さまざまな効果を期待できるのが「亜鉛」。亜鉛が不足すると味覚障害がおこったり、脱毛にかかわったり、下痢になったりなどさまざまな障害が起こります。
その中でも亜鉛の効果がよく期待されているのが「亜鉛の男性に対する効果」ですよね。男性機能や脱毛への効果を期待して亜鉛を摂取されることが多いでしょう。
実際、亜鉛に男性機能を高めたり脱毛をよくする効果はあるのでしょうか。あるとしたらどのくらいの期間で改善するのでしょうか。今回はこれまで研究されている様々な論文から亜鉛の男性機能に対する効果について検証していきます。
亜鉛については、
も参考にしてみてください。
亜鉛の男性機能に対する効果は?

では、亜鉛で男性機能は改善するのでしょうか?結論からいうと「一部分改善する可能性がある」といえます。例えば、亜鉛摂取により次の効果が期待できるでしょう。
① 亜鉛はテストステロンの上昇が期待できる
2023年に発表された亜鉛とテストステロンの関係を複数の論文から検証した論文とすると、「亜鉛とテストステロンには正の相関関係がある」と報告されています。
テストステロンとは「男らしい体」にする男性ホルモンの1種。体つきも男らしくするので、筋肉量が増加したり、体脂肪をへらしたりする効果があります。
実際に、1,342名を対象とした14の最新臨床試験をまとめたデータによると、亜鉛を補充することで血液中の総テストステロン値が平均して3.2 nmol/L上昇することが確認されています。
特にこの効果が実感しやすいのは、元々のテストステロン値が10 nmol/L未満に低下している(性腺機能低下状態にある)男性です。 具体的な効果としては、
- 低用量(30mg)を1ヶ月から6ヶ月継続した場合:テストステロン値が180 ng/dLから222 ng/dLへ穏やかに上昇し、ベースラインの底上げ効果が見られました。
- 高用量を短期的に投与した場合:50 ng/dLから400 ng/dLへ、劇的な内分泌機能の回復が見られました。
というように、亜鉛の量に伴ってテストステロンの増強が認められました。サプリメントの許容量を超えた高用量の服用は、相当慎重に対処しないといけなく、医師としては短期間でもオススメできません。しかし、普段から亜鉛を意識することは、男性ホルモンであるテストステロンを増強する点でも有効といえますね。
(参照:Correlation between serum zinc and testosterone: A systematic review)
② 亜鉛により精子の量や質を改善させる
ヒトの生殖系において、亜鉛は精子形成の上で重要な役割を果たしていることがわかっています。亜鉛を補給すると精子の細胞膜が安定したり細胞呼吸であるミトコンドリアの機能を改善させますね。そのため、男性機能を高めたい時に亜鉛を補給するのは理論的には正しいといえます。
実際、それを裏付ける研究もあります。2,600 人の不妊男性と 867 人の正常対照者の精液中の亜鉛と男性不妊症を検証した研究によると
- 不妊男性の精液中の亜鉛濃度が正常の方よりも有意に低かった
- 亜鉛の補給は、精液量、精子の運動性、および正常な精子形態の割合を有意に増加させた
としています。同研究では、亜鉛のサプリメントを1日66mg~220mg摂取され、慎重に亜鉛濃度をモニタリングされていました。
実際、亜鉛は精子の質を高める強力な「抗酸化物質」としても働きます。糖尿病を合併した男性不妊患者に亜鉛を投与した研究では、活性酸素によるダメージから精子が守られ、精子の頭部や尾部の形態異常が有意に減少しました。
さらに、活発に動く良好な精子の割合が明確に増加し、精子のDNAが傷つくのを防ぐ効果も確認されているのです。
しかし、ここで2つ注意点があります。
1つ目は亜鉛の過剰投与も精子の質を低下させることがあるということです。ラットの実験によると、生理的範囲内に調節された亜鉛投与ではプラスの効果であったのにも関わらす、亜鉛が過剰投与されたグループでは逆に男性機能に悪影響を及ぼしたとされています。
2つ目は亜鉛だけで男性不妊症が解消されるわけではないということです。実際、男性1,773 人に対して6カ月間亜鉛と葉酸(葉酸5mgおよび亜鉛30mg)のサプリメントを投与したランダム化比較試験では、出産数や精液の質のパラメータは変わらなかったとしています。したがって、長期のモニタリングや普段の生活、他の男性不妊症の解明などが重要ということですね。
したがって、亜鉛をとるなら適切なモニタリングが重要ですし、亜鉛だけで男性機能の問題のすべてが解消されるわけではないことに注意しましょう。
(参照:Zinc levels in seminal plasma and their correlation with male infertility: A systematic review and meta-analysis)
(参照:Effects of zinc on male sex hormones and semen quality in rats)
(参照:Effect of Folic Acid and Zinc Supplementation in Men on Semen Quality and Live Birth Among Couples Undergoing Infertility Treatment)
(参照:The effect of zinc supplementation on improving sperm parameters in infertile diabetic men)
亜鉛で男性の脱毛は改善する?

では、男性でよくある「脱毛」に対して、亜鉛は効果があるのでしょうか。
まず、免疫細胞が誤って自分の毛根を攻撃してしまう「円形脱毛症」においては、亜鉛が非常に有効な働きをします。
円形脱毛症の患者さんは、健康な方に比べて血液中の亜鉛濃度が有意に低い(9.72 µmol/L 対 10.70 µmol/L、p=0.017)ことが分かっており、特に脱毛範囲が広い重症の方ほど亜鉛不足の傾向が強いとされています。亜鉛には過剰な免疫反応を落ち着かせる効果があるため、亜鉛を採血して低い場合は円形脱毛症治療の大きな助けとなりますね。
では、男性でお悩みの「男性型脱毛(AGA)ではどうでしょう。結論からいうと、「亜鉛は男性型脱毛(AGA)に対しても関与する」といえます。
男性型脱毛を5%ミノキシジルで治療した患者さんに対して、血清のミネラルと髪の生え具合を調べた研究によると、さまざまなミネラルのうち、亜鉛だけが治療の反応性と相関していることがわかりました。
簡単にいうと、亜鉛値が高い人は5%ミノキシジルで髪が伸びやすくなり、亜鉛値が低い人は治療の反応が乏しく伸びにくいということですね。
そもそもヒトの毛包の毛乳頭細胞の増殖や細胞周期の調節が亜鉛によって調節されていることが言われています。そのため、脱毛に大きく関わる「毛周期」に亜鉛は非常に重要な役割を果たしているというわけです。
したがって、男性型脱毛でお悩みの方は、一度亜鉛も測定してもらうとよいですね。(必ずしもすべてのクリニックで治療を始める前に測定するわけではありません)
ただし、恐ろしい事実もあります。それは「自己判断で大量の亜鉛をとると逆に髪の成長を遅らせてしまう」とういことです。
動物実験などの基礎研究では、大量の亜鉛を口から摂取し続けると、逆に毛髪の成長期を遅らせ、髪が抜ける時期(退行期)を長引かせてしまい、結果として髪の成長を著しく阻害する逆効果のリスクがあることが示されています。
AGA治療においては、大量の亜鉛サプリに頼るのではなく、医学的に認められたフィナステリドやミノキシジルといった標準治療を優先することが最も確実な道と言えます。
AGAの治療については、【皮膚科医が解説】AGA(男性型脱毛症)でおすすめの治療法と具体的な効果についても参照してください。
(参照:Plasma Zinc Levels in Males with Androgenetic Alopecia as Possible Predictors of the Subsequent Conservative Therapy’s Effectiveness)
(参照:Serum Zinc Concentration in Patients with Alopecia Areata)
亜鉛の男性更年期に対する効果は?

40代以降に訪れる「加齢男性性腺機能低下症(LOH症候群)」、いわゆる男性更年期障害に対しても、亜鉛は良い効果を発揮することがわかっています。
男性更年期は、テストステロンの低下によって引き起こされ、血液検査で遊離テストステロンが8.5 pg/mL未満になると診断されることが多い疾患です。テストステロンが下がると、内臓脂肪が増えたり、骨がもろくなったりと、全身の健康に悪影響を及ぼします。
亜鉛は、男性更年期のさまざまな辛い症状を測る指標(AMSスコア)を大きく改善させます。透析を受けている患者さんを対象とした研究では、治療によってAMSスコアの合計が13.2%も軽減し(p=0.049)、特に身体のだるさや不調が明らかに和らいだことが報告されているのです。
そして決して見逃せないのが、精神的な不調に対する亜鉛の「脳への直接的な効果」です。男性更年期になると、「強い不安」「イライラ」「気分の落ち込み」「ひどい疲労感」「記憶力や集中力の低下(ブレインフォグ)」といった精神的な症状に悩まされることが多くなります。
亜鉛は脳の海馬や扁桃体といった感情や記憶を司る部分に多く存在し、神経の働きを整える「神経修飾物質」として直接的に心を癒やしてくれます。 実際に、うつや不安を抱える患者さんに亜鉛を3ヶ月間補充した研究では、心理的なスコア(DASS-21)が劇的に改善し、正常レベルまで回復する人が有意に増加したのです。
さらに、認知機能の回復が早まること(p=0.005)も確認されています。亜鉛は、テストステロンを増やすだけでなく、脳に直接働きかけて心の活力も取り戻してくれる頼もしい味方なんですね。
(参照:Effect of oral zinc therapy on gonadal function in hemodialysis patients. A double-blind study)
(参照:The Effect of Zinc Supplementation on Relapse of Anxiety and Depression in Opioid-Dependent Patients Treated with Methadone)
亜鉛の男性に対するオススメの量は?

ここまで亜鉛の素晴らしい効果をお伝えしてきましたが、最も大切なのは「正しい量」を守ることです。「体に良いから」とむやみに多く摂取するのは、絶対にやめましょう。
厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によると、男性の亜鉛の1日あたりの「推奨量」は年齢により9.0mgから9.5mgとされています。そして、これ以上摂ってはいけないという「耐容上限量」は、40mgから45mgに設定されています。
もし、この上限量を超えるような大量の亜鉛を長期間続けてしまうと、以下のような恐ろしい副作用が待ち受けています。
- 銅欠乏症による全身の異常:亜鉛を摂りすぎると、腸の中で「銅」が吸収されなくなります。そして、重篤な銅欠乏症に陥り、重い貧血や免疫力の低下、さらには取り返しのつかない神経障害を引き起こす危険性があります。
- 前立腺がんのリスク増加:前立腺は元々亜鉛を多く蓄積する臓器ですが、1日に100mg以上の亜鉛を摂取したり、10年以上にわたって長期間サプリメントを飲み続けたりすると、進行性や致死性の前立腺がんのリスクが有意に高まることが大規模な調査で明確に示されています。
詳しくは亜鉛のとりすぎによる症状や副作用は?亜鉛過剰症について解説【銅欠乏】を参照してください。
亜鉛は男性の健康を根底から支え、生殖機能、免疫、精神的な安定を保つための「必須のインフラ」とも呼べる重要なミネラルですが、決して魔法の薬ではありません。
ご自身の状態を客観的に把握し、1日約9.0mgから9.5mgという適正な量を守って長く付き合っていくほうが、結果的に近道になるでしょう。
その最初のステップは亜鉛値の測定から。ぜひ気になるようなら当院にもご相談くださいね。



















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