こんにちは、一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介です。
夏休みに山上りなどいくことはありますか?その時に必ず気をつけていただきたいのが「マダニ」です。
マダニはダニの中でも特殊なダニの1つ。様々な感染症を媒介するダニとしても有名で、マダニによる一部の感染症は非常に高い致死率を持ちます。
では、具体的にマダニに噛まれたらどのような症状がでるでしょうか?マダニによる感染症やマダニ対策についても解説していきます。
一般的なダニ刺されの注意点は、ダニ刺されの特徴ついて【症状・薬・治らない時やダニ対策】を参照してください。
Table of Contents
マダニとは?
マダニとは体長3mm~10mmにも及ぶ大きいダニのこと。(肉眼で見えます)通常屋外におり、次のような場所に多く生息します。(参照:大阪府HP「マダニ等による感染症に注意しましょう」)
- 民家やあぜ道、裏庭や畑
- 山林やヤブ・草むらなど
- シカやイノシシ、野うさぎなどの野生動物が出没する環境
マダニはじっと上記の場所で動物が来るのをまち、野生動物や人間が来ると寄生して吸血します。一度とりつくと、皮膚にしっかり口器を突き刺し、セメント状の物質を出し固めます。そして、数日から10日くらいかけてゆっくり吸血していくのです。体は吸血した分ふくらみ、10mm~20mmに大きくなります。
十分吸血したマダニは自然と離れていき、草むらや砂地に数千個の大量の卵を産み付けます。
日本中どこにでもいますが、特に山登りする場合には常に気を付けるようにしましょう。(ハイキング後に刺される例がたびたび見られます)マダニが活発に活動するのは、梅雨時と秋の2回ですが、一年中生息しているので、時期を問わず予防された方がよいですね。
マダニの症状は?
マダニは他のダニと同様、太ももやわき腹など柔らかい場所に移動し時間をかけて吸血しますが、麻酔作用がある唾液を注入するため、刺されていることに気づかないことも多くあります。
そのため、マダニに刺されている間の症状としてはほとんどありません。そのため、実際に当院でマダニに噛まれている間に来院された時は
- 「何か変なものがくっついているがなかなか取れない」
- 「少しかゆみが残るくらいだった」
と自覚症状に乏しいことが多いです。しかし、放置しておくと、致死率の高い「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」をはじめ、ライム病やQ熱など、多くの感染症をマダニが引き起こすため、放置せずに皮膚科や救急病院に受診された方がよいでしょう。
マダニが媒介する代表的な感染症は?
マダニが媒介する代表的な感染症を列挙します。読むと怖くなるかもしれませんが、「マダニに刺されると絶対に感染症が起こる」というわけではありません。マダニに刺されると心配になると思いますが、冷静に対処することが大切です。
① 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、「SFTSウイルス」というウイルスによる感染症のこと。マダニに刺されることで感染します。6~14日の潜伏期間を経て
発熱や消化器症状(吐き気や腹痛・下痢)など中心に、筋肉痛や神経症状など多彩な症状を生じます。
血液所見で、血小板減少(10万/㎣未満)、白血球減少(4000/㎣未満)があるのが特徴で、他に肝臓の酵素(AST、ALT、LDH)の上昇が認められます。
特に上図のように西日本の地域では重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に注意が必要です。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の治療は対症療法しかなく、致死率は10~30%程度と非常に高いのが特徴。「とにかくマダニに刺されない」といったことが極めて大切になります。
(参照:厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について」)
② ライム病
ライム病とは、野ねずみや小鳥などを保菌動物とし、マダニによって媒介される細菌「スピロヘータ」による感染用のこと。以下の3つのステージを経て重症化していきます。
- 感染初期(Stage I): マダニに刺されてから10~14日した後、遊走性紅斑と呼ばれる特徴的な皮疹(上図)が出てきます。筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、だるさなどのインフルエンザに似た症状を伴うことも。
- 播種期(Stage II):体内にスピロヘータが全身に及ぶと、皮膚症状や神経症状、関節炎や不整脈・心筋炎に至るまで多彩な症状が出現します。
- 感染後期(StageIII):感染から数か月~数年すると、重度の皮膚症状や関節炎などきたすといわれています。
治療薬としては、ドキシサイクリンやテトラサイクリン、セフトリアキソンなどの抗生剤が有効とされており、速やかに抗生剤を投与した方がよい病気の1つです。
(参照:日本皮膚科学会「ライム病の症状は?」)(参照:国立感染症研究所「ライム病とは」)
③ 日本紅斑熱
日本紅斑熱は「四類感染症」に指定されるダニを媒介とした「リケッチア(Rickettsia japonica)」による感染症のこと。2-8日の潜伏期間ののちに発熱や頭痛・発疹などが生じます。ツツガムシ病と同じく「発熱」「皮疹」「刺し口」が三徴候として有名です。
本人も刺されたことを自覚されていないことが多く、刺し口を探すと一気に診断率が上がります。そのため、「最近山登りに行った」「マダニに刺されたかもしれない」などの情報は極めて重要になります。
感染症発生動向調査で2007-2016年に報告された1,765例のうち届出時点の死亡された方は16例(致死率0.91%)。死ぬこともありうるとても怖い病気の1つです。
治療としては、テトラサイクリン系をはじめとした抗生剤が第1選択ですので、疑われる方は速やかに医療機関に受診した方がよいでしょう。
(参照:日本感染症学会「日本紅斑熱」)(参照:国立感染症研究所「日本紅斑熱とは」)
④ Q熱
Q熱とは「Query frever=不明熱」に由来する重要な感染症の1つ。1935年にオーストラリアで原因不明の発熱疾患と思われましたが、のちに「リケッチアの一種(Coxiella burnetii)」による感染症だとわかりました。
症状は非常に多彩で、最初インフルエンザに似た症状から始まり、肝炎や肺炎・その他の全身症状が中心となります。同様にテトラサイクリン系の抗生剤が効き、Q熱を疑う場合には、2~3週間は続ける必要があります。
(参照:国立感染症研究所 Q熱とは)
マダニに刺されたらどう対処する?
では「マダニに刺された」と気づいたらどうすればよいのでしょう。まず以下を必ず意識しましょう。
① マダニを無理に引き抜こうとしない
マダニを無理に引き抜こうとするとアゴだけが残り、かえって治療に難渋してしまいます。また自分でマダニをとる方法もいくつかありますが、皮膚科に来院された時に、医師も状況がつかみにくくなるほか、取ったマダニの処理にも困ることでしょう。よほどの自信がなければ、自分で処理しない方が無難です。
② 外科や救急科・皮膚科で速やかに除去・治療してもらう
マダニを除去する方法はいくつかありますが、マダニを除去する方法に精通している医師はそこまで多くありません。少なくとも外科や救急科・皮膚科でマダニに精通している医院に相談するようにしましょう。
③ マダニをとっただけで終わらせない
マダニは吸血自体が怖いわけではなく、媒介する感染症に注意を払う必要があります。「マダニを自分で除去した」場合でも、必ず医療機関に受診するようにしましょう。その際、とったマダニを見せていただけると助けになりますね。
マダニ対策はどうすればよい?
ここまでで「マダニ」は恐ろしい感染症を媒介する注意すべき虫であることは伝わったかと思います。それでは、マダニに噛まれないように予防するにはどのようにマダニ対策をすべきでしょうか。
① 野外では肌の露出をできるだけ少なくする
まずは、マダニから身を守るために必要なことは「服装」です。なるべく肌を露出させない服装を選びましょう。服装のポイントは
- 長袖・長ズボンが基本
- 手袋や長靴を付ける
- 袖口を手袋の中に入れる
- ズボンを靴の中に入れる
- 帽子をかぶる
- 首元も露出させない(タオルかハイネックのシャツを着用)
になります。半ズボンやサンダル履きなどはマダニの恰好の的になってしまうので、絶対にやめましょう。(特に野生動物が生息する場所)
② マダニが嫌う虫よけ剤を使用する
マダニに対する虫よけ剤が現在発売されています。主な成分は「ディート」と「イカリジン」であり、「イカリジン」の方が年齢制限の注意もありません。(高濃度ディートは12歳未満には使用できません)。虫よけスプレーは厳重な服装よりも簡単にマダニ対策ができますが、以下に注意しましょう。
- マダニの付着数は減少しますが、マダニを完全に防ぐわけではありません。虫よけ剤だけにせず複数の防御手段を組み合わせる必要があります。
- 効果時間は6~8時間なので、1日のうち何回か使用する必要があります。
いずれにせよ、虫よけ剤を過信しないことが大切です。
③ マダニを家に持ち込ませない
マダニがいそうな場所からかえって来た時は、家に持ち込んでいないかチェックするようにしましょう。家からかえって来た際は、上着や作業服は家の中に持ち込ませず、速やかにシャワーや入浴を行い、ダニが付いていないかチェックするようにしてください。
マダニについてのまとめ
いかがでしたか?マダニやマダニ感染症について解説していきました。まとめると
- マダニは肉眼でも見える大きなダニの一種で、野生動物が生息する山の中で人間を含む動物を7日間かけて吸血する。
- 吸血し終わったら自然とはがれるが、SFTSウイルスやリケッチア・スピロヘータなど様々なウイルス・細菌を媒介し、致死率の高い感染症を引き起こす可能性も。
- ただし、無理にはがそうとするとアゴが残りかえって難渋してしまうため、速やかに医療機関に受診することが無難。
- マダニ対策としては「肌を露出させない」「虫よけ剤を使う」「家の中に持ち込ませない」などが有効。
といえます。繰り返しますが「これって…もしかしてマダニ?」と思ったら、速やかに医療機関に受診を。なによりかからないようにするために、山歩きの際には服装に気をつけてくださいね。
こちらもあわせてオススメです
- ダニ刺されの治療や対策・ダニ退治の方法について
- 毛虫に刺されたら?毛虫皮膚炎の症状や治し方・予防法について
- 「とびひ」(飛び火・伝染性膿痂疹)について【原因と治療・予防方法・登園】
- 怪我で破傷風ワクチン(トキソイド)を打つ場合は?効果や保険適応・投与間隔についても解説
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
よほどの自身がなければ、自分で処理しない方が無難です。
たぶん、自信。
ゆれ様
訂正いただきありがとうございます!修正いたしました。