こんにちは。一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介です。
新型コロナウイルスは2019年に発生して以来、さまざまな変異株が生まれました。その中でデルタ株に続き、オミクロン株が世界中で流行しています。日本にも市中感染が起こっているオミクロン株の特徴について、感染力や症状・重症化を中心に解説していきます。
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オミクロン株とは?
オミクロン株とは、2021年11月24日に南アフリカから報告された新型コロナウイルス変異株の1種です。WHO(世界保健機関)はこのB.1.1.529系統の変異株を11月26日に「懸念される変異株 (Variant of Concern; VOC)」と位置づけ、ギリシャ文字順に「オミクロン」と名付けました。
VOCとは、伝播性の上昇、病毒性の上昇、公衆衛生対応・診断・治療・ワクチンの効果の悪化、のいずれかが明らかになった、公衆衛生上問題となる変異株のこと。2022年2月現在で、VOCはアルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、オミクロンの5つになりました。(詳細はこちら)
では、実際オミクロン株で問題になることは何でしょうか。
オミクロン株の感染力(伝播性)は?
オミクロン株は他の株よりも感染(伝播)しやすいのが特徴です。そもそもウイルスの伝播しやすさには、
- ウイルス自体の細胞に侵入する能力 (infectivity)
- 感染者側のうつしやすさ(contagiousness)
- 未感染者側の罹りやすさ(susceptibility)
- ウイルスに対する環境ストレス(温度、湿度、換気など)
が関係します。(詳細はこちら)そのうち「ウイルスが侵入する能力」に関しては、オミクロン株のウイルス表面のスパイク蛋白は細胞表面のACE2への親和性が高く、細胞へ侵入しやすいと考えられています。また実際にオミクロン株がデルタ株より速く感染拡大しており、新規感染の中でオミクロンが優位を占める国も多くなっています。(WHOの見解はこちら)
接触者への感染を追跡した研究でオミクロン株はデルタ株に比べ伝播性が高いことが示唆されています。例えば、英国で家族内感染を追跡した研究では、接触者に伝播する確率がデルタ感染者からは約10%であったのに対し、オミクロン株患者からは18%でした。(詳細はこちら)オミクロン株の感染力ははデルタ株に比べて、潜伏期間も短縮しその速度は35%も増加していると考えられています。
もともとデルタ株は従来の新型コロナの2倍以上の感染力を持つといわれていますので、オミクロン株の感染力は従来の新型コロナの2.7倍以上の感染力を持つといえますね。
(注: 感染力が高いからといって「マスクが無意味」というわけではありません。マスクの意義については【新型コロナ】感染対策でのマスクの効果とデメリットについて解説を参照してください。)
オミクロン株による症状の特徴は?
オミクロンに感染した人の中には、無症状で済む人から、肺炎を起こして死亡する人までさまざまです。しかし複数の研究で、通常の新型コロナの感染症と以下の点が異なることがわかってます。
- 発熱・咳・だるさ・のどの痛みなどの風邪症状が中心である点
- 通常株より潜伏期間が短い: アメリカの報告例によると潜伏期間の中央値は3日としています。通常の新型コロナが5日ほどと考えられているので、2日ほど早いということになります。
- 若年での発症・入院数が増加: 日本でも2022年1月から成人だけでなく17歳以下の若年者や小児での発症例も急増してきています。(後述します)
- 重症化するまでの期間が短い: 広島県からの報告によると、陽性判明から2〜3日後に中等症II(酸素投与が必要なレベル)になるのが最も多く、従来の新型コロナ感染症の特徴である「7日前後から重症化」を大幅に短縮しています。
また味覚嗅覚障害が通常株・デルタ株に比べて少ないのも特徴の1つです。(詳細はこちら)
さらに感染性ウイルス排出期間(体内のウイルス量が検査基準値以下になるまでの期間)も他の株よりも短いのも特徴の1つ。
国立感染症研究所の報告では、ワクチンの接種の有無にかかわらず発症もしくは診断日より10日たっていれば無症状者および軽症者においては発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いと考えられています。
一方、海外の研究ですが、デルタ株や武漢株の感染性ウイルス排出期間は18日・13日と報告されているので、より自宅待機期間解除後の排菌の可能性は低くなったといえるでしょう。
自宅解除後のPCR検査含めて、新型コロナウイルスの一般的な対処については新型コロナウイルス感染症について【症状・臨床経過・濃厚接触】も参考にしてみてください。
※ なお、新型コロナの診療に際して『若年者の場合、検査を行わずに診断する』提言案が出されています。(いわゆるみなし陽性)しかし、当院では原則「検査を行わずに新型コロナと診断する」ことはいたしません。(他の感染症と同様です)そのため新型コロナ感染症が疑わしい方は、発熱外来の受診をお願いします。
オミクロン株の重症化リスクは?
オミクロンに感染した場合、他の変異株に感染した場合より重症化が軽い傾向にあります。
英国の報告では、一晩以上入院するリスクは40〜45%低いとしています。デンマークの報告でも、他の株が1.6%入院であったのに対し、オミクロン株感染者の0.6%が入院率としています。また大阪でも第5波と比較しても、重症化率は1.0%から0.13%と低下していますね。
こうした背景として香港大学の研究結果では「オミクロンは気管支内で、デルタや通常株と比べて速く増殖するのと対照的に、肺内での増殖速度は相対的に非常に遅い」可能性を示唆しています。実際に肺炎が起きにくいのであれば、こうした理由からかもしれません。
それでも、沖縄県の発表では「70歳以上で260人に1人死亡(0.38%)、50-69歳でも3000人に1人死亡」とされているので、中高年の方は十分注意しなければならない数字です。
また、6月に発表された大阪府によるデータによると、重症化率は0.11%であるものの、死亡率は0.26%であり、重症化率よりも死亡率が上回っています。こうした死亡例を解析した結果、大阪府では
- 第6波での死亡例は、第5波と比べて基礎疾患を有する方が多いこと
- 第6波での死亡例は、診断日の死亡が最も多く、基礎疾患での有無にかかわらず発症から3日以内の死亡が多いこと
- 第6波では「直接死因がコロナ以外の原因」であるものが多いこと(特に発症3日以内の死亡例)
などを理由としてあげています。(「直接死因がコロナ以外」であっても、間接的にコロナ感染が死亡の引き金になることは十分考えられるので、誤解のないようお願いします)
オミクロン株感染で重症化しやすい方は?
オミクロン株流行期での入院例を対象とした解析によると「重症化しやすい方として以下の方が言われています。
- 高齢の方: 3.3倍
- 心疾患の方:40.2倍
- 脳血管障害の方: 2.35倍
- 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の方: 4.23倍
- 肝疾患の方: 2.65倍
- 医師の判断した肥満の方: 2.36倍
- 腎障害または透析の方: 3.08倍
- 長期療養型施設入所の方: 2.89倍
逆にワクチン接種をされている方は中等症以上になるリスクが0.49倍に減っていますね。また同報告では、「長期療養施設の入所もリスク因子だったが、『ADL(活動レベルのこと)低下』がより重症な因子であるとしています。
いずれにせよ重症化については以下の理由からも慎重に解釈する必要があり、安易に「オミクロン株は重症化しないから感染しても問題ない」と考えるのは危険です。
- 年齢や基礎疾患によっては、依然として重症化しやすいこと
- 肺炎や呼吸器関連所見が軽度でも、合併症の併発や基礎疾患の増悪を来たす可能性があること。
- 軽症でも、後遺症や長期的なオミクロン株による影響はまだ検証されていないこと
なお新型コロナ「後遺症」については新型コロナ感染症の後遺症について【割合・咳・脱毛】でも解説していいますので、あわせて参考にしてください。
新型コロナ患者の自宅での死亡事例は?
実は、新型コロナの自宅死亡例が問題になっています。4月27日のアドバイザリーボード資料によると、2022年1月から3月31日の間に自宅で死亡された方は555名に上ります。十分な医療を受けられず死亡される方もいらっしゃることは、非常につらいことです。その内訳は次の通りです。
- 死亡時の年齢:80代以上55%、70代24%、60代10%、50代5%、40代4%、30代1%、20代1%
- 基礎疾患の有無:あり64%、なし25%、不明11%
- ワクチン接種歴:2回39%、未接種16%、3回5%、不明38%(ただし高齢者での接種率の高さから考えて慎重に解釈する必要あり)
- 家族状況:家族と同居46%、単身14%、不明40%
- 死亡直前の診断時の症状の程度:軽症・無症状43.4%、中等症7.0%、重症2.2%
- 生前の陽性が判明して自宅療養中に死亡:65.8%、死亡時に陽性判明:34.2%
- 発生届の届日が死亡日よりも前:36.2%、死亡日と同日:39.2%、死亡日より後:24.0%
- 自宅療養の希望あり:20.4%、希望なし:11.5%、不明:68.1%
もちろん「たまたま新型コロナが陽性だった」という例もあるかもしれませんが、基礎疾患の悪化が新型コロナと関与している場合も十分考えられます。
特にお年寄りの方や基礎疾患のある方は、たとえ軽症だったとしても「自宅で様子をみておこう」と判断せずに、早めに医療機関に受診した方がよいでしょう。
オミクロン株を含む新型コロナ感染症と季節性インフルエンザの違いは?
オミクロン株が重症化が少ないことを受けて、しばしば季節性インフルエンザと比較されて議論されます。実際、季節性インフルエンザと何が違うのか、厚生労働省では様々な角度から検討されています。検討されている主な違いは以下の通りです。
- 抗原性・病原性の変化: インフルエンザは流行した株から現れるのに対して、新型コロナ感染症では性質が大きく異なる変異株が現れます。
- 自然免疫・ワクチンに関する予防効果: インフルエンザは多くの方が一定の免疫を持ってますが、新型コロナでは変異により予防効果が落ちる可能性があります。(オミクロン株でも落ちましたね)
- 流行経路: インフルエンザでは保育園や小学校が起点になりますが、新型コロナでは若年層からの広がるケースがみられます(オミクロンに関しては、後述するように小児からの家庭内感染もしばしば認めます)
- 肺炎:インフルエンザでは1.1~2.5%程度ですが、新型コロナでは、肺炎の発症率が少ないオミクロン株でも5.6%に認めています。また新型コロナでは感染拡大に伴い早期治療が困難なケースも認めます。
- 脳症:インフルエンザでは異常行動や急性脳症は認めますが、新型コロナでは稀です。ただし、後遺症で集中力の低下が認められたり、小児でMIS-C(小児COVID19関連多系統炎症性症候群)が認めることがあります
- 後遺症:インフルエンザでは、稀に重症の方が長引くことがありますが、新型コロナではしばしば生じます。詳しくは新型コロナ感染症の後遺症について【割合・咳・脱毛・倦怠感】を参照してください。
- 致死率:5類感染症であるインフルエンザとの比較なので、扱い方に異なる点に留意が必要ですが、ワクチン接種率も高く、重症化が低いといわれたオミクロン株流行期で、有症状に絞らなくても致死率は0.13% であり、インフルエンザ0.01-0.09%よりも上回っています。
総合して考えると、今後ワクチン接種が進み自然免疫も伴って徐々に低下すると予測されていますが現時点で画一的に「インフルエンザ並み」ということは難しそうです。
その後、新型コロナとインフルエンザの比較で「60歳未満」と「60歳以上」で分けた重症化率・致死率の差を比べた検討が行われました。それによると、
- 60歳未満:重症化率はオミクロン株流行期で0.03%(季節性インフルエンザは0.03%)
- 60歳以上:重症化率はオミクロン株流行期で2.49%(季節性インフルエンザは0.79%)
と60歳未満ではオミクロン株の重症化率・致死率はインフルエンザとほぼ同等、60歳以上では重症化率・致死率ともインフルエンザの約3倍~4倍という結果になりました。
ということは、若年者にとっては重症化率・致死率は「インフルエンザ並み」と考えてよい一方、以下の問題には留意が必要でしょう。(厚生労働省の注釈でもある通り、データの算出の仕方がそれぞれ異なる点も注意が必要です)
- 後遺症の問題:私自身も診療でよく経験しますが、新型コロナの方がインフルエンザよりも後遺症が長引きやすく、重篤な後遺症が発症しやすい傾向にあります。この点は若年者であっても同様です。詳細は新型コロナ感染症の後遺症について【割合・咳・脱毛・倦怠感】を参照してください。
- 高齢者にも容易に感染拡大させやすい問題: 新型コロナはその強い感染力から、感染経路や感染の動向をみると「まず若年者がかかり、その後高齢者がかかり重症者数を増やす」という傾向にあります。確かに若年者はインフルエンザ並みと考えてよいですが、60歳以上ではそうはいきません。特に若年者と同居している高齢者は注意ですね。
濃厚接触者をどのようにするか含めて、各変異株の性質を見極めながら対策をする必要がありますね。
子供に対するオミクロン株感染の特徴は?
子供の感染拡大が増え、今や子供のコロナ感染は珍しいものではなくなりました。子供のオミクロン株感染は何の特徴があるのでしょうか。代表的な小児感染例の特徴は以下の4つです。
- 子供も感染しやすくなっている: 2022年1月に入ってからそれぞれ26.1%・26.8%と急増しています。(詳細はこちら)
- 症状は年齢によって一部異なる: 小児科学会によると、4歳以下の症状は「発熱」「鼻水」「咳」が中心であるのに対して、5~12歳では「発熱」「のどの痛み」「咳」が中心でした。
- 子供は入院率は低下するものの、酸素投与率はデルタ株と同等:国内発症例の解析ではデルタ株と比較して入院率は低い(28.6% vs 53.4%)ものの、ICU入院率(0.4% vs 0.6%)や酸素使用率(2.4% vs 2.0%)はデルタ株と同等でした。
- 新型コロナの治療薬が一部使えない: 「ラゲブリオ®」に代表される軽症者用の治療薬は小児には使用できません。
こうした新型コロナの状況と、新型コロナによる社会的な影響を鑑みて、厚生労働省では以下の通り発表しています。(6月1日の厚生労働省の見解による)
- マスク着用について:2歳以下はマスク着用を勧めない。2歳以上についても、周りに感染者などない状況ならば、他者との身体的距離にかかわらず、マスク着用を一律には求めない。
- 学校行事・休校について:「感染対策を工夫した上で、できるだけ実施する方向で考えてもらいたい。」
- 軽症者への対応について:「子どもが元来健康で、現時点で全身状態として元気であるならば必ずしも一律に検査を受けなくて良い」
- ワクチン接種について:「重症化予防効果は期待できるが、有害事象への心配を拭いきれない当事者に努力義務を課して接種させるだけの説得力はない」
他、小児コロナ感染症のより詳細なデータは、【オミクロン株】子供の新型コロナ感染症の特徴について【症状・後遺症・ワクチン】にまとめましたので、あわせて参照してみてください。
オミクロン株への抗原キットやPCRでの診断精度の違いは?
オミクロン株はこれまでの新型コロナウイルス検査で陽性となるのでしょうか?
結論から言うと「 オミクロン株は現在国内で使用されているSARS-CoV-2 PCR診断キットで検出可能」です。最近ではオミクロンに特徴的な変異の有無をチェックできるPCRキットもできており、配列解析前にオミクロンらしいかどうかを知ることができるようになっています。(詳細はこちら)
また抗原定性検査キットについても、WHOが「診断精度は、オミクロン株による影響を受けない」可能性を示唆しています。(詳細はこちら)新型コロナウイルス抗原検査の具体的な精度に関しては新型コロナウイルス抗原検査の精度は?費用や判定時間も解説を参照してください。
オミクロン株に対するワクチンの効果は?
オミクロン株についてのワクチンの効果については、以下のことがわかっています。
- 海外のデータでは2回接種から4~5か月たつと発症予防効果は10%に低下してしまうものの、入院予防効果は54%と長期間保たれる。
- 日本の長崎大学熱帯医学研究所による共同研究によると「16-64歳におけるオミクロン株流行期によるワクチン2回接種での有効性は接種後181日経過後も34.9%(13.3-50.9%)、3回目接種では68.7%(55.6-77.9%)の有効性であった」と発表しています。
- 同研究での65歳以上の症例では、ワクチン未接種の方が49名しかおらず、2回目接種時との有意差はないものの、発症予防効果が2回目接種で23.3-43.3%、3回目接種で77.9-80.5%となりました。
このことから「ワクチン接種・ブースター接種で、重症化や発症率はある程度予防できる」といえそうです。
各ワクチンの違いを含めて、さらに詳細なデータはブースター接種とは?新型コロナ3回目ワクチンの効果や副反応・接種間隔についてでも解説していますので、あわせて参考にしてください。
オミクロン株への再感染の可能性は?
では新型コロナウイルスに感染したことがある方は、オミクロン株に再感染する可能性はあるのでしょうか。
答えは「オミクロン株は他の株よりも再感染する可能性が高くなる」です。
英国インペリアルカレッジロンドンの研究では、新型コロナウイルス感染歴のある人にとって、デルタ株での再感染よりもオミクロンでの再感染のほうが5.4倍起こりやすい(ワクチン未接種の場合6.36倍、ワクチン接種後では5.02倍)ことが示唆されています。
これもオミクロンが他の株の感染で作られた抗体から逃れるようなウイルスであることが原因として考えられます。
オミクロン株の治療薬の有効性は?
新型コロナウイルスの治療薬として様々な治療薬が開発されています。2022年1月までに承認された薬を役割に応じて分けると以下の3種類です。
- ウイルスの侵入を防ぐ薬(中和抗体薬):カシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ®)、ソトロビマブ(ゼビュディ®)
- ウイルスの増殖を抑える薬: モルヌピラビル(ラゲブリオ®)、レムデシビル(ベクルリー®)、ニルマトレビル/リトナビル(パキロピッド®)
- 過剰な免疫反応や炎症を抑える薬: デキサメサゾン、バリシチニブ
このうちウイルスの増殖を抑えるラゲブリオ®、ベクルリー®、パキロピッド®や、過剰な免疫反応や炎症を抑えるデキサメサゾン、バリシチニブはオミクロン感染に対する治療にも効果が期待できます。
しかしウイルス表面に結合し、ウイルスの侵入を阻止する抗体医薬は、その標的部位に変異があると結合しにくくなってしまいます。カシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ®)はオミクロンを中和(結合)しにくく、効果が落ちるため治療には推奨されていません。
一方、ソトロビマブ(ゼビュディ®)はオミクロン株に対する活性は他の株より低いながら保っており(詳細はこちら)、NIHのCOVID-19治療ガイドラインにもオミクロン株にも対応可能な治療薬として掲載されています。ただし、昨今後述する変異株の種類が多く、それぞれの治療薬の有効性を再評価する必要があり、イギリスではそれぞれの変異と治療薬の有効性を報告しています。(詳細はこちら)
変異株含めた新型コロナ感染症治療薬の詳細は新型コロナ感染症「軽症」の方の治療薬について【適応・効果・副反応】にも記載しましたので、そちらも参照してください。
BA.5株を含む他のオミクロン変異株について
実はオミクロン株(BA.1株)・ステルスオミクロン(BA.2株)以外にもオミクロン株やデルタ株との組み換え体ができていることが分かっています。「デルタクロン」といって、「デルタ株とオミクロン株の組み換え体」があることが示唆されていました。
実際に英国のレポートやアメリカCDCのデータなどよると、代表的なものに下記の6種類あることが言われています。
なお、現在日本で、感染拡大が懸念されているのは、そのうちの「BA.5株」になります。ですので、あわせてオミクロン「BA4株・BA5株」の特徴について【症状・重症化】を参照していただけますと幸いです。
① XD株
XD株はデルタ株とオミクロン株の組み換え体の1つです。XDはオミクロンS遺伝子がデルタ遺伝子に組み込まれたものです。いくつかのヨーロッパ諸国で確認されています。
② XE株
XE株はオミクロン株(BA.1株)とステルスオミクロン株(BA.2株)の組み換え体です。S遺伝子を含む大部分の遺伝子はBA.2株で構成されています。まだイギリスでも0.7%しか伝搬されていません。(詳細はこちら)しかし3月30日のイギリスのデータではXE株はBA.2株より12.6%高い成長性をもつと考えられています。また、直近3週間ではXE成長率は20.9%に達していますが、まだ重症化率などを含めて未知数です。日本では3月26日にアメリカから帰国した女性から初感染が確認されました。
③ BA.4株
2022年1月10日に南アフリカで発生して以来、欧米諸国を中心に確認されている変異株です。遺伝子的にBA.2に近い変異株と考えられています。BA.4株の成長率はBA.2株の1.24倍と考えられており、ステルスオミクロンBA.2株よりも感染力が高いことが示唆されています。重症化率の変化は不明です。(詳細はこちら)
④ BA.5株
こちらも南アフリカを中心に検出されている変異株の1つです。BA.2に近い変異株と考えられています。1月3日~4月25日までで、南アフリカ134例の他、ポルトガル57例・ドイツ52例・イギリス17例など、欧米中心に報告されています。BA.5株も実行再生産数がBA.1株の1.40倍とBA.2株よりも高いのが特徴の1つ。重症化率はまだ未知数です。(詳細はこちら)
またBA.4株・BA.5株については南アフリカからの査読前論文では「(特にワクチン接種を受けていない場合)従来のオミクロン株(BA.1株)に感染していてもBA.4/BA.5株に再感染しやすい」ことが示唆されました。そのため、BA.4株やBA.5株により新しい「波」が引き起こされる可能性が報告されています。
ただし日本でもBA.5株のモニタリングがされていますが、2022年6月時点でも2例しか報告されておらず、主流株に至っていません。
実際、各国でBA.2株からBA.4株やBA.5株への置き換わりが進んでおり、置き換わるスピードは上図の通りです。
⑤ BA.2.12.1株
今、アメリカで3月から徐々に割合を増やし、4月30日時点で全体の36.5%を占めているのが、「BA2.12.1株」と呼ばれる変異株です。ニューヨーク保険局によると、BA2.12.1株はBA.2株の23-27%感染率が高いとされます。4月末のWHOの発表では「BA.2株と比較して、臨床的な特徴や重症度の違いを示唆する証拠はない」としていますが、BA4株・BA5株同様、査読前論文では「従来のオミクロン株で感染したことで得られる免疫から回避する可能性」が示唆されています。(つまり再感染しやすいということですね)(詳細はこちら)今後さらなる解析がなされていくことでしょう。
特に注意されている5種類を上げましたが、実際は非常に多くの変異株が確認されており、いずれもBA.2株よりも「高い成長スピードをもつ」ことが確認されています。
⑥ BA.2.75株
BA.2.75株はインドで発見され、10か国に広がりを見せているBA.2株由来の新しい株です。世界保健機関ではすでにBA.2.75株について警告しており、亜種の監視をつづけています。
まだ、BA.2.75による症例は少ないですが、数は今後数週間で増加すると予想されています。2022年7月18日の時点で、英国でも24件のBA.2.75が発生しており、20人はイギリス、3人はスコットランド、1人はウェールズに発生したとのことです。
東京でもBA.2.75株の感染例が確認されています。
(参照:SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 44)
オミクロン株についてのまとめ
オミクロン株は日本を含め世界で急増しています。しかし、オミクロンはこれまで通りの検査で見つけることができ、従来の薬で効くものも複数あるため、症状が出たときに早めにクリニックに受診し検査することが大切です。
また3回目のワクチンを打つことで、デルタ株等に対してほどの効果はないかもしれませんが有症状のオミクロン感染を防ぐ一定の効果はあります。
重症化が少ないから『ただの風邪』と侮らず、感染予防対策・重症化予防対策に努めましょう。
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【この記事を書いた人】
この記事は、当院院長の伊藤大介と感染症専門医と共同で作成しました。プロフィールはこちらを参照してください。
© 宗仁会 ひまわり医院
更新履歴
- 2022年5月21日:英国UKHSAのデータをもとに、変異株についてアップデート
- 2022年6月1日:小児に対する厚生労働省の見解をもとに一部記載改訂。
- 2022年6月8日:ワクチンの有効性について、長崎大学の研究に基づきアップデート
- 2022年6月24日:感染症アドバイザリーボード(6月23日)の資料から重症化率についてアップデート。(BA.5株の現時点の検出割合もアップデート)
- 2022年7月13日:BA.2.75株について追記
- 2022年7月16日:インフルエンザと新型コロナの比較について、7月13日の感染症アドバイザリ-ボード資料から追記
- 2022年7月24日:
はじめまして。
市立福知山市民病院で感染管理認定看護師をしております芦田尚加と申します。
コロナについてネット検索していると先生がお書きになっているコラムに巡りあえました。
色々な文献に基づき、記載されており、本当に勉強させていただいております。
いまは色々な情報がありますが、先生がお書きになっている内容はとても勉強になります。
私も正しい情報を伝えなければいけない立場として、何を基に学習して知識を増やしていくか等勉強させていただきたいと思います。
医師でもないのに先生がお書きになったコラムへのコメントなど大変失礼しました。
勉強になりました。ありがとうございます。
コメントいただき大変ありがとうございます。ひまわり医院院長の伊藤大介です。
こちらこそ、そういっていただき非常にうれしく思います。
適宜情報をアップデートさせていただいておりますので、また参考にしてください。