春先にかけて多くの人が悩まされる花粉症。2019年の全国疫学調査によると、花粉症全体の有病率の割合が42.5%であり、スギ花粉症の有病率は38.8%にも達しているといわれています。
日本では約5人に2人以上が花粉症に悩まされているのですね。
花粉症の時に強い味方になるのが、さまざまな「花粉症を抑える薬」ですが、非常に種類が豊富です。飲み薬や点鼻薬、点眼薬、飲み薬でも「どの場所を抑えるか」によって様々に異なります。そうなると、自分で自分にあった花粉症の薬を探し出すのは至難の業です。
そこで、花粉症の薬について一覧表にしながら、強さや種類、副作用の面から考察していきます。自分にあった花粉症の薬選びに参考になれば幸いです。
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花粉症の薬とは?
花粉症の薬とは、花粉症によりアレルギー症状が発症する経路を遮断する薬のこと。また、点眼薬や点鼻薬のように花粉により生じた炎症を抑える薬も「花粉症の薬」といわれることがあります。
そもそも花粉症がどのようにして起こるのか。鼻症状を例にすると次の通りです。
- 空気中を浮いている花粉が、私たちの鼻の中に入ってきます。
- この花粉が抗体を介して鼻の中の特定の細胞(肥満細胞)に接触すると、その細胞はヒスタミンやロイコトリエン、PAF(platelet-activating factor)などのいくつかの化学物質を放出します。
- これらの化学物質が鼻の内部の神経や血管に作用し、くしゃみや鼻水、詰まりなどの鼻炎の症状を引き起こします。
したがって、ヒスタミンやロイコトリエン、PAFの作用を抑えれば花粉症の症状が治まることがわかりますね。これが「花粉症の薬」の正体です。
これらの化学物質のうち、特にヒスタミンを介した経路が最も強く関与しやすく、多くの薬は「ヒスタミンを抑える薬」を中心に作られています。
純粋に「鼻や目のヒスタミンだけ」を抑えられれば良いのですが、昔は「ヒスタミンだけを抑える薬」を作ることは難しく、脳に作用したりコリン受容体にも作用したりしていました。
そのため、昔は眠気が強くなったり抗コリン作用による「口の渇き」を感じやすいなどの弊害もありました。これが「第1世代抗ヒスタミン薬」です。
しかし、その後改良され「ヒスタミンだけを抑える効果」を抽出し、より副作用が少ない薬が開発されるようになりました。これが「第2世代抗ヒスタミン薬」であり、現在の主流になっています。
その他にも、ロイコトリエンを介した経路を抑える「ロイコトリエン拮抗薬」やPAFを抑える「抗PAF作用のある薬」、鼻を目の炎症自体を抑える「ステロイド点鼻薬や点眼薬」などがあります。
花粉症で使う内服薬の一覧
市販薬でもいろんな種類の花粉症の薬がありますが、どれくらいの種類があるのでしょうか。
病院やクリニックで処方される薬も含めると、代表的な薬の一覧は次の通りです。
① 第2世代抗ヒスタミン薬
市販薬での「花粉症の薬」はこの系統。赤字が市販薬でも売られている。(あいうえお順、商品名で記載、カッコ内は一般名)
- アレグラ(フェキソフェナジン):1日2回。眠気が少なく、車の運転も可能。6か月の小児からも使える。
- アレジオン(エピナスチン):1日1回。喘息に対しても適応が通っているのも特徴。
- アレロック(オロパタジン):1日2回。眠気が強いが「作用が強い薬」として使われやすい。
- エバステル(エバスチン):1日1回。比較的眠気は少ない。
- クラリチン(ロラタジン):1日1回。比較的眠気は少なく、妊娠授乳中にも使われやすい。車の運転も可能。
- ザイザル(レボセチリジン):1日1回。ジルテックの改良版。比較的眠気は少なく、妊娠授乳中にも使われやすい。
- ジルテック(セチリジン):1日1回。妊娠授乳中にも使われやすい。
- タリオン(ベボタスチン):1日2回。皮膚科領域では使われやすい。
- デザレックス(デスロラタジン):1日1回。クラリチンの改良版。比較的眠気は少なく、妊娠授乳中にも使われやすい。車の運転も可能。
- メキタジン(ゼスラン):1日2回。第2世代でありながら、抗コリン作用やロイコトリエン、PAFなどの他のケミカルメディエーターも抑える。緑内障の方は使えない。
- ビラノア(ビラスチン):1日1回。最も眠気が少ないともいわれている。空腹時に飲む必要があることに注意が必要。車の運転も可能。
- ルパフィン(ルパタジン):1日1回。眠気の頻度が強いが「作用が強い薬」として使われやすい。抗PAF効果も持ち合わせる。
あとは、鼻づまりの症状が強い場合は、アレグラと血管収縮薬が配合された「ディレグラ」を使うこともあります。
② 第1世代抗ヒスタミン薬
市販薬でも「風邪薬」の中にも使われる。第2世代よりも眠気は出やすい。(あいうえお順、商品名で記載、カッコ内は一般名)
- ポララミン(d-クロルフェニラミンマレイン酸塩):1日1~4回まで可能。昔からあるので、妊娠中などでも使われやすい。眠くなる頻度は高い。
- レスタミン(ジフェンヒドラミン塩酸塩):1日2~3回投与。妊娠や授乳中は使うことができない。眠くなる頻度は高い。
- アタラックスP(ヒドロキシジン):1日3回飲めるが、非常に眠気が強く、睡眠薬として使用していることもあるほど。
③ 抗ロイコトリエン拮抗薬など
抗ヒスタミン薬が、即時アレルギーの主役であるヒスタミンを抑えるのに対して、抗ロイコトリエン薬は、即時アレルギーの鼻づまりだけでなく遅発的起こるアレルギー反応である「ロイコトリエン」を抑える効果があります。市販薬にはありません。
- オノン(プランルカスト):1日2回タイプ。抗ヒスタミン薬と相乗効果をもつ。小児で使われやすい。喘息にも適応あり。
- キプレス・シングレア(モンテルカスト):1日1回。抗ヒスタミン薬と相乗効果。眠気などの副作用もない。喘息にも適応あり。
他にはケミカルメディエーター遊離抑制薬、Th2サイト カイン阻害薬、抗プロスタグランジンD2・ トロンボキサンA2薬などの薬がありますが、上記にくらべて効果が遅く発現するため、使われにくいですね。
④ 経口ステロイド薬
鼻や目の炎症自体を抑えることで効果を発揮します。花粉症に対しての効果が非常に強いのですが、長期に使うと「糖尿病」「骨粗しょう症」「胃潰瘍」などをはじめとした、多くの副作用が出てくるようになります。そのため、非常に短期間の使用にとどめた方が無難です。
特に「一発で花粉症を抑える注射」を打っている方もいますが、それは「ステロイド注射」であることがほとんどです。ステロイドの注射薬は1回接種すると6か月効果が持続することから「6か月間ステロイド薬を飲む」と同じ効果になります。
したがって、ステロイドの注射は自分の体を長期にいたわるならば打たない方がよいでしょう。日本耳鼻咽頭科頭頚部外科学会でも「本剤をアレルギー性鼻炎の治療に用いることはお勧めできません。」としています。
⑤ 漢方薬
花粉症で漢方薬を使うことがあります。鼻水や鼻づまりに使う漢方薬として以下がありますね。
- 小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
- 葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)
- 辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)
- 麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
このうち、一番使いやすいのは「小青竜湯」です。「透明な鼻水がダラダラでてくる」という症状に有効な薬で、まさに花粉症の症状にピッタリですよね。麻黄のエフェドリン、芍薬のペオニフロリン、肝臓のグリチルリチンにより炎症を抑えつつ、スギ花粉で誘発されるケミカルメディエーターを抑える作用があります。
実際、小青竜湯をスギ花粉症の鼻炎症状がある15名に投与したところ、
- 鼻汁に対して14.3%が改善、42.9%がやや改善
- 鼻閉に対して21.9%が改善、50.0%がやや改善
という結果になっていますね。抗ヒスタミンを抑えるシャープさは西洋薬が勝るものの、「西洋薬で効果がない」という方は漢方薬も1つの選択肢かもしれません。
(参考:小青竜湯エキスのスギ花粉症の鼻炎症状に対する臨床効果)
花粉症で使う点鼻薬の一覧
花粉症は内服薬も大切ですが、鼻症状には点鼻薬もオススメです。内服薬とも相乗効果を発揮します。
① 鼻噴霧用ステロイド薬
クリニックでは直接鼻の炎症を抑える「ステロイド点鼻薬」が主流になっていますね。ステロイド点鼻薬は内服薬として全身への作用が非常にすくなく、全身への副作用は起こりにくくなっています。(よく誤解されがちです)代表的な薬は次の通りです。
ベクロメタゾン点鼻液は市販薬でも売られていますね。
- アラミスト点鼻液:1日1回、各鼻腔2噴霧。全体に広がるよう設計されている。
- ナゾネックス点鼻液:1日1回、各鼻腔2噴霧。奥側に噴射しやすいように設計されている。
- エリザス点鼻粉末:1日1回。各鼻腔1噴霧。噴射したかわからないくらいの刺激感が特徴。パウダータイプ。
- フルナーゼ点鼻液:1日2回。小児用もあり。1日2回である程度調節しやすいのも特徴。
- リノコートパウダースプレー:1日2回。パウダータイプなので刺激感はすくない。
- ベクロメタゾン点鼻液:1日4回。非常に短時間なのが特徴。
② 第2世代抗ヒスタミン薬、ケミカルメディエーター遊離抑制薬
多くの市販薬はこちらが多いです。一部は血管収縮剤が入っているものもあります。血管収縮薬が入っているものは、鼻の環境のためにも、なるべく短期的に使った方がよいですね。(長期に使うと慢性的に鼻の血流がわるくなってしまいます)
- ザジテン点鼻液:1日4回。1回1噴霧。第2世代抗ヒスタミン薬になります。
- リボスチン点鼻液:1日4回。1回2噴霧。第2世代抗ヒスタミン薬になります。
- インタール点鼻液:1日6回。1回1噴霧。ケミカルメディエーター遊離抑制薬になります。
- コールタイジン点鼻液:3~5時間ごと、1回2~3噴霧。血管収縮薬とステロイドが配合されていますので、短期間の使用にとどめた方がよいでしょう。
花粉症で使う目薬の一覧
目の症状が強い場合は点眼薬を併用すると効果的です。内服薬とも相乗効果を発揮します。
① 第2世代抗ヒスタミン薬
点眼薬で多く使われるのは「第2世代抗ヒスタミン薬」でしょう。ステロイド点眼薬も使われますが、緑内障などの眼圧が上がる可能性があるからです。まずは抗ヒスタミン薬で使って、緩和しないようならステロイド点眼薬を使用するようにした方が望ましいです。
- アレジオン点眼液:1日4回タイプと持続が長い1日2回タイプである「アレジオンLX」があります。
- ザジテン点眼液:1日4回。1回1~2滴使用できます。
- パタノール点眼液:1日4回。1回1~2滴使用できます。
- リボスチン点眼液:1日4回。1回1~2滴使用できます。
② ケミカルメディエーター遊離抑制薬
代表的な薬としては以下の通りです。
- アレギサール点眼液:1日2回タイプです。
- アイビナール点眼液:1日4回タイプです。
- インタール点眼液:1日4回タイプです。
- ゼペリン点眼液:1日4回タイプ。さまざまな種類のメディエーターに効果を発揮します。
③ ステロイド点眼液
オドメール点眼液、フルメトロン点眼液、リンデロン点眼液などあり、それぞれ濃度が違い種類が用意されています。
もちろん濃度が高いほど効果は発揮しやすいですが、前述の通り緑内障に注意して使用すべきで、眼科で緑内障がないことを確認して使用した方が望ましいでしょう。
花粉症の薬の強さやおすすめについて
よく「花粉症の薬の強さ」について聞かれることが多いですが、強さのランキングのようなものはあるのでしょうか?
結論からいうと明確な「花粉症薬の強さのランキング」といったものはありません。
例えば、花粉症の薬を比較した試験において以下のようなものがあります。
- アレルギー疾患の1つである蕁麻疹を対象とした試験でルパフィン(ルパタジン)はクラリチン(ロラタジン)よりも効果が高かった(Indian J Dermatol. 2021 Nov-Dec; 66(6): 704.)
- アレルギー性鼻炎ルパフィン(ルパタジン)とデザレックス(デスロラタジン)とを直接比較した試験では、同程度の鼻症状の改善率であった(J Asthma Allergy. 2013:6:31-9.)
- 1994年から2004年までのアレルギー性鼻炎とじんましんの研究をまとめた論文によると、ザイザル(レボセチリジン)はデザレックス(デスロラタジン)よりも作用の発現が早く効果が安定していた。(Clin Ther. 2005 Jul;27(7):979-92. )
- じんましんの患者110名を対象としたランダム化比較試験では、ビラノア(ビラスチン)、アレグラ(フェキソフェナジン)、ザイザル(レボセチリジン)の改善率は33/39人(84.6%)、26/35人(74.3%)、22/36人(61.1%)であった。(Clin Cosmet Investig Dermatol. 2022; 15: 261–270.)
- 様々なアレルギー薬(クラリチン、デザレックス、ジルテック、ザイザル、ルパフィン、アレグラ、エバステル、ビラノア、アレロックなど)を比較した18のランダム化比較研究をまとめた論文によると、ルパタジンが鼻のかゆみやくしゃみスコアにおいて比較的上位にランク(特に20mg)され、クラリチンが最も低い傾向にあった(Braz J Otorhinolaryngol. 2023 Jul-Aug; 89(4): 101272.)
しかし、実際のところ「ルパフィンで効かなかったがザイザルで効いた」「ビラノアが一番効いた」「クラリチンが自分には一番合ってる」など、患者さんごとにあっている薬が違うことが多く見られます。
したがって、私としては臨床論文としての一般的な「花粉症薬の強さ」も重要ですが、なによりも患者さんの実感を何よりも大切にして処方するようにしています。なので、花粉症の薬も患者さんごとでオススメする薬は変わってきます。
なので、花粉症の薬についての選択についてもぜひご相談ください。論文の実績や自分の経験値と患者さんのタイプなどから総合して提案させていただきます。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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