「最近、なぜかやる気がでない」と思ったことはありませんか?
私たちが日常生活で、一時的に「やる気が出ない」と感じることは珍しいことではありません。しかし、あまりにやる気が出ない状態が続いていると、生活や周りの人に悪い影響が出てしまいます。
さらに、やる気が出ないとついつい「メンタル」のせいにしてしまいがちですが、そうではない内科的な疾患も数多く存在します。
今回、やる気が出ない内科的な病気について紹介していきます。
ぜひ、「あてはまりそうだ」と思ったら「気のせい」「どうせメンタル」と思わずにかかりつけの内科にもご相談くださいね。(当院でも大歓迎です)
では、見ていきましょう。
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やる気が出ない時に考えられる内科的な病気は?
あまりに長期間やる気が出ないのが続いている場合、単なる「気のせい」でない場合があります。ではどんな疾患が考えられるのでしょうか。例えば、やる気が出ない内科疾患としては次のような場合が考えられます。
(実はもっと考えなければいけない疾患はいっぱいありますが、代表的なものをあげます)
① 甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症とは、さまざまな原因で甲状腺ホルモンという代謝をつかさどるホルモンの分泌が低下する疾患です。
甲状腺は、首の前面に位置する蝶形の内分泌腺で、主に甲状腺ホルモンとして、トリヨードサイロニン(T3)とテトラヨードサイロニン(T4、サイロキシン)を分泌します。これらのホルモンは、体内のエネルギー代謝や成長、神経系の発達など、さまざまな生体機能の調節に関与しています。
この甲状腺ホルモンが低下すると、体内の新陳代謝が低下します。新陳代謝が低下すると、筋肉のエネルギー産生が減少し、疲労感が生じます。さらに、神経伝達物質のバランスが崩れることで、気分の低下やうつ病症状が現れることもあります。
甲状腺機能低下症の中で一番有名なのが「橋本病」と呼ばれる、慢性甲状腺炎です。これは、自分の甲状腺を攻撃してしまう自己抗体を作り、甲状腺を攻撃し続ける結果、甲状腺の機能を低下させる疾患です。
(医師が疑うかどうかは別にして)自分が甲状腺機能低下症かどうかは採血で比較的に簡単にわかります。詳しくは甲状腺の病気に多い「甲状腺機能低下症」について解説【原因・症状・食事】も参考にしてください。
② 貧血・高度鉄欠乏など
貧血とは文字通り「体をめぐる血液の量が足りない」こと。血液は体のエネルギー産生に必要な酸素や栄養分を運び、二酸化炭素を運ぶ大事な役目を負っています。
例えば、酸素供給が不足すると、細胞レベルでのエネルギー代謝が低下します。この結果、疲労感やだるさが生じ、やる気が出ない状態になってしまうのです。
また、脳への酸素供給が不十分になると、認知機能や集中力が低下し、気分の変調やうつ病症状が現れることがあります。これらの症状も、やる気が出ない状態につながります。
貧血の原因はさまざまであり、鉄分不足、ビタミンB12不足、葉酸不足、出血などが挙げられます。
ここで「健康診断で貧血と言われたから違うだろう」と思う方も多いですが、そうではありません。例えば「貧血まで至っていないけど鉄欠乏が続いている状態(潜在的鉄欠乏)」も「だるさ」につながるからです。
事実、2003年の国民栄養調査による「年代別鉄飽和度と摂取量」によると、
- 成人男性: 潜在的鉄欠乏 4.2%、鉄欠乏性貧血 0%
- 月経のある成人女性:潜在的鉄欠乏 36.2%、鉄欠乏性貧血 11.9%
- 閉経後の成人女性: 潜在的鉄欠乏 8.5%、鉄欠乏性貧血 2.8%
となっており、貧血にはなっていないけど鉄欠乏に至っている方が相当数いることがわかります。
詳しくは、鉄分不足による貧血「鉄欠乏性貧血」の原因や食事・治療についてを参考にしてください
(参照:鉄代謝と鉄欠乏性貧血―最近の知見―日本内科学会雑誌 104 巻 7 号)
③ 栄養不足・ミネラル不足・脱水
貧血以外にも、ミネラル不足や電解質バランスの調節がおかしくなっている、栄養不足であるなどの理由で「やる気がでない」ということもしばしばあります。
例えば、亜鉛不足では、貧血の他に食欲不振や食欲低下・性機能不全・味覚異常や神経異常・脱毛などがおこりやすくなります。
低ナトリウム血症や高カルシウム血症でも食欲不振や動作の緩慢などにつながることがあります(外来ではめったにありません)。
熱中症を代表とした「脱水症状」でも、「熱疲労」といってやる気がでないことにつながります。
亜鉛不足については亜鉛不足の原因や症状・摂取量の目安について【食べ物や治療薬も】もあわせて参照してください。
④ 糖尿病
糖尿病を放置した結果、やる気が出ない場合もしばしば経験します。(この場合はかなり高度な糖尿病になっていることが多いです)
糖尿病でやる気が出ない理由は、血糖値(血液中の糖分)がうまく管理されていないから。
血糖値は、私たちが食べるものから得られるエネルギーで、私たちの体が活動するために必要なエネルギー源です。健康な人の場合、インスリンというホルモンが血糖値を適切に管理し、体内の細胞にエネルギーを届けます。
しかし、糖尿病の人はインスリンがうまく働かないか、十分に作られていないため、血糖値がうまく管理されません。その結果、血液中の糖分が細胞にうまく届かず、細胞がエネルギーを得られなくなります。
細胞が十分なエネルギーを得られないと、疲れやすくなり、やる気が出なくなります。さらに、血糖値が高いままの状態が続くと、気分が悪くなったり、集中力が低下したりすることがあります。
⑤ 起立性低血圧(神経調節性失神)
起立性低血圧(神経調節性失神)とは、一時的に血圧が下がったり、脳への血流が減少したりすることで、突然の失神が起こる状態です。
これは、自律神経系の反応がうまく機能しなくなることが原因です。自律神経系は、体の内部環境を安定させるために、心臓や血管などの働きを調節しています。
神経調節性失神でやる気が出ないメカニズムは、主に脳への血流が不安定になることが関与しています。脳への血流が不安定になると、脳がうまく働かなくなり、疲れやすくなったり、集中力が低下したりします。これが、やる気が出ない状態につながります。
また、神経調節性失神を経験した人は、再び失神しないかという不安感があることも、やる気が出ない理由の一つです。不安感が強いと、心に余裕がなくなり、やる気を持って活動することが難しくなります。
詳しくは立ちくらみやふらつきで多い神経調節性失神・起立性低血圧について【原因・予防・治し方】を参照してください。
⑥ 新型コロナ後遺症
実は、新型コロナ後遺症でも「だるさ・やる気が出ない」につながっている恐れがあります。実際、東京都でのモニタリング会議資料によると、
- 「新型コロナに感染してから2か月以上の期間、後遺症を疑う症状がありましたか?」という質問に対して、後遺症を疑う症状を感じたことがある方は25.8%であった
- 後遺症の症状として「倦怠感 51.6%、集中力低下11.8%」が多彩な症状の1つとしてあげられる
と報告しています。また当院でも新型コロナ後遺症によるだるさについて、のべ数百人以上見てきましたが、
- どうしても横になっている時間が多い
- 脳を使う仕事を少しするだけで、猛烈なだるさが襲ってくる
- 30分散歩するだけで息があがってしまい、体がだるくて起きていられない
などの症状を言われることもしばしばです。(ゆっくり治ってきているのが救いですが)新型コロナ罹患後に「やる気が出ない状態」が続いている場合は、気のせいと思わずに病院に受診しましょう。
(参照:(第116回)東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議資料)
やる気がでない内科疾患についてのまとめ
いかがでしたか?今回はやる気がでない内科疾患についてまとめてみました。上記では
- 甲状腺機能低下症
- 貧血・高度鉄欠乏
- ミネラル不足・栄養不足・脱水
- 糖尿病
- 起立性低血圧・神経調節性失神
- 新型コロナ後遺症
を挙げていますが、考えなければいけない疾患はこれだけではありません。最終的に「精神疾患の可能性が高い」ということもありますが、その際にも適切にケアをさせていただきます。どうぞご遠慮なくご相談ください。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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