こんにちは、ひまわり医院です。突然ですが
- 肝臓の数値が高く「脂肪肝」といわれた
- 脂肪肝の治療方法はダイエット以外ないといわれた
- 脂肪肝なのはわかるが、何をすればよいのかわからない
という方はいませんか?健康診断で言われても自覚症状に乏しく、なかなか「本腰」になれないのが脂肪肝。お酒が悪いのはわかっている、食生活や有酸素運動が大切なのもわかっている、けどなかなかできないという方も多いのではないでしょうか。
しかし、脂肪肝を放置するのは厳禁。脂肪肝は高率に肝臓の慢性炎症や線維化を起こし、肝硬変や肝臓がんなど命に関わる疾患につながる可能性があるからです。
では、脂肪肝に対してどのように対策していけばよいのではしょうか。今回は脂肪肝の症状や原因、薬物治療による改善方法について解説していきます。
健康診断で肝臓の数値が悪いといわれた方は肝臓の数値が悪いといわれたら?肝機能の数値の見方や改善方法も解説も参照してみてください。
また、脂肪肝に対しても食事療法については【医師が解説】脂肪肝の食事について【コーヒー・バナナ】も参考にしてください。
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脂肪肝とは?
脂肪肝とは「余分な糖質や脂質が中性脂肪に変わり、肝臓に蓄積された状態」のこと。
生活習慣の乱れ(食べ過ぎ、運動不足など)によって発症することが多いですが、アルコールによって脂肪肝になるケースもあります。脂肪肝のうちアルコールや薬剤・遺伝子疾患などが原因でない脂肪肝のことを「NAFLD(Nonalchohlolic fatty liver)」といわれます。
「NAFLD」の診断基準は「画像もしくは組織学的に肝細胞に5%以上の脂質が存在すること」ことを指しますが、脂肪肝では一般的に肝細胞の30%以上に中性脂肪がたまると診断されます。
そのため厳密には肝臓の細胞を一部とって、肝細胞の中にどれくらい脂肪的がついているかを見る必要がありますが、痛みやリスクの観点から病理検査まですることはなく、エコー検査や血液検査などから臨床的に判断することがほとんどですね。エコー検査では「肝腎コントラスト」といって、肝臓が脂肪の沈着により腎臓よりも白く映るようになってきます。
脂肪肝は肥満人口の増加とともに増加しており、男性の有病率が32~41%、女性で9~18%といわれています。男性の方が多い傾向です。実は小児でも4~10%は脂肪肝であるといわれています。
ここで「私は肥満でないから脂肪肝でない」と考える方がいますが、それは間違いです。実は肥満でない方も7~20%は脂肪肝であることが言われています。
さらに「非アルコール性脂肪肝」の中に、肝硬変や肝癌に進行するタイプである「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」になる可能性があり、放置すると「脂肪肝➡NASH➡肝硬変・肝がん」と時間をかけてゆっくり進行していきます。
ちなみに、脂肪肝(NAFLDからの肝がん発生率は1年で1000人あたり0.44人ですが、NASHでは1000人あたり5.29人、肝硬変では1000人あたり最大22.6人と上昇していきます。
そのため「脂肪肝でも放置で大丈夫」と考えるのは非常に危険で、「体のサイン」と受け止めてきちんと治療することが大切です。
(参照:日本消化器病学会・日本肝臓学会 NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改定第2版))
(参照:e-ヘルスネット「脂肪肝」)
(参照:Therapies for non-alcoholic fatty liver disease: A 2022 update)
(参照:日本病理学会「病理コア画像」)
脂肪肝の原因は?
脂肪肝の原因には生活習慣が大きくかかわります。例えば脂肪肝のうちアルコールを除いた「NAFLD」の原因として以下のことがあげられます。(もちろんアルコールも脂肪肝の原因になりますので、アルコールは控えましょう)
① 肥満
脂肪肝の最も重要な原因は肥満です。特に内臓全体の脂肪量と肝臓の脂肪量は最も大きく関係します。
なぜ肥満で脂肪肝になるかというと、肝臓の役割の1つに「使いきれなかった糖分や脂肪酸などを中性脂肪やグリコーゲンとして蓄える」という働きがあるからです。
昔はブドウ糖に変換しやすい「グリコーゲン」の形にして肝臓に貯蓄することで、有事の際に素早く力を発揮できるようにしていました。
しかし現代になり、有事の際にグリコーゲンを消費する機会が少なくなりました。そのため、使いきれなかった糖分や脂肪に逆にため込み続けることとなり、脂肪肝になってしまうのです。
また肥満に関連したさまざまな疾患の中でも、2型糖尿病が脂肪肝の発症と最も関連が強いことが分かっています。
② 飽和脂肪酸のとりすぎ
肥満と関連しますが、過剰な脂質、特に飽和脂肪酸やコレステロールの摂取は脂肪肝の発症や進展に影響を与えるといわれています。
過剰な脂質が肝細胞に流入すると、酸化ストレスの亢進やインスリン抵抗性(インスリンの体への効きが悪くなること)の増加、腸管からのエンドトキシンの流入がすすみます。そして、後に肝硬変になる「NASH」の病態進展へとつながっていくのです。
同じ脂質でも「不飽和脂肪酸」はインスリンの効きをよくし、肝臓の脂肪量を低下させることが報告されています。そのため、「飽和脂肪酸から不飽和脂肪酸に切り替える」ことは脂肪肝治療にとても大切です。
③ ホルモン異常や睡眠時無呼吸・術後など
副腎や下垂体・甲状腺・性腺ホルモン異常は、インスリン抵抗性や脂質代謝にも関わるので、脂肪肝の原因としても十分考えられます。
例えば甲状腺は「体全体の代謝」をつかさどるホルモンです。橋本病などで甲状腺機能が低下しやすい状況だと、体の代謝が低下し、コレステロールが上昇。脂肪肝につながっていきます。
実際4,648人の健診データを用いた横断研究では、甲状腺機能低下症の方(fT4<0.7 ng/dl未満)はNAFLDの発症率が1.71倍になりますが、甲状腺機能が正常範囲内でも低い方(0.7~1.8 ng/dl)の方でもNAFLDの発症率が1.36倍になることがわかっているのです。
他に極端な食事制限などで無理なダイエットをすると「低栄養性脂肪肝」として発症することもありますし、睡眠時無呼吸症候群の方・乾癬の方・膵がんの手術でよく行われる「膵頭十二指腸切除術」の術後の方も脂肪肝になりやすいことがわかっています。
このように「脂肪肝」といってもさまざまな原因で脂肪肝になるのですね。食生活の見直しとともに、自分にとっても脂肪肝の原因を知ることも大切です。
(参照:Non-alcoholic fatty liver disease across the spectrum of hypothyroidism)
(参照:栄養障害とsteatohepatitis: その根底にあるものは何か?)
(参照:日本消化器病学会・日本肝臓学会 NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改定第2版))
脂肪肝の薬物治療による改善方法は?
繰り返しますが、脂肪肝の多くは生活習慣の見直しがもっとも大切。ですので、後述する「脂肪肝の方の食事」「脂肪肝の方の生活習慣の見直し」守ってもらいながら、治療を進めることになります。
2020年のNASFLD/NASHに関するガイドラインによる推奨薬剤は以下の通りです。(ただし、「脂肪肝」だけの病名では保険適応になりませんので注意が必要です。)
① ビタミンE
ビタミンEは、抗酸化作用があり、脂肪肝に関連する肝細胞の酸化ストレスを軽減することができます。非アルコール性脂肪肝炎(NASH)患者に対して、ビタミンEの摂取が肝臓の炎症や線維化の改善に効果的であることが複数報告されています。
例えば、2010年に行われた多施設大規模ランダム化試験によると、ビタミンEを400 IU/日を6か月投与することで、肝臓の脂肪化を有意に改善していることが示されています。また、後述する「ピオグリタゾン」や「ウルソデオキシコール酸」と組み合わせることで、さらに代謝改善効果を期待できるとする論文もありますね。ただし、ビタミン剤だからといって
- ビタミンEの過剰投与によって出血傾向をきたす危険性があること。
- 厚生労働省の食事摂取基準では、健常男性成人で800mg/日と定められていること。
- 冠動脈疾患を対象とした介入試験では、長期のビタミンE投与が死亡率を増加させたこと。
など、ビタミンEのとりすぎによる弊害にも注意が必要です。
② 糖尿病治療薬
糖尿病を合併している脂肪肝の方で有効な薬剤がいくつか報告されています。例えば、糖分を尿からは排泄する薬(SGLT2阻害薬)やインスリンの働きをよくするお薬(チアゾリジン誘導体)などです。
まず、チアゾリジン誘導体(ピオグリタゾン)はインスリン感受性を向上させる作用があり、糖尿病治療薬として使用されています。脂肪肝患者において、インスリン抵抗性の改善が肝臓の脂肪蓄積を減らすことにつながるため、チアゾリジンは脂肪肝治療に有効とされていますね。
SGLT2阻害薬も尿から糖を排出することで血糖値を下げる作用があり、糖尿病治療薬として使用されています。また、体重の減少を促す効果もあり、脂肪肝患者に対して有益な効果が期待されています。
いずれの薬もランダム化比較試験や観察研究などで、脂肪肝に有用であった報告がされています。
しかし、どの糖尿病治療薬も脂肪肝そのものには保険適応はないので、糖尿病として治療する上での候補といえるでしょう。
③ 脂質異常症の治療薬
「コレステロールを下げるのだから、肝臓中の脂肪も減らせるのではないか」と思うのは当然でしょう。しかし、有用性も一部では認められているものの、上記2つの薬よりは効果は限定的です。
いくつかの論文では、脂質異常症の治療薬によって肝機能も改善するという報告はあるものの、間組織での改善効果まで証明した論文は少なく、エビデンスとしては十分ではありません。
また、エゼチミブなど一部の脂質異常症改善薬の検討は不十分とされているため、脂質異常症改善薬は「弱く推奨」にとどまっています。
ただし、現在中性脂肪を抑える薬「ペマフィブラート」を中心として研究が進めあられている状況であり、脂肪肝の有用性に期待がもたれるところです。
糖尿病に比べて脂質異常症の方が圧倒的に患者数が多く、脂質異常症と脂肪肝を合併している方も多いため、保険診療として検討しやすい薬であることがメリットとなりますね。
④ 高血圧の薬(ARB・ACE阻害薬)
「なんで高血圧の薬が脂肪肝にとってもいいの?」と思うかもしれませんが、脂肪肝にかかわる「肝星細胞」には「アンジオテンシンII受容体」があり、肝星細胞にアンジオテンシンがくっつくことで、細胞が活性化されて肝臓の炎症や線維化がうながされることがわかっています。
実はこのアンジオテンシンは血圧を強力に上げるホルモンとしても有名で、高血圧で使われる薬である「ARB」「ACE阻害薬」はいずれもアンジオテンシンを作らせないようにする薬です。そのため、高血圧の薬でありながら、脂肪肝にも有用であるというわけです。
実際、ロサルタンやテルミサルタン・エナラプリルなどの薬剤が、肝臓の線維化を抑える働きを持つことが臨床研究でも報告されています。
NASH患者の高血圧合併は70%にも上るといわれていますので、脂肪肝には適応がないものの、「高血圧症」としてARB・ACE阻害薬を投与しつつ、脂肪肝も抑えるといったことが応用できますね。
【番外】ウルソデオキシコール酸は、常用量では脂肪肝への有用性が認められない
「肝機能を改善する薬」というと必ずと言っていいほど出されるのが「ウルソデオキシコール酸」(ウルソ®)です。しかし、常用量のウルソデオキシコール酸では、ランダム化比較試験や複数の論文をまとめた「メタ分析」でも有用性は完全には認められていません。
ただし、高容量のウルソデオキシコール酸では有用である可能性があり、今後の研究に期待ですね。
患者さんの状態に合わせて、脂肪肝に対する薬剤を提案していきますので、ぜひご相談していただけたらと思います。
また、繰り返しますが、脂肪肝は何よりも「食事」や「生活習慣の改善」が大切。詳しくは脂肪肝へのおすすめの食事改善法について解説【減量・コーヒー・アルコール】を参照してください。
(参照:日本消化器病学会・日本肝臓学会 NAFLD/NASH診療ガイドライン2020(改定第2版))
脂肪肝の症状や原因・薬物治療についてのまとめ
いかがでしたか?脂肪肝について症状から治療まで幅広く解説していきました。まとめると
- 脂肪肝とは、様々な理由で肝臓の細胞に中性脂肪がしずく状にたまったもの
- 脂肪肝から肝炎や肝硬変・肝がんが発生することがあり、定期的なフォローや管理が必要
- 原因も様々ですが、主な原因は「肥満」「アルコール」「インスリン抵抗性」
- 脂肪肝に対する薬物治療もありますが、生活習慣の改善が最も大切
といえます。「脂肪肝=減量」というだけではないこと、よくわかったのではないでしょうか。(実際やせている方で脂肪肝の方もたくさんいます)それぞれにあったアドバイスをしていきますので、ぜひ気軽にご相談ください。
脂肪肝の食事療法や生活習慣の改善方法については、脂肪肝へのおすすめの食事改善法について解説【減量・コーヒー・アルコール】を参照してください。
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【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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