世界中で猛威をふるっている「新型コロナウイルス」ですが、発生から既に2年半以上が経過しワクチン接種も幅広く行われているのにも関わらず、未だに鎮静化の目途が立ちません。
感染者急増に伴い医療ひっ迫もされる中、自分で感染症を予防し健康的に過ごす「セルフケア」が重要視されています。普段から感染症にかからないような生活をし、自分で予防し重症化を防ぐ試みです。
新型コロナをはじめ上気道感染を防ぐためには、もちろん「手洗い」「マスクをする」「距離をとる」「十分な換気をする」などの感染対策は大切です。(マスクについての効果はこちら)
しかし、食事や睡眠やワークバランスといった普段の生活をいかに過ごすかも感染症の予防には同じくらい重要ではないでしょうか。
そこで今回は、新型コロナや「風邪」を含めた感染症を予防するために、よく研究されている栄養素「ビタミン」について紹介していきます。
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新型コロナや上気道感染の予防に効果が期待できるビタミンは?
新型コロナをはじめとした上気道感染の予防に欠かせないのは「十分な換気」「マスクの着用」「手洗いの徹底」「密集・密接・密室を避ける」ことですが、普段からの生活もとても大切。適度な睡眠や食事・運動を心がけることで、ウイルスに対する抵抗力(免疫力)を正常に機能させることができます。
とりわけ重要なのが栄養バランスの良い食事をとること。なぜなら体の免疫システムが正常に機能するためには、非常に多くの栄養素などが関与しているからです。
では、具体的にどんな栄養素が免疫システムに関与しているのか。日本栄養士会では「免疫システムが正常に機能するために多くの栄養素や関連物質」として以下をあげています。
- 適切な摂取エネルギー:やせていても肥満でも感染症のリスクは高くなる
- 栄養素
- たんぱく質
- オメガ3系脂肪酸
- ビタミン(A、 D、 E、 B、 C)
- ミネラル(鉄、亜鉛、銅、セレン)
- 食物繊維
- 乳酸菌
本記事ではこのうち特に感染症の予防で注目されるビタミンD・ビタミンC・ビタミンEについて紹介いたします。
(参照:日本栄養士会会「新型コロナウイルスの状況下、今、栄養指導に必要な一般生活者へのアドバイス」)
ビタミンDのコロナや上気道感染に対する効果は?
ビタミンDは油に溶ける「脂溶性ビタミン」の1つ。正常な骨格と歯の発育を促進したり、カルシウムの濃度を一定にしたり、神経伝達や筋肉の収縮の調節を行ったりなど様々な役目を担っています。
その中でも感染症分野で注目されているのが「免疫調節作用による抗ウイルス作用」です。つまりビタミンDには体内に侵入してきたウイルスに対して体内の免疫機能を高めたり、ウイルスの複製を阻害する効果があるとされています。
実際、ビタミンDは新型コロナを含めた感染症自体を予防する効果・重症化しにくくする効果が多くの論文で報告されています。
例えば、2001年から2006年に米国で14,108人を対象として行われた横断研究では、血中ビタミンDが低値であることと、急性呼吸器感染症の間には負の相関関係があることが示されました。(つまり血清ビタミンDが高いと急性呼吸器感染症をきたしにくい傾向がある)
また、2008年から2009年に日本で行われたランダム化比較試験では、6-15歳の学童を対象に、冬季に1日あたり1,200IUのビタミンD3のサプリメントを服用した群では、プラセボ群と比較してインフルエンザAに罹患するリスクが42%減少しました。
また、欧州20か国でのビタミンD値と新型コロナ発症との関連を検証した研究では、ビタミンD値と新型コロナ感染症の罹患率、死亡率との間に負の相関関係が見られました。(つまり血清ビタミンD値が高いほど、新型コロナにかかりづらく死亡しにくい傾向がある)
さらに、スペインで行われたランダム化比較試験では、76人の新型コロナ感染患者を、ビタミンD服用群50人と、非服用群26人に分けてその後の経過を比較しています。その論文では「ビタミンD服用群では、50人中1人だけが重症化して集中治療室に入室したのに対し、非服用群では26人中半分の13人が集中治療室に入室した」と報告しています。
このようにビタミンDはインフルエンザや新型コロナをはじめとした上気道感染症の発症予防・重症化予防について多くの論文が出されており、現在注目されている栄養素の1つです。
一方、ヨーロッパで約40万人を対象としたメンデル化比較試験(ビタミンDの血中濃度が高い遺伝子をもつ方とそうでない方の比較)では「新型コロナの転帰の悪化を防ぐ手段としてのビタミン D 補給は、遺伝的証拠によって裏付けが取れない」と報告していますので、賛否両論があるところ。「ビタミンDで確実に重症化しにくくなる」とはまだ言いにくいですね。
またビタミンDをはじめとした脂溶性ビタミンは体内の脂質に溶けて蓄積されるため、摂取しすぎると過剰症状が出る可能性があります。ビタミンDを過剰摂取した場合には、高カルシウム血症を引き起こし、嘔気や腎障害、尿路結石などの原因となることがあります。このため、一概にビタミンDをサプリメントで補えばよいと短絡的に考えるのも危険です。
日本栄養士学会ではビタミンDについて
- 日光を浴びる時間が著しく減少している場合は庭やバルコニーで過ごすこと
- サケ・イワシ・マス・ニシン・ウナギ。ビタミンDが添加されている乳製品などを活用すること
で補給できれば、特別なビタミンDのサプリメントをとる必要はないとしている一方、「食事で十分とれず日光浴もほとんどできない場合は、サプリメントを活用するとよい」としています。活性型ビタミンD値はよく骨粗しょう症の疑いがある方などで測定されます。ご不安な方は一度ビタミンDを血液検査で調べてみてもよいでしょうね。
ビタミンCのコロナや上気道感染に対する効果は?
ビタミンCはビタミンB群と同じく水溶性ビタミンに分類されます。体内で作り出すことが出来ないので、食べ物から効率よく摂取する必要があります。水溶性ビタミンは余った分は尿として排出されてしまうため、摂取過多の心配はありませんが、枯渇しないように毎日積極的に摂取を心がける必要がある栄養素です。
ビタミンCには様々な働きが知られていますが、代表的のものとしては
- 抗酸化作用
- 鉄分の吸収促進作用
- コラーゲンの合成補助作用
- 抗ストレスホルモンであるコルチゾールの合成補助作用
- 免疫力向上作用:白血球の中のリンパ球に多く含まれており、リンパ球を活性化させる
などが知られています。では、具体的にコロナをはじめとした上気道感染にはビタミンCはどれくらい有用なのでしょうか。
ビタミンCの風邪に対する効果については、2013年に「コクランレビュー」が出されています。
コクランレビューとは、英国に本部がある世界的組織「コクラン」が作成するシステマティックレビューのことです。システマティックレビューとは、主にランダム化比較試験について、数多くの研究を網羅的に再現性のある方法に従って集め、その時点での統合した結果をまとめたもの(メタアナリシス)です。ランダム化比較試験とは、様々な種類の臨床試験の中で、最も信頼性が高い方法で行われる臨床試験です。すなわちコクランレビューの結果はかなり信頼のおけるデータと言うことになります。
コクランレビューの「ビタミンCによる風邪の予防および治療」では、下記の結果が報告されています。
- 29試験の参加者11,306人が対象。
- 試験期間中にビタミンCを常時摂取していた間に風邪を発症するリスクは、ビタミンCを摂取していなかった人と比べて差はなし。
- 風邪の罹病期間に及ぼす影響については、成人では8%短縮、小児では14%短縮。
- ビタミンCを治療薬として使用した場合の影響については、7つの比較試験の中で検討されていたが、風邪の罹病期間または重症度に対するビタミンCの効果は一貫していなかった。
- 極度の肉体的ストレスを短期間受けた人(マラソン走者、スキーヤーを含む)598人が参加した5つの試験では、ビタミンCによって風邪のリスクが半分に低下した。
- これまで発表されている試験では、ビタミンCの有害事象は報告されていない。
著者の結論としては、一般集団に対するビタミンCのルーチンな補充が妥当ではないとしつつも、ビタミンCを常時補充した試験で風邪の罹病期間に対する一貫した効果が認められたこと、さらに低コストで安全であることを考慮すると「風邪の患者に対してビタミンCを治療薬として投与することの有益性について検討する価値はあるだろう」とまとめています。
(参照:Vitamin C for preventing and treating the common cold。 Cochrane Database Syst Rev。 2013: CD000980。)
ビタミンCが日常的に不足してしまうような方は、ビタミンCを補充する効果が期待できるかもしれません。またビタミンCは日常的なストレスなどで消費されてしまうので、日頃から肉体的、精神的なストレスがかかっている方は十分な量をこまめに摂取する必要がありそうですね。
ビタミンCが多く含まれている食べ物と言えば野菜です。特にブロッコリーやパプリカには多量に含まれています。ビタミンCは水溶性なので、水に長く浸してしまうと栄養素が溶け出てしまうので、調理の際には注意しましょう。果物の中では柑橘類の他、キウイやイチゴなどに多く含まれていますので、不足しやすい方は意識するとよいでしょう。
ビタミンEのコロナや上気道感染に対する効果は?
ビタミンEは脂溶性ビタミンの1つで、脂肪組織や筋肉、肝臓、子宮など多くの人体組織に存在しています。ビタミンEには(α-、β-、γ-、δ-)トコフェロールと(α-、β-、γ-、δ-)トコトリエノールの8つの形態があり、なかでもα-トコフェロールは広く分布し生理活性も強力です。
ビタミンEの働きとしてはビタミンC、ビタミンAとともに抗酸化作用を有しており、細胞膜が活性酸素により過酸化脂質になるのを防ぐことで、細胞の老化を防いでいます。この働きからビタミンEはアンチエイジングビタミンとも言われています。
上記以外の働きとしては、女性ホルモンの生成を助けたり、血行を促したりする働きのほか、細胞膜の損傷を防ぐことにより膜の完全性やシグナル伝達を維持することで、免疫機能の維持にも関わっていることが知られています。
過去の報告では、老人ホームに入所している高齢者を対象としたランダム化比較試験において、1年間のビタミンEの摂取が上気道感染症の罹患率を下げることに有用であったとしています。
新型コロナに対しても有用性が期待できる栄養素の1つではありますが、現在のところ新型コロナの予防や治療としてのビタミンEの有用性を示したデータは(調べた限りでは)無いようです。
ビタミンEを多く含む食べ物としては、アーモンド、うなぎ、アボカドなどがあります。ビタミンEは脂溶性ビタミンですが、体内に広く分布しているため、過剰症は起こりにくいという特徴がありますので、ご安心ください。
新型コロナ・上気道感染予防にサプリメントは必要か
ビタミンDやビタミンC、ビタミンEの各栄養素について、いくつかの臨床試験の結果を含めご紹介しました。実際には他にも非常に沢山の臨床試験が行われており、これらの栄養素の効果を肯定するものから否定するものまで様々です。臨床試験は参加者の人種や年齢、性別、栄養状態、処方した栄養素の量などがそれぞれで異なるため、一概に比較するのは難しいですね。
これらの栄養素は、いずれも様々な食事に含まれている栄養素ですので、まずはどの食材に何の栄養素が含まれているのかを知ること、そしてそれらをバランス良く摂取することが重要となります。どうしても不足しがちな栄養素については、不足分をサプリメントで補うのは一つの方法と考えられます。
日照時間の少ない冬の時期に、もしくは普段日光に当たらない人がビタミンDのサプリメントを摂取したり、普段忙しくて野菜や果物を食べる機会が少ない人がビタミンCのサプリメントを摂取したりすること、また普段からお酒をよく飲む人が亜鉛のサプリメントを摂取するのは理にかなっていると考えられます。
栄養素が欠乏しているかどうかは、採血をすることで血液中の各栄養素の値を調べることが出来ます。一之江駅前ひまわり医院でも検査可能ですので、サプリメントの内服が必要かどうかなどを含め、是非お気軽に御相談ください。
【この記事を書いた人】
この記事は、当院院長の伊藤大介と土浦協同病院消化器内科の渡辺研太朗先生と共同で作成しました。当院院長のプロフィールはこちらを参照してください。
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