのが、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの胃腸症状、発疹などが報告されています。なによりよく問題に取り上げられるのが「精神障害」です。
精神的な有害事象として「めまいや不眠症、傾眠、異常行動」がいわれており、同論文でも全体的な精神症状が出る確率は1.06%くらいと考えられています。
また、タミフルは自費になりますが、予防投与することも可能です。薬剤の添付文書上では原則「インフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族又は共同生活者であるリスクの高い人を対象」としています。例えば、以下の方たちです。
- 高齢者(65歳以上)
- 慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者
- 代謝性疾患患者(糖尿病など)
- 腎機能障害患者
予防の場合は、成人でタミフル75mgを1日1回、7~10日間内服します。タミフルの予防効果は約86%であり、インフルエンザに感染する確率が内服しない場合は8.5%であったのが、投薬することで1.3%にまで下がることがわかっています。
また、ジェネリック薬もあり、他の薬よりも価格が安いのも特徴の1つですね。
(参照:Oseltamivir for influenza in adults and children: systematic review of clinical study reports and summary of regulatory comments)
(参照:タミフルの添付文書)
インフルエンザ治療薬 その2:ゾフルーザ
ゾフルーザもインフルエンザの経口の治療薬ですが、タミフルと違って薬局でもらって1回投与で終了するのが大きな特徴です。
また、さまざまな臨床試験から「12~19歳および成人のインフルエンザに対し、ゾフルーザはタミフルと同等の推奨度」として位置づけられています。
例えば、インフルエンザ重症化ハイリスク群を含む12歳~65歳以上の2184名を対象としたランダム化試験では、
- ゾフルーザを内服することで、インフルエンザの症状が改善するまでの時間が29.1時間短縮した
- タミフルと比較しても7.7時間の差があり、タミフルよりも短くなる傾向にあった。
としていますね。他、ウイルスの力価をもっともはやく下げる効果も認められており、1回の投与でありながらそれなりに高い効果を持つことがこの薬の特徴でしょう。
副作用も「下痢、吐き気、嘔吐」などの消化器症状が中心であり、精神障害の副作用があまりないのも特徴であり、「1回だけで副作用もなく、タミフルよりも症状が短縮される傾向」にあるなら夢のような薬ですよね。
ただし、ゾフルーザにはいくつかの重要なデメリットがあります。それは以下の3点です。
- PA/I38X変異株といって、ゾフルーザに耐性をもつウイルスが一定の割合おり、特に小児に対して高率であること。
- したがって、12歳未満の小児に対するゾフルーザの投与については、今後も慎重な投与適応判断が必要であること。
- 重症患者および免疫不全患者のインフルエンザの治療でもゾフルーザを選択することが可能ですが、推奨/非推奨を論じることのできるエビデンスは現時点ではないこと。
このように、「全例ゾフルーザを飲めば大丈夫」とまではいかない点に注意が必要です。また、タミフルよりも薬価が高いのもデメリットですね。(ゾフルーザは通常4789円、タミフルは2000円程度)しかも、体重が80㎏を超えると、通常よりも倍量内服するので、薬剤費はもっと高くなってしまいます。
ゾフルーザもタミフルと同様に予防として使うことも可能です。同様に1回投与だけでインフルエンザ感染症を予防することができます。ただし、自費診療になります。
(参照:Early treatment with baloxavir marboxil in high-risk adolescent and adult outpatients with uncomplicated influenza (CAPSTONE-2): a randomised, placebo-controlled, phase 3 trial)
(参照:日本感染症学会「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬 バロキサビル マルボキシル(ゾフルーザⓇ)の使用についての新たな提言」)
インフルエンザ治療薬 その3:イナビル
イナビルは、ゾフルーザ同じ1回投与ですむ薬の中でも「吸入タイプ」の抗インフルエンザ治療薬です。薬局でもらってすぐ吸えば終了するので簡便ですね。
イナビルは海外の臨床試験では効果が確認されておらず販売されていませんが、日本の臨床試験ではイナビルの効果が確認されています。
例えば、996名を対象とした、イナビルとタミフルとのランダム化比較試験によると、
- イナビル40mgとタミフルを比較すると、症状が改善するまでの期間はそれぞれ73時間と73.6時間であった。
- タミフルと比較しても0.6時間短縮しており、イナビルの方が症状を緩和させやすい傾向にあった
- 3日目でもウイルスが残っている患者さんの割合は、タミフルよりもイナビルの方が低かった
としていますね。また、小児については、より効果が高い診療試験もあり、小児でのイナビル使用によってタミフルよりも60時間短縮したというデータもあります(44.3時間 vs. 110.5時間)
また、今のところイナビルに対する高頻度での耐性ウイルスが確認されていないのも選びやすいポイントですね。
ただし、海外の臨床試験で効果がでなかったことや、肺炎や気管支喘息合併例でや使用すべきでない点には注意が必要でしょう。
(参照:Long-Acting Neuraminidase Inhibitor Laninamivir Octanoate versus Oseltamivir for Treatment of Influenza: A Double-Blind, Randomized, Noninferiority Clinical Trial)
(参照:日本感染症学会提言「~抗インフルエンザ薬の使用について~」)
インフルエンザ治療薬 その4: リレンザ
リレンザは実は最も早く日本で発売された「吸入タイプ」の治療薬。
1回10mg(5mgブリスターを2ブリスター)を1日2回、5日間吸入することで効果を発揮します。
リレンザも外来で48時間以内に治療を開始した場合には、成人でのRCTにより、罹病期間の短縮、症状の軽快が証明されています。小児でも罹病機関の短縮が認められていますね。
具体的には、356人の臨床試験によると、プラセボと比較して、約1.5日の短縮効果を認めていました。(中央値5日対7.5日、P<0.001)。24 時間後に無熱になった患者の割合は、プラセボと比較して 46%増加しました。
特に、B型インフルエンザにはリレンザの方が効果が高いという報告もあります。
1日2回5日間吸入する…というわずらわしさを除けば、タミフル同様、比較的安価な点も魅力的な薬です。
ただし、吸入薬なので、気管支喘息や慢性肺炎などがある人はイナビル同様に使用すべきでないので注意しましょう。
インフルエンザ治療薬 その5:ラピアクタ
ラピアクタは抗インフルエンザ薬で唯一の点滴薬です。特に吸入や飲み薬も服用できないという方にとっては救いの薬ですね。
実際、ラピアクタもプラセボ群に比較して季節性インフルエンザの罹病期間の短縮と日常生活復帰までの時間を短縮させる効果があるといわれていますね。また、1回投与ですむ点も有用な点でもあります。
ただし、以下の点には注意が必要です。
- 点滴薬だが、おいていないクリニックがほとんど。そのため、ラピアクタを使用したい患者さんは比較的大きい病院など、投与できる場所が限られる点。
- インフルエンザ入院患者において、プラセボ群に対する有意な有効性は確認されていない点。
そのため、ラピアクタを投与をうけたい場合には、事前に病院やクリニックに投与できるか確認した方が無難でしょう。
インフルエンザの薬による異常行動について
実は、インフルエンザには「異常行動」という特殊な合併症をきたすことがあります。例えば
- 突然笑い出し、階段を駆け上がろうとする
- 自宅から出て外を歩いていて、話しかけても反応しない
- 変なことを言い出し、泣きながら部屋の中を動き回る
など、通常ではしないような異常な行動をとることがわかっています。
2014年の過去7シーズンにおける異常行動をまとめた論文によると、858件の異常行動が報告され、95.7%がインフルエンザ迅速診断検査で陽性でしたが、抗ウイルス薬の種類と異常行動との間には明確な関連は見られなかったということでした。
一方、2017年に報告された論文では、オルセタミビル(タミフル)を初回摂取してから血中濃度が最高に達するまでの間に最大約30倍異常行動をきたす可能性が高かったとしており、完全にはインフルエンザ薬との関連性を否定できないものとなっています。
いずれにせよ、インフルエンザと異常行動の関連性については
- 就学以降の小児や未成年者の男性での報告が多い
- 発熱から2日間以内に発症することが多い
となっていますので、インフルエンザ陽性で発熱から2日以内の未成年者については、抗インフルエンザ薬の投与にかかわらず、異常行動には十分注意してください。
(参照:厚生労働省「インフルエンザの患者さん・ご家族・周囲の方々へ)
(参照:Abnormal behavior during influenza in Japan during the last seven seasons: 2006-2007 to 2012-2013)
(参照:Oseltamivir use and severe abnormal behavior in Japanese children and adolescents with influenza: Is a self-controlled case series study applicable?)
インフルエンザ治療薬は何時間以内に使用すべき?
これらのインフルエンザ治療薬の大原則として「なるべく早期につかうことが望ましい」点があげられます。臨床試験では、発症してから48時間以内に使用している論文がほとんどですので、原則は「発症してから48時間以内」に処方されますし、48時間以内に服用したほうがよいです。
ただし、48時間過ぎたら「絶対に」インフルエンザ治療薬を使えない、というわけではありません。例えば、成人例において、48 時間以降の投与でも呼吸器症状を短縮させる傾向があるという報告も見られています。
また、CDCの報告では、アメリカではリレンザやラピアクタ、ゾフルーザなども使えますが「発症から48時間以上経過している場合は、オセルタミビル(タミフル)による治療が推奨されます」としていますね。
ですので、患者さんの状況に合わせて、特に重症化リスクが高い場合は、処方するようにいたします。ぜひインフルエンザ治療薬についてもご相談いただけたら幸いです。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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