あなたは「最近、なんだか疲れが取れない…」「日中、眠くて集中できない…」と感じたことませんか?もしかしたら、積りに積もった「睡眠負債」が原因かもしれません。
睡眠負債とは、睡眠不足が積み重なった状態のこと。自覚症状がない場合でも、知らず知らずのうちに睡眠負債が蓄積されている可能性があります。
睡眠負債を放置すると、集中力や判断力の低下だけでなく、健康にも悪影響を及ぼすことも報告されているので。
そこで今回は、睡眠負債とは何か、睡眠負債を放置するとどう体に影響するのか、睡眠負債のチェック方法や解消法(返済法)までわかりやすく解説します。
睡眠不足や睡眠時無呼吸については
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睡眠負債とは?
睡眠負債とは、今までの生活で本来とるべき睡眠時間や睡眠の質を担保できない結果、「借金」のように抱えている体の負担のことです。意外にも俗称ではなく、医学論文でも「Sleep Debt(睡眠負債)」という名称で使用されています。
本来、世界的にみても1日7~8時間くらいの睡眠をとるのが理想とされています。しかし、日本でも多く人が十分な睡眠をとることができていません。
実際、令和4年の国民健康・栄養調査によると、直近の1カ月間で「睡眠で休養が十分にとれていない」と答えた方は全体の20.6%であり、5人に1人以上は睡眠不足を感じています。しかも平成21年からみると男女ともに増加傾向です。
さらに、1日の平均睡眠時間で見てみると、
- 6時間未満の人:男性37.0%、女性39.9%
- 6~7時間未満の人:男性32.7%、女性36.2%
となっており、実は理想と思われる7時間以上の睡眠を確保できているのは男性30.3%、女性23.9%しかいません。これは由々しき事態です。
忙しい毎日の中で、睡眠時間を削って仕事や家事、学習や趣味に時間を費やす方もいるかもしれません。しかし、睡眠不足を軽視すると、睡眠負債となって体に様々な悪影響を及ぼしていくのです。
では、睡眠負債によってどのような体の影響が出てくるのでしょうか。
睡眠負債による体の影響は?
① 生活や仕事のパフォーマンスが大きく落ちる
まず睡眠負債があると、生活や仕事のパフォーマンスが大きく落ちます。
2022年に発表された日本人(フルタイム雇用、1日8時間、週5日勤務、夜勤なし)351人を対象とした論文によると、睡眠負債を持っている人はそうでない人に比べて、病気を抱えながら出勤して仕事のパフォーマンスが下がっている人(presenteeism)が1.6倍多くいることがわかっています。
またベトナムで行われた48人の健康な成人(21~38歳)に対して、14人連続して睡眠時間を4時間または6時間に制限したところ、日数を重ねるにつれて、まるで蓄積するかのように、集中力や認知能力が低下してくることもわかっています。
しかも、累積の睡眠時間が15.84時間(約16時間)を超えるとまるで「負債」のように4つの実験条件でのパフォーマンスが低下することがわかっています。
したがって、単純な睡眠不足というより、蓄積された「睡眠負債」が仕事のパフォーマンスを奪っていくのです。せっかく仕事や日々の生活をするのですから、100%の力を発揮していきたいですよね。
慢性的な睡眠負債はせっかくの貴重な時間を浪費するもとになります。
(参照:The Cumulative Cost of Additional Wakefulness: Dose-Response Effects on Neurobehavioral Functions and Sleep Physiology From Chronic Sleep Restriction and Total Sleep Deprivation)
(参照:Impact of sleep debt, social jetlag, and insomnia symptoms on presenteeism and psychological distress of workers in Japan: a cross-sectional study)
② ホルモンのバランスが崩れる
睡眠負債は仕事のパフォーマンスが低下するだけではありません。睡眠負債が炭水化物の代謝やホルモンの働きに悪影響を与えることが明らかになっています。
アメリカの研究では、11人の若い男性、6夜連続で1晩の睡眠時間を4時間に制限する実験を行った結果、睡眠不足の状態では以下のような変化が起きることがわかりました。
- 糖の代謝が悪化し、血糖値が上がりやすくなった。
- 代謝系の甲状腺ホルモンの濃度が低下した。
- ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌量が増加した。
- 交感神経の活動が亢進し、体が緊張状態になりました。
つまり、睡眠負債を放置すると、糖尿病や甲状腺機能低下症などの慢性疾患のリスクが高まる可能性があるということです。睡眠負債は、単なる眠気や疲労感だけでなく、体の内側にも大きな影響を与えるのですね。
体の影響を考える上でも睡眠負債は最小限にしないといけません。
(参照:Impact of sleep debt on metabolic and endocrine function)
③ メンタルが大きく不安定になる
睡眠負債は体の影響だけではありません。心にも影響があることがわかっています。
2013年に行われた九州大学の研究によると成人男性14名(平均年齢24歳)に対して、5日間睡眠時間4時間という睡眠負債をかけたところ、睡眠負債の程度に比例して、恐怖の表情を見たときに、脳の扁桃体と呼ばれる部分が活発に活動することがわかりました。
扁桃体は、感情、特に恐怖や不安を感じる際に重要な役割を果たす脳の部位です。
睡眠不足になると、この扁桃体が過敏になり、ネガティブな感情に反応しやすくなってしまうのということですね。
さらに、睡眠負債は、扁桃体と前帯状皮質(ACC)と呼ばれる脳の部位の連携を弱めることもわかりました。
ACCは、感情の調節や抑制に関わる部位です。つまり、睡眠負債によって、ACCが扁桃体の活動をうまく抑制できなくなり、感情の制御が難しくなる可能性があるということになります。
一般的に睡眠不足は、セロトニンやGABAといった抑制性神経伝達物質の分泌を減少させ、グルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の分泌を増加させることもわかっていますので、
基本的に睡眠負債は「より感情的になりネガティブになりやすい」といえるでしょう。
あなたに睡眠負債があるかチェックしよう!
ではあなたは睡眠負債があるかわかっていますか?意外と睡眠が深く眠れていないと知らず知らず「睡眠負債」を抱えているかもしれません。ぜひ以下のチェックリストに答えてみてください。
- 朝、目覚まし時計が鳴る前に目が覚めることはほとんどない。
- 平日は仕事でどうしても6時間以下の睡眠時間にならざるを得ない。
- 寝つきが悪く、ベッドに入ってから30分以上経っても眠れずスマホを見てしまう。
- 夜中に何度も目が覚めてしまう。
- 朝起きても疲れがとれていないと感じることが多い。
- 日中、眠気を感じることがよくある。
- 休日は、平日に比べて2時間以上長く寝て「寝だめ」してしまう。
- 睡眠時間は毎日バラバラである。
- カフェインを多く含む飲み物をよく飲む。
- 寝る前にスマホやパソコンをよく使う。
- 寝る前に激しい運動をすることが多い。
- 睡眠を確保するために睡眠薬や睡眠導入剤を常用してしまう。
- いびきをよくかく、または睡眠時無呼吸症候群と診断されたことがある。
- 仕事内容が不規則で夜勤などもある。
- 普段からストレスを多く感じ、不安を抱えている。
※診断結果※
- 0~3個: 睡眠負債はあまりなさそうです。 現在の生活習慣を維持しましょう。
- 4~7個: 睡眠負債が少し溜まっている可能性があります。 睡眠の質を高めるように心がけましょう。
- 8~11個: 睡眠負債が溜まっている可能性が高いです。 睡眠習慣を見直す必要があります。
- 12~15個: 睡眠負債がかなり溜まっている可能性があります。 医療機関に相談しましょう。
睡眠負債を返済して解消するには?
では、睡眠負債を返済して解消するにはどうすればよいでしょうか?まずは以下のことから試してみてください。
① 普段の睡眠時間をきちんと確保できるようにする
身も蓋もありませんが、睡眠負債があると感じているのなら、まずは普段の睡眠時間を解消するよう心掛けるのが大切です。
日本の研究によると、睡眠負債を抱えている人は平均1時間ほど最適な睡眠時間よりも普段の睡眠時間が少なかったことを報告しています。(理想の睡眠時間:8.41時間、平均の睡眠時間:7.35時間、平均年齢23歳)
とはいえ、「仕事や家事、育児で忙しいのに、睡眠時間を増やすなんて難しい…」と感じている方も多いのではないでしょうか?そこで、まずは1日30分でも良いので、睡眠時間を増やすことを目標にしてみましょう。毎日の積み重ねが、睡眠負債の解消に繋がります。
普段の睡眠時間を確保するために、以下のことからはじめてみるとよいですね。
- 寝る前にダラダラとスマホを見るのをやめる
- テレビを見る時間を減らす
- 通勤時間を利用して仮眠をとる
- 家事の時間を短縮する工夫をする
- 残業を減らす
些細なことでも、毎日続けることで大きな変化に繋がります。ご自身のライフスタイルに合わせて、できることから始めてみましょう。
(参照:Estimating individual optimal sleep duration and potential sleep debt)
② 昼寝を活用する
どうしても仕事の関係で夜間の睡眠時間を確保できないという人もいますよね。そういう人は昼寝を活用するのも1つの手です。昼寝には皆さんが思っている以上に素晴らしい効果があるのです。
例えば、2010年にオーストラリアで昼寝と認知機能の関係性を調べた研究によると、昼寝の効果について以下のことが言われています。
- 5~15分の短い昼寝: 眠気を解消し、その後1~3時間にわたって認知能力を維持する効果が期待できます。
- 30分以上の長めの昼寝: 起きた直後には sleep inertia (睡眠慣性)と呼ばれる、ぼんやりとした状態になることもあったが、その後数時間にわたって認知能力の向上が見込めた。
たった7~10分程度の短い睡眠でも、脳内の覚醒を促すメカニズムが活性化され、集中力が大幅に向上することが明らかになっています。
長い昼寝は夜の睡眠にも及ぼす可能性も示唆されているので、あまり長時間の昼寝はオススメしませんが、短時間の昼寝は積極的に活用するとよいでしょう。
(参照:The effects of napping on cognitive functioning)
➂ 睡眠環境を整える
睡眠負債を解消するには、睡眠時間を確保するだけでなく、睡眠の質を高める ことも重要です。そのために欠かせないのが、睡眠環境を整える こと。
質の高い睡眠をとるためにも、快適な寝室づくりを行っていきましょう。まずは以下のことからはじめてみてください。
- 光を遮断する:厚手のカーテンや遮光ブラインドを使用したり。飛行機の中だったらアイマスクを着用するのもいいですね。
- 音を遮断する:防音カーテンを使ったりして、無音の状態を作りましょう。いびきがうるさい人がいるなら、耳栓を使ったり別室でねるのも検討しましょう。
- 温度と湿度を調整する:室温は16~26℃、湿度は50~60%を目安にしながら、自分が快適に思う温度と湿度を整えましょう。夏はエアコンや扇風機、冬は加湿器を使用するのも大切ですが、人工の風だと睡眠の質は低下しがちなので注意が必要ですね。
- 寝具を選ぶ:体圧分散性に優れたマットレスを選ぶ。首や肩に負担がかからない枕を選ぶ軽くて暖かく、吸湿性・放湿性に優れた掛け布団を選ぶ。肌触りの良いシーツや枕カバーを選ぶ。1つ1つがあなたの睡眠を決めると思って、妥協しないで選びましょう。
- 寝室を清潔に保つ:中には咳やくしゃみで睡眠障害が起こっているケースもあります。その場合はホコリによる刺激の可能性も。定期的に掃除をして、埃やダニを除去する、寝具はこまめに洗濯し、天日干しをする、換気をして新鮮な空気を取り込むなどして清潔に保つようにしましょう。
- 寝る前の行動:寝具以上に大切なのが、寝る前の行動です。カフェインを摂取しない。長時間熱いお風呂に入らない。激しい運動をしない。スマホやパソコンを見ないは基本です。ぜひ睡眠日記をつけてみてください。どういう行動をしたら睡眠がとれるかわかるようになります。
このように、睡眠環境1つでもやった方がいいことはたくさんあります。自分ができそうな範囲でよいので試してみてください。
④ 生活習慣でも難しければ医療機関に受診をする
ここまで、睡眠負債を自力で解消する方法を紹介してきましたが、うつ病や不安症、不眠症、睡眠時無呼吸症候群など、いろいろな疾患で睡眠負債を抱えている人もいます。
そうした方が自力で解決するには限界があります。なんでも自分で解決できるわけではなく、当然他の人の力や薬の力が必要な場合もあるのです。
なので、すべて自分でなんとかしようと思う必要はありません。睡眠負債が重なってどうしようもないと思ったら、遠慮なく医療機関に受診してください。当院でもみなさんのお悩みが1つでも解決できるよう、真摯に向き合って対応していきます。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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