【医師が解説】不眠症や睡眠障害への漢方薬について

突然ですが、あなたはきちんと眠れていますか?

健康を維持するために欠かせないことは頭ではわかっていても、忙しかったり不安を抱えたりストレスがたまったりすると、ついおろそかにしがちになりやすいのが「睡眠」です。

自分で改善できれば良いのですが、中には改善が難しい場合もあります。しかし、クリニックに言って睡眠薬に頼るのもなんかコワい…

そんな睡眠難民の方、漢方薬はいかがでしょうか。睡眠薬よりは効果がマイルドであることが多いですが、中にはある程度睡眠に対して効果的とされる漢方薬もありますよ。

それでは医学論文でも紹介される不眠症に使われる漢方薬を早速見ていきましょう。

不眠症に使われる漢方薬は?

漢方薬はなんとなく不眠症には効果がないと思われているかもしれませんが、そうではありません。漢方薬は不眠症に対しても効果的なのは、臨床論文でも実証されています。

事実、2015年で発表された複数の論文を分析した論文では「単独療法としても既存の治療法との併存療法にしても漢方薬は不眠症に対して有効である」と結論づけており、不眠症に対してある程度有効性といえるでしょう。

さらに漢方薬は、植物や動物、鉱物を原料とした自然由来の成分で、東洋医学の理論に基づいて体内のバランスを整えることを目的としています。したがって、漢方による不眠症治療は、不眠を治すというよりは「不眠を含めた精神的な体質改善」として使われることが多いです。

実際、紹介する不眠症に使われる漢方薬は、「不眠症だけ」というよりは認知症や不安症・うつ病に対する効果も期待されますね。

不眠症に用いられる漢方薬には、例えば以下のようなものがあります。

  • 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
  • 酸棗仁湯(さんそうにんとう)
  • 抑肝散(よくかんさん)
  • 抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
  • 加味帰脾湯(かみきひとう)

もちろん、各々の漢方薬は異なる効果や特徴があり、個人個人の体質や症状によっても違いますので、専門機関の受診や漢方薬に精通した医師・薬剤師のカウンセリングが必要なのは間違いありません。では、各漢方薬の特徴と不眠症に対する効果をみていきましょう。

(参照:Updated clinical evidence of Chinese herbal medicine for insomnia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials

不眠症に使われる漢方薬の効果は?

今回は、数ある漢方薬から比較的ダイエットに使われやすい4種類の漢方薬について説明していきます。使い方や適応によって異なるので、医師や薬剤師の方に相談しながら補助的に使いましょう。

(あくまで生活習慣の改善が第一です。不眠症の治し方については不眠症 不眠症・睡眠障害の治し方や改善方法・薬物治療について解説を参照してください。)

① 柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)

柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)は「日常生活でイライラしやすい方、テストやイベントで緊張して眠れない方」が対象になりやすい漢方薬です。自律神経で交感神経が優位になりやすいのを抑える漢方薬というのが自然ですね。

柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)に使われている生薬としては

  • 柴胡(サイコ):解熱・消炎・鎮静・鎮痛作用があり、心を鎮める作用があります。
  • 竜骨( リュウコツ):主として炭酸カルシウムからなり、動悸・不眠・健忘などに用いられます
  • 牡蛎(ボレイ):カキの殻ですね。ストレスや疲れによる頭痛、めまいなどに効果があります。
  • 黄ごん(オウゴン):よく炎症を鎮めたり、熱を下げるのに用いられます。
  • 大黄(ダイオウ)(含まれない場合もあり):よく血の巡りをよくしたり便秘薬に使われますが、向精神作用もあることがいわれています。
  • 半夏(ハンゲ):去痰や吐き気止めとしての作用もありますが、鎮静作用もあります。
  • 人参(ニンジン):滋養強壮剤として有名ですね。他には精神安定などにも使われます。
  • 茯苓(ブクリョウ):利水作用として知られており、滞った過剰な水分を取り除きます。胃腸の働きを助け、精神の安定させる効果もあります。
  • 桂皮(ケイヒ):シナモンですね。体を温める作用がありますが、抗ストレス作用があるといわれています。
  • 生姜(ショウキョウ):こちらも温める生薬として有名ですね。食欲増進や健胃作用もあります。
  • 大棗(タイソウ):ナツメを乾燥させたもの。緊張の緩和、強壮、鎮静作用があります。

があります。全体にみると「緊張の緩和を取り除きながら、体を温め、ストレスに作用する生薬」が中心ですね。実際に効果は検証されているのでしょうか。

症例報告レベルの非常に弱いエビデンスではありますが、不眠症に対する有効例も報告されています。

例えば、柴胡加竜骨牡蛎湯を使用した3例での症例報告では、いずれもイライラ感やストレス症状に伴う不眠症に用いられており、内服から2週間程度から改善を認めています。その後も続け、不随する精神症状も軽減されたとのことです。

また、進行がんに伴う悪夢に柴胡加竜骨牡蛎湯が有効だった1例も報告されています。いずれも分2、1日6g処方で症状改善を認めており、ある程度不眠症状に伴う精神症状の改善が期待できますね。

(参照:進行がん患者の悪夢に柴胡加竜骨牡蛎湯が有効だった1例。Palliat Care Res 2022; 17(1): 1–5
(参照:神経症性障害、ストレス関連障害患者において柴胡加竜骨牡蛎湯が有効であった3症例

② 酸棗仁湯(さんそうにんとう)

酸棗仁湯(さんそうにんとう)は「体力が低下して、心身が疲労している人の不眠の改善によく用いられる漢方薬」です。柴胡加竜骨牡蛎湯ではイライラが中心でしたが、こちらは疲労に伴う不眠という点で異なりますね。

酸棗仁湯で使われる生薬としては以下の通りです。

  • 酸棗仁(サンソウニン):この漢方の中心となる生薬。精神を鎮め、神経の興奮・緊張を和らげる効果があります。
  • 茯苓(ブクリョウ):利水作用のほか、胃腸の働きを助け、精神の安定させる効果があります。
  • 川芎(センキュウ):血行不良を抑える生薬。血の巡りの不調に伴う精神症状を改善します。
  • 知母(チモ):ユリ科のハナスゲの根茎を乾燥したもの。鎮静、鎮咳、解熱作用などがあります。
  • 甘草(カンゾウ):健胃・抗炎症作用などがあります。

非常に生薬数が少なく、シンプルな構成であることがわかりますね。その名の通り、酸棗仁の精神を鎮める効果が中心となり、茯苓や川芎などの生薬がそれをサポートするような形になっています。

実際、そんな酸棗仁湯ですが、不眠症に対する効果もエビデンスレベルとしては非常に弱いものですが、症例報告レベルで報告があります

例えば、「2型糖尿病患者の不眠に酸棗仁湯が 有効であった2症例」では2型糖尿病の58歳男性と79歳男性に虚証であり、疲労感が強いことから酸棗仁湯で加療されていました。その後2週間で自然と寝つけるようになり、数か月後には酸棗仁湯自身も必要なくなったと報告しています。

また、別の症例報告では、夜中中心に奇声を発する2症例に対して酸棗仁湯を使用したところ、徐々に奇声は収まるようになったとのことです。

また症例数も乏しく比較試験もされていませんが、こうした疲労感の強い虚証よりの不眠症の方には一度試してみてもよい漢方薬の候補になります。

(参照:2型糖尿病患者の不眠に酸棗仁湯が 有効であった2症例。Kampo Med Vol.66 No.1 28-33, 2015
(参照:酸棗仁湯が有効であった奇声を主徴とする夜間せん妄の2症例

③ 抑肝散(よくかんさん)・抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)

抑肝散は「神経の高ぶりをおさえ、筋肉のこわばりをゆるめて、心と体の状態をよくする」漢方薬です。高齢者の認知症にも使われますし、小児の夜泣きにも使われる適応症の広い薬になります。

抑肝散を構成する生薬としては、

  • 当帰(トウキ):よく更年期障害にも使われる漢方薬で血のめぐりを良くします。
  • 釣藤鈎(チョウトウコウ):、鎮静・鎮痙(痙攣を止める)・降圧作用を示す漢方薬。神経のたかぶりを抑えます。
  • 川芎(センキュウ):血行不良を抑える生薬。血の巡りの不調に伴う精神症状を改善します。
  • 蒼朮(ソウジュツ):発汗・鎮静・抗けいれん作用などを示します。
  • 茯苓(ブクリョウ):利水作用のほか、胃腸の働きを助け、精神の安定させる効果があります。
  • 柴胡(サイコ):解熱・消炎・鎮静・鎮痛作用があり、心を鎮める作用があります。
  • 甘草(カンゾウ):健胃・抗炎症作用などがあります。他の生薬との「調整薬」としても使われますね。

で構成されています。釣藤鈎・当帰・蒼朮は前2つでは使用されていないものの、他の生薬は前の2つの漢方でも使われていましたね。ちなみに、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)はその名の通り、上記生薬に

  • 陳皮(ちんぴ):いわゆる「みかんの皮」。食欲増進や冷え性の改善に用いられる生薬です。
  • 半夏(はんげ):痰や吐き気止めとしての作用もありますが、鎮静作用もあります。

が追加されており、抑肝散より体力が低下し胃腸虚弱の人向けの処方になっています。

実際、抑肝散や抑肝散加陳皮半夏は論文上で効果が認められているのでしょうか。

実は抑肝散は非常に多くの精神疾患での使用経験があり、その有効性が認められています。例えば、抑肝散の使用例としては、以下の疾患があげられます。

  • 神経症(42.4%)
  • 不眠症(25.9%)
  • 統合失調症
  • 境界性パーソナリティ障害
  • 躁うつ症
  • 精神発達遅延・発達障害
  • 摂食障害
  • むずむず足症候群

これだけではありませんが、非常に多くの精神にかかわる疾患での使用経験や有効性が報告されているのですね。例えばクラシエ社で実施された不眠症患者に対する抑肝散加陳皮半夏の有効性を評価した1,110例の分析によると、有効492例(44.3%)、やや有効501例(45.1%)、無効117 例(10.5%)であったとしています。

もちろん、クラシエ社とは利益相反の関係があるので、ある程度のバイアスがかかっている可能性がありますが、「睡眠薬を極力使いたくない」という方にとっては十分考慮してよい漢方薬の1つになりますね。

(参照:抑肝散の臨床応用 ――統合失調症,パーソナリティ障害,ジスキネジアなど――
(参照:抑肝散加陳皮半夏の不眠症に対する作用機序と副作用について

不眠症で使われる漢方薬の副作用は?

もちろん漢方薬も「薬」ですので、漢方薬による副作用も十分考えられます。例えば、次の通りです。

  • 柴胡加竜骨牡蛎湯:肝機能障害や大黄が含まれる場合は下痢、アレルギー症状などがみられることがあります。
  • 酸棗仁湯:主な副作用には、​食欲不振、​胃部不快感、​悪心、​腹痛、​下痢などがあります。​また、​偽アルドステロン症が現れることも。
  • 抑肝散・抑肝散加陳皮半夏:主な副作用には、​発疹、​発赤、​かゆみ、​食欲不振、​胃部不快感、​悪心、​下痢、​傾眠、​倦怠感などがあるとされています。また、抑肝散も柴胡が含まれているので、重大な副作用として​間質性肺炎がありますね。

そのため、漢方薬といっても採血を含めた定期的なモニタリングは必要です。また他の病気などで受診するとき、飲み合わせの悪い薬(特に漢方薬同士)などもありますので、必ず漢方薬を飲んでいることを申告するようにしましょう。

(参照:柴胡加竜骨牡蛎湯・酸棗仁湯・抑肝散の添付文書より)

不眠症に対する漢方薬についてのまとめ

いかがでしたか?今回は不眠症に対する漢方薬についてまとめてみました。

もちろん実感としては、直接GABAやオレキシン受容体に作用する西洋の「睡眠薬」の方がスパっと効果がでやすいですが、漢方薬もきちんとコントロールすれば十分効果があると思う場面も実感します。

もちろん何回も繰り返しますが、不眠症の治療は「原因の検索」と「生活習慣の改善」が基本。当院では、内科的な原因の検索や生活習慣の指導などを行い改善をはかりながら、カウンセリングなどの特殊な治療が必要な場合には、精神疾患専門の施設に紹介させていただきます。

漢方薬の相談もふくめて幅広く対応させていただきますので、ご遠慮なくお申し付けください。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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