みなさん、突然ですが「伝染性単核球症」という病気をご存じですか?あまりなじみがない病気ですよね。
- 風邪だと思っていたらずっと喉が痛いし熱が続く
- 首の後ろのリンパ節が腫れていたい
- 風邪ひいたあとにだるさが長引いている
などの症状が特徴的なウイルス感染症の1つが「伝染性単核球症」。よく伝染性単核球症は「キス病」とも言われていましたが、最近キス以外での感染例も増えてきており、当院で見つかる例も最近増えています。
そんな伝染性単核球症とはいったいどのような病気なのでしょうか?今回は、伝染性単核球症のキス以外での感染経路や症状・治療法などについて詳しく解説していきます。
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伝染性単核球症(EBウイルス感染症)とは?
伝染性単核症は俗名「キス病」とも呼ばれ、思春期から比較的若い方(10~20代)に発症しやすいウイルス感染症です。
伝染性単核球症の多くはEBウイルス(Epstein-Barrウイルス)というウイルスが原因。しかし約10%でサイトメガロウイルスやHIVなど他のウイルスでも似た症状がおこります。(ここから先はEBVによる感染症としてお話します)
日本では届け出の義務がないため正確な患者数は把握されていませんが、米国では10万人当たり年間50人ほどが感染が報告されています。しかし、最終的に90%以上の方がEBVの抗体を保有すること、不顕性感染(症状がでないで感染が成立すること)があることから、実際にはもっと多くの方が感染しているのではと考えられています。
(参照:国立感染症研究所「伝染性単核球症とは」)
伝染性単核球症 (EBウイルス感染症)の症状は?
EBウイルスは約4~6週間と長い潜伏期を経て発症します。主な症状は次の通りです。
症状・徴候 | 発症頻度(中央値) | 症状・徴候 | 発症頻度(中央値) |
咽頭痛 | 75% | 発熱 | 93% |
倦怠感 | 47% | 咽頭炎・扁桃炎 | 82% |
頭痛 | 38% | 脾腫 | 51% |
消化器症状 | 17% | 肝腫大 | 11% |
リンパ節腫脹 | 95% | 皮疹 | 19%(30-50%という報告も) |
上記の表を見ればわかる通り、非常に多彩な症状があることが特徴です。特に発熱とリンパ節腫脹は高頻度でみられます。多くは38℃以上の高熱で1~2週間持続する場合が多いとされています。
1週間や2週間も発熱が続くとなるとかなり不安になりますよね。ですので、伝染性単核球症をかなり疑う臨床症状なら早めにその可能性をお伝えしつつ、適宜採血で確かめるようにしています。
リンパ節腫脹は主にくびの後ろのリンパ節の腫れが多いですが、全身に見られるものもあります。また長引く倦怠感が約半数に見られるのも特徴の1つ。
あとから肝臓や脾臓が腫れてきて、肝酵素が上昇することもしばしば見られます。
また、非常にまれに、脳炎や髄膜炎・ギランバレー症候群などの重篤な神経症状、溶血性貧血や血小板減少などの重篤な血液疾患を合併することがありますので、慎重に経過をみています。このような場合は、適宜連携施設に送らせていただきます。
(参照:日本感染症学会「伝染性単核球症」)
伝染性単核球症はキスしていないのにうつる?
よく「キスしていないのに伝染性単核球症(キス病)になるのですか?」という質問をされることがありますが、キスしていなくても感染することがあります。例えば、キス以外の伝染性単核球症の感染経路は次の通りです。
① 飛沫感染
飛沫感染は、感染者のくしゃみや咳、話す際に飛び散る唾液にウイルスが含まれているために起こります。感染者が咳やくしゃみをした際に、周囲の空気中にウイルスが拡散し、他の人がその空気を吸い込むことで感染が広がります。
また、新型コロナ同様、感染者と密接な距離で長時間話をすることも感染リスクになりますね。飛沫感染を防ぐためには、マスクの着用や適度な距離を保つことが大切です。
② 間接接触感染
間接接触感染とは「感染者の唾液が付着した物品を介して感染する方法」のこと。
例えば、感染者が使ったコップや食器、タオル、歯ブラシなどを他の人が使用することで、ウイルスが口腔や粘膜に侵入し、感染が広がります。また、感染者が触ったドアノブやスイッチなどの表面にもウイルスが残ることがあります。
- こまめに手洗いやアルコール消毒を行う
- 間接接触感染を防ぐためには、個人の食器やタオル、歯ブラシなどを共有しない
ことも大切です。特に伝染性単核球症と診断された方と接触する際には注意しましょう。
③ 血液感染(まれ)
血液感染は、エプスタイン・バーウイルスが血液を介して感染するケースです。これは比較的稀でありますが、輸血や臓器移植の際に感染することがあります。また、針を共有したり、感染者の血液が傷口に触れたりすることでも感染のリスクがあります。血液感染を防ぐためには、輸血や臓器移植の際にウイルス検査が行われることが重要です。また、針を共有しないことや、感染者の血液に触れることを避けることが大切です。
このように、さまざまな理由でキスをしていないのにも関わらず、伝染性単核球症が移ってしまうことがあります。なので、うつったとしてもあまり疑問に思わなくて問題ありません。
伝染性単核球症の皮疹は?
伝染性単核球症の症状として特徴的なのが、皮膚の発疹。伝染性単核球症の約5人に1人(20%)が皮膚の発疹が出てきます。
多くは、第4~10日病日くらいに突然、全身に赤いかゆみを伴う発疹がでてきます。発疹の出方は多彩で、
- 淡い紅斑が全身に広がるもの(写真)
- 蕁麻疹のように全身が赤くなりかゆくなるもの
- リング状に全身に広がるもの(多形滲出性紅斑)
のように一定していません。多くは、1週間程度で軽快することが多いですが、まれに長引きます。特に溶連菌感染症などで使用される抗生剤(アンピシリン)を内服すると、薬疹が伴うことも特徴ですので、抗生剤にアレルギーがなくても要注意です。
炎症の程度によっては「炎症後色素沈着」として残ることもあるので、早めに皮膚科に受診して治療を受けると良いでしょう。
(参照:日本消化器病学会 2005; 102:207-201「ペニシリン製剤により著明な皮疹を来した伝染性単核球症の1例」)
(参照:あたらしい皮膚科学:第3版「伝染性単核球症」)
伝染性単核球症と新型コロナ感染症の違いは?
ここまで書くと「新型コロナ感染症と似ている」と感じる方も多いかもしれません。確かに
- 症状が多彩であること
- 発熱と主体として長い経過をとること
- 「長引く倦怠感」は新型コロナ感染症も伝染性単核球症でも見られること
などは似ていますね。しかし、以下の点で異なります。
- のどの所見や症状が異なること
- リンパ節腫脹が伝染性単核球症に比べ、新型コロナでは少ないこと
- 新型コロナで状態が悪化する場合、呼吸器症状に発展することが多いこと
- 伝染性単核球症で特徴的な皮疹や肝臓や脾臓の腫れが見られることがあること
などです。もちろん新型コロナの迅速検査(抗原検査・核酸増幅検査)や後述する伝染性単核球症の検査を行うことでそれぞれ診断することができます。
また伝染性単核球症は咽頭炎の原因になりやすい溶連菌感染症とも似ていたりします。
いずれの疾患でも他の方にうつしてしまいますし、日常生活での対策や治療も異なりますので、早めにクリニックや医院に行って診断をうけた方よいでしょう。
伝染性単核球症の検査や肝機能の影響は?
伝染性単核球症状の検査は血液検査です。主に原因ウイルスである「EBウイルス」に対する抗体の量を測定して診断します。しかし、結果には1週間ほど時間がかかりますので早めの臨床診断が大切になってきます。
また伝染性単核球症では血液の中に「異型リンパ球」と呼ばれる細胞が出てくるようになるのも特徴の1つで、通常の血液検査で分かるので、異型リンパ球の有無である程度判断できるでしょう。
ほか伝染性単核球症では、合併症に応じて肝機能の上昇(AST・ALT・LDHなど)や血小板減少が生じることがあります。数値は自然に1か月くらいかけて正常に戻ってきますが、程度に応じて合併症が残らないように治療しています。
伝染性単核球症の治療と日常生活のポイントは?
伝染性単核球症は、特効薬が存在しないウイルス性の感染症です。そのため、治療は主に症状を緩和することを目的として行われます。以下に、伝染性単核球症の治療方法について詳しく説明します。
① 対症療法を早めに使用する
対症療法とは、発熱や痛み、腫れなどの症状を緩和することを目的とした治療のこと。例えば、
- 解熱剤や鎮痛剤を用いて発熱や頭痛、筋肉痛などを軽減します。
- のどの痛みや腫れに対しては、のど飴やうがい薬、のどの腫れを抑える薬で抑える
などですね。かなり発熱も長引きやすくつらい症状が続くので、いかに早く薬で対処するかも大切になってきます。
この時に特に重要なポイントは「安易に抗生剤で様子を見ない」こと。
「のどが痛いけど飲み残しの抗生剤があったから、それで様子を見よう」という方はいませんか?前述の通り、伝染性単核球症の場合、抗生剤によって逆に皮膚症状を中心に悪化してしまうことがあるので、注意が必要です。
そもそも抗生剤は耐性菌などの問題もあります。病院で出された抗生剤は飲み切るのが基本です。他の疾患の鑑別するためにも、早めに病院に受診するようにしましょう。
② しっかりと休養する
伝染性単核球症では、免疫システムがウイルスと戦っているため、十分な休養が重要です。症状が悪化しないように、十分な睡眠をとり、無理をせずに過ごすことが大切でね。
また、安静時には、横たわることで患者の気分を安定させることができます。
発熱などがある間はしっかり休むのはもちろんのこと、肝臓や脾臓が腫れている間は、コンタクトスポーツは避けるようにしましょう。
しかし職場や学校の休職・休学規定はありませんので、症状が治まったら職場・学校にいっても問題ありません。
③ 水分補給はこまめにしっかりと
発熱や発汗により失われる水分を補うため、十分な水分摂取が重要です。特に発熱時には、脱水症状を防ぐために、こまめに水分を摂りましょう。また、スポーツドリンクや果汁を摂取することで、失われた電解質も補うことができます。
のどのケアの方法はのどが痛い時の原因やケアについて解説も参照してください。
④ まれに重症化するので早めに連絡を
扁桃腺の腫れが重度の場合、呼吸や飲み込みに困難を伴うことがあります。このような状況では、場合によってステロイド薬が投与されることがあります。ステロイド薬は、炎症を抑える効果があり、扁桃腺の腫れを緩和することができます。ただし、ステロイド薬は副作用があるため、医師の指示に従って使用することが重要です。
伝染性単核球症での上気道狭窄により呼吸困難を来した例もあるので、あまりにつらいときは病院に再度連絡してください。
⑤ 周りに移さないように配慮を
伝染性単核球症は一般的に多彩な症状のため、一般的に診断しづらい感染症の1つ。そして、伝染性単核球症もウイルス感染症のため飛沫感染や間接接触感染で周りにうつします。
症状がある間はマスク・うがい・手洗いを徹底して、感染予防に努めましょう。特に抗体保有率が低い若年者への感染拡大にご注意ください。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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