みなさん、「破傷風菌」をご存知でしょうか。あまり聞きなれない単語ですよね。
実は怪我をした時に侵入しやすく、死亡する確率も高い菌の1種です。医療従事者なら必ず創部を見た時に破傷風菌に汚染されていないか注意しています。予防に破傷風ワクチン(トキソイド)が有効であり、創部の状態によっては当院でも接種をオススメしております。
では実際どういった方が破傷風ワクチンを打つべきなのでしょうか。破傷風ワクチンの効果や投与間隔・費用や副作用について幅広く解説していきます。
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破傷風菌とは?
破傷風菌は「芽胞」という熱や薬剤・乾燥に耐久力が強い状態で土壌に広く分布する菌です。傷口から侵入すると発芽・増殖し、毒素を産生します。「嫌気性菌」といって、酸素が触れない傷口で増殖するのが特徴です。潜伏期間は3日~21日程度です。(平均は10日)
破傷風菌が持つ毒素は神経に作用し「テタニー」と呼ばれる「神経が過敏に活動する状態」にすることが知られています。具体的な発症は順に下記のようになります。
- 口が開けづらくなる(開口障害)
- 顔の筋肉がこわばり、笑ったようなひきつった表情になる
- 体が後ろにのけぞるようなけいれん発作がおこる: 大きな筋肉にも作用し、骨折することも
- 自律神経の異常がおきる
- 呼吸筋のけいれんが生じる:呼吸困難になります
- 血圧や心拍数の急激な変化により心停止の可能性がでてくる
このような全身性破傷風が80%以上でおこり、大人でも致死率は10-20%・新生児の場合には80%にも及びます。(国立感染症研究所の報告による)このように怪我で破傷風菌が侵入すると致死率も高いことから、感染が疑わしい場合は、感染予防のために早めの破傷風菌ワクチン(トキソイド)の接種が推奨されています。
破傷風ワクチン(トキソイド)とは?
破傷風ワクチンは、破傷風菌がもつ毒素(トキソイド)を精製濃縮し、ホルマリンを加えて無毒化したものです。(破傷風トキソイドの添付文書はこちら)
破傷風ワクチンは定期予防接種の「3種混合ワクチン」に含まれており、12歳の時に接種していれば、20代前半までは免疫がありますが(約10年間の免疫持続)、最終接種から10年経過した方は、追加の予防接種が必要です。
また、添付文書上「初回接種や追加接種を受けた方でも、破傷風感染の恐れのある負傷を受けたときは、ただちに本剤を注射する」と明記されています。
大人の破傷風ワクチンの投与間隔と効果は?
大人の破傷風ワクチンの接種間隔は、破傷風トキソイドを3~8週間の間隔で2回接種後、4週間で免疫を獲得できます。
さらに6~12か月後、または18ヶ月後に3回目のワクチン接種を行えば約10年は免疫が保たれます。接種間隔を守り、正しく接種すれば予防率はほぼ100%です。
破傷風ワクチンは前述の通り「トキソイド」といって毒素だけを抽出して無害化したワクチンです。不活化ワクチンと同様複数回の接種で免疫がつきます。したがって、他のワクチンとの接種間隔は下記の通りです。
- 不活化ワクチン(インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチンなど): 接種間隔に制限はありません。
- 新型コロナワクチン: 新型コロナワクチンとそれ以外のワクチンは、同時に接種できません。 新型コロナワクチンとその他のワクチンは、お互い片方のワクチンを受けてから2週間後に接種できます。ただし、緊急時の破傷風菌ワクチンは2週間の制限なく接種することができます。(厚生労働省HP)
- 他の生ワクチン(BCG、MR[麻疹・風疹ワクチンなど]): 接種間隔に制限はありません。
子供の破傷風ワクチンの投与間隔は?
一方、子供の破傷風ワクチンの接種スケジュールは次の通りです。
- 初回接種:生後3ヵ月~12ヵ月の期間に20~56日までの間隔をおいて3回接種
- 4回目接種:3回目の接種から6ヵ月以上の間隔(標準的には12ヵ月~18ヵ月の間隔)をあけて接種
- 追加接種(2種混合ワクチン):11~12歳の間に1回接種
つまり、12歳くらいまでに5回接種することになることになります。他のワクチンとの投与間隔は大人の場合と同様になります。
破傷風ワクチンの費用と保険適応は?
破傷風予防のための場合は自費になりますが、怪我をした時の緊急接種の場合には健康保険が使えます。1回接種で数百円ですむので、ご安心ください。
自費の場合は下記の通りです。
破傷風ワクチン(トキソイド) | 1回 3000円(税込) |
大人の場合は通常3回接種することになるので、10年間の免疫で9000円ということになりますね。
破傷風ワクチンの副反応は?
局所症状と全身症状に分かれます。(参照:破傷風ワクチンの添付文書)
① 局所症状
発赤・腫れ・局所の痛み・硬結などが出る可能性がありますがいずれも2〜3日中に改善します。ただし、硬結は1〜2週間残ることがあります。また、2回以上接種した方は、著しい局所反応を出ることがありますが、数日中によくなります。
② 全身症状
発熱、悪寒、頭痛、倦怠感、下痢、めまい、関節などを認めることがありますが、2〜3日中に消失します。
また非常にまれに(1000人中1人未満)ショック、アナフィラキシー(全身発赤、呼吸困難、血管浮腫等)があらわれることがあるので、異常が見られたら速やかにお伝えください。(アナフィラキシーについて解説【食べ物・原因・治療・薬剤】も参照のこと)
破傷風菌ワクチンを打った方がよい方は?
例えば次の方は破傷風菌ワクチンを打った方がよいでしょう。
- 最終接種から10年以上経過している方
- いつ破傷風ワクチンを最後に接種しているかわからない方
- 1967年(昭和42年)以前に生まれた方: 定期接種の対象になっていません
- 転倒の危険が高い方
- 園芸や災害医療などに従事される方: 土壌汚染された怪我をしやすいため
(緊急接種として使用する場合)
- 壊死組織(死んだ細胞が中心の組織)が認められる怪我の場合
- 土壌・鉄さび・動物などで汚染されたの怪我の場合
実際には「最後に破傷風ワクチンをうったかわからない」という方がほとんどなので、創部の状態を確認し破傷風ワクチンの接種をオススメすることが多いです。また創部での破傷風感染リスクが高く、最後の破傷風トキソイドから5年以上たっていれば、破傷風トキソイドを1回接種したほうがよいとされています。
破傷風ワクチンを接種できない方は?
次のような方は原則破傷風ワクチンを接種することができないのでご注意ください。
- 明らかに発熱のある方(37.5℃が目安です)
- 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな方。
- 過去に破傷風トキソイドに含まれる成分で、アナフィラキシーを起こしたことがある方。(他の医薬品投与でアナフィラキシーを起こしたことがある方は、予防接種を受ける前に医師にお伝えください)
- その他、医師が予防接種を受けることが不適当と判断した方。
破傷風ワクチン(トキソイド)についてのまとめ
いかがでしたか?破傷風ワクチンについて、効果や接種間隔・副反応にいたるまで、幅広く解説していきました。まとめると
- 破傷風感染は起きたら重篤になりやすい感染症の1つ
- 汚染された傷をつけやすい職業の方で、破傷風ワクチンを受けた覚えのない方は、破傷風ワクチン接種が推奨される。
- 汚染された傷を受けた場合は、破傷風ワクチンを緊急投与することで、破傷風感染から予防される
- 破傷風ワクチン3回接種で5~10年間は十分予防効果がある
といえます。心当たりがある方は、是非かかりつけの医師か当院にご相談ください。ご不安な点がありましたら、1人ひとりの状況を聞きながらアドバイスさせていただきます。
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【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照して下さい。
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