あなたは健康診断で「クレアチニン」という指標を見たことはありませんか?クレアチニンは最も簡便でかつ、高い精度で腎機能を知ることができる大事な指標の1つ。
腎臓は肝臓などと同様に悪くなっていたとしても、症状はなかなか表に現れません。しかし、毎回クレアチニンを気にするだけで、自分の腎臓の状態を推し量ることができます。
では、どうしてクレアチニンを測定することで腎臓の機能を推定することができるのでしょうか?また、クレアチニンが高い場合、どんな原因が考えられるのでしょう?クレアチニンを下げて腎機能を回復させる方法はあるのでしょうか?
今回は、健康診断でよく測定される「クレアチニン」についてわかりやすく解説していきます。
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クレアチニンとは?
クレアチニンは、筋肉を動かすためのエネルギー源である「クレアチンリン酸」が代謝された後にできる老廃物のことです。
腎臓の主な役割は「重要なものは体内に再吸収して、不必要なものは外へ出して、体内の状態を一定に保つ」こと。
腎臓の「糸球体」という場所では、1日に150リットルもの尿がろ過されます(これを原尿といいます)。そのうち、実際の尿は1.5リットルほどなので、99%は体内に再吸収されます。腎臓は要らないものを「厳選」して排泄してくれてるんですね。
実は、筋肉で作られて老廃物として出される「クレアチニン」は筋肉量に依存してほとんど一定に作られ、尿から排泄されるクレアチニンは腎臓でろ過される血液の量に比例するという不思議な性質があります。
そのため「血液中のクレアチニンの数値が高い」イコール「腎臓でろ過される血液が少なくなって、尿からあまり排泄されていない」ということになり、クレアチニンが直接腎臓の機能を示すということがわかったというわけです。
クレアチニンやクレアチニンを利用した「クレアチニン・クリアランス(CCR)」「推定糸球体ろ過量(eGFR)」は、高精度に腎臓の機能を推定できる指標として、世界中で使われています。
(注:筋肉量が極端に少ない方では、クレアチニンで腎機能を正確に示さない事があります。その場合、シスタチンCという別の血液データを用いて腎機能を評価することがありますね)
クレアチニンの基準値は?
クレアチニンの基準値は、東京大学の保健・健康推進本部 保健センターの情報によると、健康診断では以下の通りとなっています。
男性のクレアチニン基準値:
- 正常値: 0.61〜1.04 mg/dL
- 軽度なし: 1.00以下 mg/dL
- 軽度腎障害: 1.01〜1.09 mg/dL
- 軽度腎機能低下: 1.10〜1.29 mg/dL
- 腎不全: 1.30以上 mg/dL
女性のクレアチニン基準値:
- 正常値: 0.47〜0.79 mg/dL
- 軽度なし: 0.70以下 mg/dL
- 軽度腎障害: 0.71〜0.79 mg/dL
- 軽度腎機能低下: 0.80〜0.99 mg/dL
- 腎不全: 1.00以上 mg/dL
クレアチニンそのもので評価する方が簡単ですが、臨床医としては実際クレアチニン直接ではなく、「eGFR(推定糸球体ろ過量)」や「CCR(クレアチニン・クリアランス)」を指標にすることが多いです。
これらは性別や年齢などを加味しているので、より正確に腎機能を評価することができるからですね。
「eGFR」については日本腎臓病学会の「腎機能測定ツール」でも公表しておりますので、参考にしてみるとよいでしょう。eGFRが60以下になったら、一度医療機関に受診するとよいですね。
(参照:東京大学 保健・健康推進本部 保健センター「クレアチニン」)
クレアチニンが高くなる原因は?
一般的に筋肉量の問題を除いて、腎臓の機能が悪いほどクレアチニンが高くなります。では、どうして腎臓の機能が悪くなってしまうのか。よくあるケースとしては次のようなものがあります。
① 慢性腎臓病(CKD)
一番よくあるのは、様々な生活習慣の乱れから動脈硬化を引き起こし、徐々に腎臓の機能が悪くなりクレアチニンが高くなる「慢性腎臓病」です。
具体的には慢性腎臓病は「尿蛋白異常や糸球体濾過量(GFR)が60未満になる場合は3か月以上続く場合」と定義されます。
高血圧や糖尿病、高尿酸血症、脂質異常症など、動脈硬化を引き起こす生活習慣病は数多く存在します。そして、動脈硬化の影響を受けやすいのが腎臓。腎臓にいく血液が少なくなることで、ゆっくり腎臓の機能が低下していく・・・これが慢性腎臓病です。
日本の慢性腎臓病は成人で8人に1人と言われており、非常に「よくある疾患」の1つとなります。
② 脱水
脱水もよくある腎機能低下の1つであり、クレアチニンがあがる原因の1つです。
脱水がクレアチニンの数値を上昇させる理由は、体内の水分量の減少によって血液が濃縮されるから。脱水状態になると、体内の水分が不足し、血液中の水分量が減少します。すると、腎臓にいく血液量も減少します。
腎機能は腎臓にいく血液に非常に影響を受けやすい臓器です。脱水により腎臓でのろ過機能が影響を受け、クレアチニンを効率的に排出することが難しくなります。
そのため、脱水は血液の体積減少と腎機能への影響を通じて、クレアチニンの数値を上昇させる原因の1つとなります。
③ ネフローゼ症候群
腎臓の糸球体で炎症が起こり、大量の尿蛋白が漏れ出る状態をネフローゼ症候群といいます。
原因は多岐にわたりますが、上気道感染後に起こる急性糸球体腎炎やIgA腎症をはじめとした慢性糸球体腎炎、膠原病や血管炎などもこれに加わります。
蛋白尿が中心なため、初期はクレアチニンは上昇しませんが、腎臓の炎症が続くことでクレアチニンが上昇していきます。
他にも、薬物の影響や腎盂腎炎などの腎臓の感染症、腎がんなどの悪性腫瘍などによりクレアチニンが上昇することがあります。いずれにせよ
- 大幅にクレアチニンが上昇した場合
- 継続的にクレアチニンが上昇している場合
- 蛋白尿などの腎臓に関する他の指標も悪くなっている場合
などは、医師に相談していただき、場合によっては腎臓内科などの専門外来の受診が望ましいでしょう。
(参照:National Library of Mediciine「Creatinine Clearance」)
クレアチニンを下げる方法は?
では、クレアチニンを下げるにはどうすればよいのでしょうか?
実は前提として、一度低下した腎機能を元通りにすることはできません。したがって急激にクレアチニンを下げる方法は現時点ではありません。そのため、「いかにこれ以上腎臓病を進行させないか」が大切になってきます。
そのために、まずは次を意識してみるとよいでしょう。
① 食事を意識してみる
腎臓は動脈硬化や生活習慣病と非常に密接な関係があるので、食事はもっとも気を付けた方がよいポイントになります。例えば
- 塩分を控える
- タンパク質の調節を適宜行う
- 心臓によい食べ物を食べる
- アルカリ性食品(野菜や果物の摂取など)を積極的にとる
- 進行したらカリウムの調節が必要
- 進行したらリンの制限も考える
- 朝のコーヒーを習慣にしてみる
などは重要ですね。まずは「塩分を控える」ことから始めてみましょう。目標は「1日6グラム未満」となります。
詳しくは【医師が解説】腎臓にいい食べ物と悪い食べ物についても参照してみてください。
② 運動は腎臓にも大切
「運動と腎臓は関係ない」と思われがちですが、運動は心肺機能を高め、血流をよくし、最大酸素摂取量も増加するため、腎臓にも有用であるという報告がかず多くあります。
特に、有酸素運動トレーニングやレジスタンストレーニング、またはそれらを組み合わせたトレーニングを6か月以上続けて行うことで、糸球体ろ過の改善と腎機能低下を防止する作用が報告されています。
もちろん無理のない範囲で行うことは大切ですが、クレアチニンが上昇してきている方は、食事だけでなく運動も意識してみるとよいでしょう。
(参照:Effects of Different Types of Exercise on Kidney Diseases)
③ 薬物療法も検討する
現在ではさまざまな薬が腎臓保護目的や腎機能低下に伴う合併症を予防する目的で使われます。例えば次の通りです。
- RAS系阻害薬(ACE/ARB): 血圧を下げる薬の一種で、腎臓の糸球体への圧力を低減して腎臓を保護します。
- SGLT-2阻害薬: 糖尿病の治療薬で、尿から糖分を排出して血糖値をコントロールすることで、心臓と腎臓を保護する効果があります。
- ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬: 血圧を下げる薬であり、腎臓を保護する効果があります。
- 貧血の治療薬: 腎臓病で貧血が生じることがあり、ESA製剤やHIF-PH阻害薬などの造血剤が用いられます。
- カリウムのコントロール: 腎機能の低下によって血中のカリウムが増加するため、カリウムの吸収を抑える薬が使用されますることがあります。
- ビタミンD製剤: 腎臓病によるビタミンD不足を補うため、ビタミンD製剤が処方されることがあります。
- リン吸着薬: 腎臓の機能低下によりリンが体内に蓄積するため、リンを腸で吸収しないようにする薬が使用されます。
- 重曹: 腎臓が機能低下すると体が酸性に傾くため、重曹というアルカリ剤が使用されることがあります。
腎臓を守るために、非常に多くの薬が使われていることがわかりますね。
生活習慣で頑張るには限界があります。また、膠原病などの基礎疾患によっては免疫抑制剤などまったく違う治療が必要になることもあります。
そのため、腎機能の低下が進行してきたら素直に医療機関に受診することが大切です。当院でも慢性腎臓病の治療も行いながらも、精査が必要な場合には適宜、腎臓内科専門施設に紹介するようにしています。
「自分でなんとかしよう」と頑張りすぎないで、ぜひ当院やお近くの内科に相談してくださいね。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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