- 毎回の健康診断で「肝機能異常」といわれてしまう
- 原因がわからないけど、年々肝機能の数値があがっていく
- 肝機能に「AST」や「ALT」「γ-GTP」などの記載があるが、何の数値かよく説明されない
そのような方のために、ひまわり医院では肝機能障害の方の数値の見方やくわしい検査・改善方法に至るまで、わかりやすく診療しています。
肝臓とは?

肝臓は人の体内で最も大きい臓器で1kg~1.5kgの重さがありますが、あまり知られていない臓器の1つです。実際「肝臓=アルコール」と考えている方が多いと思います。しかし、判明している働きだけでも500以上あり、主な働きは以下の通りです。
- からだに必要な栄養を合成したり貯蔵し、必要な時に体にエネルギーとして配ります
- アルコールだけでなく、薬や体にとって有害な物質を分解し、体に排泄します
- 脂肪の紹介にかかせない「胆汁」という消化液を作ります
- 肝臓にも免疫機能があり、感染した細胞や老化した細胞を処理しています
このように肝臓を一言でいうと「体から取り込んだものを自分に合った形に変換し、体を維持する臓器」といえます。
しかし肝臓は「沈黙の臓器」といわれている通り、肝臓に障害があっても「なかなか症状に合わられない」のが特徴の1つです。そのため肝機能を数値でモニタリングして、肝機能に異常がないか健康診断や定期健診などで定期的にチェックしています。
今回はその中でも、健診でもよく見かける代表的な数値である「AST(GOT)」「ALT(GPT)」「γ-GTP」についてお話しします。
AST(GOT)とは?

ASTとは「アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ」の略で、肝臓の中にある酵素の1種です。実際には肝臓だけでなく、心臓の筋肉や骨格筋などにも見られます。心臓や肝臓になんらかの障害があると、血液中にASTが漏れ出してきます
そのためASTは「どの程度『今』肝臓が炎症を起こしているか」の指標の1つです。実際には、ASTは心臓などにもあるので、後述するALTやγ-GTPなどの数値と総合的に考えて考えて判断します。
昔はGOT(グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ)と記載されていましたが、ASTが国際基準であるため、ASTの表記に変更されています。
ALT(GPT)とは?
ALTとは「アラニンアミノトランスフェラーゼ」の略で、肝臓の中にある酵素の1種です。ALTは肝臓に最も多く分布され、ASTと同様に肝臓になんらかの障害があると、血液中にALTも漏れ出してきます。
そのためALTもASTと同様に「どの程度『今』肝臓が炎症を起こしているか」の指標の1つです。しかし、ASTとALTでは例えば以下の違いがあります。
- ALTは主に肝臓で、ASTは心筋や赤血球にも分布: ASTが圧倒的に高い場合、原因が肝臓ではあんく、心疾患や溶血性貧血などで高くなることがあります。
- 血中の半減期(漏れ出してから血液への残りやすさ)がASTは11~15時間に対して、ALTは40~50時間: 肝臓が急激に壊れる「急性肝炎」ではAST中心に高くなりますが、慢性的な肝炎や脂肪肝はALT中心に高くなります。
- アルコール性肝炎ではAST中心になる: これは(難しい話ですが)エタノールによってALTの合成が抑えられ、障害がミトコンドリアにも及びASTが漏れやすくなるからです。
このようにASTだけでなくALTも測ることで単に「肝臓が壊れている」ではなく「どんな肝臓の状態か」を予測することができます。(参照:CRC HP)
ALTもかつてはGPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスフェラーゼ)と呼ばれていましたが、国際基準にならって、ALTと表記されるようになりました。
γ-GTPとは?

γ-GTPは「ガンマグルタミルトランスペプチダーゼ」の略で、アミノ酸の生成にかかせない酵素です。γ-GTPは、主に胆道(肝臓から十二指腸への胆汁の通り道)・すい臓・腎臓の細胞に含まれています。特に胆汁の分泌に障害があがってくると上昇してくるのが特徴です。
ASTやALTは「肝臓」なのに対してγ-GTPは「胆道」が中心なので、障害を特定するのに有用です。
また、γ-GTPはアルコールに敏感に反応し、肝障害を起こしていなくても、普段からよくお酒を飲む人では数値が上昇します。さらに近年、アルコールに関係なく生じた非アルコール性脂肪性肝炎(NAFLD)でもγ-GTPが上昇してくることがわかってきました。(厚生労働省HPはこちら)
AST・ALT・γ-GTPの値と予想される疾患のまとめ

上記からAST・ALT・γ-GTPが高い場合を簡単にまとめると以下の通りです。
- AST・ALTが高い場合:肝臓の現在の炎症が強いことを示します。例えば急性肝炎(原因を問わず)・アルコール性肝炎・慢性肝炎・脂肪肝など。ASTのみが高い場合は、肝臓以外の疾患も考慮します。
- γ-GPTが高い場合:胆汁の分泌に関わる障害が強い場合や、アルコール・薬剤性肝障害などであがることがあります。
実際には一言で「肝機能」といっても「肝臓の現在の炎症」と「肝臓がどの程度すでに障害されているか」は別ものです。肝臓がどの程度障害されているかは、ビリルビンやアルブミンなどの他の指標が使われます。
例えば「肝硬変」「肝がん」などでは、現在の炎症がなくても高度に肝機能が障害されていることがあります。この場合、AST・ALT・γ-GTPは正常でも、他の肝臓の数値(直接ビリルビンやアルブミン・PT・血小板など)が悪化します。
そのためASTやALT・γ-GTPで仮に正常だったとしても「肝臓に現在炎症はない」ことを示すだけで「肝臓の状態が正常である」ことを示すわけではないことに注意が必要ですね。
脂肪肝が長期にわたっている方や、アルコールの多飲を長期にされている方は「肝臓の障害がどこまで悪化しているのか」調べてもよいかもしれません。該当される方は、一度医療機関へご相談いただくとよいでしょう。
肝機能の改善方法は?

「肝機能」といってもさまざまですが、「肝機能が悪い」といわれたら次に何をすればよいのでしょうか。肝機能の改善方法としては以下の通りです。
① 「肝機能」が悪い原因を調べる
アルコールを飲まれる方は「アルコール」のせいに考えてしまいがちですが、実際には肝機能が悪くなる原因は非常に多岐にわたります。
代表的なものはB型肝炎・C型肝炎に代表される「ウイルス性肝炎」です。その場合は、ウイルス検査をしなければ原因が特定できませんし、ウイルスを除去する治療が必要です。
他にも「自己免疫性肝炎」や脂肪肝にともなう「NAFLD/NASH」「PBC(原発性胆汁性胆管炎」「薬剤性肝炎」など、鑑別しなければならない疾患はたくさんあります。
まずは「自分は本当はどの程度肝臓が障害されているのか」「どういった原因で障害されているのか」を医療機関に相談し、一度詳しい検査をうけるようにしましょう。
障害の程度によっては経過観察でよい場合もありますが、意外な疾患がみつかるかもしれません。
② 「アルコール」は適量で
原因はともあれ、肝臓とアルコールは切っても切り離せない関係があります。薬を服用されている方は、アルコールにより代謝が変わるので特に気をつけたほうがよいでしょう。
厚生労働省では、節度ある適度な飲酒として1日平均純アルコールで「20g」と記載されています。この「純アルコール20g」とは
- 日本酒1合
- チューハイ(7%)350ml缶1本
- ビール中ビン 1本
くらいです。さらに下記の方はさらにアルコール摂取を少なくした方がよいことが示されています。
- 女性の方:男性の1/2~2/3が望ましいと考えられています。
- 少量の飲酒で顔が赤くなる方
- 65歳以上の高齢の方
- もともと飲酒の習慣がない方
- アルコール依存の方:適切な支援のもと完全断酒が必要です
アルコールを減量する上でどうすればよいかは「厚生労働省のHP」に詳しく記載されていますので、参考にしてみるとよいでしょう。
③ バランスのよい生活を心がける
加工食品や糖質の多い食事に偏りがちになっていると、脂質や糖質を摂りすぎる反面、野菜やたんぱく質の量が少なくなってしまうことがしばしばあります。
肝臓は糖質をグリコーゲンとして貯蔵する「貯蔵庫」の働きを担いますが、過剰に糖質を摂取すると当然ながら「脂肪肝」になり、長期的な脂肪肝は慢性炎症につながります。
健康診断の結果は「偏った生活を改めたほうがよい」という体のサインです。肝臓は「沈黙の臓器」ですから、症状としてあらわれません。いつの間にか重大な疾患につながります。
「数値の異常」だけで指摘されているうちに、自分で正せる所は直していくようにしましょう。もちろん当院にも生活スタイルについてぜひご相談ください。
また合わせて脂肪肝について解説【症状・食事・治療・改善方法】も参照してみてください。
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【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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