高血圧は、現代社会で非常に一般的な健康問題の1つ。高血圧はいつの間にか動脈硬化をうながし、脳卒中や心筋梗塞などのリスクを急上昇させることから、しばしば「沈黙の殺人者」とも呼ばれることがあります。
一方、中にはあまりに高血圧が重度の場合(高血圧緊急症)や血圧が高い状態が続いた結果、さまざまな症状がでてくることもあるでしょう。今回は
- 高血圧による症状(めまい・動悸・頭痛など)の特徴
- 高血圧でそれぞれの症状が起こるメカニズム
などについて、科学的根拠に基づいてわかりやすく解説していきます。
高血圧全体の解説については血圧が高いとどうなる?高血圧の原因・治療や対処法について【食べ物の塩分量も】も参照してください。
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高血圧とは?高血圧の基準値は?
血圧とは「血管内に生じる圧力」のことであり、高血圧とは「血管への圧力が高い状態」のこと。通常、「収縮期血圧」と「拡張期血圧」の2種類で表されます。
収縮期血圧は、心臓が収縮し心臓の中の血液をギュッと全身に送り出したときに動脈の血管壁へ加わる圧力のこと。心臓が収縮する時が一番圧力が高いので「上の血圧」や「最高血圧」といわれることもありますね。
健康な血管は心臓の筋肉と同様にゴムのようなしなやかさを持っています。そのため、健康な方は心臓により高い圧力が加わっても、大動脈はふくらみ一部血液をプールしながら、各血管が上手に圧力を分散して、適切な圧力で全身に血液を届けます。
そして、ふくらんだ大動脈が反動で収縮し、もう1回全身に血液を届けます。これが「拡張期血圧」です。当然ながら、筋肉でできた心臓よりも収縮しないので、拡張期血圧の方が収縮期血圧よりも低くなります。そのため、「下の血圧」と言われることもありますね。
一般的に「収縮期血圧」と「拡張期血圧」を合わせて「収縮期血圧/拡張期血圧」のように記載します。例えば「120mmHg/80mmHg」や数字だけ表記して「130/75」といったようにです。
ではなぜ血圧が高くなるのか。さまざまな原因が考えられますが、一番危惧すべきなのは「血管が硬くなること」、すなわち動脈硬化です。
動脈硬化はコレステロールの沈着や血管壁が糖尿病などでもろくなったりしても生じますが、「ずり応力」といって、血圧が高く血管壁が傷つけられても生じます。
血管が硬くなると、ゴムのようなしなやかさが失われ、硬い土管のようになるので、心臓が収縮した高い圧力をそのまま末梢にまで伝えてしまいさらなる「高血圧」につながります。さらに高い血圧が動脈硬化を引き起こす……負のループの出来上がりです。
したがって、血圧をなるべく正常にコントロールして動脈硬化を早めに抑えようということで「高血圧」という概念が出てきました。実際、高血圧により
- 脳の血管が破綻して「脳卒中」が起こりやすくなる
- 心臓の血管が破綻して「心筋梗塞」が起こりやすくなる
- 腎臓の血管が破綻して生じる「腎不全」が起こりやすくなる
ことも多くの研究からわかっています。実際、大規模臨床研究によると日本で高血圧を適切に管理しなかったために、年間約10万人の人がなくなっていると推定されていますので、高血圧はあまり放置すべき疾患ではないのです。
「高血圧診療ガイドライン2020」によると、高血圧の基準は家庭血圧で 135/85mmHg 以上、診察室血圧では 140/90mmHg 以上と定義されています。 一方で正常血圧の定義は家庭血圧で 115/75mmHg 以下、診察室血圧では 120/80mmHg 以下とされていますね。
多くの場合は、これくらいの高血圧で症状が出ることはありません。なので高血圧は「サイレント・キラー」などと呼ばれることが多いです。
しかし、より重度の高血圧である場合や、高血圧を長く放置している場合などはさまざまな症状が出ることがあります。
では、それぞれの高血圧による症状について見ていきましょう。
(参照:日本高血圧学会「高血圧診療ガイドライン2020」)
高血圧の初期症状①:頭痛
高血圧による初期症状の中で一番訴えやすいのは「頭痛」です。時々外来でも
- 頭痛がひどくて血圧を測ってみたら「180/100」くらいになってビックリした
- 血圧が高いのを健康診断で指摘されて放置していたら、徐々に頭痛がひどくなった
と来院される方もいますね。
一般的に、軽度から中等度の高血圧と頭痛の間には明確な関連性がないとされていますが、重度の高血圧(収縮期血圧が180mm Hg以上、拡張期血圧が120mm Hg以上)や急激な血圧の上昇は、頭痛を引き起こすことがあるとされています。
血圧は1日中一定ではありません。神経や血液量などの影響を受けて大きく上下したりします。
そのため、イライラしたり興奮したり、ストレスがたまり血圧が急上昇すると頭痛として出てくることがあるのです。
頭痛そのものが血圧をあげる原因になることもあり、高血圧による頭痛の特徴を一概には言えませんが、イランからの報告によると高血圧による頭痛は
- 頭の両側におこりやすい
- 脈打つような痛みを生じやすく、身体活動をによって悪化しやすい
とされていますね。また、高血圧で頭痛が起こりやすい方の予後を見た1,914人の研究では「高血圧で頭痛が起こりやすくても心血管イベントの発症率が上がるわけではない」としていますので、「頭痛が起こりやすいから寿命が縮まる」というわけでもなさそうです。
しかし、当然ですが、高血圧による頭痛の中には「あぶない頭痛」もたくさん含まれています。
例えば急激な血圧の上昇により、頭痛だけでなく悪寒、嘔吐、視力障害、意識障害、けいれんなどを伴うことがあり、これを「高血圧脳症」と呼びます。この場合は脳梗塞などのマヒ症状を必ずしも伴いませんが、非常に危険な状態で、緊急に血圧を下げる治療が必要な状況です。(もちろん入院です)
脳出血やくも膜下出血などもその1つ。特に血圧が高くて
- 突然、「人生最悪」の頭痛がガンガンする
- 吐き気が出てきて、意識がもうろうとする
- 思うように笑えなかったり、マヒ症状がでてくる
などの場合には、非常に危険な状態である可能性がありますので、病院に受診した方がよいでしょう。
いずれにせよ、重度の高血圧があり頭痛がするというだけで、自己対処の範疇を超えています。手遅れになると将来に関わる「あぶない頭痛」もたくさん含まれていますので、早めに医療機関に受診するようにしましょう。
ただ、日常的に高血圧があり、頭痛もちだったとしても脳卒中などが起こりやすいわけではないので、その点は安心してください。
(参照:Secondary headaches attributed to arterial hypertension)
(参照:The Paradoxical Significance of Headache in Hypertension)
(参照:日本高血圧学会「高血圧診療ガイドライン2020」)
高血圧の初期症状②:めまい・吐き気
高血圧でよく訴えられやすい症状の1つがめまいや吐き気です。よく「血圧が高いとクラクラする」「ふわふわした感じになる」と言われることがあります。高血圧の治療中に言われることもありますね。
めまい・吐き気は色んな原因が引き金になるので、一概には言えませんが、例えば以下のようなことが考えられます。
① 高血圧でめまい・吐き気を引き起こす疾患になっている
血圧も高くなりやすくめまいも起こしやすい疾患がいくつかあります。例えば以下の通りです。
- 耳(三半規管)の疾患:メニエール病やBPPV、前庭神経炎など平衡感覚をつかさどる「三半規管」の異常によりめまいが生じることがあります。この場合、ストレスに伴い血圧も高くなりがちです。一般的には「グルグル目が回るような」めまいをきたしやすいです。
- 脳疾患:血圧が高く脳疾患を呈した場合、めまいを伴うことがあります。先ほどの「高血圧脳症」でもめまいを訴えますし、脳出血などでもめまいを起こすことがありますね。
- 不整脈:高血圧はもちろん心臓にも負担をかけます。そして、不整脈になっている場合は、前失神といって「めまい」の症状を引き起こす可能性があります。
- ホルモン疾患:例えば甲状腺疾患などは高血圧もめまいも生じることがあります。
いずれの疾患でも「あまり放置すべき疾患」ではありませんので、病院に受診した方がよいでしょう。
② 起立性低血圧
高血圧なのにも関わらず、意外にも「起立性低血圧」でめまいを起こしていることがあります。
起立性低血圧は文字通り「座ったり横になったりした状態から立ち上がったときに起こる急激な血圧の低下によって起こる」めまいの一種のこと。
しかし、高血圧なのに起立性「低血圧」になりやすいというのは変な話ですよね。なぜでしょうか。
起立性低血圧とは自律神経の乱れだといわれています。通常、姿勢の変化によって血圧が一定に保たれるように自律神経で調節されているのですが、多くの原因でその調節が乱れてしまうのが、起立性低血圧。
しかし、高血圧になると血圧の上昇と下降、つまり血圧の変動に対する「慣れ」が生じてきて、血圧の変動が激しくなりやすいことがわかっています。
実際、高血圧患者と起立性低血圧の関係を調べた論文によると
- 起立性低血圧は高血圧患者の約10%に影響を及ぼしている
- 特に高血圧がコントロールされていない人は、特に起立性低血圧のリスクが高い
といわれていますね。疑われる場合には、さまざまな体位で血圧をチェックしてみるとよいでしょう。
起立性低血圧については立ちくらみがひどい時の原因と対処法は?立ちくらみの予防法や診療科についても解説も参照してみてください。
③ 降圧薬の副作用
あと、高血圧によるめまいで注意しなければならないのが「降圧薬による副作用」です。
血圧は1日の変動だけではありません。年間を通じても変動があります。例えば、1年間処方変更がなかった人の血圧変動を見たところ、夏の血圧は冬に比べて朝の血圧で収縮期血圧が6.7mmHg、拡張期血圧が2.9mmHg低くなることがわかっています。
そのため、季節変動を考慮した降圧治療をすべきですが、長期処方されている方などはどうしても管理が甘くなってしまいます。
よって、しばしば「血圧の薬で逆に血圧が下がりすぎてめまいを起こす」ということが出てきてしまうのです。
高血圧で治療中の方で「最近めまいが出てくるようになった」という方は、薬の内容を見直す必要がある場合もあるので、かかりつけの先生と相談するようにしてみてください。
その時、めまいになった時の血圧を測るとより有用でしょう。
高血圧の初期症状③:動悸
高血圧は心臓のリスクも高くなることから、もちろん「動悸」も起こりやすくなります。
欧州心臓リズム協会(EHRA)と欧州心臓病学会(ESC)による高血圧評議会によると、高血圧と動悸の関連性に関して以下のように言われています。
- 脳の血栓の原因にもなる「心房細動」の14%は高血圧が原因であり、心房細動の最も重要なリスクであるといわれている。実際、心房細動の70%が高血圧患者である。
- また、高血圧患者では、睡眠時無呼吸症候群の結果として、心臓のリズムを決める「洞結節」などに障害を来す可能性がある。
- 特に、安静時心拍数が上昇している方(80~85以上)の人は、高血圧の方でも予後不良の前兆になる。
このように、「高血圧で動悸がある」ケースはあまり放置してよい状況ではありません。両学会では「不整脈が疑われる高血圧患者のほとんどは、不整脈を記録することで診断を得るためにあらゆる努力を払う必要がある」としていますね。
つまり、動悸の原因をつきとめ、きちんと治療する必要があるということです。またもともとの心臓の機能をきちんと評価することも大切になってくることでしょう。
動悸の原因として最も使用される検査は「24時間ホルター心電図」になります。最近のホルター心電図はかなりコンパクトになり、日常生活も大きな影響なく検査することができます。
当院でも24時間ホルター心電図検査を行っています。詳しくは新しい24時間ホルター心電図を不整脈・動悸の方に行っています【費用・結果までの時間】をご参照ください。
高血圧の初期症状④:目の症状
あと高血圧による症状として忘れてはならないのは「目の症状」です。
「高血圧性網膜症」といって、高血圧に伴う血管症状により、網膜の出血や視神経乳頭のむくみなどが生じ、比較的早い時期から視力が低下することがあります。
当院でも高血圧を放置した結果、眼底出血を生じて片目が見えない状態になってから、降圧目的に受診される方も経験しましたね。
高血圧性網膜症は急性の血圧上昇により、網膜血管で血管収縮が生じることから始まります。さらに、長期または重度の高血圧が続くと、目の中の血管内皮にダメージが蓄積し、眼の細胞がダメージに耐えられずに死んでしまうことがあります。そのため、視力低下につながっていくのです。
しかし、初期では眼の自覚症状はほとんど現れません。疾患の後期に目のかすみや視野欠損などがあることがありますね。
そのため、特に高血圧を長年放置されている方や高血圧を患って長い方は、一度眼の健診をしてもらうとよいでしょう。当院でも眼科とタイアップしながら治療を行うこともあります。
(参照:日本眼科医会「高血圧性網膜症」)
高血圧の初期症状のまとめ
今回は、高血圧により出現しやすい症状についてまとめました。高血圧は症状が現れにくく、重篤な状況になってから初めて症状を経験することも珍しくありませんが、一般的に
- 頭痛
- めまい・吐き気
- 動悸
- 目の症状
は出てきやすいといえます。しかし、これらの症状が出た時は「あぶない疾患」であることも十分考えられますので、自己判断せずに早めに医療機関に受診した方がよいでしょう。
高血圧については血圧が高いとどうなる?高血圧の原因・治療や対処法について【食べ物の塩分量も】も参照してもらいながら、ぜひ当院にもご相談ください。一人ひとりに合わせながら、適切にアドバイスさせていただきます。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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