- 頭のフケや乾燥が気になる。
- 何回も鼻のワキが繰り返しかゆくなる。
- フェイスラインや眉間がかゆくなりやすい。
- 頭の生え際が赤くなったり、耳切れを起こしたりする。
そのような方はいらっしゃいませんか?もしかしたら、あなたの湿疹は「脂漏性皮膚炎」かもしれません。
主に頭や顔に繰り返しやすい「脂漏性皮膚炎」。逆に対処法を知ることで、繰り返しにくくすることができます。今回は、数ある湿疹の中でもなかなか治りにくい「脂漏性皮膚炎」について原因から治し方まで詳しく解説していきます。
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脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)とは?
脂漏性皮膚炎とは「皮脂の分泌が多い場所に皮膚が炎症を起こす状態」のことです。脂漏(しろう)とは文字通り「脂が漏れる=脂が多い」ことを指します。
皮脂が多く分泌されるのは、皮膚を守る役割がありますが、過剰に分泌されると、皮膚のバリア機能が低下し、細菌や真菌が繁殖しやすくなります。これが炎症を引き起こし、脂漏性皮膚炎が発生します。
例えば、赤ちゃんで「ほっぺた」が赤くなっているのを見たことはありませんか?
これも実は「脂漏性皮膚炎」です。赤ちゃんだと皮脂の分泌が不安定なので、皮脂の分泌が安定するまで繰り返し発症します。赤ちゃんの場合は年齢があがって皮脂の分泌が安定すると、自然と繰り返さなくなります。
一方、成人の場合は皮脂の分泌さかんな場所を中心に発症します。青年期以降に発症すると再発を繰り返し、治るまでに時間がかかることもあるのが特徴です。
日本では皮膚科に受診する方の2~3%は脂漏性皮膚炎だといわれています。意外と多くの方が悩まれているのですね。
(参照:脂漏性皮膚炎。Jpn. J. Med. Mycol.Vol. 44, 77-80, 2003)
脂漏性皮膚炎の原因は?
脂漏性皮膚炎の原因はわかっていない部分もありますが、主に下記のことが原因であると考えられています。
- 体質や遺伝的要素で皮脂の分泌が多い: 実際、体質的な要素も非常に大きい疾患です。例えば、家族に脂漏性皮膚炎の人がいる場合、遺伝的な要素が関与している可能性があります。
- 真菌の関与: 皮脂の過剰分泌によって、皮膚の表面にある真菌(マラセチア属という種類の真菌が主に関与)が繁殖しやすくなります。すると、マラセチアが皮脂の成分の1つであるトリグリセライドを遊離脂肪酸に分解します。この遊離脂肪酸が皮膚の炎症を起こすことがわかっています。
- ストレスや睡眠不足: ストレスが高まる生活を繰り返したり、睡眠不足が続くと、
- ホルモンバランスの乱れ: 性ホルモンの影響で皮脂の分泌が増えることがあります。特に思春期の方はホルモンバランスの変化が大きいため、脂漏性皮膚炎が発症しやすくなります。
- 生活習慣の乱れ:後述しますが、糖質の多い食事や飽和脂肪酸の多い食事、食物繊維やビタミンB2やB6の不足などにより脂漏性皮膚炎が悪化しやすいといわれています。
が背景として考えられています。
この中でも注目されているのが、皮膚の常在菌であるマラセチアというカビ(真菌)の一種。マラセチアは皮脂を栄養源にしており、皮脂の量が多くなるとマラセチアも増殖します。
なぜマラセチアが脂漏性皮膚炎に関与するでしょう。
本来、皮脂は水分と混ざって皮膚表面をコーティングする「皮脂膜」を形成します。皮脂膜は弱酸性で殺菌作用をもつため、肌へのさまざまな刺激から皮膚を守っています。
しかし、上記のように生活環境が乱れてマラセチアが増殖すると、マラセチアが皮脂の成分の1つであるトリグリセライドを遊離脂肪酸に分解。そして遊離脂肪酸が肌にダメージを与えるというわけですね。
また、増殖したマラセチア自体も皮膚に炎症を起こすと考えられています。
脂漏性皮膚炎の症状は?
脂漏性皮膚炎症の症状は、例えば下記の通りで、非常に多彩な症状を示します。
- かゆみ: 皮膚が炎症を起こしている部分は、かゆみを感じることがよくあります。特に、頭皮や顔の皮膚がかゆくなることが多いです。
- 赤み: 炎症が起こっている皮膚は、赤くなることがあります。顔や耳周辺、胸、背中などに赤みが現れることがあります。
- ふけ: 頭皮の脂漏性皮膚炎では、ふけが目立つことがあります。白っぽい細かい粉状のものがたくさん落ちることがあります。
- 皮膚のひび割れ: 炎症が進むと、皮膚が乾燥してひび割れたり、剥がれたりすることがあります。
- 湿疹: 脂漏性皮膚炎が進行すると、皮膚に湿疹ができることがあります。これは、赤く腫れたり、水ぶくれができたりすることがあります。
さらにかゆみで書き壊すと湿疹が強くなり、ジクジクしたり膿のようになることもあります。
そんな多彩な症状を示す脂漏性皮膚炎の一番の特徴は、皮脂の分泌の多い場所に「繰り返し」出現すること。例えば、皮脂の分泌の
- 鼻のわき
- 髪の生え際
- 耳の中・耳の後ろ
- 頭皮
- わきの下
- 背中
が脂漏性皮膚炎の好発部位になります。しかし、上記の場所の炎症がすべて「脂漏性皮膚炎」というわけではありません。酒さや接触性皮膚炎・アトピー性皮膚炎などをはじめ、見分けなければいけない疾患が多くあります。場合によっては、診断のための検査が必要になることも。
ぜひ上記の場所のかゆみや赤みが気になる方は、一度皮膚科に受診して診断してもらうようにしましょう。
脂漏性皮膚炎に対する薬は?
脂漏性皮膚炎は、繰り返すことが多く、再発を防ぐのが難しい病気です。しかし、定期的に薬を使うことで良い状態を保つことができます。例えば、脂漏性皮膚炎の治療としては下記があります。
① 抗真菌薬(ニゾラール®)
脂漏性皮膚炎は前述の通り「マラセチア」という菌が悪化させている可能性が高いとされています。脂漏性皮膚炎によく使用される「ニゾラール®」は、ケトコナゾールという成分が入っており、マラセチアを殺菌効果があります。
クリームは顔に、ローションは頭に使うことが多いです。長期間使用しても、肌に合えば副作用はほとんどないので、症状がない時でも塗ることで再発予防に役立ちます。
ただし、今ある炎症が強い場合には十分な効果を発揮することができません。
② ステロイドの塗り薬(ステロイド外用薬)
赤みが強いときには、炎症を抑える効果がある「ステロイドの塗り薬」が効果的です。
赤みが治まったら、副作用の少ないニゾラールに戻すことで、長期間のステロイド使用による副作用を防げます。また、脂漏性皮膚炎の炎症度合や場所などで使用するステロイド薬は全く異なるので、必ず皮膚科で定期的にチェックしてもらいながら使用するようにしましょう。
脂漏性皮膚炎の症状が軽く、赤みがあるときにステロイドを何日かぬれば症状がなくなる位なら、ステロイドの塗り薬だけで治療することもできます。
③ プロトピック(タクロリムス)・コレクチム
ニゾラールやステロイドですぐ再発してしまうという方には、プロトピックやコレクチムといった本来アトピー性皮膚炎に使用される薬を使うことがあります。
炎症を抑える効果があり、長期使用でも副作用が少ないのが特徴です。ただし、塗り始めの数日程度はほてるような「ヒリヒリ感」があることがあります。
少し特殊な薬ですので、使用経験の豊富な皮膚科で処方してもらうようにしましょう。
④ 漢方薬
難治性の脂漏性皮膚炎に対して漢方薬が使用されることがあります。例えば、下記の通りです。
- 十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう):おもに皮膚の炎症や化膿病変に効果があり、アトピー性皮膚炎や毛嚢炎、足白癬などに治療されますね。脂漏性皮膚炎に十味敗毒湯が効果があるのは、化膿していない毛嚢周囲炎からはじまるからといわれています。
- 荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう):余分な熱を冷まして追い出す効果がある漢方薬、よく慢性鼻炎や蓄膿症・にきびなどに用います。連翹で化膿を抑えながら、柴胡や薄荷でかゆみや炎症を抑えるといった働きがあると考えられています。
- 黄連解毒湯(おうれんげどくとう):肌に炎症があり、赤くなりやすい方に効果的な漢方薬として知られています。いらいらして落ち着かない傾向がある方でのぼせぎみな方にお勧めされますね。
こちらに関してもご相談いただけたら、個人個人にあった薬を考えて処方いたします。
(参照:漢方薬が奏功した脂漏性皮膚炎の5症例. Kampo Med Vol.60 Vo.2 155-159, 2009)
⑤ ビタミン剤
脂漏性皮膚炎の関与にビタミンB2やB6・ビタミンH・ビタミンDなどの不足の関与が考えられています。ビタミンDについては普段の食事で補ってもらいながら、再発予防の目的などで内服される場合がありますね。
ただし、上記の治療薬よりは裏付けとなるエビデンスも乏しいため、上記治療で収まらない場合などに考慮されるでしょう。
脂漏性皮膚炎の治し方は?
脂漏性皮膚炎は皮脂の分泌の乱れをきっかけに繰り返しやすいのが特徴です。
そのため脂漏性皮膚炎を抑えるためには、普段の生活習慣を改善し皮脂の分泌を安定化させるのが最も大切です。(再発予防としては、薬以上に大切です)
患者さんに合わせてアドバイスは変えておりますが、一般的に気を付けたい点についてお話します。
① 洗顔・洗髪は優しく泡立てて丁寧に
皮脂の過剰分泌を抑えるためには、洗顔が重要ですが、強くこすると逆に肌荒れの原因となることがあります。低刺激性の洗顔石鹸やシャンプーを使用し、皮膚を傷つけないような優しい泡立てで洗いましょう。また、マラセチアの繁殖を抑える効果があるシャンプーを試すこともお勧めです。洗顔後は角質ケアのため、保湿を忘れず行いましょう。
保湿液は、皮脂のバランスを考えながら、油分が多いときはあまり油分の少ないものを、乾燥しているときはやや油分が多いものを選ぶとよいですね。
② 特に炎症を起こしている部分をこすらない
皮脂は本来、肌を様々な刺激から保護する役割があります。しかし、かく・擦るなどの刺激が加わると、炎症を引き起こし、肌の状態が悪化する可能性が高まります。
日常生活で無意識に肌をこすりがちな場合は注意しましょう。また、マスクですれてしまう場合もあるので、その場合はインナーマスクなどで保護するとよいですね。
③ 紫外線を避ける
紫外線は皮脂を脂肪酸に変換する作用があり、脂漏性皮膚炎が悪化する原因となります。特に夏場は紫外線が強くなるため注意が必要です。日焼け止めクリームを常用し、帽子や日傘で直射日光を遮る工夫をしましょう。
日焼け止めクリームでは、紫外線を吸収するタイプの「紫外線吸収剤」と「紫外線散乱剤」があります。吸収剤の方が肌の負担が大きくなりやすいので、普段使いとして「紫外線散乱剤」の方がオススメです。
④ 食生活に注意する
アメリカの「Whole Health Library」では、脂漏性皮膚炎の予防法として下記が紹介されています。
- 抗炎症食を試してみる:精製された炭水化物の摂取を減らす。地中海食を検討する。
- 酵母の増殖を促進する食品を避ける:パン、チーズ、ワイン、ビールなど
- 不飽和脂肪酸を積極的に摂取する
- ビタミンをきちんと摂取する:特にビタミンBやビオチン(ビタミンH)
脂漏性皮膚炎によいとされている地中海食については「地中海食は認知症やダイエットに効果がある?地中海食の論文によるエビデンスを紹介!」を参照してみてください。
(参照:Whole Health Library「Seborrheic Dermatitis」)
⑤ 生活のリズムを整え、ストレスをためない
ストレスは皮脂分泌を増加させる大きな要因のひとつです。ストレスフリーな生活を送るのは難しいですが、自分の時間を作り、ストレス解消法を見つけることが大切です。リラクセーションや趣味などでストレスを軽減し、できる範囲で取り組みましょう。
さらに、生活リズムを整えることも肌の健康に重要です。特に、睡眠不足は肌荒れの原因となりますので、十分な睡眠時間を確保しましょう。睡眠不足を解消する方法として、不眠症や睡眠障害に関する情報を参考にすることも助けとなります。適切な睡眠環境を整え、リラックスできる状態で眠りにつくことが肌の回復に役立ちます。
睡眠不足の解消方法は不眠症・睡眠障害について解説【眠れないあなたへ】も参考にしてください。
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【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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