- 普段から疲れやすい
- 氷が無性に食べたくなる
- 爪が変形したり口角炎になりやすい
- いつも耳鳴りや動悸・息切れがする
こうした症状の方いませんか?もしかするとそれは、鉄分不足による「鉄欠乏性貧血」になっているかもしれません。
今回は、鉄欠乏性貧血の原因から診断・治療に至るまでわかりやすく解説していきます。
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鉄欠乏性貧血とは?
鉄欠乏性貧血とは「体内の鉄分が足りなくなって赤血球がうまく作られず、酸素を運ぶ力が低下する病気」のこと。
赤血球は、本来酸素を肺から全身の細胞に運んでエネルギーを作る役割があります。
鉄分が不足すると、赤血球の数が減ったり、酸素運搬能力が低下する「ヘモグロビン」といタンパク質が十分に作られなくなります。その結果、体全体が酸素不足に陥って、さまざまな症状が現れます。
鉄分不足や鉄欠乏性貧血は意外と多くの方にいらっしゃいます。
事実、2003年の国民栄養調査による「年代別鉄飽和度と摂取量」によると、
- 成人男性:潜在的鉄欠乏 4.2%、鉄欠乏性貧血 0%
- 月経のある成人女性:潜在的鉄欠乏 36.2%、鉄欠乏性貧血 11.9%
- 閉経後の成人女性:潜在的鉄欠乏 8.5%、鉄欠乏性貧血 2.8%
となっており、いかに鉄分不足や鉄欠乏性貧血が多いことがわかるでしょう。
(参照:鉄代謝と鉄欠乏性貧血―最近の知見―日本内科学会雑誌 104 巻 7 号)
鉄分不足や鉄欠乏性貧血の原因は?
では、どうして鉄分が不足して鉄欠乏性貧血になってしまうのでしょうか?例えば次のようなことが考えられます。
- 鉄分の摂取不足: 単純に食事からの鉄分が不足することが、鉄欠乏性貧血の原因となることがあります。特に、後述するように鉄分は特定の食事に多く含まれており、鉄分豊富な食事を苦手とする方も多くいます。
- 鉄分の吸収障害: 体内で鉄分が十分に吸収されない状態が、鉄欠乏性貧血を引き起こすことがあります。例えば、ヘリコバクターピロリ感染・胃や十二指腸の切除後・セリアック病・クローン病や吸収不良症候群などの消化管の疾患が原因となることがありますね。
- 鉄分の需要が増加している: 成長期の子どもや妊娠中の女性など、鉄分の需要が増加する状況では、鉄欠乏性貧血が発生しやすくなります。授乳中も鉄分を多くとらないといけません。
- 出血している: 長期間にわたる出血は、鉄欠乏性貧血の一般的な原因です。よくあるのが月経過多で生理血が多い場合ですよね。ほかに消化器官の出血(胃潰瘍、大腸ポリープなど)が原因となることがあります。
- 薬や飲食の影響: 一部の薬物は、鉄分の吸収を妨げる作用があります。例えば、一番有名なのはお茶にも含まれている「タンニン」ですね。下痢止めである「タンニン酸アルブミン」にも含まれています。他には、カルシウム・制酸薬・テトラサイクリンなどの抗生剤・ぬかなどに含まれるシュウ酸塩などが鉄の吸収をさまたげます。
- 遺伝性の鉄欠乏症:遺伝的な素因よる鉄欠乏性貧血も知られています。膜型セリンプロテアーゼをコードする TMPRSS6 遺伝子の変異では、先天的に鉄剤を内服しても鉄欠乏性貧血になってしまうのです。しかし、きわめてまれです。
このように、鉄欠乏性貧血は単に「鉄をあまりとっていないから」だけではありません。実にさまざまな原因で鉄分不足になってしまうのです。
鉄分不足や鉄欠乏性貧血の症状は?
では、鉄分不足や鉄欠乏性貧血の貧血にはどんな症状があるのでしょうか?驚くべきほど多岐の症状にわたります。
- 疲労感 ・だるさ: 酸素が全身に十分に行き渡らないため、疲れが取れにくく、だるくなりやすくなります
- 頭痛: 頭の血管が収縮したり、酸素不足が原因で頭痛が起こりやるくなります。
- めまい:酸素不足で脳の働きが低下し、立ちくらみやふらつきを感じます。
- 集中力や記憶力の低下:脳に十分な酸素が届かず、思考力や集中力・記憶力が低下します。
- 動悸:心臓が酸素を補給しようとして、ドキドキする感覚が出てきます。
- 息切れ: 酸素が不足して、少しの運動で息が切れるようになります。
- 顔色が悪い : 赤血球が少なくなり、顔色が青白く見えます。
- 異食症: 氷を無性に食べたくなります。脳への酸素供給量の不足により、満腹中枢障害や体温調節障害が起こるためと考えられています
- スプーン爪: 爪が反りかえりスプーンのようになります。割れやすくもろいのも特徴です。
- 味覚障害: 舌がヒリヒリするような感覚になることがあります
- 低体温・冷え性:血行が悪くなり、手足が冷えやすく、体温が下がります。
- 不安感・抑うつ症状:酸素不足により、神経伝達物質のバランスが崩れ、不安感や抑うつ症状が現れることがあります。
- 脱毛:酸素や栄養素の不足で、髪の毛の成長が悪くなり、抜けやすくなります。
- 月経異常:鉄分不足が原因で、生理不順が起こることがあります。
- 免疫力の低下:酸素や栄養素の不足で、免疫力が低下し感染しやすくなるといわれています。
代表的なものでもこれだけあり、鉄分はあらゆる病気につながっていくのがわかりますね。
(参照:National Library of Medicine「Iron Deficiency Anemia」)
鉄分不足や鉄欠乏性貧血の検査や診断は?
では、実際にどのように鉄分不足や鉄欠乏性貧血と診断していくのでしょう。クリニックでは通常、「問診」「身体所見」「血液検査」を経て診断していきます。
問診では、患者の症状や生活習慣、既往歴などを確認します。特に偏った食事歴や貧血を示唆する症状かは重要なポイントです。
身体所見では、貧血の兆候(顔色、爪、舌など)をチェックします。中でも最も有名な所見は「眼瞼結膜が白くなること」です。ヘモグロビンが少なくなるほど顕著になってきます。他には「青色強膜」といって、白目の部分が青くなるのも特徴の1つですね。
しかし貧血かどうかの正確な診断は、血液検査です。酸素の運搬役である「ヘモグロビン(Hb)値」を見て行われます。日本人のヘモグロビン値が「男性13.0 g/dl,女性12.0 g/dl」より下になると「貧血」と診断されるのが一般的です。
鉄欠乏かどうかは「血清フェリチン値」「血清鉄」「TIBC(総鉄欠乏能)」などで判断します。
このうち鉄の貯蔵タンパク質である「血清フェリチン値」がもっとも鉄欠乏に反応するとされおり、
- 血清フェリチン値 12ng/ml以下: 鉄が枯渇している状態
- 血清フェリチン値 12~25 ng/ml:: 鉄は枯渇していないが正常より減少している状態
とされています。前述のとおり、貧血のない鉄欠乏の方は鉄欠乏性貧血の2倍~5倍いるといわれ、貧血でない場合でも症状がでることもあるので、「ヘモグロビンが正常なら問題ない」と考えずに、きちんと検査をすることが大切です。
他、鉄欠乏性貧血の原因に応じて、内視鏡検査・婦人科検査・便潜血検査・尿検査などを行うことがあります。
鉄分不足や鉄欠乏性貧血の治療は?
鉄欠乏性貧血・もしくは高度鉄欠乏と診断されたら治療にうつっていきます。大きく分けて「補充療法」「食事療法」「原因に対する治療」の3つです。順に説明していきます。
① 内服療法や注射による補充療法
鉄欠乏性貧血の一般的な治療法は、鉄剤を摂取することです。鉄剤は、錠剤、シロップ、またはカプセルの形があり、通常、1日1回から3回服用してもらいます。例えば次のような薬ですね
- フェロミア®(クエン酸第一鉄Na錠)
- フェロ・グラデュメット®
- フェルムカプセル®
- インクレミンシロップ®
経口用の鉄剤は何種類かありますが、人によっては吐き気などの副作用が出ることがあるため、食後に内服したり、量を調節したり、吐き気を抑える薬を併用するなどの工夫が必要なこともしばしばあります。また、鉄剤内服後は便が黒くなるので驚くこともしばしばですが、みなさん黒くなるので大丈夫です。
どうしても内服での補充が難しい場合は、注射で鉄剤を投与すれば効率的ですし副作用も起きません。
通常2~3か月で鉄欠乏が改善されますが、基準値に戻ってから数か月は服用をつづけるほうがよいとされています。
② 食事療法
例えば、偏った食事が原因である場合、補充療法で鉄を補ったとしても食生活を変えなければ再び鉄欠乏になってしまいます。そのため、食事の指導も薬物治療と同じくらい大切です。
通常、18-49歳の健康な方の場合、1日の鉄の食事摂取基準は「男性7.5mg、月経のない女性6.5mg、月経のある女性の場合10.5mg」と言われています。65歳以上の高齢者の場合でも「男性7.0-7.5mg、女性6.0mg」は鉄分の摂取がいわれていますね。
妊娠中はこれに加えて「妊娠初期 2.6mg/日」「妊娠中期 8.0mg/日」「妊娠後期 10.9mg/日」が必要とされています。また授乳中は追加で2.5mg/日必要です。
食品中に含まれている鉄は「ヘム鉄」と「非ヘム鉄」で分かれており、それぞれ特徴が異なります。
- ヘム鉄: 食品に含まれている形で吸収され、非ヘム鉄に比べ吸収率が高いのが特徴です。(10~20%)肉や魚などの動物性食品に含まれています。
- 非ヘム鉄: 体内の酵素の働きを受けて吸収されます。そのままでは吸収率が低い(2~5%)ですが、同時に摂取する栄養素で吸収率が高まるのが特徴です。
吸収率を考えると、ヘム鉄のほうが吸収率が高いですが、他の体への影響を考えるとバランスのよい食事をとる方がよいでしょう。それを踏まえて、鉄分の多い食事は以下の通りです。
また近年、鉄が添加されている食品が増えてきており、欧米で日本よりも鉄摂取が多い理由として鉄が添加されている食品の摂取があげられています。もちろん自然の食事からとったほうが望ましいですが、普段から鉄欠乏が見られる方は予防として検討してもよいでしょう。(WHOの報告による)
ただし、サプリメントを利用する場合は後述する鉄過剰症に注意してください。
③ 原因に対する治療
鉄欠乏性貧血の原因となる病気や状態(出血、消化器官の病気など)がある場合は、それらの治療が必要です。例えば、内科的な出血がある場合、出血の原因を特定し、適切な治療を行います。
場合によっては、婦人科や内視鏡内科と連携することもしばしばです。特に「鉄剤を補充してもなかなか鉄欠乏がよくならない」場合は、何かしらの原因が隠されていますので精査を行っていきます。
「鉄過剰症」に注意してください
鉄過剰症とは、体内に鉄分が過剰に蓄積される状態を指します。鉄分は、赤血球の生成に必要な栄養素ですが、適切な量を超えると、体内で酸化ストレスを引き起こし、細胞や組織に損傷を与えることがあります。例えば、鉄過剰症として以下のようなものがあります。
- 疲労感
- 関節痛
- 肝臓の損傷や肝障害
- 肌の色素沈着(青灰色)
- 腹痛
特に「鉄サプリメントでとればよいのでは?」と考えて普段から過剰に摂取している方は要注意。
必ずサプリメントや薬で鉄を補充する際には、クリニックでモニタリングするようにし、鉄過剰症にならないようにしましょう。そして、鉄過剰症が疑われる場合は医師の診察を受けることが重要です。
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