ここ最近、インフルエンザと新型コロナの同時流行が続き、発熱や咳、関節痛といった症状で相談されることが多くなりました。その中で「インフルエンザとコロナに両方感染しているのではないか」と心配される方もいらっしゃいますね。
例えば、コロナの自宅での検査キットが陽性だったとして、インフルエンザも調べた方がよいのでしょうか。
今回、インフルエンザと新型コロナの同時感染例について、同時感染の確率や重症になりやすいか、症状や治療法に至るまで解説していきます。
最後に動画でも解説していますので、あわせてご参照ください。
Table of Contents
インフルエンザとコロナの同時感染とは?
インフルエンザと新型コロナウイルス感染の同時感染は、文字通り「新型コロナとインフルエンザの両方のウイルスが同時に体内に存在すること」を指します。
基本的にウイルスは「ウイルス干渉」といって、あるウイルスが流行すると他のウイルスが流行しなくなるといった現象がおこるとされています。理論的には「あるウイルスに感染すると、ウイルスに対する免疫反応が起こるため、他のウイルスにも体の抵抗力ができるから」と考えられていますね。
実際、いわゆる「風邪」の原因ウイルスである「ライノウイルス」とインフルエンザ感染症について調べた論文によると、ライノウイルスに感染した間にインフルエンザになりにくいことが示唆されており、「ウイルス干渉は存在する」といわれています。
しかし、「1回の症状に1つのウイルスしか感染しない」という決まりがあるわけではないので、同時感染する場合も当然あります。
ライノウイルスとインフルエンザの同時感染も確認されていますし、新型コロナとRSウイルスやアデノウイルスとの同時感染も確認されていますね。
しかし、インフルエンザもコロナも両方とも流行ピークが重なった場合、もちろん同時感染するリスクが上昇するので注目されているというわけなのです。
インフルエンザと新型コロナの同時感染はどれくらいの確率で起こる?
では、どれくらいの確率でインフルエンザと新型コロナは同時感染するのでしょうか。
海外での報告としては以下の通りです。
- イギリスの2020年2月から2021年12月までの新型コロナ6,965名に対して同時感染率を調べた論文によると、ウイルスの同時感染は583人(8.4%)に認められ、そのうち227人(3.3%)がインフルエンザウイルスと同時感染していた。
- 2019年12月から2020年9月までの複数の論文をまとめた解析結果によると新型コロナとインフルエンザの同時感染率は0.8%であった。
- メイヨークリニックによる2020年~2022年4月までのインフルエンザ同時感染率は0.574%(同時陽性例103例/同時検査例17,932例)であった。
- ミズーリ州で行われた462名の新型コロナとインフルエンザの月間同時感染は7.1~48%にものぼり、平均しても33%であった。
- 2022年シーズンにおける、アメリカの18歳未満の小児を対象としたインフルエンザと新型コロナの同時感染の調査によると、小児インフルエンザ関連入院の6%、インフルエンザ関連死亡の16%が新型コロナと同時感染していた。
としています。
このように、各国の流行状況とその時点での国レベルでの体の抵抗力、ワクチン接種の有無などで大きく異なるのがよくわかりますね。
特に、インフルエンザもコロナも両方とも流行しているシーズンや地域では、同時感染する可能性もそれなりに上昇してくるでしょう。
また、インフルエンザシーズン中にインフルエンザワクチン接種を受けた人は、インフルエンザワクチン接種を受けなかった人と比べて同時感染する可能性が低かったとしています。
(参照:The Lancet「SARS-CoV-2 co-infection with influenza viruses, respiratory syncytial virus, or adenoviruses」)
(参照:Vaccine「COVID-19 and Influenza Coinfection Outcomes among Hospitalized Patients in the United States: A Propensity Matched Analysis of National Inpatient Sample」)
(参照:CDC「Prevalence of SARS-CoV-2 and Influenza Coinfection and Clinical Characteristics Among Children and Adolescents Aged <18 Years Who Were Hospitalized or Died with Influenza — United States, 2021–22 Influenza Season」)
インフルエンザと新型コロナの同時感染では重症化しやすい?
では、インフルエンザと新型コロナとの同時感染では重症化しやすいのでしょうか?
結論からいうと「入院するほどの状態なら、同時感染によって重症化する傾向がある」といえます。
先のイギリスによる新型コロナ6,965名と、うち227名のインフルエンザと同時感染をきたした論文によると
- 人工呼吸器をつけるほどの状態になる確率は、インフルエンザとの同時感染によって、1.68倍~4.14倍に上昇する
- 院内死亡に至る確率は、インフルエンザ同時感染によって1.49倍~2.35倍に上昇する
と報告しています。理論的にも、1つのウイルスだけでも体にそれなりにダメージを受けるのに、2つのウイルスに侵入されたら、さらにダメージが加速しそうですよね。
一方、重症化率が変わらなかったとする論文もあります。先のミズーリ州での新型コロナ452例、うちインフルエンザ重複感染例152名を解析した結果、「同時感染することによる入院の転機はかわらなかった」としています。
ミズーリ州の方が全体の人数も少ないことや、より軽度な方を中心に解析したことなどがあげられますね。
また、アメリカの小児を対象とした論文では、重複感染していない子供と比べて、より高い割合で人工呼吸器をつけていた(13% vs 4%)としており、インフルエンザとコロナの重複感染によって悪い転機を示唆しています。
全体的に考えると、「入院するほど新型コロナやインフルで重症化している状況なら、重複感染で悪い転機をとりやすい」ことがうかがえます。
逆に、もともと症状もほとんどないような状況なら、重複感染であったとしてもそこまで重症化しないかもしれません。
(参照:The Lancet「SARS-CoV-2 co-infection with influenza viruses, respiratory syncytial virus, or adenoviruses」)
(参照:Vaccine「COVID-19 and Influenza Coinfection Outcomes among Hospitalized Patients in the United States: A Propensity Matched Analysis of National Inpatient Sample」)
(参照:CDC「Prevalence of SARS-CoV-2 and Influenza Coinfection and Clinical Characteristics Among Children and Adolescents Aged <18 Years Who Were Hospitalized or Died with Influenza — United States, 2021–22 Influenza Season」)
インフルエンザと新型コロナの同時感染による症状の特徴は?
Mayo clinicからの報告によると、インフルエンザと新型コロナの同時感染によって「より強く症状が出やすい」ことが示唆されています。
具体的には、新型コロナのみ陽性の方と比較して、インフルエンザと新型コロナの同時感染の方は
- 咳:3.1倍(1.57倍~5.74倍)
- 発熱・悪寒:2.8倍(1.4~5.25倍)
- 頭痛:4.2倍(1.59~9.62倍)
- 筋肉痛・関節痛:4.2倍(1.59倍~9.62倍)
- 咽頭炎:3.0倍(1.1~7.2倍)
- 鼻炎:4.3倍(1.2~12.2倍)
となっていますね。なので、インフルエンザと新型コロナを同時に感染された方は、通常のコロナ感染よりも重い症状になりやすいといえます。
もともと新型コロナもインフルエンザも症状が重複しやすい感染症です。確かに2つのウイルスに同時に感染すればより強く症状として表れやすいのも納得ですね。
(参照:SARS-CoV-2 and influenza coinfection throughout the COVID-19 pandemic: an assessment of coinfection rates, cohort characteristics, and clinical outcomes)
(参照:日本感染症学会「この冬のCOVID-19とインフルエンザ同時流行の際の注意点」)
インフルエンザと新型コロナの同時感染に対する治療や薬は?
アメリカ「NIH」のガイドラインによると、「インフルエンザの抗ウイルス治療は、SARS-CoV-2 の同時感染に関係なく、すべての患者に対して同じです」と表記されています。
さらに、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防または治療に使用される抗ウイルス剤または免疫調節剤と、インフルエンザの治療に使用される抗ウイルス剤との間には、臨床的に有意な薬物間相互作用はありません」と記載していますので、
新型コロナの治療薬とインフルエンザの治療薬を使用しても問題ないことになりますね。
ただし、
- インフルエンザ、新型コロナの抗ウイルス薬治療は、原則、発症早期にしか効果が認められていないこと。
- インフルエンザの治療薬、新型コロナの治療薬もそれぞれ、費用が掛かるため、同時に処方すると金銭的に大きな負担を強いてしまう点。
などから、個々の症例にあわせて対処する必要があるでしょう。
3割負担の場合、インフルエンザの治療薬も2000円強~5000円弱、新型コロナの軽症用の経口治療薬で9000円であることを考えると、一律に使用することは医療従事者側からもためらう金額です。(2023年10月時点)
ただし、命や人生には代えられませんので、重症化する可能性や後遺症へのリスクの可能性を勘案しながら、患者さんが納得できる治療選択を一緒に模索していくと思います。
インフルエンザと新型コロナの同時感染についてのまとめ
今回は、インフルエンザと新型コロナの同時感染について解説していきました。まとめると
- インフルエンザと新型コロナが同時感染する確率は、解析方法やシーズンによっても大きな幅がある。最低で0.6~0.8%という結果もあるが、30%超を示す論文も存在する。全体的に考えるなら、3%程度と考えてよいだろう。
- インフルエンザと新型コロナの同時感染によって、全体的に「より悪化しやすく」「より症状が重く」なる傾向がある。ただし、もともとそこまで症状がない人が重複感染によってこれから重くなるというわけではない。
- 新型コロナの治療薬とインフルエンザの治療薬は使うことができるが、薬剤費の高さなどもあって、症例を1人ひとり考えながら適切に使用する必要がある。
といえます。
個人的には隔離期間が同等であることや、後述する治療薬の問題の点からも「インフルエンザとコロナも必ず両方検査しなければならない」とは考えません。
- 症状が非常に重い方
- 重症化リスクや入院リスクが強いと考えられる方
- インフルエンザと新型コロナの重複感染が心配な方
などに絞って、適切に検査や治療を行ってまいります。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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