- 立ちあがるときにふらつくことが多い
- お風呂から出るときやトイレで「ふらっ」とくる
- ひげ剃りをした時や飲み込む動作などで目の前が暗くなる
こうした方は、「神経調節性失神」「起立性低血圧」かもしれません。一之江駅前ひまわり医院では失神に対する鑑別も行い、上記の診断・治療を行っています。(場合により適切な施設に紹介します)
立ちくらみやふらつきが起こる「失神」とは

そもそも失神とは「一時的に意識が飛んで姿勢が保てなくなり、その後自然に意識がもどってくる状態」をさします。よく「失神だから、脳のどこかに異常がおこっているのでは?」と考えがちですが、多くの場合そうではありません。
確かに、ずっと意識がない状態ならば「意識障害」なので脳の疾患を中心に考えます。しかし、一時的に意識がない「失神」の場合は、むしろ心臓や循環器の血流異常や自律神経の乱れで脳の血流が途絶えたときに生じますので、循環器疾患を中心に考えるのです。
失神の原因を大まかに分けると
- 神経調節性失神
- 起立性低血圧
- 心原性失神
の3つに分かれます。このうち頻度が多いものは神経調節性失神や起立性低血圧ですが、最も注意しないといけない失神は心原性失神(心臓の疾患や不整脈などで生じる失神)です。
なので、クリニックの診療ではいかに「危ない失神」でないかを見極めて精査できる病院に紹介し、頻度の多い神経調節性失神や起立性低血圧を治していくかが大切になります。
次に頻度の多い「神経調節性失神」「起立性低血圧」の特徴を見ていきましょう。
神経調節性失神(反射性失神)とは

神経調節性失神とは文字通り「自律神経の乱れで、脳への血流を調節する神経がうまくはたらかなくなってしまうことで生じる失神」のこと。
自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があります。
交感神経とは緊張した時に働く神経。血圧をあげたり、心拍数を上げる働きがあります。副交感神経は逆にリラックスした時に働き、血圧をさげ、消化管の働きを活発にします。
普段の日常生活では2つの神経が状況に合わせてうまく調節されていますが、神経調節性失神ではそのバランスが悪くなり、脳の血流が途絶える結果失神に至ります。(失神の診断・治療ガイドラインより)
実際には血管迷走神経性失神や状況失神・頸動脈同失神といったさまざまな病態を含んだ概念になっており、それぞれの特徴は以下の通りです。
① 血管迷走神経性失神
血管迷走神経性失神とは圧受容体と自律神経の働きがうまくいかなくなった失神のこと。その特徴としては以下があげられます。
- 日中や午前中に発生することが多い
- 長時間の立位や不眠・疲労・精神的ストレスで誘発されやすい
- 人込みや閉鎖空間などの環境要因でも誘発される
- 発作の直前に頭の重い感じや頭痛・腹痛・吐き気・「目の前が暗くなる」といった前兆がある
② 状況失神
状況失神とは「ある特定の状況や日常動作で誘発される失神」のことです。その特徴は以下の通りです。
- 排尿失神:排尿する時に誘発される失神のこと。立位で排尿する男性に多く、中高年に比較的多いが20代から発症。飲酒や利尿薬の服用が誘因になる。発症のほとんどが夜間から明け方(91%)。
- 排便失神:比較的高齢(50-70代)の女性に好発。切迫した排便や腹痛などの症状を伴うことが多い。
- 嚥下性失神(比較的まれ):40-70代の中高年に多く、炭酸飲料や水を飲みこむときに誘発される。食道疾患の合併が多く(42%)、心筋梗塞をした後に起こりやすいのが特徴
- 咳嗽失神: せき込むときに誘発される失神のこと。太っている方やがっちりした体格の中年の男性に多い。喫煙者や飲酒している方にも多いのが特徴。
③ 頸動脈洞症候群
頸動脈洞症候群は中高年の方の原因不明の失神として、時々認められるので重要な疾患になります。
- ネクタイなど首を絞めるような動作
- 着替えや運転などの頸を伸ばしたり曲げる動作
- ヒゲをそるなどの首の刺激が起こる動作
などで誘発されるのが特徴です。男性に多く、心臓の疾患や高血圧を合併することがあります。
起立性低血圧とは

人は寝ている状態から立つ状態になると、500~800mlの血圧が脚や内臓に移動するため、心臓への血液量が少なくなります。そのため一時的に血圧は下がるのですが、通常の場合、血液の変動に対応する「圧受容器-反射系」が血圧を一定に保とうとします。
起立性低血圧は、この「圧受容器-反射系」がうまく作動せずに起立時に大きく血圧低下を起こし、脳の血流が低下することで失神に至る疾患です。失神の特徴としては以下があげられます。
- 朝起床時・食後・運動後にしばしば悪化する(食後に悪化する失神は高齢者に多い)
- 起立後3分~5分以内に、収縮期血圧が20mmHg以上/拡張期血圧10mmHg以上低下する
- もしくは起立後3分~5分以内に収縮期血圧が90mmHg未満になる
実際には、神経調節性失神と病態として一部オーバーラップすることも多く、臨床的特徴もしばしば共通するものが多くなります。
全身性疾患や脳疾患で「立ちくらみ」が出る場合も
失神は多くの場合は「起立性低血圧」「不整脈」などの循環器疾患や自律神経の乱れで起こりますが、例えば次の疾患の場合には「立ちくらみ」として受診されることがあります。
- 糖尿病(特に初期で未治療の場合)
- 甲状腺機能低下症(詳細はこちらを参照してください)
- 一過性脳虚血発作:一時的に言語障害や半身の感覚マヒ、顔面マヒなどがあれば積極的に疑います
- 薬物性失神:利尿薬やα遮断薬などの薬が誘発することがあります
- パーキンソン病:安静のときにも手が震えたり、動作がぎこちなくなったりします。
- 熱中症:特に夏場で脱水になりがちになると生じやすくなります。
思いあたるふしがある場合は、病院に受診するようにしましょう。
神経調節性失神や起立性低血圧の治療は?

神経調節性失神や起立性低血圧の治療のポイントは後述する「日常生活の見直し」と「薬物治療」に分かれます。
薬物治療は、自律神経を整える薬や漢方薬・脳の血流をあげる薬・神経の調節を行う薬・血圧を直接あげる薬まで非常に様々です。前述の通り、「神経による失神」といっても幅広くあることがわかるでしょう。そのため、病態に合わせて薬物を適宜組み合わせながら使っていきます。
場合によっては、カウンセリングが必要なケースもありますので、その場合は適切な施設と連携を取りながら診療を行います。
神経調節性失神や起立性低血圧の予防や治し方は?

いずれの場合でも最も大切なのは日常生活の動作の改善です。日常生活では以下の点に気をつけると予防に効果があります。(失神の診断・治療ガイドラインより)
① 神経調節性失神の場合
- 前兆が起こりそうになった時に、急激な動作を行わず直ちに横になる
- 過度な厚着をしない
- 長時間の立位・不眠・飲酒・塩分制限・脱水などの誘因を避ける(特にお風呂あがり)
- 人込みや精神的ストレスのかかるような場所に行かない
- 弾性ストッキングを着用する
- 誘因となる薬剤の中止をかかりつけ医と相談する:α遮断薬・硝酸薬・利尿薬など
また「起立調節訓練法」といって、両足を壁の前方15~20cmに出し、おしりと背中・頭部で後ろの壁に寄りかかる姿勢を30分。これを1日に1~2回毎日繰り返すことで改善するという報告があります。(下半身は動かさないことに注意)(詳細はこちら)
② 起立性低血圧の場合
一部神経調節性失神とオーバーラップしていますが、次の生活習慣が有効とされています。
- 急激に立ち上がらない
- 脱水や食べ過ぎ・飲酒などの誘因を控える
- 誘因となる薬剤の中止をかかりつけ医と相談する:α遮断薬・硝酸薬・利尿薬など
- 高血圧症がなければ水分2~3リットル摂取し、塩分も10g/日を目安に摂取する
- 腹帯や弾性ストッキングを使用する
- 上半身を高くして睡眠する
当院では患者さんに合わせた投薬を行いながら生活指導を行い、改善を図っていきます。病態も個人差が大きく異なるので、気軽にご相談ください。
また診療の上で最も大切なのは「あぶないタイプの失神」かどうかを見極めることです。場合によっては心疾患や貧血・甲状腺などのホルモン異常などの基礎疾患も背景にないか、詳しく調べさせていただきます。
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