漢方薬「葛根湯」の新型コロナへの効果や副作用・使用上の注意点について解説

新型コロナ感染症の方が増加してきています。多くの医療機関が医療ひっ迫されると中々受診できない方もいらっしゃることでしょう。

その中で、東北大学から「葛根湯と小柴胡湯化桔梗石膏を合わせれば新型コロナに効果がある」という発表がなされ、SNSでも話題になりました。実際、葛根湯は新型コロナに効果があるのでしょうか?

今回は、葛根湯の新型コロナに対する効果や副作用・使用上の注意点について解説していきます。

実際に処方する漢方薬はこの限りではありません。患者さんの「証」にあわせて処方しております。「全員に適応するわけではないこと」をあらかじめご了承ください)

なお、コロナに対する市販薬については新型コロナに対する市販薬について【発熱や咳などの症状別】を参照してください。

葛根湯とは?

葛根湯は「カッコン」「タイソウ」「マオウ」「カンゾウ」「ケイヒ」「シャクヤク」「ショウキョウ」という生薬からなる漢方薬の1つ。日本で最も馴染みの深い漢方薬ですよね。

通常「体力中等度以上の方で、感冒の初期(汗のかいていない時)」の「鼻かぜ・鼻炎・頭痛・肩こり・筋肉痛・関節痛」に効果があるとされています。

その名の通り、生薬の主役は「葛根(カッコン)」ですが、主な生薬の各作用は次の通りです。(生薬の分量が多い順に紹介)

  • 葛根(カッコン):葛(くず)の周皮をのぞいた根のこと。血行促進や発汗作用があるといわれています。主な成分はプエラインやダイズイン。
  • 大棗(タイソウ):棗(ナツメ)を乾燥させたもの。筋肉の急な緊張をやわらげたり、神経過敏を沈める作用があるといわれています。
  • 麻黄(マオウ):アジア圏で自生するマオウ科の植物。有効成分はエフェドリンやフラボノイドなど。交感神経を刺激し、気管支の拡張や抗炎症作用などがあります。高血圧や緑内障の方は使用に気をつける必要があります。
  • 甘草(カンゾウ):モンゴルや中国などに分布するマメ科の多年草。主な有効成分はグリチルリチンです。砂糖の150倍の甘さがあり、ステロイド様作用、抗炎症作用などがあるといわれています。特に肝機能改善薬として西洋では処方され、漢方の世界では様々な生薬の調整役としてよく使われますね。
  • 桂皮(ケイヒ):シナモンとして有名ですね。体をあたためる温熱作用があり、発汗・作用があります。中枢神経の興奮を抑え、鎮痛や抗ストレス効果、健胃・整腸作用などがあるといわれています。
  • 芍薬(シャクヤク):婦人科系での生薬として有名ですね。ペオニフロリンをはじめとしたの有効成分により、鎮痛や鎮静、血管拡張、抗炎症、整腸作用や筋肉をなどを持ちます。体を温める効果もあります。
  • 生姜(ショウキョウ):これはおなじみの「ショウガ」ですね。主な作用は胃の機能を高める「健胃作用」ですが、体を温め、吐き気を抑える作用などもあります。

葛根湯の新型コロナへの効果は?

実際、葛根湯に対するウイルスの効果はどのようなものがあるのでしょうか。実は多くの論文が出されており、葛根湯に対する検証されている効果として下記のものがあげられます。

  • 上気道やウイルスの細胞増殖を抑える可能性
  • ウイルスにより誘発される炎症を「解熱薬」とは違う経路で抑える可能性

また、東北大学では「葛根湯」と後述する「小柴胡湯加桔梗石膏」と組み合わせた処方を14日間投与したところ、新型コロナに対して以下の効果があったと報告されています。

  • 軽症・中等度の新型コロナの方の発熱改善までの日数が1日早くなった(対象群:26例・漢方薬群28例):ただし背景因子を調節した場合。
  • ワクチン接種を受けていない中等度Iの新型コロナの方で、呼吸不全に至る症例の割合は低下する傾向にあった(有意差はなし、漢方薬 6例/80 vs 対象群 10例/79) (ワクチン接種を受けている方は呼吸不全になっていません)
  • 漢方薬による有害事象は研究結果では認めなかった

漢方薬の新型コロナに対するランダム化試験はあまりないので、非常に大きな報告ですね!ただし、この報告についての解釈は以下の点に注意が必要です。

  • まだ全体登録例が161例(漢方薬群:80例、対象群81例)と少ないこと
  • 20歳以上の軽度~中等度の方が対象で、65歳以上の方は2人だけであること(平均年齢35歳~37歳)
  • 主要評価項目としての「発熱・咳・痰・疲労・息切れ」の症状のうち1つが緩和されるまでの期間は、両群で差が見られなかったこと
  • 咳や痰・疲労・息切れに対する個別の効果についても有意差がなかったこと
  • 通常、急性期の疾患に対して「14日処方」という処方はしないこと:特に新型コロナの場合は経過により症状が大きく変わるケースがある

簡潔に言うと「確かに漢方薬は新型コロナに対して一定の効果がある可能性が高いが、これまでの抗ウイルス薬にとってかわるほどの強力な効果と証拠はまだない」のが現状です。今後の研究に期待がかかりますね。

(参照:Multicenter, randomized controlled trial of traditional Japanese medicine, kakkonto with shosaikotokakikyosekko, for mild and moderate coronavirus disease patients. )
(参照:Conventional and Kampo Medicine Treatment for Mild-to-moderate COVID-19: A Multicenter, Retrospective, Observational Study by the Integrative Management in Japan for Epidemic Disease (IMJEDI study-Observation)

葛根湯の副作用や使用上の注意点は?

また「葛根湯は副作用はない」と思われる方もいるかもしれませんが、漢方薬も治療薬の1つ。主な副作用として次のようなものがあります。

  • 発疹・発赤・かゆみ
  • 不眠、発汗過多
  • どうき、興奮作用
  • 食欲不振、胃部不快感、吐き気
  • 排尿障害

これらの症状が出たら、医師や薬剤師に相談した方がよいですね。

例えば葛根湯の「マオウ」に含まれる「エフェドリン」は、強力な交感神経を刺激し興奮させる作用があります。気管支を広げるのにも有用ですが、まれに興奮しすぎる方がいるのですね。そのため「体力が中等度以上の方」に「葛根湯の証」として設定されています。

また葛根湯には7.5g中、甘草が2g含まれています。甘草は飲みすぎると手足がむくんだり、手がこわばる「偽性アルドステロン血症」という副作用が報告されています。「葛根湯は安全だから一杯飲めばすぐ良くなるだろう」などと過剰摂取はやはり禁物です。

用法容量を守って正しく使い、冒頭にも説明した通り「自分にとって葛根湯があっているか」を一度漢方薬に詳しい薬剤師や医師にも確認するといいですね。

(参照:ツムラ葛根湯エキス顆粒の添付文書

漢方薬「葛根湯」についてのまとめ

いかがでしたか?非常によく使われる第2の市販薬「葛根湯」について幅広く解説していきました。葛根湯があっている方はとても心強い漢方薬になりますが、全員にあてはまる「万能薬」ではありません。

葛根湯は幅広い生薬のラインナップで適応を広げているため「万能薬」に近い印象を持ちますが、使用上の注意点も多いことも理解していただけたと思います。

1人ひとりに合わせて漢方薬を含めて処方しておりますので、ぜひご相談ください。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。かかりつけ医として、新型コロナの診療も含めて幅広く診療しております。プロフィールはこちらを参照してください。

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