帯状疱疹の後遺症はいつまで続く?帯状疱疹後神経痛の治療についても解説

顔や体に突然できて、ピリピリした痛みと帯状のブツブツが出てくる「帯状疱疹」。急性期の痛みも強いですが、問題になるのは帯状疱疹の後遺症ともいえる「帯状疱疹後神経痛」ですよね。現に、当院でも

  • 帯状疱疹を治療したがピリピリした痛みやかゆみが続く
  • 刺激が加わるたびに、帯状疱疹の跡がうずいて困る
  • 帯状疱疹をした部分の違和感をなんとかしてほしい

など帯状疱疹に関する多くの相談が寄せられています。実際、帯状疱疹の後遺症はいつまで続くのでしょうか?

今回は、帯状疱疹の後遺症である「帯状疱疹後神経痛」の特徴について原因や治療法に至るまで解説していきます。

帯状疱疹や帯状疱疹ワクチンについてはそれぞれ

もあわせてご参照ください。

帯状疱疹の後遺症である「帯状疱疹後神経痛」とは?

帯状疱疹後神経痛(Postherpetic neuralgia:PNH)とは、帯状疱疹の最も一般的な「後遺症」ともいえる合併症の1つです。

帯状疱疹は初期では「片側におこる水ぶくれ」と「ピリピリした痛み」が特徴の疾患ですが、だんだん神経痛だけの状態に移行してきます。

そして、皮膚症状が完全治ったのにも関わらず「痛みが治まらない」状態が続いてしまう・・・これが「帯状疱疹後神経痛」です。帯状疱疹後神経痛の特徴としては次の通りとなります。

  • 神経特有の痛みである:よく「焼けるような痛み」「電気が走るような痛み」「鋭く刺すような痛み」などと表現され、通常の痛み方とは違う痛み方をします。
  • 軽い接触や刺激でも強く感じる:帯状疱疹後神経痛では、衣服が患部の皮膚にこすれるだけで激しい痛みになることがあります(アロイディア)。通常の痛みは冷やすとよくなることが多いですが、帯状疱疹後神経痛ではかえって増悪します。そのため、日常生活もしばしば満足に送れないこともあります。
  • 時々かゆみやしびれを伴う:よく帯状疱疹後神経痛の痛みを「かゆい」と表現することがあります。また、その部分がしびれて感覚がマヒしたような状況になることもあります。

こうしてみると、ずいぶん通常の痛みとは違うことがわかりますね。通常は「3か月以上続く」と後遺症として考えられます。

帯状疱疹による後遺症は年齢が上がるにつれてなりやすいのが特徴の1つです。帯状疱疹後神経痛に関する論文によると、30-49歳ではたった3-4%ほどの発症率ですが、

  • 60-69歳での発症率:21%
  • 70-79歳での発症率:29%
  • 80歳以上での発症率:34%

とどんどん上がっていきます。別の論文では、50歳以上の帯状疱疹後神経痛の発症率は13%といわれていますね。そして、年齢が上がるとともに帯状疱疹自体にもなりやすいことがわかっています。

したがって、加齢とともに注意しなければならないのが、帯状疱疹なのです。

(参照:Postherpetic neuralgia: from preclinical models to the clinic
(参照:NIH「Postherpetic Neuralgia」

帯状疱疹の後遺症の原因は?

では、帯状疱疹はなぜ「後遺症」ともいえる帯状疱疹後神経痛を発症してしまうのでしょうか。

そもそも帯状疱疹はウイルスに罹患するためにおこるのではありません。水痘・帯状疱疹ウイルスの1回目の感染は「水ぼうそう」として発症します。その後、ウイルスが神経節に長い間「潜伏」することになります。

そして、2回目以降、加齢や疲労、ストレスなどにより免疫機能が低下した段階で神経に潜伏していたウイルスが神経を伝って再活性化し、「帯状疱疹」として発症するのです。

帯状疱疹では神経に沿ってウイルスが再活性化するため、神経へのダメージが強く加わります。そして、一部の人は神経へのダメージを回復させることができずに後遺症として残ってしまう・・・これが帯状疱疹後神経痛の正体です。

帯状疱疹後神経痛を発症した人と発症せずに終わった人の皮膚の神経を比較した論文によると「帯状疱疹後神経痛を発症された人の神経の数が正常な人よりも少なかった」と報告されています。つまり、1つの神経のダメージが強いと、ずっと敏感になりやすく残りやすいということですね。

また、帯状疱疹後神経痛の方は中枢神経(脳)から発する「痛みを感じなくする経路」(下降性疼痛抑制系)が弱まっていることも言われています。

このことから、

  • 自分で修復しきれない神経の炎症が敏感に伝わりやすくなっていること
  • さらに脳から「痛みを感じさせなくする経路」が弱まっていること

が帯状疱疹の後遺症として関与しているとされているのです。もちろん、ウイルスでやられる神経へのダメージに比例するので、なるべく早く帯状疱疹を治療すればするほど後遺症として発症しにくくなります

(参照:NIH「Postherpetic Neuralgia」

帯状疱疹後神経痛はいつまで続く?

では、帯状疱疹後神経痛の痛みはいつまで続くのでしょうか。これも年齢によって異なります。

アイスランドから発表された帯状疱疹後神経痛の方を長期に観察した研究によると、

  • 60歳未満の方では1.8%の方が3か月以上続いたが、1年以上続いた人はいなかった。
  • 60-69歳の方では12%の方が3か月以上続き、4%の方が1年以上続いた。
  • 70歳の方では28%の方が3か月以上続き、15%の方が1年以上続いた。

としています。1年以上・・・というのは、かなりつらいですよね。しかも最長で5年超続いている人もいます。まさに帯状疱疹の後遺症といえるにふさわしいです。

しかし、ずっと激しい痛みが続いているわけでもありません。同報告では、3か月時点で「重度の帯状疱疹後神経痛」と診断されている人も1年後には「軽度~中等度」に軽減されています。

したがって、ずっと同じ痛みが続くわけではなく、帯状疱疹後神経痛は「非常にゆっくりではあるけれども段々治まっていく疾患」とも考えられます。痛みの感じ方には個人差が大きく、根気が必要なのは間違いないですが「ゆっくり治まってくはずだ」と考えて、治療に臨んだ方がよいですね。

(参照:Prevalence of postherpetic neuralgia after a first episode of herpes zoster: prospective study with long term follow up

帯状疱疹後神経痛に対する薬物治療は?

帯状疱疹後神経痛の治療や薬にはどのようなものがあるのでしょうか?昔はあまり治療方法がありませんでしたが、今は色んな薬が開発されています。例えば次の通りです。

① プレガバリン(リリカ®)

プレガバリンは、神経同士の伝達物質であるカルシウムイオンの量を減らすことで、神経の興奮を抑えて鎮痛作用を発揮する薬です。日本ペインクリニックの神経障害性疼痛ガイドラインでは第1選択薬の1つにあげられている薬です。

帯状疱疹後の神経痛の方にプレガバリン300mgを13週間投与した結果、疼痛スコアが有意に減少したというデータがあります。糖尿病の方の末梢神経のしびれにも効果的です。

主な副反応としては、不眠・めまい・頭痛などが合併症としてみられることがあるため、徐々に投与量を増やしながら見ていく必要があります。減量の場合も同様です。

② ミロガバリン(タリージェ®)

ミロガバリンもプレガバリン同様、神経でのカルシウムイオンの流入を抑えることで、鎮痛作用を発揮する薬です。2019年に販売が承認された比較的新しい薬ですね。

帯状疱疹後の神経痛の方に同様に13週間投与した結果、痛みの程度が改善した臨床試験があります。(詳細はこちら)プレガバリン同様、糖尿病の末梢のしびれにも効果があります。

副反応もプレガバリン同様、眠気やめまい・むくみなどがあるので、徐々に量を増やしながら反応を見る必要があります。減量の場合も同様です。

③ 三環系抗うつ薬(トリプタノール®など)

三環系抗うつ薬は、脳の神経伝達物質である「セロトニン」「ノルアドレナリン」を神経に再度回収するのを防ぐ薬です。量が多くなった神経伝達物質は「下行性疼痛抑制系」(痛みに関わる末梢側にいく神経のこと)の機能を高めて、痛みの伝達を遅らせます。

こちらの薬も帯状疱疹後神経痛にもみられる「神経障害性疼痛」の方に投与すると、8週前後で改善が認められたため、 神経障害性疼痛ガイドラインでは第1選択薬の1つにあげられています。

ただし閉塞隅角緑内障の方・心筋梗塞回復初期の方・前立腺肥大のある方は投与できない他、多くの併用注意薬がある点・循環器系や精神神経系に副作用がでる可能性があるため、低用量から開始し、慎重につかわれるべき薬ですね。

④ セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(サインバルタ®など)

セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬も、三環系抗うつ薬同様、 「下行性疼痛抑制系」 を活性化させて痛みの伝達を遅らせる薬です。こちらも 神経障害性疼痛ガイドラインでは第1選択薬の1つにあげられています。

副反応に吐き気や眠気などの合併症が出ることがあるため徐々に増量する必要がありますが、三環系抗うつ薬 よりも軽度になっています。ただし、高度の肝機能障害や腎機能障害がある方・コントロール不良の閉塞隅角緑内障の方は使用できないので注意してください。

⑤ ノイロトロピン®

ノイロトロピン®は「ワクシニアウイルス接種家兔炎症皮膚抽出液」が一般名称です。文字通り兔の皮膚から抽出したエキスを用います。

特に帯状疱疹後の神経痛に対して日本で臨床試験が行われ、鎮痛効果が示されている薬です。

作用機序は分かっていない部分も多いですが、20年以上の臨床使用の歴史を持ち、安全性が高いことが特徴です。副反応に、発疹・肝機能障害などがあります。

⑥ オピオイド鎮痛薬(トラマール®)

トラマール®は、オピオイドとよばれる系統でがんの痛みを抑える特殊な薬ですが、神経障害性疼痛としても第2選択薬として用いられます。がんに用いられる特殊な薬で、精神依存は少ないですが、長期使用には注意が必要とされています。

副反応に吐き気や便秘・嘔吐があるので、短期的に使用してみて効果を確かめながら使用します。

また、神経の修復を助ける薬やビタミンを使用したり、漢方薬(牛車腎気丸・抑肝散・桂枝加苓朮附湯など)を使用することもありますが、当院では患者さんの「証」や状態を見て判断しています。

(参照:帯状疱疹後神経痛に対するプレガバリンの有効性および安全性 の検討―多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験)
(参照:Comparison of the effectiveness of amitriptyline and gabapentin on chronic neuropathic pain in persons with spinal cord injury
(参照:帯状疱疹後神経痛に対するノイロトロピン®の効果
(参照:日本ペインクリニック学会「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版」

帯状疱疹後神経痛に対する他の治療法は?

帯状疱疹後神経痛は薬物治療だけでなく、他の治療法もあります。例えば次の通りです。(これらが該当する場合、当院では他施設に紹介しています)

  • 神経ブロック: 痛みで傷ついた神経の周辺に麻酔薬を注射することで、痛みをなくす方法です。すべての神経に行えるわけではありませんが、神経に直接麻酔するため1-2時間程度で痛みは消失します。持続時間は、1日できれてしまう人もいればそのまま痛みが改善する人もおり、人それぞれです。
  • 理学療法・作業療法: 痛みによって、活動が制限されている場合に、効果的なことがあります。痛みに応じたストレッチやエクササイズプログラムを行うことで、痛みの軽減や、痛みに対する恐怖を取り除くことができます。
  • 手術:脊髄硬膜外電気刺激療法・後根切断術・脊髄交連切断術など様々な治療法がありますが、これまでの治療でどうしても改善せず、手術の適応となる病気については、手術が選択されることもあります。

このように、帯状疱疹後神経痛に関しては、多くの治療法が模索されています。なので「どうせ治らない」とあきらめずに、医師とも相談しながら改善策を図っていくとよいですね。

当院でも帯状疱疹後神経痛の治療を行っておりますので、ぜひ相談してみてください。

帯状疱疹の他の後遺症は?

実は、帯状疱疹の後遺症は帯状疱疹後神経痛だけではありません。例えば、他の後遺症として辻のような疾患もあげられます。

  • 耳の付近に帯状疱疹ができた場合:ラムゼイ・ハント症候群のような顔面神経麻痺やめまい・耳鳴りなど
  • 目の付近に帯状疱疹ができた場合:角膜炎や結膜炎、ぶどう膜炎など

あとは、頭部付近に出来た場合、ストレスにより片頭痛が増悪してしまう場合もありますね。当院ではこれらの疾患の場合は紹介することが多いですが、いずれにせよ「早期に治療すること」が一番大切。

「帯状疱疹かな?」と思った時は早めに医療機関に受診するようにしましょう。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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