肺炎球菌ワクチンの効果と定期接種について【プレベナー・キャップバックス】

みなさんは、自分自身やご家族の健康を守るために「肺炎球菌ワクチン」という言葉を耳にしたことはありますか?

特に65歳を迎えられる方や、そのご家族にとっては、自治体からの通知などで馴染みのあるものかもしれませんね。

実は今、日本の肺炎球菌予防は歴史的な転換点を迎えています。2026年4月1日から、これまでの定期接種の仕組みがガラリと変わり、より効果が高く、持続性のある新しいワクチンが主役に躍り出ることになったのです。

「以前に受けたことがあるけれど、また必要なの?」「新しいワクチンは何が違うの?」といった疑問をお持ちの方も多いでしょう。

今回は、、2026年からの新しい肺炎球菌ワクチン定期接種について解説していきます。

肺炎球菌感染症とは?

(肺炎球菌の電子顕微鏡写真:厚生労働省新興・再興感染症事業より転載)

まず、なぜこれほどまでに肺炎球菌の予防が重要視されているのか、その理由からお話しします。

肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は、私たちの身近に存在する細菌ですが、高齢者や基礎疾患がある方にとっては、命に関わる重大な病気を引き起こす主要な原因となります。

肺炎球菌が引き起こす病気の中でも特に恐ろしいのが「侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)」です。これは、本来は無菌状態であるはずの血液や髄液の中に菌が侵入してしまう病態(菌血症や髄膜炎など)を指します。日本国内でのIPD発生率は人口10万人あたり5.57人と数字だけ見れば低く感じるかもしれませんが、特筆すべきはその「死亡率」です。なんと8.12%という極めて高い水準にあり、発症すると非常に危険な状態に陥りやすいのです。

また、私たちが一般的に「肺炎」と呼ぶ非侵襲性の市中肺炎(CAP)の負担も、高齢化に伴って指数関数的に増大しています。調査によれば、65歳から79歳では年間10万人あたり260人ですが、80歳以上になると645人にまで跳ね上がります。

このように、「一般的にも脅威になりやすく」「高齢者にとって死亡率も高い菌」であることから、普段からの予防が重要ということなのですね。

(参照:厚生労働省「肺炎球菌感染症(高齢者)」
(参照:日本呼吸器学会・日本感染症学会「65 歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方」第6版)

肺炎球菌ワクチンは定期接種の対象です

この大きな脅威に対抗するため、日本では予防接種法に基づき、高齢者を対象とした定期接種が行われています。そして、2026年4月1日からその制度内容が抜本的に変更されます。

これまで日本の定期接種では「23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23:商品名ニューモバックスNP)」という種類のワクチンが主軸として使われてきました。しかし、2025年10月の審議を経て、2026年4月1日からはこのPPSV23を定期接種から完全に除外し、新たに「20価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV20:商品名プレベナー20)」を標準ワクチンとして導入することが正式に決定したのです。

【新しい定期接種の肺炎球菌ワクチンの枠組み】

新しい制度における対象者は、以下の通り厳密に定義されています。

  1. 年齢に基づく対象者(65歳): 接種日において満65歳である方が対象です。具体的には、65歳の誕生日の前日から66歳の誕生日の前日までの1年間がチャンスとなります。
  2. 基礎疾患に基づくハイリスク対象者(60歳以上65歳未満): 心臓、腎臓、呼吸器の機能に極めて高度な障害がある方や、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害がある方が含まれます。

費用については、多くの自治体で公費助成が行われるため、自己負担額は5,000円程度に抑えられることが一般的です。さらに、生活保護受給世帯や市町村民税非課税世帯の方などは、全額免除(無料)となる規定もあります

注意が必要なのは、この定期接種としてのPCV20接種機会は「生涯に1回のみ」であるという点です。また、過去に一度でも公費を使って肺炎球菌ワクチン(PPSV23など)を接種したことがある方は、原則として今回の定期接種の対象からは除外されます。

肺炎球菌ワクチンの種類と効果は?

肺炎球菌ワクチンには主にプレベナー20®(20価結合型ワクチン)キャップバックス(21価結合型ワクチン」「バクニュバンス(沈降15価肺炎球菌結合型ワクチン)「ニューモバックスNP®(23価ワクチン)」の4種類があります。

それぞれの効果や位置づけについてみていきましょう。

① プレベナー20®:今後の定期接種の中心役

プレベナー20が定期接種を変えるほどまで評価されている最大の理由は、その仕組みにあります。専門的には「20価肺炎球菌結合型ワクチン」と呼ばれます。

【免疫の司令塔を動かす「コンジュゲート技術」】

従来のワクチン(ニューモバックスNPなど)は、細菌の表面にある多糖体(糖の鎖)だけで作られていました。これは、いわば「犯人の指紋だけを見せて免疫に覚えさせる」ようなものです。しかし、これでは免疫の司令塔である「T細胞」が十分に動いてくれず、時間が経つと記憶が薄れてしまうという弱点がありました。

一方で、プレベナー20は、多糖体にタンパク質を結合(コンジュゲート)させています。これにより、免疫系は「これは大変な敵だ!」と強力に認識し、T細胞が活性化されます。その結果、メモリーB細胞という「長期間、敵を覚え続ける細胞」が体内に作られるのです。これが、一度の接種で生涯にわたる効果が期待できると言われている理由です。

【プレベナー20の効果】

プレベナー20の効果については、驚くべき規模の調査結果が報告されています。2025年の国際会議(IDWeek 2025)で発表された、米国の約1,650万人の高齢者を対象としたリアルワールドエビデンス(実際の社会での使用データ)を見てみましょう。

侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)に対する効果:血液や髄液に菌が入る重症の感染症(IPD)を、どれくらい防げたかというデータです。

  • 65歳以上の全体:25.6パーセントの削減
  • 65歳から74歳:35.4パーセントの削減

全原因肺炎に対する効果:ウイルス性や誤嚥性なども含む、あらゆる原因の肺炎による入院をどれくらい減らせたかという数値です。

  • 65歳以上の全体:15.2パーセントの削減
  • 65歳から74歳:20.2パーセントの削減

「15パーセントや20パーセントは少ないのでは?」と感じるかもしれませんが、これは非常に大きな数字です。肺炎の原因は多岐にわたるため、たった一種類のワクチンでこれだけ全体の入院を減らせるというのは、肺炎球菌がいかに多くの方を苦しめているか、そしてプレベナー20がいかに強力であるかを示しています。

(参照:P-1428. Real-World Effectiveness of 20-Valent Pneumococcal Conjugate Vaccine among Adults 65-74, 75-84, and ≥85 Years of Age in the United States

② キャップバックス®:最もカバー率の広いワクチン

キャップバックス(21価肺炎球菌結合型ワクチン)は、2025年8月に国内で薬事承認された新しいワクチンです。

肺炎球菌による肺炎などの感染症を予防するワクチンの1つで、21種類の肺炎球菌に対応しています。このワクチンは、小児へのワクチン接種が進んだ国々で、現在大人に流行している肺炎球菌の血清型をより広くカバーするために開発されたという特徴がありますね。

実際、65歳以上の高齢者に対する効果を実証した臨床試験はまだありませんが、先行するワクチン(PCV20など)と比較した安全性や免疫原性(抗体のできやすさ)は同等であることが確認されています 。

  • 国際的な第III相試験(50歳以上対象)において、キャップバックスはPCV20(プレベナー20)と共通する10種類の血清型で、同等(非劣性)の免疫原性が示されました 。
  • 安全性プロファイルについても、両ワクチンで明らかな差異は認められませんでした 。

キャップバックスの最大のメリットは、「血清型カバー率」が他のどのワクチンよりも優れている点です 。 日本の高齢者(65歳以上)を対象とした近年の調査では、以下の結果が報告されています。

  • 侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の原因菌カバー率(2022-2024年):
    • キャップバックス(PCV21):78%
    • (参考)PCV20:50%、PPSV23:51%
  • 肺炎球菌性肺炎の原因菌カバー率(2019-2022年):
    • キャップバックス(PCV21):72.3%
    • (参考)PCV20:42.8%、PPSV23:42.6%

これほど効果が高いのであれば、「なぜ定期接種(PCV20)に選ばれなかったの?」という疑問が湧くのは当然のことですよね。

それには、日本の定期接種制度の決定プロセスが関係しています。 厚生労働省の審議会においてPCV20の定期接種化が検討・決定された時期は2024年から2025年にかけてであり、その時点ではキャップバックスはまだ国内での承認直後、あるいは審査段階にありました。制度として安定的に供給し、長期的な費用対効果を算出するためには、すでに世界的に実績のあったPCV20が先行して選ばれたという背景があると考えられます。

したがって、キャップバックスは2026年時点では「任意接種(全額自己負担)」となりますが、医学的な推奨度(エビデンスレベル)としては、PCV20に勝るとも劣らない、非常に高い評価を受けているのが現状です。

(参照:日本呼吸器学会・日本感染症学会・日本ワクチン学会「65 歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方」第7版)

③ バクニュバンス(PCV15):進化の過程を支えた15価

バクニュバンスは、ニューモバックスNPに2つの血清型を追加した結合型ワクチンです。定期接種の歴史の中では、PCV20が登場するまでの重要なステップとしての役割を果たしました。

④ ニューモバックスNP(PPSV23):これまでの功労者

これまで定期接種を支えてきた多糖体ワクチンです。23種類という広い範囲をカバーできるメリットがありましたが、免疫記憶が作られないため「5年で効果が落ちる」という課題がありました。また、何度も打つと反応が弱くなる「低応答性」のリスクも指摘されていました。2026年4月からは定期接種の座をぷプレベナー20に譲ることになります。

(参照:MSD Connect「日本人を含む国際共同第Ⅲ相試験(019試験:PNEU-AGE)」
(参照:日本呼吸器学会・日本感染症学会「65 歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方」第7版)

肺炎球菌ワクチンに2回目接種は必要?

これまでは「5年おきに打つワクチン」というのが常識でした。しかし、プレベナー20の導入によって、その常識も変わっています・

① これから肺炎球菌ワクチンを打つ場合は?

今回の定期接種の対象となる「プレベナー20」は強力な免疫記憶を作るため、一度の接種で長期間、実質的に「生涯」にわたって効果が持続すると考えられています。

免疫力が著しく低下している腎移植患者を対象とした研究でも、PCV接種から5年が経過しても防御閾値を維持していることが確認されています。健康な高齢者であれば、それ以上の長期持続が期待できるため、現在は原則として「生涯に1回のみ」の投与で完了とする考え方が主流になっています。

そのため、PCV20を打った後に、再度PPSV23やPCV20を追加で打つとすれば、より幅広いカバー率を誇る「キャップバックス」くらいでしょう。

② 既に旧来のワクチン(PPSV23)を打ったことがある人は?

過去に定期接種や任意接種でPPSV23などを接種したことがある方は、以下のガイドライン(2026年4月改訂版)に基づいた対応が推奨されています

  • ニューモバックス(旧来のワクチン)のみを接種済みの方: 直近の接種から「1年以上」の間隔を空けて、プレベナー20を1回接種することが勧められます。これにより、多糖体ワクチンでは得られなかった強力な免疫記憶を獲得できます。
  • PCV13(プレベナー13)を接種済みの方: 同様に1年以上の間隔を空けてプレベナー20を接種することで、より広い範囲の菌から身を守ることができます。

ただし、これらは「任意接種(自己負担)」の扱いとなります。定期接種として公費で打てるのは、あくまで「一度も肺炎球菌ワクチンを打ったことがないナイーブな方」に限定されている点に注意してください。

肺炎球菌ワクチンの費用と定期接種の助成について

2026年4月1日より、日本の高齢者肺炎球菌定期接種は「プレベナー20(PCV20)」を唯一の対象ワクチンとする新しいフェーズに突入しました。

① 定期接種の対象となる方

助成が受けられる対象者は、法律によって厳密に決まっています。基本的には以下の通りです。

  1. 満65歳の方: 接種日において65歳である方が対象です。65歳の誕生日の前日から、66歳の誕生日の前日までの1年間が「公費で打てる期間」となります。
  2. 60歳以上65歳未満のハイリスクの方:心臓や腎臓、呼吸器の機能に重度の障害がある方や、免疫不全の状態にある方が含まれます。

② 自己負担額はどれくらい?

定期接種の費用は、お住まいの市区町村が大部分を負担してくれます。そのため、みなさんが窓口で支払う「自己負担額」は大幅に軽減されます。

自治体によって多少の幅はありますが、一般的な自己負担額の目安は以下の通りです。

・自己負担額の目安:1,500円 ~ 5,000円程度

例えば、東京都江戸川区などでは「4000円~5,500円」に設定されています。港区では「1500円」ですね。また、生活保護を受給されている方や、市町村民税が非課税の世帯の方などは、事前の申請によって「無料(0円)」で受けられる仕組みが整っています。

➂ 定期接種の重要なルール:助成は生涯に一度だけ

ここが最も大切なポイントですが、肺炎球菌ワクチンの定期接種としての助成は、原則として「生涯に一度だけ」です。

以前の制度(2025年度まで)で「ニューモバックスNP(PPSV23)」を公費で受けたことがある方は、たとえ65歳であっても、今回の新しいプレベナー20を定期接種として(安価に)受けることはできません。あくまで「初めて公費助成を利用する方」が対象となります。

④ 自費の接種の費用は?

ひまわり医院での自費での肺炎球菌ワクチンの費用は以下になります。

ニューモバックスNP®8,000円(税込)
キャップバックス®14,000円(税込)
プレベナー20®10,000円(税込)

免疫力が弱くブースターでうった方がよい人は、自費でも接種をオススメします。かかりつけの医師にも相談しましょう。(もちろん当院でも大歓迎です)

肺炎球菌ワクチンの副反応は?

では、それぞれの肺炎球菌ワクチンの副反応にはどんなものがあるのでしょうか?順に見ていきましょう。

① プレベナー20®の場合

プレベナー20®では疼痛(59.6%)、筋肉痛(38.2%)、関節痛(11.6%)、頭痛(21.7%)、疲労感(30.3%)が主な副作用になります。

また、稀に報告されている主な副作用はショックやけいれん・血小板減少性紫斑病ですが非常にまれです(1%未満)

② キャップバックスの場合

主な副作用は次のようなものとなっています。

【頻度 10%以上】

  • 頭痛
  • 注射部位疼痛(36.0%)、疲労

【頻度 1~10%未満】

  • 筋肉痛
  • 注射部位紅斑、注射部位腫脹、発熱(38℃以上)

臨床試験ではプレベナー20とほとんど同じくらいですね。

いずれのワクチンでも副反応や接種間隔などで不安な方はぜひご相談いただけたらと思います。

肺炎球菌ワクチンを打ってはいけない人は?

以下の方はニューモバックスNP®・バクニュバンス・プレベナー13®を接種することができませんのでご注意ください。

  • 明らかに発熱している方
  • 重い急性疾患にかかっている方
  • ワクチンの成分に対し、アナフィラキシーなど重度の過敏症の既往歴のある方
  • (バクニュバンス・プレベナー13®の場合)ジフテリアトキソイドの成分でアナフィラキシーを起こしたことがある方
  • 上記以外で、予防接種を受けることが不適当な状態にある方

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【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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