レプリコンワクチンについて【仕組み・お断り・治験】

10月より新型コロナワクチン接種が開始になりますね。日本では以下の5種類が新型コロナワクチンとして認可されています。

  • ファイザー社のmRNAワクチンである「コミナティ」
  • モデルナ社のmRNAワクチン「スパイクバックス」
  • 第一三共のmRNAワクチン「ダイチロナ」
  • 武田薬品の組み換えタンパクワクチン「ヌバキソビッド」
  • Meiji Seika ファルマのレプリコンワクチン「コスタイベ」

これらのうち最も世間を騒がせているワクチンが、次世代mRNAワクチンとも呼ばれる「レプリコンワクチン」です。

  • mRNAワクチンをさらに改良したワクチンである
  • 日本だけしか認可がされていない

いった理由から多数のメディアで取り上げられ、SNSでは多くの非難が浴びせられています。中には「レプリコンワクチンを打った人は入店をお断りします」というお店も出てきました。しかし、それを実証された論文から科学的に紐解いた情報はなかなか少ないと感じます。

そこで今回はなるべく客観的な立場から

  • レプリコンワクチンとはどんなワクチンなのか
  • レプリコンワクチンの安全性は本当はどうなのか
  • レプリコンワクチンで噂されている「シェディング」は起こるのか

などについて、治験や論文のデータなどをもとにわかりやすく解説していきます。

動画でもレプリコンワクチンについてわかりやすく解説しましたので、併せてご参照ください。

レプリコンワクチンの仕組みは?

レプリコンワクチンとは、少ない有効成分量で効果が長く続くことを目的とした「次世代mRNAワクチン」と呼ばれるワクチンです。その最大の特徴はmRNAが自分自身で複製されることにあります。

レプリコンワクチンは投与されると細胞内に取り込まれ、大量に複製するためのレプリカーゼという酵素を作れるたんぱく質の設計図(mRNA)を送り込みます。

そして、レプリカーゼがmRNAを増幅することで、効率的にウイルスのスパイクタンパク質が生成されるのです。

コピー機で例えてみましょう。

従来のmRNAワクチンは、一枚一枚手書きでチラシを作るようなものです。一枚一枚丁寧に作るので、効果はありますが、作るのに時間がかかりますし、たくさんのチラシを作るのは大変です。

一方、レプリコンワクチンは、コピー機を使ってチラシを大量に作るようなものです。コピー機には、チラシの元となる原稿と、それをコピーするための機能が備わっています。原稿にあたるのがウイルスのスパイクタンパク質を作る設計図(mRNA)で、コピー機能にあたるのがレプリカーゼという酵素です。

レプリコンワクチンを接種すると、細胞の中にコピー機(レプリカーゼ)とチラシの原稿(mRNA)が送り込まれます。

すると、コピー機が原稿をどんどんコピーし始め、大量のチラシ(スパイクタンパク質)が作られる・・・というわけですね。

このスパイクタンパク質は、本来ウイルスが細胞に侵入する際に使うものですが、ワクチンではそれが単独で存在するため、単体で重篤な病気を引き起こすことはないとされています。また、スパイクタンパク自身も経過とともになくなるので「ずっと残り続ける」というものではありません。

実際、臨床試験を行う前段階の実験で、マウスを用いたやヒトの皮膚細胞からの非臨床試験より、産生されたスパイクタンパク質は、筋肉内でおおむね7~ 8日目まで増加し、その後時間の経過とともに減少し、21日目に消失することが確認されています。

また21日目くらいに消失することを人の皮膚組織に入れた場合でも確認していますね。

レプリコンワクチンによって複製されたスパイクタンパク質を、体内の免疫系は「異物」と認識して、それに対する抗体や細胞性免疫を活性化します。そして、実際にウイルスに感染した際に、免疫系が迅速に反応し、ウイルスを排除できるようになるわけです。

まとめると、レプリコンワクチンは、ウイルスの「コピー能力」を応用し、効率的に免疫システムを訓練することで、ウイルスに対する防御効果を高めるワクチンといえるでしょう。

(参照:Expression Kinetics and Innate Immune Response after Electroporation and LNP-Mediated Delivery of a Self-Amplifying mRNA in the Skin
(参照:Safety and immunogenicity of a self-amplifying RNA vaccine against COVID-19: COVAC1, a phase I, dose-ranging trial

レプリコンワクチンをうつメリットは?

レプリコンワクチンのメリットをまとめるなら、

  • 効果の持続期間が長い
  • 少ない投与量で済む

の2つに集約することができますね。

日本人成人828名に対して、今回のコスタイベ(ARCT-154)とファイザー社ワクチン(コミナティ)をランダム化比較試験を行った論文によると、オミクロンBA.4/5株に対しての中和抗体価は

  • 投与後30日:コスタイベ2125、コミナティ1624(1.31倍)
  • 投与後90日:コスタイベ1892、コミナティ888(2.13倍)
  • 投与後180日:コスタイベ1119、コミナティ495(2.26倍)

とコスタイベの方が増加し、かつ中和抗体価が6カ月にわたって長く続くことが言われています。

コスタイベは5μgのmRNAを含むのに対し、コミナティは30μgと、コスタイベはコミナティの約6分の1mRNA量であるにも関わらずです。

これは、レプリコンワクチン独特の「自己増殖型」の性質により、21日まで消失するまでの間にスパイクタンパク質が増殖され、より多くの免疫応答が起こったためだと考えられます。

他にもベトナムの16,000人にも及ぶ第3相臨床試験では、レプリコンワクチンによる重症化予防効果は95.3%、発症予防効果は56.6%であると報告されています。(デルタ株流行期が主)

このように、従来のmRNAワクチンよりも少量で予防効果が長く続くポテンシャルを持つのが、レプリコンワクチンの最大の強みと言えるでしょう。

(参照:Persistence of immune responses of a self-amplifying RNA COVID-19 vaccine (ARCT-154) versus BNT162b2
(参照:Safety, immunogenicity and efficacy of the self-amplifying mRNA ARCT-154 COVID-19 vaccine: pooled phase 1, 2, 3a and 3b randomized, controlled trials

レプリコンワクチンの安全性や副作用は?

実はレプリコンワクチンを開発するにあたっては、かなり慎重に行ってきたことがうかがえます。

例えばベトナムでは2021年から現在進行中で二重盲検ランダム化比較試験が行われており、後期フェーズである第3相臨床試験ではコスタイベとプラセボ(偽薬)をそれぞれ約8,000人ずつ投与し、合計16,000人という非常に大規模な臨床試験を展開しています。

さらに国内でも第3相臨床試験を日本の外来臨床施設11施設共同で行われ、2022年12月から安全性が追及されてきています。

したがって、国内外で考えると、2~3年の年月を経て安全性を確認していますね。

では、実際、レプリコンワクチンでどのような副作用が出たのか。ベトナムの16,000例に及ぶ臨床試験によると、頻度別に以下の副作用を報告しています。(1回接種)

  • 20%~40%:疼痛、圧痛、頭痛、疲労感、筋肉痛
  • 20%以下:局所の腫れ、発熱、関節痛、悪寒、下痢、めまい、吐き気

ちなみに「局所反応のほとんどはワクチン接種後3日以内に発生し、どちらかの投与後2~4日以内に解消された。また全身の副作用は主に軽度または中等度で、1回目または2回目の投与後1~3日以内に発生し、追跡期間内に解消した」と報告していますね。

また、よくベトナムの治験による死亡例が言及されていますが、本試験ではワクチン接種者の5例、プラセボ(偽薬)接種者の16例、計21例が死亡に至っています。このうち、ワクチン接種に関連するものはなく、10例は新型コロナ感染に関連していると考えられ、うち1件はワクチン接種者、9件はプラセボ投与者とされています。

したがって、今のところは「レプリコンワクチンが大きく死亡につながっている」ということはないと思います。

また、日本の国内第3相臨床試験では今回のレプリコンワクチンである「コスタイベ」とファイザー社の「コミナティ」と比較しているわけですが、(追加接種時)

  • 局所の紅斑:コスタイベ12.4%、コミナティ20.8%
  • 局所の硬結:コスタイベ12.4%、コミナティ19.9%
  • 局所の圧痛:コスタイベ92.4%、コミナティ95.8%
  • 局所の疼痛:コスタイベ83.8%、コミナティ87.7%
  • 発熱:コスタイベ20.0%、コミナティ18.6%
  • 関節痛:コスタイベ26.7%、コミナティ27.7%
  • 悪寒:コスタイベ30.0%、コミナティ25.2%
  • 下痢:コスタイベ6.7%、コミナティ4.2%
  • めまい:コスタイベ6.0%、コミナティ3.2%
  • 頭痛:コスタイベ39.3%、コミナティ30.6%
  • 倦怠感:コスタイベ44.8%、コミナティ43.1%
  • 悪心:コスタイベ5.0%、コミナティ3.9%
  • 筋肉痛:コスタイベ29.3%、コミナティ24.5%

とファイザー社ワクチンと比較しても、ほぼ変わらない副作用発現率となっています。また、有害事象の発現までの日数と持続期間はコスタイベとコミナティで大きな差はないとしているので、レプリコンワクチンが従来のmRNAワクチンと同じくらいの副作用といえますね。

(参照:Persistence of immune responses of a self-amplifying RNA COVID-19 vaccine (ARCT-154) versus BNT162b2
(参照:Safety, immunogenicity and efficacy of the self-amplifying mRNA ARCT-154 COVID-19 vaccine: pooled phase 1, 2, 3a and 3b randomized, controlled trials

レプリコンワクチンを打つと入店お断り、は正しいのか?

さて、SNSなどを中心にレプリコンワクチンが非常に避難の的になっており、中には「レプリコンワクチンを打った方は入店お断り」という店まで現れる自体となっています。

日本看護倫理学会がレプリコンワクチンへの懸念として「シェディングの問題」を引き合いに出したことから拍車がかかりました。

シェディングとは一言でいうと「ワクチン接種によりワクチンの成分が他に伝播して病気になる」という理論。

2021年での仮説段階の論文(論文の質はインパクトファクターがつかないくらい低いとされています)が発端です。同論文では「ワクチン接種によって体内で生成されたスパイクタンパク質が、誤って折り畳まれ、プリオンと呼ばれる異常なタンパク質に変化する可能性」が示唆されています。そして、「プリオンが体内のあらゆる場所に運ばれ、呼吸や皮膚接触などにで他の人にうつるのではないか」としています。

本論文でも「これは可能性でありさらなる研究が必要である」と結論づけていますが、この理論が実証されたものはありません。

したがって、同理論はmRNAワクチンからの理論であり、仮に同理論が正しいとしても、ほとんどの人がmRNAワクチンを打っているわけですから、「レプリコンワクチン接種者だけ入店お断り」というのはあまり理論的な裏付けに乏しいと感じます。

またそこだけ入店拒否しても満員電車に乗ってみなさん仕事に行くわけですし、2~3年前からベトナムで8,000名、日本で400名以上は治験で接種されています(しかも二重盲検でどちらを打っているかわからない)ので、これからレプリコンワクチン接種者をお断りすることによる予防効果はないと思われます。

さらに他の論文(今度はきちんと論文の質が担保された論文です)でワクチン接種者と未接種者がそれぞれコロナ感染したとき、どれくらいウイルスが排出されたか(=シェディングされたか)を見た論文ではむしろワクチン接種により、発症から5日以降にウイルスを排出する確率が低下した(=シェディングされなかった)としています。

おそらく免疫がきちんと誘導され、体内のウイルス量自体が減ったためと考えられますね。むしろワクチン接種によってコロナ自体のシェディングは起こりにくくなるわけです。

みんな色々な想いがあり、ワクチンの種類を選んで接種します。レプリコンワクチンを接種された方への「お断り」が広がらないことを切に願います。

もちろん当院ではわざわざ「レプリコンワクチンを打っていますか?」と聞いて、打っていた場合診療を拒否するなどということはしません。

(参照:日本看護倫理学会「レプリコンワクチンに対する緊急声明を発表しました」
(参照:Worse Than the Disease? Reviewing Some Possible Unintended Consequences of the mRNA Vaccines Against COVID-19
(参照:Infectious viral shedding of SARS-CoV-2 Delta following vaccination: A longitudinal cohort study

当院では「ファイザー社製ワクチン」を採用しています

ここまでレプリコンワクチンについて解説していきましたが、当院ではファイザー社製ワクチンを採用しています。

レプリコンワクチンを採用していない最も大きな理由は「1バイアル16人分で非常に取り回しが扱いにくい」点です。

新型コロナワクチンはどれも非常に原価が高いワクチンであり、16人分となると相当の金額になります。それを余らせてしまうと、そのままクリニック側の損失になるので非常にリスクが高いのです。(16人集めて接種するのも大変ですしね)

また、治験でかなりデータを集めているとは言え、ファイザーやモデルナのワクチンと比べると接種している母数も全く異なります。そのためデータの蓄積に関しては従来打たれているワクチンに軍配があがるでしょう。

このような理由でレプリコンワクチンを採用するクリニックは現実問題多くはないと考えられます。

したがって、どのクリニックでもレプリコンワクチンが接種できるわけではありません。レプリコンワクチンを接種希望される方はクリニックのホームページを確認したり、電話で問い合わせることをおすすめいたします。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

レプリコンワクチンについて、動画でもわかりやすく解説しています

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コメント

    • 村山美寿穂
    • 2024年 10月 04日 12:11pm

    レプリコンワクチンについて、大変参考になりました。
    ただ増殖しつづける、人に移る、ベトナムの治験で死亡例があるだけが独り歩きしていましたが、このサイトに行き着き、知りたかったこと、不思議に思っていたことが解決しました。ありがとうございます。

    • 北山 紗季
    • 2024年 10月 05日 3:36pm

    わかりやすい解説を載せてくださりありがとうございます。ベトナムの件など他の記事ではわからなかったので勉強になりました。

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