突然ですが、みなさんはタバコを吸っていたことがありますか?今までタバコを吸っていた方で
- 最近息が苦しいことが多い
- 階段を上り下りするのも大変
- 同じペースで歩いているのに遅くなった
という方は「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」になっているかもしれません。今回は、現在タバコを吸っていない方や肺を悪くしやすい環境にいる方には知ってほしい、「COPD」の症状や治療法などについて説明していきます。
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主にタバコが原因となる肺の病気、「COPD」とは?
COPDとは「ずっと(=慢性)肺や気管支に炎症が起こることで、気管支が細くなり(=閉塞性)、息切れを起こす疾患の総称」です。日本語だと「慢性閉塞性肺疾患」と言って非常に長い名称であることから英語名Chronic Obstructive Pulmonary Diseaseの頭文字をとって「COPD(シーオーピーディー)」と言われることが多いです。
COPDでは慢性的に気管支や肺に炎症が生じることで、気管支や肺の壁が壊れ、体とうまく換気することができないため、徐々に呼吸機能が悪化。全身合併症につながり死にも至る可能性のある病気です。
COPDは「タバコによる肺の病気」の中で最も有名なもの。実際、COPDの方の9割で喫煙歴があるといわれ、逆に喫煙者の15%~20%がCOPDを発症します。他の原因としては
- 周りにタバコを吸っている方がいる
- 粉塵・煙や化学物質を仕事柄吸い込む機会がある
- 室内の空気汚染:石炭や煙・動物の糞・木材の燃料などにさらされる機会が多い
- もともと未熟児や小児期の呼吸器感染症をもつ過去がある
- 小児期の喘息を持っている
- α1アンチトリプシン血症を持っている
などがあげられており、肺にダメージを与える環境にいる方は要注意な疾患です。
では、COPDはどれほど「危険」なんでしょうか?
日本の大規模調査によると、40歳以上のCOPDの推定患者数は530万人(人口の約8.6%)といわれています。さらに、厚生労働省の発表では年間の死亡数は2020年に1万6000人以上(!)にも上ります。喘息の死亡者数が、日本で年間2000人弱(2017年)と考えると非常に多い数です。
他の疾患と比較してもCOPDの死亡者数は非常に多いのが特徴。WHOの発表によるとCOPDは「虚血性心疾患」「脳卒中」に次ぐ世界の死因の第3位であり、日本での男性の死亡順位の第10位にランクインしています。こう考えると、COPDは非常にありふれた疾患でありながら死亡人数も多い、最も注意すべき疾患といえますね。
しかし、みなさんは「喘息」は知っていても「COPD」はあまり知らないのではありませんか?
それもそのはず。2017年の厚生労働省の統計によると、COPDで実際に治療を受けている患者さんは22万人しかいません。40歳以上のCOPDの方は530万人と推定されているのに、まだたった5%しか治療されていない。。
日本でも世界でも最も治療すべき疾患の1つでありながら、最も治療されていない疾患。それが「COPD]です。
(参照:WHO「The top 10 causes of death」)
(参照:厚生労働省健康局生活習慣病対策室「面性閉塞性肺疾患(COPD)の現状について)
COPDは「過去」タバコを吸っていた方も発症し、最初の自覚症状が少ない
では、どうしてCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は非常に死亡者数も多い疾患でありながら、見逃されやすい疾患なのでしょうか?
一言でいうと「患者側も医療従事者側もCOPDと考えるのに、自覚症状が少ない」からです。まず、こちらのグラフをみてください。
こちらは喫煙とCOPDの関係性をグラフで表したものです。2004年の日本の疫学調査による喫煙とCOPDとの発症関係について調べた結果では、「現在喫煙していても、過去に喫煙をしていてもCOPDが同じくらい発症する」ということが分かっています。
つまり「タバコを吸っていたけど、今は禁煙しているから大丈夫だろう」というわけではないのですね。さらに、「喫煙していない方」も4.7%もCOPDとして発症します。これは前述の通り、副流煙を吸い込んでいる方や周りが粉塵が多い環境で過ごしている方など、肺に障害を与えやすい環境にいる方もCOPDとして発症する可能性があることを示唆しています。
つまり、「今タバコを吸っていないからCOPDではない」「タバコは今まで吸っていないからCOPDではない」と考えてしまうと、COPDと疑う機会を失ってしまうのです。
さらに、COPDによる自覚症状をわかりにくくしているのが「COPDの発症年齢」です。同じ日本での疫学調査の結果を年齢別にすると、「高齢になるほど有病率も高くなっていく」のが分かります。70歳以上だとCOPDの有病率は17.4%にも上ります。しかし、高齢になると「息苦しいのは年齢による体力の衰えのせいだろう」と考えて、過去に吸っていた「タバコ」が原因とは考えないのです。
さらに、「年のせい」と考えていますので、症状があっても「自覚」することなく進行していきます。また、喫煙されている方はタバコへの依存性があります。「それでもタバコはやめられない」と息切れがあっても「病気」と思わずに、タバコに走ってしまい、医療機関に受診することがありません。
これがCOPDがなかなか治療できず、死亡者数がいまだに多い原因なのです。
(参照:Respirology. 2004 Nov;9(4):458-65. doi: 10.1111/j.1440-1843.2004.00637.x.)
COPDは「長引く咳や痰」と息切れが主な症状
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の主な症状は、「長引くせきやたん」と「息切れ」です。
前述の通り、高齢になるほど喫煙歴も長くなり症状も現れやすくなるので、風邪や年のせいと考えてそのままにしてしまうこともあります。
- 最近階段の上り下りが辛い
- なんだか痰の絡みも多くなってきた
- 同世代と比べて風邪の治りが悪く、頻度が多い
- 一緒に歩いていると自分だけペースが遅くなってしまう
などがあったら、それはCOPDかもしれません。早めに医療機関に受診するようにしましょう。
さらにCOPDは進行していくのが特徴です。放っておくと、呼吸の状態をもとに戻すことが難しくなります。また、風邪などをきっかけに症状が悪化していき(増悪と呼びます)、増悪を繰り返してCOPDが重症化すると酸素吸入が常に必要になる場合があります。
そのため早めにクリニックや医院に相談し、初期から症状をコントロールすることが大切なのです。
またCOPDは肺だけの疾患ではありません。下記のような全身に影響を与えると考えられていますので、併存症にも注意が必要です。
- 不安・抑うつ症状:合併率は10%~42%とされています。
- 心・血管疾患:特に高血圧は24%で合併するといわれています
- 骨粗しょう症
- 消化器疾患(消化性潰瘍や胃食道逆流症など)
- 肺がん:肺がんは約5倍~10倍で合併しやすいとされています。
- 緑内障・排尿困難:COPDで頻用される抗コリン薬が禁忌
- 糖尿病:COPDの20%の方が糖尿病も合併するとしています
など、COPDは様々な合併症を引き起こします。特にCOPDの方はじっとしていれば息切れを起こしにくくなるので、無意識のうちに活動しなくなります。するとCOPDが元でうつ傾向になり、体力や筋力も落ち、さらに息切れが悪化するという悪循環になることがわかっています。
そのため、当院ではCOPDの診断がついたときは「他の併存疾患がないか」を考えながら、診療するようにしています。
(参照:Chest 134 : 43S―56S, 2008)
(参照:Am J Med. 2006 Oct;119(10 Suppl 1):32-7)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の検査は?
COPDの診断のために、主に以下の検査を使用します。
- スパイロメーター:現在の呼吸機能を測定する、COPDの主要な検査の1つです。実際に息を吸ったり吐いたりしてもらい、呼吸の状態を数値化して進行程度を判断します。(上図)
- 血液検査: 併存疾患の有無や、全身状態の把握をするために検査してフォローすることがあります。
- 胸部CT検査: レントゲン検査よりも鋭敏に肺胞の状態を把握します。また増悪した場合の病態の把握にも用いられます。COPDは肺がんの合併率が高いこともわかっており、
この中で最も大切な検査はスパイロメーターによる呼吸機能検査であり、重症度把握に用いられる指標として大切なのは「%FEV1(%1秒量率)」です。「%1秒量率」とは「年齢や身長から求めた1秒量の標準値に対する割合」のこと。具体的には、下記のように重症度が決定されます。
病期 | 定義 |
I期(軽度の気流閉塞) | %FEV1 ≧ 80% |
II期(中等度の気流閉塞) | 50% ≦ %FEV1 < 80% |
III期(重度の気流閉塞) | 30% ≦ %FEV1 < 50% |
IV期(きわめて重度の気流閉塞) | %FEV1 < 30% |
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療は?
① 禁煙する。肺の炎症になるようなものを回避する。
まずは気道の炎症の主要な原因であるタバコを止めるのが最も大切です。薬物療法や運動療法は、現在ある呼吸機能を温存し、少しでも進行を遅らせるのが目的です。
現在禁煙されている方やタバコを吸っていない方も
タバコを止めずに下記2つの治療法だけ続けるのは、火元を消さずに症状だけなんとか抑えようとするようなもの。当院では禁煙外来も行っておりますので、ぜひご相談ください。(詳細は禁煙外来と禁煙補助薬(チャンピックス・ニコチンパッチ)について【成功率・費用・副作用】も参照してください)
② 薬物療法
COPDの薬物治療には主に下記があげられます。
- 気管支拡張薬:狭くなった気管支を広げる薬で、呼吸が楽になります。貼り薬や飲み薬もありますが、最も中心的な薬は吸入薬です。COPDの薬物治療では最も重要な薬となります。
- 吸入ステロイド: 気管支拡張薬と一緒に使うことで呼吸を楽にします。また喘息を併発している例もあり、吸入ステロイドを使用することがあります。
- 経口ステロイド: 急な増悪の時に短期的に使用されることがあります。
- 去痰薬: たんの切れをよくする薬です。増悪する可能性を抑えます。
- 抗菌薬: 細菌感染による肺炎などの症状に使います
薬物療法を行う上で、大切なことは以下の2点です。
- 気管支拡張薬を中心とした吸入療法は継続して行うこと
- COPDで増悪された際には、速やかに医療機関に受診すること
きちんと継続した吸入をしないと、十分効果を得られず急性増悪になりやすくなります。しっかり吸入を行い、肺に酸素を行きやすくし運動機能を高めてリハビリを行う。
このような「よい循環」が作られることで進行を抑えやすくなりますし、増悪を起こしにくくなります。
また、それでも風邪やインフルエンザなどをきっかけに急激な悪化が起こることがあります。命にかかわることですので、早めに医療機関に受診するようにしましょう。
③ 運動療法
呼吸リハビリテーションは薬物療法により症状が安定している患者さんでも、さらに上乗せの改善効果を測ることができます。トレーニング方法も「柔「筋力トレーニング」「排痰トレーニング」など様々です。
- 全身持久力トレーニング:有酸素運動をはじめとしたウォーキングや自転車などの運動のこと。息切れの程度が「ややきつい」くらいが目安になります。長時間動けない場合は、口すぼめ呼吸といって、そーっと吹き消すように息を吐く呼吸をするだけでもトレーニングになります。
- 筋力トレーニング:COPDの筋力トレーニングは、主に呼吸筋の筋力を鍛えます。自分の体重を利用した運動やおもりを使った運動などさまざま。呼吸筋は横隔膜、肋間筋、腹直筋など様々な筋肉で呼吸が行われています。なので、時に腹式呼吸を意識しながら、腕を上げ下げし全身で大きく深呼吸するだけでも効果的です。
- 排痰トレーニング:COPDでは、慢性的な炎症のため痰がでやすいことが特徴の疾患。痰を肺の中にためておくと空気が十分換気されず、急性増悪のもととなります。そのため重要なのが「排痰トレーニング」です。詳しくは痰が絡む咳はコロナ?咳や痰の原因や対処法について解説に書いてありますので、ご参照ください。
1人ひとり適切な運動強度は違いますので、運動療法を行いたい方はぜひご相談ください。一般的な注意点としては下記になります。
まとめ ~まずは医療機関に受診を~
いかがでしたか?COPD(慢性閉塞性肺疾患)について、解説していきました。まとめると
- COPDは90%はタバコによる肺障害で、推定患者数500万人ともいわれる疾患であるが、その5%くらいしか治療されていない、まだまだ「未開拓」の疾患である。
- そのため、COPDは日本だけでなく世界でも死亡原因として多い疾患。
- 背景には、「今はタバコを吸っていない」「高齢による息切れだろう」と患者さんや医療従事者がCOPDによる息切れと自覚しないところも大きい。
- タバコを過去に吸っていた方や、副流煙を吸い込みやすい方などは、積極的にCOPDを疑い、治療介入を行っていく必要がある。
- COPDの治療には、薬物療法、禁煙や原因の回避、運動リハビリなどがあげられ、継続した治療が必要
といえます。なかなか自覚しないと治療介入が難しい「COPD」。過去にタバコを吸っていた方や、肺に障害をきたしやすい環境にいる方、もちろん現在喫煙中の方で、息切れが最近強くなってきた方は、呼吸器内科や当院にご相談ください。一人ひとりに合わせて適切にアドバイスさせていただきます。
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【この記事を書いた人】
一之江ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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