皆さんは「ヘルペス」という言葉を聞いたことがありますか?
口びるやデリケートゾーンに痛みを伴う水ぶくれができ、日常生活に支障がでることもありますよね。
しかし、ヘルペスとは具体的に何なのでしょうか?また、ヘルペスとよく混同される帯状疱疹とは何が違うのでしょうか?そして最も気になるのは、ヘルペスは人にうつりやすいのでしょうか?
今回、ヘルぺスにまつわる素朴な疑問について、一緒にみていきましょう。
Table of Contents
ヘルペスとは?
ヘルペスとは、ヘルペスウイルスが人の皮膚や粘膜(口や鼻の中などの内側の部分)に感染することで起こる感染症のことです。ヘルペスという言葉は、ギリシャ語で「這う」という意味から来ています。
文字通りこのウイルスに感染すると、皮膚の上を「這う」ように皮膚や粘膜に赤みや小さな水ぶくれが広がり、よくピリピリ・ムズムズした神経痛がでることもありますね。
実は、ヘルペスウイルスには約160種類があり、そのうち人に感染するウイルスは8種類。その中でほとんどが以下の3つであり、ウイルスによって症状や病気が異なります。
ヘルペスウイルスの種類 | 起こりやすい疾患 |
単純ヘルペスウイルス1型 | 口唇ヘルペス、性器ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、 ヘルペス性角膜炎、カポジ水痘様発疹症、 ヘルペス性ひょう疽、ヘルペス毛嚢炎 |
単純ヘルペスウイルス2型 | 性器ヘルペス、臀部ヘルペス |
水痘・帯状疱疹ウイルス | 水痘・帯状疱疹 |
例えば、水痘・帯状疱疹ウイルスは、水ぼうそうや帯状疱疹という病気を引き起こします。また、単純ヘルペスウイルスという種類のウイルスには1型と2型があり、1型は主に口唇ヘルペス(くちびるのヘルペス)やヘルペス性歯肉口内炎(口の中のヘルペス)などを、2型は性器ヘルペス(性器のヘルペス)などを引き起こしやすくなります。
ヘルペスウイルスの一番の特徴は、一度体の中に入ると完全には消えず、体の中にずっと残ること。そして、体が風邪をひいたり、疲れがたまったり、体の抵抗力が落ちたときなどに再び活動を始め、ヘルペスの症状が「再燃」(再発)してしまうのです。
再発がひどい方だと「毎月ヘルペスが出てきしまう」ということも珍しくありません。
このように、一言で「ヘルペス」といってもヘルペスが引き起こす疾患の総称です。その中でもよく起こりやすい「口唇ヘルペス」と「性器ヘルペス」について見ていきましょう
(参照:日本皮膚科学会「ヘルペスとはどういう病気ですか?」)
(参照:2019年 ヘルペス性疾患に対する診断と治療)
口唇ヘルぺスとは?
① 口唇ヘルペスの原因
口唇ヘルペスとは、主にくちびるにできる小さな水ぶくれのことを指します。これは「単純ヘルペスウイルス1型」(略してHHV-1やHSV-1とも呼ばれます)というウイルスが原因で起こります。
このウイルスは、人から人へと直接的な接触(例えばキスなど)や、ウイルスがついたタオルや食器を使うことで感染します。感染すると、ウイルスは体の中に入り、神経を通って神経節(神経の集まり)に移動し「潜伏」します。実際、成人の半分以上は子供のころに感染しているといわれていますね。
そして、ウイルスがさまざまなきっかけで活発になると「再発」し、口唇ヘルペス特有の症状がでてくるようになります。
② 口唇ヘルペスの症状
口唇ヘルペスの症状を簡潔にいうと「ピリピリした痛みを伴った、くちびるに出来る小さな水ぶくれ」です。具体的には、以下の4つの段階を経て症状が進行します。
- 前駆症状(発症前の兆候):主に再発部位の皮膚にピリピリ・チクチクといった違和感、かゆみ、痛みなどを感じます。何回も繰り返すと「もうすぐヘルペスになるな」とわかるようになります。
- 発症期の症状:前駆症状が現れてから数時間で、違和感やかゆみを感じた部位が赤く腫れてきます。
- 水ぶくれの形成:前駆症状が現れてから2~3日後には、赤く腫れた部位に小さな水ぶくれができます。これらの水ぶくれが集まって大きな水ぶくれになることもあります。
- 回復期の症状:水ぶくれは、1~2週間ほどで乾き始めてかさぶたとなり、治癒します。
初感染と再発では症状が異なり、一般的には初感染の方が症状が重くなります。
- 初感染の場合:唇や口周囲の広い範囲に、5mm程度の水泡が多く発生します。また、時にあご下や耳周囲のリンパ節の腫れ、発熱などの全身症状が出て重くなりやすいのが特徴ですね。特に成人以降の初感染では、症状が比較的重くなりやすいといわれています。
- 再発の場合:口唇ヘルペスは、再発を繰り返すごとにゆっくり症状が軽くなります。しかし、あまりに頻度が多いと逆に日常生活に支障が生じやすくなりますね。
(参照:単純ヘルペス脳炎のガイドライン)
性器ヘルペスとは?
性器ヘルペスも非常に多いヘルペス感染症の1つです。原因と症状の特徴は次の通りです。
① 性器ヘルペスの原因
性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)または2型(HSV-2)が原因で、性器やその周囲に水ぶくれやただれができる疾患です。その感染経路や感染力などについては以下の通りとなります。
- 感染経路:性器ヘルペスは主に性行為やオーラルセックスを通じて感染します。しかし、ウイルスが付着したタオルや便座などを介して感染することもあります。そのため、ウイルスが付着した物を共有しないことが大切ですね。
- 感染力:単純ヘルペスウイルスは感染力が強く、性器の周囲だけでなく、口唇、太もも、お尻、肛門などにも感染します。そのため、避妊具(コンドームなど)でも完全に防ぐことはできません。
- ウイルスの潜伏:一度感染すると、ウイルスは体内の神経節に潜伏し、生涯にわたって体内から取り除くことはできません。健康な時は、潜伏しているウイルスは免疫力で抑えられていますが、疲労やストレスなどで免疫力が低下すると、ウイルスが再活性化し、症状が出てきます。これを再発といいます。
② 性器ヘルペスの症状
性器ヘルペスは、性器やその周囲、お尻に痛みやかゆみ、不快感を伴う水ぶくれができる病気です。初感染の場合、通常ヘルペスウイルスに感染してから2〜10⽇ほどで症状がでるとされていますが、60%は症状が出ないことがあります。
一度ウイルスに感染すると、体の神経に潜伏し、免疫力が落ちた時に以下の症状が出ます。
男女共通の症状:
- かさぶた:ヘルペスの主な症状は水疱(水ぶくれ)ですが、回復期には水疱が自然に破れ、潰瘍になります。潰瘍になると、正常な皮膚がめくれるので強い痛みを生じることもしばしばです。
- 再発:風邪や発熱、生理、疲れやストレスなどで免疫力が落ちている時に再発します。再発の頻度は、年に1回という方から毎月のように出る方までさまざまです。
- 前兆:性器ヘルペスの再発には前兆があります。水ぶくれができる前に、性器にチクチク・ヒリヒリといった違和感や、太ももや足のつけ根などにビリビリといった神経痛が生じたり、腰がつるような痛みが生じます。
男性の症状:
- 水ぶくれと排尿痛:亀頭や陰茎に出現する、痒みや痛みを伴う小さな水ぶくれが出てきますです。水疱はすぐに破け、びらん(下部組織が露出した状態)になるため、ズキズキとした痛みが出てきます。
- その他の症状:尿道から分泌物が出たり、足の付け根のリンパ節がが腫れて歩きづらさを感じたりすることもあります。
女性の症状:
- 水ぶくれ:性行為の際に摩擦で膣内に傷ができやすく、感染が外陰部だけでなく子宮頚部や膀胱にも広がりやすいのが特徴の1つです。
- その他の症状:発熱は38度以上の高熱を伴うこともあり、足の付け根のリンパ節が腫れた際は、痛みで歩行が困難になるケースも少なくありません。
稀ですが、ヘルペスに感染している妊婦から出産時に生まれてくる子供に産道感染することがありますので、妊娠後期は感染に気を付けたほうが良いですね。
またごく稀にヘルペス性脳炎といって、神経症状で発症する場合があり、脳炎疑われた場合は連携病院に連絡し、入院が必要になります。
(参照:単純ヘルペス脳炎のガイドライン)
(参照:Recurrent Genital Herpes: A Case Report)
ヘルペスはうつりやすい?
「ヘルペスはうつりやすい?」とよく言われますが、結論からいうと、ヘルペスは様々な感染経路からうつりやすい感染症の1つです。
H口唇ヘルペスを引き起こやすい「単純ヘルペスI型(HSV-1)」は、くしゃみ、せき、会話などによって放出される飛沫(1m以内)や汚染された手や器具から感染します。特に傷口からは感染させやすくなりますね。
また、HSV-1は性器ヘルペスを引き起こすこともあります。この場合は主に口と性器との接触を通じて感染します。HSV-1は思春期までにほとんどが感染し、抗体を保有するとされていましたが、最近では初感染年齢が高くなり、成人に達してもHSVの抗体保有率は45%程度となっているのも原因の1つですね。
性器ヘルペスを引き起こしやすい「単純ヘルペスII型(HSV-2)」も主として性行為で感染する感染症。特にコンドームを使用しない性行為や性行為の乱れなどが感染のリスクを高めます。また、HSV-1に感染していてもHSV-2に感染する可能性があります。なので「口唇ヘルペスがあるから性器ヘルペスにならない」とは言えないので注意しましょう。
また、稀にHSV-1・HSV-2も性器感染している母親から出産時に新生児に伝播することがあります。
ですので、後述するようにヘルペスができたら感染対策をしっかり行うのが大切です。
(参照:厚生労働省「単純ヘルペス、性器ヘルペス (ファクトシート)」)
(参照:日本皮膚科学会「ヘルペスと帯状疱疹 どのように感染するのでしょうか?」)
単純ヘルペスと帯状疱疹の違いは?
ヘルペスは口唇ヘルペスや性器ヘルペスの場合は帯状疱疹と見分けはつきやすいですが、体部ヘルペスは他の場所のヘルペスだとそもそも見分けがつきづらくなります。帯状疱疹とヘルペスでは、どのような点が異なるのでしょう。代表的な違いは次の通りです。
① 症状の違い
単純ヘルペスは、基本的に(例外はあります)発疹が一部分だけ起こることが多いですが、帯状疱疹は前から後ろにかけて広範囲に起こりやすいことが多いです。
また、帯状疱疹は神経節にそって飛び地のように複数か所できてきます。
② 症状の重さの違い
単純ヘルペスは適切に治療をすれば速やかによくなり、後遺症としてピリピリが残るということは原則としてありません。一方、帯状疱疹は、後遺症として神経痛が残りやすく、半年~数年単位で残ることもあります。
③ 再発率の違い
単純ヘルペスは再発率が高いことが特徴です。例えば性器ヘルペスでは、約 7 割の患者に年 3 回以上、約 3 割に年 6 回以上の再発が認められています。一方、帯状疱疹の再発率は約6%の確率といわれています。
中には「毎月ヘルペスが再発して困っている」という方もおり、その場合には後述する「継続して抗ウイルス薬を飲み続ける方法」や「PITと呼ばれる再発したときに持ち歩く飲み薬を素早く内服する」といった方法で対処します。
④ ウイルスの違い
前述の通り、単純ヘルペスと帯状疱疹では、原因ウイルスが異なります。単純ヘルペスは単純ヘルペスI型もしくはII型であるのに対し、帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスが原因です。
そのため、帯状疱疹ワクチンはありますが、ヘルペスワクチンはありません。
このように、似たようなところも多いですが、多くの点でヘルペスと帯状疱疹は異なります。帯状疱疹については、【医師が解説】帯状疱疹はうつる?帯状疱疹の原因や前兆・治療について幅広く解説をご参照ください。
ヘルペスの治療薬は?
ヘルペスの治療は内服薬と塗り薬の2種類があります。内服薬の方が効果が高いことや回数も少ないことから、内服薬が主流になっています。代表的な治療薬は次の通りです。
① バラシクロビル
バラシクロビルは1日2回で5日飲むタイプのお薬です。回数が2回でよい分、少し錠剤が大きいため喉に引っかかりやすい欠点があります。顆粒タイプもあり子供から飲むことができます。
② ファムシクロビル
ファムシクロビルは1日3回タイプの飲み薬で、通常5日間飲みます。
再発性のヘルペスの場合1日で終わらせる飲み方があること(PIT療法)、錠剤が小さく飲みやすいのが特徴です。
③ アラセナ-A軟膏®・ビタラビン軟膏®など
単純ヘルペスの治療薬では、内服だけでなくて塗り薬もあります。1日1回~4回適量塗ることで効果を発揮します。「何回も同じ所に再発しやすい」という方は、軽い症状の場合選択肢としてあげられます。
ただし内服薬と塗り薬の併用処方は、現時点(2021年)では保険適応として認められていないので注意が必要です。また、近年米国のFDAで、市販薬として安易に抗ウイルス薬外用薬の使うことは、耐性ウイルスの出現を増加させるおそれがあるとして警告を発しております。
(参照:日本皮膚科学会「ヘルペスと帯状疱疹 治療はどうしたらよいのでしょうか?」)
ヘルペスへの予防法は?
ヘルペスにならないようにするには、普段の体調をきちんと管理し予防することも大切。ではヘルペスにならないようにする、拡大を防ぐためにはどんなこともを気を付ければよいのでしょうか。
① 体調管理に気をつける
ヘルペスは体調が悪くなった時に出やすい疾患です。そのため、普段から体調管理を心がけることで、再発を予防することができます。具体的には以下のような行動が推奨されます。
- 規則正しい生活を送る:食事、睡眠、運動のリズムを整えることで、体調を安定させます。
- 適度な運動を行う:適度な運動は体の抵抗力を高め、ストレスを解消します。
- 睡眠不足に気をつける:睡眠は体を休め、体の抵抗力を高める重要な要素です。十分な睡眠をとることを心がけましょう。
- 疲れ・ストレスを溜めない:疲労やストレスは免疫力を低下させる要因です。リラクゼーションや趣味などでストレスを解消しましょう。
- 風邪をひいたときはしっかり休む:風邪などの病気は体力を消耗し、免疫力を低下させます。病気の時は十分に休養をとることが大切です。
② ヘルペスができたら周囲への感染に気をつける
ヘルペスは人との接触によって感染します。特に水ぶくれが出ている時期はウイルスを大量に放出しているため、感染予防には以下のような配慮が必要です。
- 濡れた状態でのタオルやコップは共有しない:ウイルスは濡れたタオルやコップに付着しやすいです。共有すると感染のリスクが高まります。
- ヘルペスが起きている間は水ぶくれの部分は、特に小さな子供には接触させない:子供や免疫力が弱い人は感染しやすいです。感染部位を触らせないように注意しましょう。
- ヘルペスができたら性行為などはしない:コンドームの着用だけでは完全に防ぐことはできません。
③ 紫外線に気を付ける
紫外線はヘルペスの症状を悪化させることがあります。特に露出部である口唇ヘルペスや顔面ヘルペスの場合は、紫外線から肌を守るために以下の対策が大切です。
- マスクや帽子を使用する:直接的な紫外線の影響を避けるために、マスクや帽子を使用して顔を覆うことが推奨されます。ただし、マスクによる肌荒れには気を付けましょう。
- 日焼け止めを使用する:日焼け止めは紫外線から肌を守る効果があります。ただし感染部位には刺激の少ない日焼け止めを使うようにしましょう。
④ 飲酒は控える
アルコールは炎症を悪化させることがあります。特に「口に水ぶくれができている」など症状がある間は飲酒は控えることが推奨されます。アルコールは体の免疫力を低下させ、ヘルペスの症状を悪化させる可能性があります。
そのため、ヘルペスの症状が出ている間は、アルコールの摂取を避けるようにしましょう。
ヘルペスの再発に対する治療は?
ヘルペスは何回も繰り返し起こってしまうのが、日常生活を送る上でネックになりやすいポイントです。そのため、以下の方法が提唱されています。
- バルトレックスをしばらく毎日内服する方法
- 「PIT」(Patient Initiated Therapy)といって、あらかじめファムシクロビルという抗ウイルス薬を処方させていただき、むずむずしたときに早めに内服してもらう方法。海外では「1 day treatment」といって、標準治療になってきている方法ですね。治癒する時間を1日短縮する効果がいわれています。
このように、再発に対してもいくつか手段がありますので、ぜひご相談いただければ幸いです。状況に合わせて、きちんと診療させていただきます。
(参照:ファムシクロビルの再発型単純疱疹患者に対する早期短期治療(1日治療)による第Ⅲ相臨床試験)
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【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
はじめまして。生活保護受給者です。
この度帯状疱疹に罹患(三回目)しました。行きつけの皮膚科にて処方された薬で治療しております。治療薬として高ウィルス薬「アメナリーフ錠」の服用と塗り薬として「アラセナ・A軟膏」を使用しています。そのほかに痛み止めなども処方されてはいます。
生活保護で医療扶助ですので、保険適用内での診療が基本になりますが、飲み薬と外用薬の併用を処方されています。勿論、保険適用外と言う説明はありませんでしたし、生活保護の医療扶助患者であることは医院側も知っております。それって後から保険適用外なので実費請求されませんか?それとも2024年現在は併用可能に変わっておりますか?診察した先生によると、「アメナリーフ錠」は一日一回の服用で効果が期待でき、腎臓への負担も少ないと説明聴きました。
大森様
コメントありがとうございます。
帯状疱疹かヘルペスかで変わります。
帯状疱疹に罹患されていて症状が出ている時はアメナリーフを使用できます。
ただし、アラセナA軟こうは使用できません。
一方、ヘルペスにアラセナA軟こうは使用できますが、
アメナリーフはあくまで初期症状を速やかに抑える「PIT療法」として処方されるので
症状が出て時間たっている場合は使用できません。
私自身が見ているわけではなくこれ以上の言及はできませんので、処方された医師にご相談をお願いいたします。