舌下免疫療法の費用と期間、効果とデメリットについて

花粉症やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患のでお悩みの方。薬に頼らず、根本的な体質改善を目指す「舌下免疫療法」という治療法をご存知でしょうか?

舌下免疫療法の読み方は「ぜっかめんえきりょうほう」といいます。スギ花粉やダニなどのアレルゲンを含む薬を舌の下に投与することで、アレルギー反応を徐々に弱めていく治療法です。毎日自宅で服用でき、長期間継続することで、症状を抑えるだけでなく、アレルギー体質そのものを改善する効果も期待できる治療法です。

しかし、長期間続けなければ効果は発揮しないので、気になるのは舌下免疫療法の費用や期間ですよね。トータルでどれくらいの費用がかかるのでしょうか。

今回は、舌下免疫療法の費用や期間、効果とデメリットについて解説していきます。

舌下免疫療法とは?

舌下免疫療法は、アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を少量ずつ体内に取り込むことで、アレルギー反応を起こしにくい体質に変えていく治療法です。

花粉症の人を例に考えてみましょう。花粉症の人は、スギ花粉を「敵」だと認識してしまい、過剰に攻撃することで、くしゃみや鼻水といったアレルギー症状を引き起こします。ダニアレルギーの人も、本来無害なダニやハウスダストに対して過剰に反応して、外に追い出そうとする反応がでるのですね。

舌下免疫療法では、スギ花粉やダニのアレルゲンをほんの少しだけ含んだ薬を舌の下に1日1回投与します。これを毎日繰り返すことで、体内の免疫細胞に「スギ花粉は敵ではない」と教えていくのです。

東北大学の研究では、口の中の粘膜にある樹状細胞が、舌下から取り込まれたアレルゲンをリンパ節まで運び、免疫を抑える制御性T細胞を誘導し、アレルギー症状を抑えることがわかっています。

したがって、根気よく続ける必要はあるものの、根本からアレルギー疾患を治療しうる、画期的な治療法だといえるでしょう。

(参照:東北大学院歯学研究科「舌下免疫療法の仕組みを解明‐口腔(こうくう)樹状細胞の関与を発見、アレルギー治療への応用に期待‐)

舌下免疫療法の効果は?

舌下免疫療法は主にハウスダスト・ダニに対する治療薬とスギ花粉に対する治療薬があります。それぞれの効果は以下の通りです。

① ハウスダストに対する舌下免疫療法の効果

2018年に発表されたアジア人をもとにした複数の論文を検証した論文によると、

舌下免疫療法を受けた患者さんの症状スコアは、鼻炎症状スコアと複合スコアは17~32%も軽減しました。また、薬物スコアも改善し、薬の使用量を減らすことができたとされています。

症状の改善は治療開始から8〜12週間で見られ、治療期間を通して持続しています。中には、開始4週間で改善が見られたという報告もありますね。

2年間の舌下免疫療法を完了した患者のうち、治療終了後1年経っても症状緩和薬を使わずに済んだ割合が76.2%としています。4人中3人が症状緩和薬を使わなくなるというのは驚くべき数字ではないでしょうか。

さらに、近年では喘息に対する効果も言われており、2024年の33万人にも及ぶデータ解析によると、舌下免疫療法を行うことで、新規喘息イベントのリスクが 36% 減少していることもわかっています。

このように、ダニアレルギーを持っていて、かつ長期のアレルギー症状に悩んでいる方は一度試していただく価値がある治療法ではないでしょうか。

② スギ花粉症に対する舌下免疫療法の効果

では、スギ花粉症については舌下免疫療法はどれくらい効果があるのでしょうか。

2017年に日本で行ったスギ花粉症に対する舌下免疫の効果について、以下のことがわかっています。

  • 症状の改善: 舌下免疫療法を3年間継続した患者さんの臨床症状を調査した結果、くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった鼻炎症状や、目のかゆみなどの症状が軽減したという報告があります。 症状や薬の使用状況などをスコア化して評価したところ、舌下免疫療法を受けたグループは、薬物治療のみのグループと比較して、統計的に有意なスコアの改善が認められました。
  • 効果の発現時期: 効果を実感できるまでの期間は個人差がありますが、治療開始から数ヶ月で効果が現れ始め、治療を継続するにつれて効果が高まる傾向があります。
  • 長期的な効果: 3年間の舌下免疫療法を完了した患者のうち、約33%が寛解(症状がほとんどなく、薬を使わなくても生活できる状態)に達しました。さらに、約9%の患者さんは、スギ花粉の飛散時期でも全く症状が出ず、薬も必要ありませんでした

このように、スギ花粉症についても舌下免疫療法は療法は効果が得られていることがわかっています。

花粉症や気管支喘息などの一般的な治療については

も参照してください。

(参照:スギ花粉症舌下免疫療法の治療3年目112例の臨床効果
(参照:The efficacy of sublingual immunotherapy for allergic diseases in Asia. Allergology International
Volume 67, Issue 3, July 2018, Pages 309-319

(参照:Impact of liquid sublingual immunotherapy on asthma onset and progression in patients with allergic rhinitis: a nationwide population-based study (EfficAPSI study)

舌下免疫療法を続ける期間は?

では、舌下免疫療法はどれくらい続ければよいのでしょうか?結論からいうと、国際的なガイドラインでは「舌下免疫療法の治療期間は少なくとも3年間である」とされています。

臨床試験では、治療期間が長くなるほど効果が高まる傾向が示されており、3年間の治療後も効果が持続することが確認されています。また、3年以上続けると、さらに効果も強くなり持続時間も長くなることも報告されています。

例えば、2024年で発表されたガイドラインの資料によると、ハウスダストアレルギーに対して、3年~5年舌下免疫療法を治療したところ、新しいアレルゲンに反応する割合がそれぞれ21.4%、12.5%、11.7%と低く、治療期間が長くなるにつれて反応しにくくなっていることがわかっています。

さらに、持続期間も延長しており、舌下免疫療法を3 年間行った場合、治療後 7 年間臨床効果が持続し、4 年または 5 年間治療を受けた患者の場合、臨床効果は 8 年間持続したとあります。

逆に、5年以上行った臨床試験はまだ乏しいので、舌下免疫療法の1つの期間の目安としては「3年~5年くらい」と考えた方がよいでしょう。

(参照:The KAAACI Guidelines for Sublingual Immunotherapy. Allergy Asthma Immunol Res. 2024 Jan; 16(1): 9–21.

舌下免疫療法にかかる費用は?

舌下免疫療法は長期間続けなければ十分な効果を発揮することができません。そこで気になるのは費用でしょう。舌下免疫療法の費用は次の通りとなります。

診察診療費用薬剤費(調剤費含む)
アレルギー検査費用4000円~5000円※
初回投与日(7日分)再診の場合 660円約500円
2回目以降(14日分)660円約1000円~1200円
2回目以降(30日分)660円約2000円~2300円

初回投与は徐々に増量して経過を見る必要があるので、月に何回か来院が必要ですが、その後は1カ月に1回の頻度になるので、

  • 3割負担の場合:1カ月あたり約2700円~3000円
  • 2割負担の場合:1カ月あたり約1800円~2000円
  • 1割負担の場合:1カ月あたり約900円~1000円

が目安となります。(スギ花粉症による治療の方が若干費用が安いです)そのため、年間の費用としては

  • 3割負担の場合:1カ月あたり約32,400円~36,000円
  • 2割負担の場合:1カ月あたり約21,600円~24,000円
  • 1割負担の場合:1カ月あたり約10,800円~12.000円

となりますね。大体3年以上続けることが多いと思いますので、最終的な費用としてはトータルで約10万程度くらいを見込んでいただくとよいでしょう。もちろん期間が長い方が効果を発揮しやすいので、5年くらい続ける場合には、5年間で18万くらいになりますね。

しかし、

ちなみに、江戸川区では高校生以下の治療費は薬剤費含めて無料になります。したがって、子供の時からのアレルギー疾患で困っているという方は、高校生以下の時に受けていただくと費用としてはお得かもしれません。

※ アレルギー検査は通常、スクリーニング目的に「VIEW39」を使用することが多いので、4000円~5000円としていますが、「ダニとハウスダストだけ」「スギ花粉だけ」選ぶと、もっと安くすることができます。詳しくはアレルギー検査の費用と種類について【血液アレルギー検査・パッチテスト・薬剤アレルギー】を参考にしてください。

舌下免疫療法のデメリットは?

舌下免疫療法のデメリットである副反応は、一般的に次の通りです。

  • 口内、口唇のかゆみ(14.5%)・口腔内や舌根部のむくみ(16.9%)
  • じんましんや湿疹などの皮膚症状:1-5%未満
  • 腹痛、嘔吐などの消化器症状:1%未満
  • 喘息発作
  • その他(耳のかゆみ・喉の炎症や違和感・くしゃみ・鼻みず・鼻詰まり・目のかゆみ)

があげられます。(カッコ内の数字はミキテュア®のもの)製剤にかぎらず副反応として口腔内トラブルが比較的多く出やすいのが特徴です。

一方、舌下免疫療法に伴う重篤な副反応は極めてまれであり、従来の注射による方法よりもかなり安全です。舌下免疫療法によるアナフィラキシーショックは10万回に1回程度。稀な確率ですが、ショック症状が出るときは、特に次の時に多いといわれています。

  • 薬を飲んだ直後から30分の間
  • 舌下免疫をはじめた時から1か月の間
  • アレルギーの原因物質(スギ花粉、ダニ)が多い時

があげられます。そのため、舌下療法を開始する場合は必ず30分間は院内に待機していただきます。アナフィラキシーショックについてはアナフィラキシーについて解説【食べ物・原因・治療・薬剤】を参照してください。

他、治療の中断に至るような副反応としては大部分は喘息発作消化器症状があげられます。

(参照:ミキテュア®の添付文書

舌下免疫療法が受けられない方・注意が必要な方

舌下免疫療法が受けられない方・注意が必要な方は以下の通りです。

① 受けられない方

  • 対象のアレルギー(スギ花粉・ダニ)ではない方
  • 重い気管支喘息の方
  • 悪性腫瘍(がん)や自己免疫系の病気がある方

② 注意が必要な方

  • アレルゲンを使った治療や検査によってアレルギー症状をおこしたことがある方
  • 気管支喘息の方
  • 65歳以上の方
  • 妊婦の方、授乳中の方
  • 抜歯後や口の中の術後、または口の中に傷や炎症などがある方
  • 重症の心疾患、肺疾患及び高血圧症がある方
  • 他に服用中のおくすりがある方(特に非選択的β遮断薬、三環系抗うつ薬、モノアミンオキシダーゼ阻害薬<MAOIなど>)
  • 全身性ステロイド薬の投与を受けている方
  • 対象以外のアレルゲンに対しても反応性が高い方

なお当院では10歳以上の方が対象となります

舌下免疫療法の治療の流れ

舌下免疫療法までの流れは以下の通りです。

① アレルギー検査・診察

まずアレルギー検査や問診・身体診察など行い、アレルギー症状がスギやダニによるものかを含め診断していきます。

他院採血データを持参していただく方法でも問題ありません。アレルギー検査については血液アレルギー検査(VIEW-39、RAST)について解説 【費用・原理・信頼性】をご参照ください。

② 舌下免疫療法初回

舌下免疫療法の初回投与は、薬によるアレルギー反応がでないか確認する目的で院内で行います。

治療薬の錠剤を舌下(舌の裏)に置きます。錠剤は舌下ですぐ溶けますが、1~2分はそのままにしておき、そのあと飲み込みます飲み込んだ後の5分間は飲食やうがいができません。

その後、初回はショックなどの副反応がでないか確認する目的で約30分間、待機してもらいます。

③ 舌下免疫療法増量期~定期通院

初回投与から2週間は増量期です。決められた量を舌下に投与しながら、少しずつ体を慣れさせていきます。

その後は3年~5年定期的に通院していただきながら継続します。定期通院は1か月に1回のペースになります。副作用が起こらないようにするため、投与中は

  • 投与後はうがいや飲食を避けること(5分ほど)
  • 投与前後は激しい運動や入浴を避けること(2時間ほど)
  • 自己判断で服用を中止・再開しないようにすること

などに注意が必要です。

各薬剤に対しても以下のサイトから詳しい説明がありますので、参照してください

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【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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