こんにちは、ひまわり医院です。インフルエンザやコロナを中心にさまざまな感染症が季節を問わず蔓延し、「咳止めが不足している」という状況もしばしば経験するようになりました。
そのため、咳止めの代わりに漢方薬を処方することも出てきています。
しかし、ご安心ください。西洋薬ほどピンポイントで咳止めに作用するわけではありませんが、漢方薬もきちんと合っていれば咳止めとして十分有効です。実際、どんな漢方薬が咳止めとして使われるのでしょうか。
さまざまな漢方薬の中から、今回急性の咳止めとして使いやすい漢方薬である「麦門冬湯」「麻杏甘石湯」「五虎湯」について紹介していきます。
動画でもわかりやすく解説していますので、あわせてご参照ください。
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咳止めに使われる漢方薬は効果がある?
なんとなく「漢方薬は体からジワジワ効いて即効性がない」と思われていませんか?確かに慢性疾患に対して漢方薬を使うときはそのように使うことも多いですが、咳やのどの痛みといった急性疾患にも漢方薬はある程度有効です。
2023年の中国の論文によると、急な咳症状に対して漢方薬を使用する医師は39.4%にもおよびます。漢方薬を選択した場合、症状を軽減させ、抗生剤を使用する可能性が軽減したとしていますね。
また、コロナ感染症や風邪症状にも元々漢方薬はよく日本でも使用されていました。日本感染症学会でも「COVID-19 感染症に対する漢方治療の考え方」として漢方薬の使用が提言されています。
私自身も症例にぴったりだと思った場合にも、のどの痛みや咳といった急性期症状にも漢方薬はしばしば使います。(ただ症例によっては抗生剤など適切な治療が必要であり、「すべての咳症状が漢方薬で治る」とは思っていません)
では、急性期の咳にはどんな漢方薬が使われるのか、咳止めの効果がどれくらい実証されているかも含めて、一緒に見ていきましょう。
咳止めで使う漢方薬①:麦門冬湯(ばくもんどうとう)
麦門冬湯は、体力中等度以下で、「たんが切れにくく、時に強くせきこみ、又は咽頭の乾燥感がある方の咳や咽頭炎」などに使う漢方薬です。急な咳症状で最も使われている漢方薬の1つですね。
生薬としては「麦門冬(バクモンドウ)」「粳米(コウベイ)」「大棗(タイソウ)」「半夏(ハンゲ)」「人参(ニンジン)」「甘草(カンゾウ)」からなり、それぞれの生薬の効能は次の通りです。
- 麦門冬:ユリ科のジャノヒゲというひげ根の一部。糖類・ステロイドサポニンなどが含まれます。気道・皮膚・粘膜を潤す作用があり、痰を切れやすくする効果があるとされています。
- 粳米:「うるち米」と言えばわかりやすいですね。実際にはうるち米の玄米です。胃腸を整え、元気をつけたり、喉の渇きを抑える効果があるとされています。
- 大棗:棗(ナツメ)を乾燥させたもの。筋肉の急な緊張をやわらげたり、神経過敏を沈める作用があるといわれています。
- 半夏:サトイモ科のカラスビシャクの球茎です。成分としてホモゲンチジン酸やエフェドリン・コリンなどが含まれ、吐き気を減らしたり唾液の分泌を促進したり、咳を抑える効果や腸管の動きをスムーズにする効果があるといわれています。
- 人参:「朝鮮人参」としておなじみですね。成分として人参サポニンとして「ジンセノシド」が含まれています。主に抗疲労、抗ストレス作用があるといわれ、神経を安定にさせる効果があるといわれています。
- 甘草:モンゴルや中国などに分布するマメ科の多年草。主な有効成分はグリチルリチンです。ステロイド様作用、抗炎症作用などがあるといわれています。
簡単にいうと、麦門冬湯は「気道の炎症を沈め、咳を誘発する神経をやわらげる作用や、体自体を元気にする作用が中心の漢方薬」ですね。痰切りの「ムコダイン」や「アレルギーを抑える飲み薬」を合わせて飲んでも問題ありません。
ただし、非常に咳でよく使われている漢方薬でありながら、その効果が大規模臨床研究で実証されているものではありません。例えば、
- 19名の長引く咳に対して麦門冬湯を2週間使用した結果、治療後4~5日で咳スコアが改善した(鎮咳薬は重症時に使用)
- 24名のマイコプラズマ肺炎に対して、アジスロマイシン投与後、麦門冬湯を内服したグループ7名については、他のグループよりも早く咳の症状が改善した
いうデータがありますが、いずれも小規模の臨床試験でありエビデンスレベルとしては弱いものですね。
そのため「自分の症状にぴったり合っている」という時に補助的に使うという使い方の方がよいでしょう。
(参照:マイコプラズマ感染症の咳嗽に対する麦門冬湯の有効性に関する検討. 漢方医学 2017; 41: 116-8. 医中誌 Web ID: 2017285714)
(参照:Antitussive effect of bakumondoto a fixed kampo medicine (six herbal components) for treatment of post-infectious prolonged cough: controlled clinical pilot study with 19 patients)
咳止めで使う漢方薬②:麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)
麻杏甘石湯は体力中等度以上で「せきが出て、ときにのどが渇くものの次の諸症:せき、小児ぜんそく、気管支ぜんそく、気管支炎、感冒、痔の痛み」に使われます。
生薬は非常にシンプルで「石膏(セッコウ)」「杏仁(キョウニン)」「麻黄(マオウ)」「甘草(カンゾウ)」の4種類だけですね。それぞれの生薬の効能は次の通りです。
- 石膏:石膏はデッサンでも使われるあの石膏です。鉱物の生薬というのは珍しいですよね。主成分は含水硫酸カルシウム。漢方では熱を下げ、口渇を止め、イライラ・ほてりをとる効能があるとされています。
- 杏仁:杏仁もあの「杏仁豆腐」でよく上に乗っかっているアンズのこと。有効成分はアミグダリンで身体に対してうるおいをつける働きが強く、乾いた咳やかたい痰にうるおいを付けて治す効果があるとされています。
- 麻黄:麻黄はよく葛根湯や麻黄湯に入っている風邪のひきはじめに使われやすい漢方薬。主成分はエフェドリンで神経興奮作用、気管支拡張作用、抗炎症作用、発汗作用などがあります。
- 甘草:モンゴルや中国などに分布するマメ科の多年草。主な有効成分はグリチルリチンです。ステロイド様作用、抗炎症作用などがあるといわれています。
なので、麦門冬湯に比べると「もともと体力がある人」用であり「より潤す作用が強く働きやすい」漢方薬であることがわかりますね。
小児ぜんそくにも適応が通っているので、よく子供に対しても使われます。ただし、麻黄が入っているので、循環器に病気のある人は注意が必要ですね。
麻杏甘石湯が使われた臨床試験としては、中国で行われたインフルエンザについての試験があります。
この試験では、11の病院でインフルエンザ陽性である410名の15歳~69歳に対して、何も内服しないグループ、タミフルを飲ませたグループ、タミフルと麻杏甘石湯+銀翹散を内服したグループ、麻杏甘石湯+銀翹散だけを内服したグループの4つのグループにランダムにわりつけて5日間投与しました。
すると、解熱までの期間が麻杏甘石湯+銀翹散だけでも解熱までの期間が47%(26時間から17時間)に短縮され、タミフルと合わせるとさらに15時間にまで短縮されたとしてます。
咳症状に対しては、同論文では吟味されていませんが、ある程度の効果が期待できそうですね。
咳止めで使う漢方薬③:五虎湯(ごことう)
麻杏甘石湯に非常によく似た漢方薬として「五虎湯」があります。五虎湯も体力中等度以上で、「せきが強くでるものの次の諸症:せき、気管支ぜんそく、気管支炎、小児ぜんそく、感冒、痔の痛み」に使われる薬です。
五虎湯の適応症はほとんど麻杏甘石湯と同じです。それもそのはず。五虎湯は麻杏甘石湯の構成生薬である「石膏(セッコウ)」「杏仁(キョウニン)」「麻黄(マオウ)」「甘草(カンゾウ)」に「桑白皮(ソウハクヒ)」という生薬を加えたものだからです。
上記4つは麻杏甘石湯と同じなので、追加生薬のみ効能を示すと
- 桑白皮:桑はかいこで有名な「クワ」のこと。このクワの皮をはいで天日乾燥させたものが「桑白皮」です。消炎、鎮痛、鎮咳および気管支拡張作用があるとされています。
なので、麻杏甘石湯と五虎湯はほとんど同じ生薬であり、使い方も同じ。そのため、あまり麻杏甘石湯と五虎湯を併用するということはあまりありません。効果が望めなければ、二陳湯をあわせて五虎二陳湯にするなど、違う作用のものを合わせることが一般的だからです。
五虎湯も小児ぜんそくの適応も持っているので、小児の咳にも使われる漢方薬ですね。麻黄が入っているので、循環器疾患を抱えている方は注意が必要です。
五虎湯はアレルギー疾患にも使われる薬であり、臨床試験でも比較されました。アレルギー性鼻炎(花粉症)の116名の方に対して、小青竜湯と五虎湯の効果を比較した試験では、五虎湯で70.8%m小青竜湯で80.5%がやや有用以上と答えています。
このように、五虎湯ではややアレルギーよりの咳にもある程度有用の可能性がありますね。
(参照:春季アレルギー性鼻炎 (花粉症) に対する小青竜湯と五虎湯の効果 両剤の効果の比較検討. Therapeutic Research 2001; 22: 2385-91. 医中誌 WebID: 2002138087)
咳止めの漢方薬についての注意点は?
咳止めの漢方薬を使用する際に重要な注意点があります。それは、咳がでる原因はきちんと診断をつけるべきであり、漫然と漢方薬だけを使用しないという点です。
もちろん、最終的に漢方だけで収まる例も経験するので、診断がついてから継続使用しているのは問題ないのですが、特に咳が漢方薬だけで収まっていない場合は原因を追究すべきです。
例えば、
- 呼吸器疾患でなくても咳として発症するさまざまな疾患
- 抗生剤を使わないとなかなか治らないマイコプラズマ肺炎や百日咳・結核
- 吸入器が必要な気管支喘息や慢性閉そく性肺疾患
など長引く咳の原因としては、いろいろなことを考えて診療にあたっています。咳は「体から異物を外に出すためのサイン」の一種。当然ですが、咳が出ているからには何かしら原因があるはずです。
自分で頑張って咳を治すには限界があります。あまりに咳がはげしく苦しい時、咳があまりに長引いている時は、我慢せずに医療機関に受診するようにしましょう。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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