帯状疱疹ワクチンによる認知症に対する予防効果について【Nature・どっちを選ぶか】

「帯状疱疹も認知症も、年齢を重ねるにつれて誰もが気になる病気ですよね。最近、帯状疱疹ワクチンが認知症の予防にも効果があるかもしれないという研究結果が、権威ある科学雑誌『Nature』で発表され、注目を集めています。

でも、帯状疱疹ワクチンには生ワクチンとシングリックスの2種類があります。そもそも本当に帯状疱疹が認知症って関連が一見低そうに見えるし、あったとしてもどっちを選べばいいのかよくわからないと思います。

本記事では、Natureの最新の研究結果だけでなく、他の帯状疱疹ワクチンによる認知症への予防効果も紹介しつつ、帯状疱疹ワクチンと認知症に対する予防効果について、わかりやすく解説していきます。

帯状疱疹ワクチンについては帯状疱疹ワクチンの種類と費用・副反応について解説【定期接種】もあわせて参照してください。

Nature(ネイチャー)に掲載された帯状疱疹ワクチンの認知症への予防効果について

帯状疱疹ワクチンと認知症の因果関係を強く示唆した最も画期的な研究は、スタンフォード大学の研究チームが主導し、2025年に科学誌『Nature』に発表したウェールズでの大規模研究です 。

同研究では、研究チームは、28万2,000人を超える高齢者の電子カルテデータを、2013年から2020年までの7年間にわたって追跡調査しました 。その結果、以下のことがわかりました。

ちなみに本ワクチンでは時代の関係から「弱毒生ワクチン」を使用しています。

  • 相対リスクの20%低減: ワクチンを実際に接種した人々は、接種しなかった人々と比較して、7年間の追跡期間中に新たに認知症と診断される相対リスクが20.0%有意に減少しました 。  
  • 絶対リスクの3.5パーセントポイント低下: 絶対リスクとは「100人帯状疱疹ワクチンを打ったら、何人認知症が予防できるか」という指標。本研究では3.5人の認知症が予防できています。30人に1人くらいで効果があるというのは、他剤と比べてもなかなか大きい効果です。
  • 女性でより顕著な効果: 帯状疱疹による認知症予防効果は、特に女性で強く認められました。女性では認知症診断の確率が5.6パーセントポイント低下したのに対し、男性では統計的に有意な差は見られませんでした(0.1パーセントポイントの低下)。  
  • 効果はすぐに表れない: 認知症発症率の低下は、ワクチン接種後すぐには現れず、約1年から1年半が経過してから明確になりました 。これは、即時的な薬理作用ではなく、長期的な生物学的メカニズムが介在していることを示唆しています。

研究チームは、この結果が他の要因によるものではないことを確認するため、糖尿病や心疾患といった他の一般的な疾患の発症率に差がないことなども調べていますが、いずれにおいても、ワクチンと認知症リスク低下との関連性は一貫して認められています。

(参照:A natural experiment on the effect of herpes zoster vaccination on dementia

実は他にも帯状疱疹ワクチンに対する認知症の予防効果を示した論文がある

① 2025年6月のオーストラリアでの追試実験

2025年4月にNatureで発表された内容が本当に、異なる集団でも通用するのか追試実験がおこなわれています。

オーストラリアでは、2016年11月1日より、70歳から79歳までの個人に対し、プライマリケア医を通じて弱毒化生ワクチンが無料で提供されました。そのため、2016年11月1日の数週間前に80歳の誕生日を迎えた人は接種資格をありませんでしたが、11月1日の数週間後に80歳の誕生日を迎えた人は接種資格があります。

それを利用して、10万人以上のプライマリケア記録を7.4年間にわたり分析した結果、ワクチン接種資格があることは、新たな認知症診断を受ける確率を1.8パーセントポイント低下させることが示されています。

(参照:Herpes Zoster Vaccination and Dementia Occurrence

② 複数の論文を検証した論文でも効果を実証

帯状疱疹ワクチンと認知症に関しては他にも様々な論文があり、さらにこれらの論文を複数まとめて検証した論文(メタアナリシス)もあります。そこで

  • 2025年に発表された5つのコホート研究(対象者1400万人以上)を含むメタアナリシスでは、帯状疱疹ワクチン接種が認知症リスクを29%減少させることが示されました(統合ハザード比 HR = 0.71, 95%信頼区間[CI]: 0.66-0.76)。  
  • 別の5つの研究(対象者10万人以上)を対象としたメタアナリシスでも、帯状疱疹ワクチンによって認知症のリスクが24%減少していることが確認されています(統合オッズ比 OR = 0.76, 95% CI: 0.60-0.96)。

(参照:Herpes Zoster Vaccination and Risk of Dementia: A Systematic Review and Meta-analysis (S28.006)
(参照: The association between herpes zoster vaccination and the decreased risk of dementia: A systematic review and meta-analysis of cohort studies

2025年のNatureの論文と、いままでの論文が違う点について

2025年に発表されたネイチャーの論文は衝撃を与えましたが、これまでも上記の通り「ワクチンを接種した人は、認知症になりにくいのではないか?」という研究はいくつかありました。しかし、2025年の実験と今までの実験では異なる点があります。

それは、「もともと健康意識が高い人ほど、ワクチンを積極的に接種するのでは?」という疑問(交絡バイアス)に対する答えです。

確かに帯状疱疹自体で死ぬことはないので、帯状疱疹ワクチンを打つ人はよほど健康意識の高い人。つまり、これまでの研究ではワクチンの効果で認知症が予防されているのか、もともとの健康意識の高さで予防されているのか、見分けがつきにくいという問題点がありました。

そこでNatureでの研究チームが注目したのが、イギリスのウェールズで実際に行われたワクチン接種プログラムです 。このプログラムでは、ワクチンを接種できるかどうかが、「1933年9月2日」という特定の誕生日を境に、明確に区切られていました。

具体的には、1933年9月2日以降に生まれた人々(プログラム開始時点で80歳未満)は公費接種の対象となった一方で、そのわずか1日前の1933年9月1日以前に生まれた人々(プログラム開始時点で80歳以上)は生涯にわたって対象外とされました 。

(なんとも日本だと暴動が起きそうですが)

誕生日がほんの数日違うだけで、生活習慣や健康意識が大きく変わるとは考えにくいですよね。つまり、この「誕生日」という偶然の区切りを利用することで、ワクチン接種の有無という条件だけが異なる、非常に公平な比較グループが自然に出来上がったのです。これを「自然実験」といい、研究の信頼性を格段に高める画期的なアプローチでした。

このように、Natureの論文と他の論文が一線を画すのは、そのデータの信頼性に基づいているのです。

なぜ帯状疱疹ワクチンが認知症に効果があるのか?

ではなぜ帯状疱疹ワクチンが認知症に効果があるのでしょうか。現在、3つの説が有力と考えられています。

① 帯状疱疹そのものが脳の炎症を引き起こすから

私たちの体の中には、子どもの頃にかかった水ぼうそうのウイルス(VZV)が、ずっと静かに潜んでいます。このウイルスが、加齢や疲れで再び暴れ出すのが「帯状疱疹」です。

実はこのウイルス、神経に潜むのが大好きで、暴れ出すと脳の中で「神経炎症」という、いわば「小さな火事」を引き起こすことがあるんです。この慢性的な火事が、アルツハイマー病の原因とされる「脳のゴミ(アミロイドβなど)」を増やしてしまうと考えられています。

実際、帯状疱疹に罹患した人は、その後の認知症発症リスクが1.11倍から1.47倍に上昇することが報告されています(ハザード比(HR)= 1.11-1.47)。特に、ウイルスが眼部や中枢神経系に感染した場合、そのリスクはさらに高まります。

帯状疱疹ワクチンの一番の役割は、このウイルスの再登場をブロックすることですよね。つまり、脳で火事を起こす犯人そのものを抑え込むことで、脳を直接守ってくれるのではないか、というのが一つ目のシンプルな説です。火元を断てば、火事は起きませんから、とても分かりやすい仕組みではないでしょうか。

(参照:Recombinant zoster vaccine and the risk of dementia

② 帯状疱疹で誘発される「ヘルペスウイルス」の活性化を抑えるから

話はもう少し複雑になります。実は私たちの体には、帯状疱疹ウイルス以外にもう1つ、「単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)」というウイルスも神経に潜伏していることがわかっています。実は「単純ヘルペスウイルスも、アルツハイマー病との関連が強く疑われているのではないかという説がわかっています。

さらに最近の研究で、とても興味深いことが分かってきました。なんと、帯状疱疹ウイルス(VZV)が脳で火事を起こすと、その騒ぎによって眠っていた黒幕(HSV-1)が目を覚まし、活発に動き出してしまうというのです 。そして、この目覚めた黒幕こそが、アルツハイマー病特有の「脳のゴミ」を本格的に作り出す引き金を引いていた、という説ですね。

帯状疱疹ワクチンは、最初の火付け役(VZV)を抑え込むことで、眠っていた黒幕(HSV-1)を起こさずに済むようにする。この「悪の連鎖」を根本から断ち切ることで、間接的に脳を守っている、というのが二つ目の説です。

(参照:Potential Involvement of Varicella Zoster Virus in Alzheimer’s Disease via Reactivation of Quiescent Herpes Simplex Virus Type 1

③ 免疫を活性化させて、脳を守る体質にする

三つ目の説は、ワクチンそのものの「中身」に注目します。

特に新しいタイプの帯状疱疹ワクチン(シングリックス)には、「アジュバント」と呼ばれる、**ワクチンの効果をグッと高めるための”応援団”**のような成分が強力なもの(AS01)が入っています。

この応援団、ただウイルスの抗体を作るのを手伝うだけではありません。なんと、私たちの免疫システム全体に「筋トレ」をさせて、より強く、賢くしてくれる可能性があるというのです。これを専門的には「訓練免疫」と呼びます。

この筋トレによって、免疫細胞は以下のような良い働きをしてくれるようになります。

  • 脳にたまったゴミを効率よくお掃除してくれる
  • 無駄な炎症(火事)が起きないように見張ってくれる

この説を裏付ける面白いデータもあります。帯状疱疹とは全く関係のない「RSウイルス」のワクチンでも、この強力な応援団(AS01)を含んでいるタイプを接種した人たちで、同じように認知症のリスクが低下したというのです。

これは、応援団であるアジュバント自体が、ウイルスとは関係なく、私たちの体を「認知症になりにくい体質」へと変えてくれている可能性を示唆しています。すごいですよね。

(参照:Lower risk of dementia with AS01-adjuvanted vaccination against shingles and respiratory syncytial virus infections

帯状疱疹ワクチンの認知症への予防効果は、どちらを選ぶべき?

さて、帯状疱疹ワクチンが認知症予防に役立つかもしれない、というお話をしてきましたが、実はこのワクチンには大きく分けて2つの種類があります。

1つは昔からある「従来型の生ワクチン」(商品名:ビケンなど)、もう一つは比較的新しい「新型の組換えワクチン」(商品名:シングリックス)です。

認知症に関しては、どちらがより効果的なのでしょうか?結論から言うと、「それぞれ欠点・利点がある」です。

① 「生ワクチン」を選ぶメリット

生ワクチンの1番のメリットは「信頼性」です。

Natureの「認知症リスクを約20%下げた」という研究で使われていたのは、この従来型の生ワクチンです 。他のオーストラリアでの追試実験でも生ワクチンは証明されています。

また生ワクチンはそれこそ何十年も前から使われているワクチンです。

この信頼性はシングリックスにはない利点ですね。

② シングリックスを選ぶメリット

一方、シングリックスを選ぶ利点は「理論上の効果の強さ」です。

シングリックスはは、ウイルスのごく一部の成分だけを使っており、代わりに「AS01」という、免疫力を強力にパワーアップさせる成分が入っているのが特徴。

帯状疱疹の認知症予防効果が、ワクチンが持つ免疫を上げる効果や帯状疱疹やヘルペスなどウイルスに対する効果によるものだとしたら。シングリックスの方が理論的には「上」です。

実際、アメリカで行われた研究で、認知症による予防効果について、生ワクチンとシングリックスを直接比較したところ、シングリックスを接種した人たちは、従来型ワクチンを接種した人たちと比べて、認知症になるリスクがさらに17%も低かったという結果になりました。

さらに、もし最終的に認知症になったとしても、シングリックスの方が診断されるまでの健康な期間が平均で164日も延びる計算になることが分かりました 。

もちろんシングリックスの方が高いので、交絡バイアスを完全には取り除けないですが、理論的に考えてもシングリックスの方が上ですね。

(参照:The recombinant shingles vaccine is associated with lower risk of dementia

まとめ

帯状疱疹と認知症の関係について、最新のNatureの論文を含めた様々な研究結果を紹介してきました。まとめると次の通りです。

  • 科学誌『Nature』に、誕生日で接種資格を区切る「自然実験」という画期的な方法を用いた研究が発表され、帯状疱疹ワクチン(弱毒生ワクチン)が認知症リスクを約20%低下させることが、信頼性の高いデータで示されました 。
  • ワクチンが効く理由として、帯状疱疹ウイルスが直接脳で起こす炎症を防ぐ効果に加え、その炎症が引き金となって目覚める別のヘルペスウイルス(認知症との関連が疑われるHSV-1)の活動を未然に防ぐ「悪の連鎖」を断ち切る可能性が考えられています。
  • ワクチンに含まれる免疫力を高める「応援団(アジュバント)」成分が、免疫システム全体を鍛え、脳のゴミを掃除しやすくするなど、体を「認知症になりにくい体質」へ変える可能性も指摘されています。
  • ワクチンには実績のある「従来型(生ワクチン)」と「新型(シングリックス)」があり、両者を比較した研究では、強力な応援団を持つ新型シングリックスの方が、従来型よりさらに認知症リスクを17%低くする結果が報告されています。
  • したがって、信頼性を重視するなら「生ワクチン」を、理論上の効果を重視するなら「シングリックス」を選ぶとよいでしょう。もちろん帯状疱疹自体への予防効果は「シングリックス」に軍配があがります。

となります。日本では定期接種化され、2025年は50歳以上の方は補助が出るようになっています。ぜひこの機会を活用して接種を検討してみてください。

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【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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