オミクロン株を中心に、日本でも新型コロナウイルスが蔓延しています。その中で話題になっているのが「ステルスオミクロン」と呼ばれるオミクロン変異株の存在です。
医学的には従来のオミクロン株を「BA.1株」と呼ぶのに対して「BA.2株」と呼ばれます。2022年1月からイギリスやデンマークなど複数の国で置き換わってきており、今後日本もBA.2株に置き換わるのか見逃せない状況です。
この「BA.2株」とは一体どのような特徴を持っているのでしょうか。現在わかっていることをまとめてみました。
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ステルスオミクロン(BA.2株)とは?
BA.2株がよく「ステルスオミクロン」と呼ばれるのは「一部の遺伝子検査ではオミクロン株に分類することができない」ことから由来されました。
ステルスは「内密」という意味。例えばステルス戦闘機で有名ですね。敵のレーダーに引っかかりにくくする技術などを指します。
オミクロン株は「del69/70」というスパイクタンパク質(ウイルスが細胞に侵入するためのタンパク質)の一部がなくなっているのが特徴の1つです。それを利用して一部の国では、「del69/70」の欠失をPCR法で検出する「SGFT法(S gene taget failure)」と呼ばれる手法でオミクロン株を検出していました。
しかし、新しいBA.2株には「del/69/70」があるので、SGFT法ではオミクロン株かどうか判別できません。そこから「SGFT法というレーダーでオミクロン株として分類されない=ステルスオミクロン」と呼ばれるようになったのです。
幸い日本では、デルタ株に特徴的な「L452R」という変異がないことでオミクロン株と区別していました。そのため、日本の簡易検査ではBA.1株もBA.2株も「オミクロン株」として区別されます。
しかしWHOでは「BA.2株はBA.1株は独立され(比較的優先的に)調査されるべき」としています。さらにBA.2株とBA.1株とを区別するにはより詳細な遺伝子検査や工夫が必要です。日本でも現在BA.2株を検出する独自の取り組みが行われています。
ステルスオミクロン(BA.2株)の感染力は?
ステルスオミクロン(BA.2株)の特徴の1つに非常に高い感染力があげられます。
従来のBA.1株でも十分高い感染力が特徴でしたが、ステルスオミクロンはBA.1株よりさらに感染力が高いことがいくつかの報告でわかりました。
京都大からの調査ではBA.2の実行再生産数(1人の感染者が次に平均で何人にうつすか”を示す指標)がBA.1よりも18%~26%高いことが示されています。
また英国での調査でも、通常のオミクロン株よりも家庭内接触者に対する2次感染率が高い(13.6% vs 10.7%)という結果でした。同調査では、家庭外での2次感染率もBA.2株のほうが高いことが報告されています。(5.3% vs 4.2%)
同様に8541世帯のオミクロン株に感染した世帯を対象としたデンマークの査読前論文でも、同居した家族への2次感染率は39%(BA.1株は29%)であり、BA.1株と比較しても高い感染力がうかがえます。
こうしたことからステルスオミクロン(BA.2)はBA.1よりも感染力が高いといえますし、感染力の高いBA.1株を凌駕する感染力は脅威といえるでしょう。
実際、4月28日の発表ではBA.2株の世代時間(1分裂に必要とされる時間)はBA.1株よりも15%短く、5月第1週時点で日本でも97%がステルスオミクロン(BA.2株)に置き換わっています。そのため今後は、BA.2株を主眼に置いた対策が必要といえるでしょう。
ステルスオミクロン(BA.2株)の症状は?
これまでのところステルスオミクロンの症状は「既知の新型コロナ感染症症状とかなり一致しており、BA.1株と区別できない」とされています。CDCが発表している症状としては、以下のものがあげられます。
- 発熱または悪寒
- 咳
- 息切れまたは呼吸困難
- 倦怠感
- 筋肉や体の痛み
- 頭痛
- 味覚嗅覚障害
- のどの痛み
- 鼻づまりまたは鼻水
- 吐き気または嘔吐
- 下痢
BA.1株と同様ならば、喉の痛みが強くでやすいことや味覚嗅覚が低下しにくいと考えられます。オミクロン株の症状については新型コロナウイルス「オミクロン株」の特徴について【感染力・症状・重症化】も参考にしてください。
また症状の他の特徴として英国保健安全保障庁(UKHSA)ではBA.2株はBA.1株よりも潜伏期間が半日ほど短いことを他の特徴としてあげています。
ステルスオミクロン(BA.2株)への再感染は?
では、一度新型コロナにかかったことのある方でもBA.2株に再感染することはあるのでしょうか。
答えは「BA.2株への再感染もきわめてまれながら起こりうる」です。
英国の調査では、BA.1の配列をもった約49万例とBA.2配列を持った約40万例の解析結果から、43人の方が両方の感染を来たしていることがわかりました。
また、デンマークの再感染による調査でも67例がBA.1株感染後にBA.2再感染した(20~60日の間隔)としており、「BA.1感染後のBA.2再感染もきわめてまれに起こりうる」としています。母数が多くなれば、日本でも再感染例が起こる可能性はありますね。
ステルスオミクロン(BA.2株)の重症度は?
では、ステルスオミクロン(BA.2株)の重症度はどうでしょうか。
BA.2株が主流になっていたデンマークの発表によると「最初の分析では、BA.1と比較してBA.2の入院に違いはない」と発表しています。また、査読前の南アフリカの報告でも「入院率や重症度はBA.1株と変わらない」という結果でした。
また3月11日に発表されたイギリスのデータでは入院のリスクはBA.1株と比較して0.91倍(95%信頼区間:0.85-0.98)としており、BA.2株の入院リスクはやや低めではあるが、その差は非常に小さいとしています。
また査読前の日本のハムスターを用いた感染実験では、BA.2株はBA.1株よりも病原性は高いとしていました。しかし動物実験なので、評価としては臨床成績の方を優先して考えるべきでしょう。
総合して考えると、病原性としてBA.2株のほうが高い可能性はあるものの、現時点ではBA.1株と同程度といえそうです。さらに、(当然ですが)感染者数の増加により死者数が高くなってきます。「ステルスオミクロン(BA.2株)も弱毒だから、感染対策しなくてよいだろう」と軽視せずに、今後の波を乗り切りたいですね。
ステルスオミクロン(BA.2株)により今後の感染はどうなる?
ではステルスオミクロン株になった場合、感染状況はどのようになると予測されるでしょうか。
先行事例として、オミクロン株が最初に出た「アフリカ」を見てみましょう。アフリカではBA.2株にすでに置き換わって、さらに「BA.3株」~「BA.5」株による流行を見せ始めていますが、いずれも新しい波を形成しておらず、横ばいで推移しています。
さらに、日本でもステルスオミクロン(BA.2株)に徐々に置き換わっています。前述の通り5月1日には94%がステルスオミクロンに置き換わると考えられますが、感染者数は横ばいな状態です。
このことから4月下旬時点では、感染者数は置き換わりが進んでも横ばいに推移していくと予想されます。
ステルスオミクロン(BA.2株)のワクチンの有効性は?
ステルスオミクロン(BA.2株)に対するワクチンの有効性はBA.1株とほぼ同等と言えます。
英国の調査によると、BA.1株と比較したBA.2株の発症予防効果は以下の通りでした。
- ワクチン2回接種から25週以上:発症予防効果は20%程度
- ワクチン3回接種から2-4週間後:発症予防効果は70%程度
- ワクチン3回接種から15週間後超:発症予防効果は40-50%
先の日本のウイルス研究でも、BA.2株はBA.1株同様に誘導された免疫能を回避する性質があることが報告されていますので、それを反映しているものと思われます。
また、神戸大学から発表された査読前論文によると、ブースター接種によりBA.2株に対する中和抗体活性が上昇することがわかっており、既存のワクチンの有効性はステルスオミクロン(BA.2株)についてもある程度示されているといってよいでしょう。
ブースター接種についてはブースター接種とは?新型コロナ3回目ワクチンの効果や副反応・接種間隔についても参考にしてください。
ステルスオミクロン(BA.2株)への治療薬の有効性は?
ステルスオミクロン(BA.2株)は細胞レベルの実験では「一部の抗体薬が使えない」のが特徴です。
東大医科学研究所からの報告によると、BA.2株に対する治療薬の有効性を細胞を使って検討していますが、日本で特例承認済みの点滴薬である「ロナプリーブ®」「ゼビュディ®」では従来株に比べ効果が極めて低くなったとのことです。
一方。同研究でのレムディビル・モルヌピラビル・ニルマトレルビルに関する感受性は従来株と同等であったとしています。今後の臨床研究での有効性の確認も待たれるところですね。
新型コロナに対する治療薬の特徴については新型コロナウイルス感染症「軽症」の方の治療薬について【適応・効果・副反応】も参照してください。
ステルスオミクロン(BA.2株)の特徴のまとめ
いかがでしたか?ステルスオミクロン変異株の特徴をまとめると以下の通りとなります。
- 簡易検査法では従来のオミクロン株と分けることは困難:詳細な遺伝子検査が必要
- オミクロン変異株(BA.2)はBA.1よりも感染力が高い(家庭内感染・実行生産数)
- 入院率など重症化率はBA.1と同じ:ただし、動物実験では病原率の上昇の報告あり
- ワクチンの有効性もBA.1とほぼ同等
といえます。
またステルスオミクロンについてさらに特徴がわかり次第、適宜アップデートしていきます。
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【この記事を書いた人】
ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。かかりつけ医として、新型コロナの診療も含めて幅広く診療しております。プロフィールはこちらを参照してください。
更新履歴
- 2022年3月23日:3月23日感染症アドバイザリーボード資料およびデンマークの感染状況を更新
- 2022年3月31日:3月30日のアドバイザリーボード資料およびデンマークの推移から一部文章改訂
- 2022年4月7日:4月6日の感染症アドバイザリーボード資料より一部改訂
- 2022年4月13日:アフリカでの感染者数の推移を追記
- 2022年4月25日: 神戸大によるワクチンの効果についての査読前論文を追記
- 2022年4月27日:4月27日のアドバイザリーボード資料より一部改訂(感染者数の予測につき追加)
- 2022年5月1日:4月28日の英国のデータよりワクチンのデータを改訂
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