不眠症・睡眠障害の治し方や改善方法・薬物治療について解説

毎晩ぐっすり眠れていますか?
実際、日本人の5人に1人は不眠の症状を感じているといわれています。
またコロナ禍で生活リズムが崩れ、眠れなくなった方も増えてきています。

不眠は「夜眠れない」という苦痛だけでなく、日中の眠気やだるさ・集中力が落ちるなど、ライフスタイルに大きく影響しますよね。今回は、不眠症の治し方を薬や日常生活の注意点を含めてわかりやすく解説していきます。

不眠症に対する漢方薬については【医師が解説】不眠症や睡眠障害への漢方薬についてを参照してください。

不眠症とは?

不眠症の4つのタイプである入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害についてを説明するイラスト

不眠症とは「眠れない」症状が1か月以上続き、日中のパフォーマンスが低下した状態と定義されています。(厚生労働省のHP

不眠症が続くと、日中の集中力が低下するだけでなく、イライラしやすくなり、片頭痛の原因になったりします。(片頭痛については「片頭痛【症状・診断基準・対処法・薬】について解説」も参照してください)

大きく分けて「入眠障害」「中途覚醒」「早朝覚醒」「熟眠障害」の4つがあります。自分がどの不眠のタイプなのか知っておくとよいでしょう。

① 入眠障害(なかなか寝つけない)

ベッドに入ってから寝付くまでに30分~1時間以上かかるタイプです。精神的な問題を抱えている時、不安や緊張が強い時などにおこりやすいといわれています。

② 中途覚醒(夜中によく目が覚める)

睡眠中に何度も目が覚め、一度起きたあとなかなか寝つけなくなるタイプです。目が覚める時間や回数は個人差がありますが、高齢になるにしたがって多くあらわれてきます。

③ 早朝覚醒(朝早く目が覚める)

本来の起きる時間より2時間以上前に目が覚めてしまい、その後眠れなくなってしまうタイプです。年をとると体内時計のリズムが前にずれやすく、若い人に比べて夜遅くまで起きていられなくなるので、早寝早起きになります。

④ 熟眠障害(ぐっすり眠った感じがしない)

時間として眠っていても、「ぐっすり眠れた」という満足感が得られないタイプです。

途中で息が止まってしまう「睡眠時無呼吸症候群」や寝ている間に足がピクピク動く「周期性四肢運動障害」など、睡眠中に症状がでる病気に関係していることがあります。

不眠症の原因は?

不眠症の原因は多岐にわたり、主な原因としては以下のものがあげられます。

  • 仕事や家庭環境・人間関係などによるストレス
  • 睡眠習慣の問題や睡眠リズムの乱れ
  • うつ病や適応障害などの精神疾患
  • 睡眠時無呼吸症候群や脳神経疾患・呼吸器疾患などの基礎疾患
  • アルコールや薬の影響によるもの
  • 周囲の環境(寝室の温度や湿度・騒音や光など)

多くの場合、周囲の環境によるストレスや周囲の環境の変化・睡眠リズムの乱れや睡眠習慣が問題ですので、原因を一人ひとり考えながらケアさせていただきます。

またこれらのうち、精神疾患や基礎疾患が原因になっている特殊な睡眠障害の場合は、通常の睡眠薬では奏功しません。その場合には、疾患に合わせて適切な施設に紹介させていただきます。

不眠症の治し方や改善方法は?

不眠症の治療は「非薬物治療」と「薬物治療」に分かれますが、一番大切なのは「非薬物治療」です。生活リズムや睡眠の環境を整え、睡眠の妨げになっている個人個人による原因を特定して改善することで、不眠症を治すことが最終ゴールになります。ただし

  • 今すぐ不眠症を改善しないと生活に支障が出てくる
  • 生活改善を色々試してきたけれど、どうしても不眠症を改善できない
  • 仕事や家族の関係で生活リズムを整えることができず、不眠症が苦しい

といった場合は、一時的に「薬物療法」による不眠症の改善が必要です。使い方を間違わなければ睡眠薬は「怖い薬」ではありません。どうか薬が必要な際には、ぜひ我慢せずに医療機関に相談してください。

ただし繰り返しますが、不眠症の治し方の根本は「自分の環境を整えること」。睡眠薬は(一部の場合を除き)あくまで補助輪の役割であることに注意してください。

当院ではもちろん不眠症の治療として睡眠薬を使用いたしますが、最終的なゴールである「睡眠薬を使わなくても寝られること」を意識しながら診療を行っております。

「どうしても薬を使わないと寝られない」「睡眠薬を使っている方が体調がよい」という方もいて継続投与することもありますが、「断薬をしていきたい」という方はぜひ相談していただけますと幸いです。

不眠症の治し方の生活習慣のポイントは?

では、厚生労働省の研究班から「睡眠のリズムを整えるための12の指針」が提唱されています。その中で、日常生活に注意する点を抽出し一部改変しました。できるところからで構いませんので、少しずつ試してみるとよいでしょう。

① 適度な運動、しっかり朝食、ねむりとめざめのメリハリを。

定期的な運動や規則正しい食生活は良い睡眠をもたらします。また、睡眠薬がわりの寝酒は睡眠の質を悪化させるため、控えたほうがよいでしょう。

寝る前のカフェイン摂取や寝タバコも、カフェインやニコチンによる覚醒作用があるため、入眠をさまたげ睡眠を浅くします。

特に朝起きたら太陽の光を浴びて体内時計をリセットするのも大切ですね。メラトニンは睡眠のバランスを整える重要なホルモンですが、体内時計がリセットされる約14~16時間後くらいに分泌され、睡眠が促されるとされています。

② いびきは病院で検査をする。

特に睡眠時に息の通りが悪くなって呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」は、治療しないでおくと高血圧や糖尿病などの危険性を高めます。

「いびきがある方」や「肥満があり呼吸が止まっていることがあると指摘されたことがある方」は、睡眠時無呼吸症候群の治療を始めたほうがよいでしょう。(当院ではポリソムノグラフィーがないので、該当施設に検査を依頼しながら連携を行っています)

③ 睡眠による休養感は、こころの健康に重要です。

寝付けないだけでなく、気持ちが重たく、物事への関心がなくなり、好きだったことが楽しめない・・・こういった場合、うつ病の可能性があります。その際には、メンタル面から改善する必要があります。適切な施設にも紹介いたしますので、ぜひ心の中で秘めずにご相談ください。

④ 年齢や季節に応じて、昼間の眠気で困らない程度の睡眠を。

「8時間以上寝ないといけない」と考える必要はありません。必要な睡眠時間は人それぞれです。

睡眠時間は年を取ると自然と短くなっていきます。寝る時間にはこだわりすぎることはありません。日中の眠気で困らない程度の自然な睡眠が一番だと考えるとよいでしょう。

⑤ 良い睡眠のために大切なのは環境づくり。

良い睡眠に必須なのが、寝るまでの環境づくりです。特に以下に意識するとよいでしょう。

  • 寝室や寝床の温度や湿度:一般に寝室環境は室温20℃前後、湿度40~60%、寝具内温度30℃前後に保つことが推奨されています。
  • 入眠前の入浴: 入浴は眠る1~2時間前、お湯の温度は40度弱くらいがよいでしょう。
  • 寝室の照明: 白っぽい色味の照明や明るい照明は目を覚ます作用があります。
  • 入眠前のスマホやブルーライトの使用:ブルーライトには覚醒効果があり、控えたほうがよいでしょう。
  • 寝床は眠るためだけに使いましょう: 活動する空間と寝るための空間に分けるのは大切ですね

他にも気を付けることは数多くあるので、一度睡眠に関する生活環境についてもご相談ください。

⑥ 毎朝同じ時刻に起床し、昼寝は午後3時までの20分~30分にしましょう。

毎朝同じ時刻に起きる。朝起きたら太陽の光を浴びる。規則正しい3度の食事と適度な運動を心がけることで睡眠リズムを整えることができ、運動習慣で熟睡をうながします。

20分程度の短い昼寝は頭をすっきりさせ、集中力や作業能力の低下を防ぐことができることが認められています。しかし、午後3時以降に眠るのは夜の睡眠の妨げになるので控えましょう。

(厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針2014より一部改変、厚生労働省の不眠症に関するHPも参考にしてください)

不眠症の薬物療法のポイントは?

大きく分けて「GABA受容体作動薬」「メラトニン受容体作動薬」「オレキシン受容体拮抗薬」の3種類に分かれており、まとめると次の表の通りです。

睡眠薬の特徴やメリット・デメリット。代表的な薬剤について記載。

① GABA受容体作動薬

脳の興奮を抑えるGABAという神経伝達物質の働きをうながすことで、脳を休ませる薬です。従来の多くの睡眠薬は、このお薬に分類されます。短時間しか作用しない「ルネスタ®」「マイスリー®」「ハルシオン®」、やや短めな「レンドルミン®」、中間型の「サイレース®」長期間型の「ドラール®」など多くの種類があり、患者さんの状態に合わせて選択してきます。

メリット

  • 非常に短期間で効果を実感しやすい
  • 不安症状なども軽減されます
  • 効果の強さも高く感じやすいです

デメリット

  • 依存性(薬がないと眠れないこと)が出やすいので、慎重にコントロールする必要があります
  • 耐性(薬の効きが徐々に悪くなること)が生じることがあるので連用に注意が必要です
  • 特に連用すると反跳性不眠(薬を使わないと寝られなくなる)ことがあります

② メラトニン受容体作動薬

比較的新しめな睡眠薬のお薬が、このメラトニン受容体作動薬です。メラトニンは体内時計の調節に関係し、睡眠と覚醒のリズムを調節する働きがあるホルモンのこと。睡眠と覚醒のリズムを整え、自然な睡眠をうながす特徴があります。

メリット

  • 自然な眠りを促します:時差ボケの治療にも使用されます
  • 上記の耐性や依存性も少ないのも特徴です
  • 中途覚醒や熟眠障害に効果を発揮します

デメリット

  • 即効性がありません: 効果がでるまで2週間くらい必要です
  • 眠気が残ったり、頭痛がでる可能性があります

③ オレキシン受容体拮抗薬

オレキシンとは起きている状態を保つ脳内物質のこと。このオレキシンの作用を抑えることで、眠りをうながす新しいタイプのお薬となります。脳の覚醒システムを抑えることで、脳の状態が覚醒から睡眠状態になるのをうながし、自然な睡眠を助けてくれます。現在2014年発売の「ベルソムラ®」2020年発売の「デエビゴ®」があります。

メリット

  • 自然な眠りを促します
  • 即効性もある程度あるのが特徴です
  • さらに、耐性や依存性も従来の睡眠薬よりもありません

デメリット

  • 悪夢を見ることがあります1~5%程度の方が体験するといわれています
  • 頭痛や眠気が残ったりする可能性があります。

(参照:ベルソムラ®の添付文書

こうした各薬剤の特徴を十分に把握しながら、医療者側と患者さん側が協力して治療にあたっていきます。

不眠症の治し方や改善方法についてのまとめ

いかがでしたか?不眠症の治し方や改善方法について解説していきました。まとめると

  • 不眠症といっても、さまざまなタイプがあり、個人によっても不眠症の原因が異なる
  • そのため、不眠症の治し方の根本や「非薬物治療」であり、生活スタイルの見直しや環境の変化、心在り方などを探る必要も。
  • ただし、必要な場合はもちろん「薬物治療」も検討されるので、我慢しないで医療機関でも相談を。
  • 生活習慣のポイントは人によって違うが、生活に緩急をつけたり、環境を整えるのは大切。(中には医学的介入が必要な不眠症もあるので注意)
  • 薬物療法は不眠症のタイプによって合っている薬は違う。薬の性質を理解して、必要な時に使うのが大切

といえます。不眠症は社会的背景が大きい分、一般論では話にくいことも多いので、ぜひ個別にご相談いただけますと幸いです。精神疾患が大きく影響している場合は、精神科専門のクリニックにも紹介させていただきます。

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【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。


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