喉の痛みに対する漢方薬について解説【桔梗湯・小柴胡湯加桔梗石膏・銀翹散】

新型コロナやインフルエンザ、アデノウイルスに溶連菌。さまざまな疾患で急激に襲ってくる「喉の痛み」。

もちろんきちんと診断してもらうために医療機関に行くのは必須ですが、「その間の喉の痛みを何とかしたい」と思うのは当然ですよね。こんな時、喉の痛みを抑える漢方薬を使ってもよいかもしれません。

では、どんな漢方薬が一般的に喉の痛みに使われるのでしょうか?一緒に見ていきましょう。

喉の痛みで最もよく使われる「トラネキサム酸(トランサミン®)については、トランサミン(トラネキサム酸)の喉への効果や授乳中・小児への適応についてを参照してください。

喉の痛みに使われる漢方薬は効果がある?

よく漢方薬は「即効性がない」と思われがちですが、喉の痛みなどの急性疾患に対して効果があるのでしょうか?

結論から言うと「喉の痛みに対する漢方薬も、ある程度効果が証明されている」と言えます。

例えば、質がある程度高いと考えられた2件の「喉の痛みに対する漢方薬の効果」を検証した論文によると、漢方薬が抗生物質や抗生物質を含んだ噴霧吸入よりも有効であった、と報告しています。

もちろん疾患によっては抗生物質でないと治らない疾患もあるので一概には言えませんが、補助的な治療としては十分利用できそうですね。

では、具体的にどんな漢方薬が日本では使われるのでしょうか。代表的な漢方薬である

  • 桔梗湯(ききょうとう)
  • 小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)
  • 甘草湯(かんぞうとう)
  • 銀翹散(ぎんぎょうさん)

の4つの特徴について見ていきましょう。

喉の痛みに使う漢方薬 その1:桔梗湯

最も喉の痛みで使われる漢方薬の1つが「桔梗湯」です。桔梗湯は「体力に関わらず使用でき、のどがはれて痛み、ときにせきがでるものの次の諸症:扁桃炎、扁桃周囲炎」に使われるとされていますね。

構成される生薬も非常にシンプルで

  • 甘草(カンゾウ)
  • 桔梗(キキョウ)

の2生薬のみで構成されています。甘草はショ糖のおよそ150倍の甘味を有するといわれているグリチルリチン酸や、フラボノイドであるlicoricidin・licorisoflavan Aを多く含み、炎症作用や抗菌作用があるといわれています。実際、

  • 甘草抽出物がStreptococcus(溶連菌)に対し抗菌作用を有するとの報告
  • マウスで甘草より抽出されたフラボノイドが免疫を活性化し,カンジダ症への抵抗性を高めるという報告

などもありますね。また、桔梗も主成分であるplatycodinの抗炎症作用が報告されています。

このことから、全体的に「喉の炎症や口の中の潰瘍などを修復するのに特化した薬」であるといえるでしょう。

桔梗湯に関する臨床試験もいくつか行われております。

例えば、40名の方に上気道感染症の方に桔梗湯を投与し、10分後と30分後に喉の痛みがどれだけ変わったかを見た臨床試験では、痛みの程度を示す「VASスコア」で48.2から10分後には35.4、30分後には30.7と大幅に低下し、喉の痛みによる日常生活への影響も大幅に緩和されたとしています。

また、放射線照射による食道炎や咽頭炎も桔梗湯で改善できたという症例報告もありますね。

ただし一方、プラセボと桔梗湯を使用した合計70名でのランダム化比較試験では「桔梗湯による日常生活の影響やのどの痛みの改善効果が確認できなかった」としています。

そのため、誰でも一律に効果を実感できるわけではないと思いますし、より質の高い研究が期待されますね。

甘草がそれなりに多い割合(処方薬で7.5g3g)で入っており、長期間使用するとカリウム値に異常を来したり、血圧が上がる可能性があるので、モニタリングする必要がありますね。

(参照:Rapid effects of Kikyo-to on sore throat pain associated with acute upper respiratory tract infection. J Complement Integr Med. 2013 Dec 20;11(1):51-4. doi: 10.1515/jcim-2013-0052.
(参照:桔梗湯により放射線照射による食道炎・喉頭炎,口内炎の痛みを緩和できた2症例
(参照:Kikyo-to vs. Placebo on Sore Throat Associated with Acute Upper Respiratory Tract Infection: A Randomized Controlled Trial. Intern Med. 2019 Sep 1;58(17):2459-2465.

喉の痛みに使う漢方薬 その2:小柴胡湯加桔梗石膏

喉の痛みに使う漢方薬として「小柴胡湯加桔梗石膏」があげられます。小柴胡湯加桔梗石膏は主に「咽喉がはれて痛む次の諸症:扁桃炎、扁桃周囲炎」となります。構成生薬としては、次の通りです。

  • 石膏(セッコウ):「チョーク」で有名ですね。主成分は、含水硫酸カルシウムであり、東洋医学では体を冷やす「寒」の性質があるとされています。
  • 柴胡(サイコ):サイコという植物(セリ科 ) の根を乾燥したもの。 柴胡は半表半裏にこもった少陽の熱を中和して解毒する作用が言われています。
  • 半夏(ハンゲ):サトイモ科カラスビシャクのコルク層を除いた塊茎。水分の停滞を整え、去痰作用があるといわれています。
  • 黄芩(オウゴン):コガネバナの根の周皮を取り除き乾燥させたもの。解熱や解毒、抗炎症作用があるといわれています。
  • 桔梗(キキョウ):喉の炎症を和らげる作用があります。
  • 大棗(タイソウ):棗(ナツメ)を乾燥させたもの。筋肉の急な緊張をやわらげたり、神経過敏を沈める作用があるといわれています。
  • 人参(ニンジン)
  • 甘草(カンゾウ):前述したとおり、喉の炎症を和らげる作用がありますね。
  • 生姜(ショウキョウ):これはおなじみの「ショウガ」ですね。主な作用は胃の機能を高める「健胃作用」ですが、体を温め、吐き気を抑える作用などもあります。

桔梗湯に比べると、かなり生薬のラインナップは多くなっていますね。東洋医学的には「半表半裏(はんぴょうはんり)」といって、ウイルスと表面(粘膜)だけでなく体の内側(裏面)でも戦っている状態の時に使われるといわれています。

小柴胡湯加桔梗石膏は、東北大学の研究チームが、葛根湯との合方によるコロナへの有用性を報告していてから一躍有名になりました。

新型コロナウイルスに罹患された161名の方を、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏で治療したグループ81名と、対照群80名にランダムに割り付けて評価したところ、漢方薬を使用したグループの方が対照群よりも解熱する期間が短く(約1日)呼吸不全に至る割合も低下する傾向にあったとのことでした。

ただし、喉の痛みに対する効果が確認されていないことや、主要評価項目である「発熱・咳・痰・疲労・息切れ」の症状のうち1つが緩和されるまでの期間は、両群で差が見られなかったことは注意が必要ですね。

抗ウイルス薬ほどではありませんが、補助的には十分期待してよい漢方薬だと思います。

(参照:Multicenter, randomized controlled trial of traditional Japanese medicine, kakkonto with shosaikotokakikyosekko, for mild and moderate coronavirus disease patients. )

喉の痛みに使う漢方薬 その3:甘草湯

抗炎症効果として期待できる「甘草」。甘草1種類だけを使用して作られた薬が「甘草湯」です。

桔梗湯でもシンプルなのに、生薬が1種類だけの漢方というのも珍しいですよね。適応としては「激しい咳、咽喉痛の緩解」としています。

甘草は前述の通り、炎症を抑える力は非常に強く、Streptcoccusなどの菌も抑える可能性がある適応の広い薬。多くの漢方薬にも他の生薬の効果を整える「調整役」として、大活躍します。

その甘草のだけを抽出した薬と言えますね。なんと1日の甘草の量では8.0gもあります。桔梗湯が3gなので、2倍以上ですね。もちろん量に応じて、甘草で期待される効果は高くなります。

一方、甘草は使い過ぎに注意喚起されている薬です。

大量に使ったり、長期に服用した場合はむくみ・低カリウム血症・血圧上昇など(偽アルドステロン症)を起こすことがあります。なので、なるべく短期間に使用したり、量を減らして使った方が無難かもしれませんね。

(参照:カンゾウ(甘草)含有医療用漢方製剤による低カリウム血症の防止と治療法

喉の痛みに使う漢方薬 その4:銀翹散

最後に紹介するのが「銀翹散」です。銀翹散は医療機関では処方することができず、ドラッグストアでの購入となる「喉の痛み」に使われる漢方薬です。適応は「かぜによるのどの痛み・口(のど)の渇き・せき・頭痛」としています。

銀翹散は、連翹(レンギョウ)、金銀花(キンギンカ)、桔梗(キキョウ)、薄荷(ハッカ)、淡竹葉(タンチクヨウ)、甘草(カンゾウ)、荊芥(ケイガイ)、淡豆豉(タンズシ)、牛蒡子(ゴボウシ)の9種類の生薬が配合されています。銀翹散で特徴的な生薬としては以下があげられるでしょう。

  • 連翹(レンギョウ):レンギョウの果実を乾燥させたもので、抗菌作用や炎症を抑え、水分を整える作用がありますね。
  • 金銀花(キンギンカ):スイカズラのつぼみを乾燥させたもの。東洋医学でいう「寒」の性質を持つことから、体の熱を冷やす作用があるといわれています。
  • 荊芥(ケイガイ):ケイガイという植物の花穂の部分。発汗・解熱作用があります。

このように、銀翹散はどちらかというと「ほてった熱を冷ます」傾向にある風邪を治す作用があり、より熱感が強い風邪に使いやすい薬になります。

喉の痛みに漢方薬を使う際の注意点は?

喉の痛みの漢方薬を使用する際に重要な注意点があります。それは、喉の痛みがでる原因はきちんと診断をつけるべきであり、漫然と漢方薬だけを使用しないという点です。

もちろん「軽いのど風邪」くらいなら十分漢方薬だけで治ることも期待できますが、特に「喉の痛み」は鑑別しなければいけない疾患がたくさんあります。中には点滴や緊急処置が必要な疾患だってあります。

そして、早期に本来の治療をすることで後遺症や重症化を防ぐことができるのです。

そのため、のどの炎症が強かったり発熱しているケースは漫然と使用せず、必ず医療機関にいくようにしましょう

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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