新型コロナ感染症の後遺症について【割合・咳・脱毛・倦怠感】

こんにちは、一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介です。新型コロナウイルス感染症にかかった後で

  • 咳がずっと残ってしまっている
  • だるさがなかなか取れない
  • 匂いや味が感じにくくなった
  • 髪がぬけやすい気がする
  • 頭に「霞(かすみ)」がかかった感じがする

という方はいませんか?もしかしたら新型コロナウイルス感染症の後遺症・罹患後症状かもしれません。今回は、新型コロナ後遺症の症状や原因・咳や倦怠感・脱毛などの具体的な症状の詳細について説明していきます。

新型コロナ後遺症とは?

新型コロナウイルス感染症の「後遺症」は日本では「罹患(りかん)後症状」と呼びます。

新型コロナウイルス感染後、感染する可能性はなくなったのにかかわらず、他に明らかな原因がなく、急性期から続く症状や経過の途中から新しく出てくる症状全般のことを指します。(新型コロナウイルス感染症診療の手引き:罹患後症状のマネジメントによる)

WHOではpost-COVID19を「新型コロナ発症から3か月(少なくとも2か月)続き、別の診断では説明できない症状」と定義しています。(WHOによる新型コロナ後遺症の考え方はこちら

他にも「long COVID」「persistent sympotoms」など様々な呼ばれ方をします。

新型コロナ後遺症の症状は?

2020年9月~2021年9月までに入院した20歳以上の方の罹患後症状の推移(756例)
2022年6月1日に発表された厚生労働省資料に基づく)
2020年1月~2021年2月までに入院した18歳以上の方の罹患後症状の推移(1066例)
2022年6月1日に発表された厚生労働省資料に基づく)

厚生労働省のアンケート調査による主な症状の内訳は次の通りです。(入院された18歳以上を対象としています)

  • 倦怠感3か月後21%・6か月後16%・12か月後13%
  • 呼吸困難3か月後14%・6か月後10%・12か月後9%
  • 筋力低下3か月後12%・6か月後8%・12か月後8%
  • 集中力低下3か月後11%・6か月後11%・12か月後8%
  • 脱毛3か月後11%・6か月後9%・12か月後5%
  • 睡眠障害3か月後10%・6か月後10%・12か月後7%
  • 嗅覚障害3か月後10%・6か月後8%・12か月後5%

さらに、咳・頭痛・味覚障害・記憶障害・関節痛・筋肉痛・痰・手足のしびれ・眼科症状・皮疹・耳鳴り・咽頭通・発熱・下痢・感覚過敏・腹痛・意識障害と24の症状を上げています。

また、退院後12か月以上でも肺機能検査異常は7.1%・胸部CT検査異常は6.3%残存しており、退院後3か月時点の心臓MRI検査では、「42%で心障害を認め、26%で心筋炎の基準を満たしていた」とあります。(6月1日の厚生労働省資料による)

大阪府後遺症相談件数より発表された年齢別でみた後遺症の割合
(大阪府後遺症相談件数の内訳より転載)

大阪府による世代別でみた後遺症相談件数の内訳をみると、30代までは嗅覚障害や味覚障害が中心なのに対して、40代以降は倦怠感が中心になっているのが特徴です。他、脱毛や呼吸苦・咳などの呼吸器症状が、高齢になるとしばしばみられるようになる傾向にあるようです。

新型コロナ「後遺症」になりやすい方は?

では、後遺症になりやすい方はどんな方でしょうか。イギリスの報告によると

  • 高齢の方
  • 肥満の方
  • 女性の方
  • 最初の週に5つ以上の症状を経験した方

が特に後遺症になりやすいとしています。また、アメリカの報告では糖尿病の方も持続的な症状が出やすい因子として挙げていますね。

さらに2022年2月Natureで発表された論文によると、新型コロナ感染症に罹患された方は、脳血管障害(1.5倍)や不整脈(1.69倍)、虚血性心疾患(1.66倍)などの心血管性疾患の発症リスクが高くなるとしています。この報告では新型コロナの重症度が強くなるほどリスクは高くなるので、特に入院やICUを経験された方は特に要注意です。

また英国の1966人を対象にした査読前論文によると、「感染前に強いストレスを経験していた方(感染前1か月以内の逆境体験と心配の数が多い方)は、コロナ後遺症を発症しやすい」という報告もあります。もともと強いストレスを抱えた方が、コロナに感染された場合は特に後遺症に要注意というわけですね。

オミクロン株などの変異株による新型コロナ「後遺症」の変化は?

イギリスの4週間~8週間後の自己申告による罹患後症状の発現率ワクチン2回接種した場合:デルタ株で15.9%に対して、BA.1株で8.7%((BA,2株のサンプルサイズ不足によりデータなし)で有意にBA.1株で後遺症が少ないワクチン3回接種した場合:デルタ株で7.4-8.5%に対して、BA.1株で7.8-8.0%、BA.2株で9.1-9.3%であり、概ねBA.2株>デルタ株>BA.1株の傾向(有意差なし)
(イギリスの4週間~8週間後の自己申告による罹患後症状の発現率)

2022年5月の発表されたイギリスでの報告では、デルタ株・BA1株(従来のオミクロン株)・BA2株(ステルスオミクロン株)における4~8週後の罹患後症状発現率をみたところ、以下のことがわかっています。

  • ワクチン2回接種した場合デルタ株で15.9%に対して、BA.1株で8.7%(BA,2株のサンプルサイズ不足によりデータなし)で有意にBA.1株で後遺症が少ない
  • ワクチン3回接種した場合デルタ株で7.4-8.5%に対して、BA.1株で7.8-8.0%、BA.2株で9.1-9.3%であり、概ねBA.2株>デルタ株>BA.1株の傾向(有意差なし)

2022年5月の日本でほぼBA.2株に置き換わっているといえるので、今後の感染による後遺症発現はむしろ少し高くなる恐れがあるので、十分注意が必要ですね。

新型コロナ後遺症の原因は?

現時点では新型コロナウイルスでの後遺症の原因として以下が考えられています。

  • 新型コロナウイルスに特有な病態による変化: 肺への直接の障害の他にも、ウイルス侵入により血液が固まりやすくなる、血栓症ができやすくなる、レニン・アンジオテンシン系が調節しずらくなるなど、さまざまな臓器障害を報告されています。
  • 急性感染に応じて免疫反応が調節不全がおこり、過剰な炎症が続いているため
  • 重大な病気を経験した後の後遺症(ICU症候群など)微小な血管の血流の悪化や低酸素に伴う後遺症・コロナにかかった経験やICUに入った経験などが複雑に絡み合ったケース

罹患後症状に関しては、病態機序が不明な部分も多いです。今回は主要な症状である「呼吸器症状」「神経症状」「味覚嗅覚障害」「脱毛」について、順に見ていくことにしましょう。

新型コロナ後遺症の症状の具体例について

① 咳・息切れ

咳や息切れといった呼吸器症状は、新型コロナウイルス感染症の中でも最も一般的な後遺症の1つです。日本では15%くらいの方が息切れ症状による後遺症が残りますが、海外の報告では発症60日~100日後でも42~66%の方に呼吸困難が続いています。

現時点では原因として

  • 心血管障害や筋力低下のため「息切れ」が起こりやすくなっている
  • 迷走神経や脳内の神経炎症で「息苦しさ」として表出されている
  • 新型コロナウイルスが肺胞上皮や内皮細胞に入り込み、血管周囲の炎症や免疫学的にダメージを与えている

などの可能性が示唆されています。特に筋力低下と息苦しさの後遺症は、新型コロナの重症度が高くなるほど長引くのが特徴です(令和2年度厚生労働省中間報告による)

当院では、退院された後どれくらい肺障害が残っているのかを、身体診察に加えて呼吸機能検査や画像検査・血液検査などで評価しながら、原因に合った治療を進めています。

ただし、後遺症が3~6か月続くようなケースや重症と思われるケースは、呼吸器リハビリを含めて多角的アプローチが必要なことが多く、関連施設に紹介させていただくことがあります。

② 倦怠感・ブレインフォグ

疲労感や倦怠感は、新型コロナ症状ではもっとも多い症状の1つ。3か月以上の倦怠感や認知障害をそれぞれ32%・22%認めたとする報告もあります。(詳細はこちら

中枢神経系における主な原因として

  • 血栓症に伴い脳梗塞が誘発される
  • 血液脳関門の機能低下や血管透過性の亢進
  • 長期間、免疫にダメージが加わった結果、中枢神経を構成するのに不可欠な「グリア細胞」に障害が加わる

などが示唆されています。そのほかに、ICU入室や精神心理系のストレスが強く出やすいことも特徴です。アメリカの研究では後遺症として18.1%(うち新規で5.8%)の方が不安やうつ症状が残っているとするデータもあります。

またNature誌で掲載されたUKバイオバンク(イギリスであらかじめ画像データなどを登録されているボランティアの方々)を利用した758人(51-81歳)の研究では、新型コロナに感染された方は物事をまとめる能力や集中力の悪化が見られ、脳の大きさも縮小したという結果が報告も。

罹患後症状における精神症状のメカニズム。(新型コロナウイルス感染症診療の手引きより)
(新型コロナウイルス感染症診療の手引き:罹患後症状のマネジメントより)

さらに上図のように、訴えとしては一症状でも色々が原因が重なって出ている場合も少なくないので、原因検索には難渋することが多いです。

当院では、血液検査や画像検査で身体的な原因を検索した後、必要な場合は精神科・神経内科を含めた専門施設に紹介するようにしています。

③ 味覚嗅覚障害

新型コロナの約10人に1人、味覚嗅覚障害を後遺症として残る可能性があります。(ただし、オミクロン株の場合、味覚嗅覚障害での発症が少ないので、後遺症として残る確率も少ないかもしれません)

嗅覚障害が生じる原因として

  • 鼻粘膜のむくみや分泌物により、においが鼻の神経にまで到達しないため(気導性嗅覚障害): 急性期に多い
  • 鼻の神経自体が障害を受けてにおいを感じない(嗅神経性嗅覚障害)
  • 鼻の神経よりも中枢である、脳の障害でにおいを感じない(中枢性嗅覚障害)

に分かれます。このうち長期に及ぶ症例ではMRIによる画像診断や内視鏡による観察でも異常所見を認めないことが多く、治療に難渋することもしばしばです。当院でも耳鼻科専門医と連携を取りながら、治療を進めています。

④ 脱毛

新型コロナ「後遺症」の皮膚症状でもっとも多いのは脱毛です。457名の新型コロナ回復患者を対象に行われたアンケート調査では22.7%が脱毛症を経験され、さらに1か月後時点でも16%3か月後時点で6.3%の方が脱毛症を経験されています。

脱毛はウイルス感染とストレスから、抗ストレスホルモンの1種であるACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌され、成長期毛包が休止期に移行しやすくなった結果ではないかと考えられています。

休止期脱毛の場合だと3~6か月程度で、自然と軽快されることが多い一方、もともと脱毛の素因がある場合、長引く可能性もあります。

当院では頭皮の状態に加えて脱毛の素因がないかチェックしながら、患者さんとライフスタイルに合わせて治療方針を決めています。場合によっては脱毛専門外来に紹介することもあります。

新型コロナ後遺症は持続期間は?

では、新型コロナによる後遺症はどれだけ続くのでしょうか。

90日以上、新型コロナ後遺症で悩まれている3608人(56か国)を対象とした国際研究によると、91%以上の方は35週以上を超えて後遺症で悩まれているとの結果でした。

6か月目以降に最も頻繁に見られた症状は、倦怠感・運動後のだるさ・および認知機能障害となっています。

1700人の方(45.2%)の方は、病気になる前に比べて作業スケジュールを短縮させる必要があると答え、さらに839人(22.3%)の方は病気のために調査時に働いていないと回答。さらに認知機能や記憶の問題は、年齢に関わらず共通していたといわれています。

こうした調査内容から考えると「3か月以上後遺症で悩まれている方は、相当期間悩む可能性が非常に高い」と推測されます。後遺症治療は「あせらず時間をかけて行う」ことが大切です。

子供の新型コロナ後遺症の特徴は?

18歳以下の後遺症の症状一覧。気分のの変容16.5%、疲労感9.7%、睡眠障害8.4%、頭痛7.8%と続く。
システマティックレビューの査読前論文より、18歳以下の後遺症の症状一覧)

では、ほどんどが軽症である子供には、新型コロナ後遺症はあるのでしょうか。

答えは「ある」です。実際、様々な論文を集めた「システミックレビュー」での論文では、18歳までの25.24%の方が新型コロナウイルス感染の後遺症を来たしているといわれています。

主な症状としては、

  • 気分の変容(怒りや悲しみなどの感情が変化する):16.5%
  • 疲労感: 9.7%
  • 睡眠障害:8.4%
  • 頭痛:7.8%
  • 食欲不振: 6.1%
  • 認知機能の低下(集中力の低下など):6.3%
  • 呼吸器症状: 7.6%
  • 多汗症: 4.7%

などです。ただしデルタ株などが主流の時期の論文なので、オミクロン株による後遺症についてはまだ発表されていません。今後の動向にも注目していきたいところですね。

他の子供のコロナ感染症の特徴については【オミクロン株】子供の新型コロナ感染症の特徴について【症状・後遺症・ワクチン】も参照してみてください。

新型コロナ「後遺症」にもワクチンは有効

英国安全保障庁(UKHSA)が2022年2月にまとめた論文のデータによると、後遺症によるワクチンの有効性について、以下のことがわかっています。

  • ワクチン接種により、疲労感。頭痛・脱毛・息切れなどの後遺症が残りにくくなる傾向にあること
  • 新型コロナにかかった方も、ワクチン接種することで後遺症につながるリスクを減らす可能性があること

ただし、ワクチン接種後に後遺症の症状が悪化したとする報告もあるので、罹患後のワクチン接種の判断については、治療される医師と相談しながら接種をするようにした方がよいでしょう。

新型コロナ「後遺症」を予防するには?

当然ですが、新型コロナウイルス後遺症を防ぐもっとも良い方法は、新型コロナ感染症にかからないようにすることです。アメリカCDCでは予防として、以下のことが推奨されています。

  • なるべく早く新型コロナウイルスワクチンを受けること
  • 口から鼻まで感染拡大防止のためにマスクで覆うこと
  • 同居していない方とは約2メートル離れること
  • 石鹸と水で頻繁に手を洗うこと。石けんと水が利用できない場合は、手指消毒を使用すること

よく言われていることですが「コロナにかからない」「コロナをうつさない」ことが大切ですね。後遺症になったとしても、一人で悩まず医療機関に相談するようにしましょう。

当院でも患者さんの状態に合わせて、最新の知見を含めて個別にアドバイスさせていただきます。

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【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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