【医師が解説】冷え性(冷え症)の原因や漢方薬・改善法について 

  • 手足の先がいつも冷たくて爪も割れやすい
  • 上半身は温かいのに下半身が冷えやすい
  • いつも厚手の服を着ているのに寒く感じる

という方はいませんか?冬に来る「冷え性(冷え症)」、とても辛いですよね。冷え性も「自分の体質」だと思ってあきらめてしまっている方も多いようです。しかし、冷え性も明らかな原因がある場合もありますし、生活習慣の改善と投薬によって治る方も多く経験します。

今回は、冷え性の原因や、比較的よく使いやすい漢方薬、冷え性の対処法について解説していきます。

冷え性(冷え症)とは?

実は冷え性は非常にあいまいな概念のため多くのクリニックで治療が難渋する疾患です。

冷え性を広辞苑で調べると「冷えやすい体質。血液の循環のよくない身体。特に足・腰などの冷える体質」と記載されています。英語では「Cold Sensitivity」「Cold Intolerance」で表現されます。西洋では寒い気温で特に敏感に反応する場合に使用され、

  • 痛み/不快感
  • こわばりの変化
  • 色の変化
  • 感受性の変化

の4つが単独か組み合わさって起こるとしています。

日本人女性の2人が1人が冷え性であり、3割の男性も冷え性」といわれているほど、冷え性はよくある疾患です。しかし冷え性の原因は非常に多岐にわたるため、一人ひとりに合った治療方法が必要な疾患と言えるでしょう。

(参照:What is cold intolerance? J Hand Surg Br. 1998 Feb;23(1):3-5.

冷え性の原因は?

冷え性の原因は非常に多岐にわたりますが、特に漢方の世界では

  • 全体が冷えるタイプ(全身型)
  • 手足が冷えるタイプ(四肢末端型)
  • 下半身が冷えるタイプ(下半身型)
  • 冷えていると感じてしまうタイプ(体感異常型)

に分けて原因を探ることが多いです。今回は、西洋学的な実際の病気も考えながら、冷え性の原因について解説していきます。

① 全体が冷えるタイプ(全身型)

中心部から体温が低くて「体全体が冷え性」になっている場合は、例えば「体が外気に対して十分に熱を産生できていない」ことが考えられます。具体的には

  • 視床下部など脳機能の問題: 体温を感知する場所が十分機能せず、体温自体が下がることがあります。
  • 甲状腺など内分泌機能の問題:代謝を上げるホルモンを十分産生できない場合、冷え性になることがあります。特に、甲状腺という代謝を上げるホルモンが低下している場合、冷え性になりやすくなります。また女性ホルモンの乱れでも冷え性として感じる方がいます。
  • 自律神経の問題: 体温が低下したことに神経がうまく反応してくれない
  • 低栄養・貧血神経食思不振症など: 身体が熱を産生できる環境にない場合、鉄分不足やたんぱく質不足でも冷え性になることがあります。
  • 筋力や基礎代謝の低下の問題:特に女性の場合は男性より筋力が少なく、皮下脂肪が多い傾向にあるため、冷え性を発症しやすくなります。

などがあげられます。(もしくは組み合わさっている場合もあります)

② 手足が冷えるタイプ(四肢末端型)

四肢末端型の冷え性は「中心の体温は問題ないのに、手足だけ熱が届いていない」ということ。四肢末端型の冷え性の原因として以下が考えられます。

  • レイノー病:末梢の動脈が血管のけいれんを起こし、指の血流が非常に悪くなる症状です。閉塞具合によって、寒いところにいくと「白色」「紫色」「赤色」などに変色する「レイノー現象」が特徴的。15~30歳の女性に多いです。
  • 職業で末端冷え性になっている:特にタイピストや振動する工具を扱う方・塩化ビニルモノマーを扱う方などは、四肢末端型の冷え性になりやすいといわれています。
  • 基礎疾患末端への血流障害が起きている:特に膠原病や閉塞性動脈硬化症・糖尿病などの場合は、末端への血流障害が生じます。

末端の血流障害が起きると起きやすいのは「しもやけ」です。しもやけのケアについてはしもやけは予防できる?しもやけ(凍瘡)の原因や対策・薬について解説も参照してください。

③ 下半身が冷えるタイプ(下半身型)

上半身は暖かいのに、下半身が冷えてしまう方がいます。特に女性が多く、デスクワークなどで長時間同じ姿勢の職業でなりやすい傾向にありますが、原因ははっきりしていません。例えば以下の可能性が考えられています。

  • 骨盤のゆがみに伴う、下半身の神経の異常
  • 特に女性ホルモンのバランス異常:更年期障害の1症状としても知られています
  • 下半身の血流異常:足の閉塞性動脈硬化症での症状としても見られます。

東洋医学では「気や血のめぐりが悪い証拠」として知られていますね。

④ 「体が寒い」と感じてしまう場合(体感異常型)

中心部の体温も末梢の体温も正常から高めなのにも関わらず、冷え性の方は「寒い」と感じてしまう場合があります。

特に、ストレスで自律神経に影響が出てしまう方に多いですね。他に睡眠障害や食欲不振、普段から息がしにくい感じがするなど、ストレスに関連した症状を伴うことがあります。

この場合、血流障害というよりは神経的な疾患も含めてアプローチする場合がありますね。

(参照:Cold Intolerance)

冷え性(冷え症)でよく使う漢方薬は?

実際「冷え性」は西洋医学では検証されることが少なく、漢方薬が得意とする分野です。「証」によって使う漢方薬は多岐にわたるので、自分にあっているかはぜひ相談してほしいのですが、ここでは「よく使われる代表的な漢方薬」を3つご紹介します。

① 当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)

冷え性の中の「末端冷え性」で最も使われる漢方薬の1つです。成分として

  • 当帰(トウキ):
  • 桂皮(ケイヒ)
  • 芍薬(シャクヤク)
  • 細辛(サイシン)
  • 呉茱萸(ゴシュユ)
  • 生姜(ショウキョウ)
  • 木通(モクツウ)
  • 大棗(タイソウ)

の8つの生薬を含みます。当帰が血行をよくして体を温め、桂皮・芍薬が気分を落ち着かせながら痛みを取り除き、生姜・呉茱萸・細辛で痛みの緩和と保温効果、大棗で神経過敏を沈め痛みを和らげるという処方になっています。

簡単にいうと「保温としもやけに伴う神経痛をやわらげる効果」が中心となった配合ですね。当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、実際に「冷え性」に対して小規模ですが臨床試験が行われている漢方薬の1つ。

実際、末端冷えをもつ58名(23-79歳)の女性に対して、ランダム化比較試験を行ったところ、四肢末端の表面温度と血流の回復値が有意に高かったというデータがあります。

ただし、当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、数ある漢方薬の中でも非常に苦い漢方薬の1つ。あまり苦いのが苦手な方は、「当帰芍薬散」など他の漢方薬の方がよいかもしれませんね。

(参照:漢方治療エビデンスレポートより

② 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

桂枝茯苓丸は特に「上半身がのぼせるのに下半身が冷えやすい方」に対する漢方薬として有効とされる漢方薬の1つですね。生薬としては

  • 桂皮(ケイヒ)
  • 芍薬(シャクヤク)
  • 茯苓(ブクリョウ)
  • 桃仁(トウニン)
  • 牡丹皮(ボタンピ)

の5種類からなります。桂皮はシナモンで頭ののぼせる症状(気逆)によく使う薬の1つ。芍薬は鎮痛作用がありながら、水分のバランスを整える「茯苓」、血液の循環をよくする「桃仁」や「牡丹皮」などで構成されています。

簡単にいうと「頭ののぼせを取り除きながら、骨盤の『血のめぐり』を整え下半身冷えを防ぐ」狙いがある漢方薬ですね。

桂枝茯苓丸は、更年期障害にもよく使われる薬の1つ。実際、桂枝茯苓丸は「ホットフラッシュの改善薬として研究が行われています。

実際の研究報告によると、基礎疾患をもたず3か月以内にホルモン補充療法をしていない352名の女性の方(46-58歳)に対して、桂枝茯苓丸かホルモン補充をランダムに内服させた試験では、桂枝茯苓丸を内服した方は足のつま先の血流が増加する傾向にあったとのことでした。

(参照:漢方薬エビデンスレポート「泌尿器、生殖器の疾患」

③ 人参養栄湯(にんじんようえいとう)

人参養栄湯は消化器のはたらきを高め、栄養をすみずみにいきわたらせ、「気」と「血(けつ)」の両方を補う処方であり、全身の冷え性に用いられやすい漢方薬の1つ。

体力の虚弱な方で、手足の冷えが強く、疲労が強く、食欲も不振な方にもよく用いられます。生薬としては

  • 人参(ニンジン)
  • 黄耆(オウギ)
  • 当帰(トウキ)
  • 地黄(ジオウ)
  • 白朮(ビャクジュツ)
  • 茯苓(ブクリョウ)
  • 芍薬(シャクヤク)
  • 桂皮(ケイヒ)
  • 陳皮(チンピ)
  • 遠志(オンジ)
  • 五味子(ゴミシ)
  • 甘草(カンゾウ)

と、12種類もの生薬が含まれており、滋養強壮作用のある「人参」や「黄耆」、血流をよくし鎮痛作用もある「当帰」や「地黄」、水分バランスを整える「白朮」や「茯苓」などが配合されています。

簡単にいうと「滋養強壮作用も期待しながら、『気血水』を大きく整えて冷えを改善する」ことを期待した薬ですね。

皮膚科疾患における「末梢循環障害」について検討されており、23例の非常にエビデンスの低い観察研究ではありますが、31例中23例(74%)で自覚症状や皮膚音の改善などが認められました。

普段から栄養不良で全身が冷えやすいという方は試してみてもよいかもしれませんね。

(参照:皮膚科領域の末梢循環障害に対する人参養栄湯の有用性の検討

他にも「四逆散」「加味逍遥散」「当帰芍薬散」「温経湯」「十全大補湯」「苓姜朮甘湯」「八味地黄丸」「麻黄附子細辛湯」などなど…実は冷え性に対する漢方薬は本当に数多く存在します。

いずれにせよ大切なのは「一度、自分に合っているか漢方薬に詳しい医師・薬剤師などに診てもらう」ということ。

当院では漢方薬の投薬だけでなく、生活習慣の改善や西洋医学でのアプローチも含め、総合的に考えて治療しています。

自己流で行わず、ぜひお気軽にご相談ください。一人ひとり丁寧に診させていただきます。

冷え性(冷え症)の改善法は?

冷え性の原因によって大きく対策も異なってきますが、一般的に効果が期待できる改善法は以下の通りです。(注:甲状腺機能低下症や膠原病など、冷え性の原因に「隠れ疾患」がある場合はその治療が優先になります。冷え性の原因がはっきりわからない場合の対策方法と考えてください

① 服装に気をつけ、体を温める

当然ですが、冷たい外気にさらされるほど表面から熱がうばわれ、正常の人も冷えを感じます。周りの環境に合わせて露出する部分を減らしましょう。

また、きつめの靴下やジーンズなど体を締め付けるものは末梢の血流を妨げる恐れがありますし、吸湿性の悪い下着は汗でかえって冷えることも。どのスタイルが自分の冷え性に合っているかチェックすることが大切です。

また足湯や適度な入浴も末梢の循環もよくなり、リラックス効果も期待できます。しかし、外から温めてばかりでは冷え性の根本的な改善には至らないので、以下の方法も試してみるとよいでしょう。

② 適度に運動する

運動することで身体活動量が上がるので、運動による熱産生やエネルギー消費量が上がります。さらに筋肉量も増えて末梢の循環も良くなり、安静時のエネルギー消費量にも変化がでることが報告されています。(詳細はこちら

特に女性の場合はもともとの筋肉量も少なく、基礎代謝量も男性に比べて落ちるので特にオススメです。(風邪をひかない服装や環境でお願いします)

ただし、冷え性は一般的に疲れやすい方におこりやすい疾患。少しずつ負荷をかけるようにしましょう。

③ 生活リズムを一定にする

前述の通り、体温調節において欠かせないのが「自律神経」の働きです。自律神経は活動をうながす「交感神経」とリラックスしている時に働く「副交感神経」の2種類があります。

通常は活動的な日中に交感神経が働き、身体を休める夜中に副交感神経が働きます。しかし、生活リズムが普段夜型になっている方や不規則な方は「いつ活動的になればよいか」体がわからなくなり、自律神経がうまく働きづらくなります。(参照:日本医師会 自律神経失調症

生活リズムを一定にすることで、自律神経の働きを整え、体温調節もしやすくなります。そのために最も欠かせないのは「睡眠」です。睡眠の改善方法については不眠症・睡眠障害について解説も参照してください。

④ ストレスをためない

生活リズムと関連していますが、慢性的にストレスが続いている状態は、過度な「交感神経」の緊張をもたらします。なかなかストレスをゼロにするのは難しいですが、ストレスをためず発散する場を作るようにしましょう。

⑤ 食生活の見直し

さまざまなビタミンやミネラルの不足は、冷え性の原因にもなり代謝の低下につながります。偏った食生活や無理な食事制限は冷え性につながるので、一度食生活も見直した方がよいでしょう。

特に代謝にかかわるビタミンである「ビタミンB群」の他、貧血の原因になる鉄分やビタミンB12・葉酸などは大切です。(サプリメントで補う場合、過剰摂取に注意してください)

また東洋医学では温める作用の食べ物がいくつかあり(生姜やネギなどは有名ですね)、漢方治療としても取り入れられています。当ひまわり医院でも患者さんの「証」に合わせて、東洋医学の冷え性の分類に応じた漢方治療を行っておりますので、ぜひご相談ください。

⑥ 禁煙する

タバコは脳の血流を下げるだけでなく、末梢の循環も悪くしてしまいます。四肢の冷えで困っている方は禁煙するとよいでしょう。当院では禁煙外来も行っていますので、ぜひご相談ください。

冷え性に関する「まとめ」

冷え性と一言で言っても非常に色々な原因が絡み合って生じることがわかりますね。また西洋医学でもまだまだ発展途上であり、これからの改善が期待される分野ではあります。

大切なことは「自分がどのタイプの冷え性なのか」を知ること。冷え性の原因によっても改善方法が大きく変わってきます。

当ひまわり医院でも冷え性の原因について患者さんのライフスタイルを詳しく聞き、検査をすすめながら一緒に考えていきますので、ぜひ気軽にご相談ください。

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【この記事を書いた人】 
一之江ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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