日本で約4300万人ともいわれている高血圧。そのうち3100万人が「管理不良」とされています。実際、みなさんの中にも健康診断をはじめとした色んな場面で高血圧であることを自覚しているのにも関わらず、高血圧の治療をしていない人はたくさんいるのではないでしょうか。
しかし、高血圧が様々な病気のリスクであることは間違いありません。事実、日本における高血圧を原因とした脳卒中・心臓病による死亡者数は年間10万人に及ぶと推定され、脳心血管病死亡の約50%が高血圧によるものとされているのです。
ではなぜ多くの高血圧の方が「管理不良」なのでしょうか。色んな理由があると思いますが、1つは「高血圧の薬」による様々な疑問でしょう。
- 高血圧の薬をいつから飲めばよいかわからない。
- 高血圧の薬を飲まないですむ方法はあるのか?
- 高血圧の薬を一度始めたら一生飲まないといけないのではないか。
今回は、そんな高血圧の薬についての疑問にお答えするために、まず高血圧の薬を始める基準や止める基準についてわかりやすく解説していきます。
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高血圧の薬はいつから始める?
「高血圧と医療機関で受診されたら、ただちに全員が高血圧の薬を飲まされるのではないか」と思われがちですが、そうではありません。高血圧治療ガイドラインによると、 高血圧の薬を飲む基準は以下のように言われています。(もちろん高血圧の多くは生活習慣に伴うことが多い「本態性高血圧」に当たるので、生活習慣の修正は必須です)
① 血圧が140/90mmHg以上(I度高血圧以上)で高リスクの場合
診察時の血圧が140/90mmHg以上、家庭での血圧が135/85mmHgで、将来心臓病や脳卒中のリスクが高いと判断される方はただちに高血圧の薬での治療をはじめます。では、どういう人が高リスクかというと、例えば以下の方です。
- 脳卒中・心臓病の既往がある方
- 非弁膜症性心房細動がある方
- 糖尿病がある方
- 蛋白尿がある慢性腎臓病を持っている方
また、以下のリスクのうち3つ以上がある方も「高リスク」とされます。(1個~2個あてはまる方は中等度のリスクがある方です)
- 年齢が65歳以上の方
- 男性の方
- 脂質異常症の方
- 喫煙されている方
つまり、高齢の喫煙されている男性はそれだけで「高リスク」ということになりますね。慢性腎臓病があるかは健康診断の「eGFR」という値を見てみましょう。eGFRが60未満の方は一般的にGrade 3aという慢性腎臓病といわれることが多いです。
このような、血管へのリスクが高い方は140/90mmHg以上、家庭での血圧が135/85mmHgであれば田立に治療した方が、その後の健康リスクが減らせるとされています。
② 血圧が140/90mmHg以上(I度高血圧以上)、低・中等度のリスクでも生活習慣で改善しない場合
140/90mmHg以上でも低リスク・中等度リスクの方はただちに高血圧の薬を処方するということはしません。ただし、血圧を記録してもらいながら、生活習慣の改善に努めてもらいます。
例えば、減量するだけでも一般的に1kgやせるごとに収縮期血圧で1.1mmHg、拡張期血圧で0.9mmHg減らせるとされていますし、運動すれば収縮期血圧で2~5mmHg、拡張期血圧で1~4mmHg減らせるとされています。アルコールを制限すれば、収縮期血圧が3mmHg、拡張期血圧で2mmHg少なくなるとされていますね。
「ちりも積もれば山となる」で、組み合わせることでかなり血圧が下がることがわかるでしょう。しかし、生活習慣をどう見直しても下がらない場合は、薬による補助が必要なので、降圧薬を使用することが多いです。
ガイドラインではおおむね生活習慣の指導をして1カ月くらいで再評価しましょうとされています。
③ 血圧が130/80mmHg以上(高値血圧)、高リスクの方で生活習慣で改善しない場合
130/80mmHg以上でも血管のリスクが高い場合、生活習慣で改善しなければ高血圧の薬を投薬した方がよいとされています。
「え?130/80mmHgなんて、そもそも高血圧ですらないのでは?」という方もいらっしゃるでしょう。半分その通りで、確かにI度高血圧には該当しません。しかし、最近の研究で「120/80mmHgを超えている時点で血圧による心臓リスクの影響が出はじめる」ことがわかってきているのです。
例えば、日本で行われた「EPOCH-JAPAN」という試験では、約7万4千人の方に対して血圧と心筋梗塞や狭心症との関連を15年間に及び調べていますが、コレステロールが正常の場合でも収縮期血圧が120mmHg未満の人の心臓病のリスクを1とすると、収縮期血圧が120-139mmHgでは1.5倍、140-159mmHgでは1.8倍、160mmHg以上では2倍へと上がっていくことがわかっています。
コレステロールが非常に高い人では、収縮期血圧が120-139mmHgの方は2倍、140-159mmHgでは2.8倍、160mmHgではなんと4.4倍となっており、血管リスクが高リスクの方では120-139mmHgの方でも血圧の影響が強いのです。
そのため、もともと糖尿病の方やコレステロールが高い方などの血管リスクが高い方は普段から血圧を測る習慣をつけていただきたいですね。
④ 高血圧緊急症・切迫症の場合
高度に血圧が上昇している場合(多くは180/120mmHg以上)で臓器障害がない「高血圧切迫症」だったり、急性の臓器障害が伴う「高血圧緊急症」の場合は、ただちに医療機関に受診して薬による加療が必要になります。
例えば、高血圧性脳症だったり、脳出血や脳梗塞だったり、悪性高血圧だったり、大動脈がさける「大動脈解離」だったり病態は様々ですね。いずれにせよ、クリニックでは対応できない疾患であることも多く、緊急・入院処置が行える大きい循環器専門医のいる病院を紹介することもあります。
⑤ 二次性高血圧の場合
また、高血圧にも生活習慣や加齢性変化だったりする「本態性高血圧」と内分泌や内臓疾患に伴う「二次性高血圧」があります。90%以上は本態性高血圧ですが、二次性高血圧の場合それぞれの病態にあった治療を行うことが必要です。例えば、二次性高血圧には以下のようなものがあります。
- ホルモンの異常による高血圧
- 原発性アルドステロン症
- クッシング症候群
- 甲状腺機能低下症
- 甲状腺機能亢進症
- 褐色細胞腫
- 腎臓と関連した高血圧
- 腎血管性高血圧
- 腎実質性高血圧
- その他の二次性高血圧
- 睡眠時無呼吸症候群
- 薬剤誘発性高血圧
- 大動脈狭窄症
- 脳幹部血管圧迫
したがって、当院でも高血圧で来院された場合は、二次性高血圧のことも念頭に行いながら検査・投薬を考えております。逆に、高血圧で放置されている方も二次性高血圧のこともあるので、その意味で医療機関に一度受診した方がよいでしょう。(特に非常に血圧が高い場合)
(参照:日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン: 2020」)
高血圧の薬をやめるタイミングは?
「高血圧の薬は一生飲み続けなければいけないから嫌」と思う方もいますが、実際はそうではありません。当院でも「一度高血圧の薬をやめてみましょう」という場合もよく経験します。
では、高血圧の薬をやめるタイミングはどういった場合なのでしょう。主に2つの場合が考えられます。
① 投薬治療なしでも目標血圧に到達すると考えられる時
高血圧ガイドラインによると、年齢別・病態別の降圧目標を以下のように定めています。
- 75歳未満:診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満
- ただし、脳血管障害や尿たんぱく陰性の慢性腎臓病の方は診察室血圧140/90mmHg、家庭血圧135/85mmHg未満
- 75歳以上:診察室血圧140/90mmHg未満、家庭血圧135/85mmHg未満
- ただし、脳血管障害、冠動脈疾患、尿たんぱく陽性の慢性腎臓病、糖尿病、抗血栓薬内服中の方は診察室血圧130/80mmHg、家庭血圧125/75mmHg未満
当然ですが、ライフスタイルや生活習慣が変われば体質も変わってきます。さきほどいったように生活習慣の改善によって大きく血圧が低下することもあるでしょう。私の患者さんで職場のストレスで血圧が上昇していて、職場を変えた瞬間に普段の血圧が10mmHgくらい変わった場合もありますし、睡眠不足が解消されたら血圧が下がったケースもあります。
薬以外の場合でも血圧が下がることは大いにあり得るのです。
もちろん無用な高血圧は立ち眩みやめまいなどの症状をきたしたり、副作用によるむくみなどが出ることもあります。したがって徐々に薬は減らしていきますし、やめてしまうこともよくありますね。
② 血管のリスク因子が減った場合
前述の通り、高血圧の薬を開始するかどうかは実は「心筋梗塞や脳卒中になりやすいリスク」によってもかなり変わってきます。例えば、脂質異常症があると「中等度のリスク」ということになりますし、糖尿病があったり、蛋白尿がある腎機能障害があると「高リスク」ということになります。
裏を返せば、日々の生活習慣や投薬治療などによって糖尿病や脂質異常症が改善されれば、血圧の開始基準そのものも変わってきますよね。
あくまで高血圧は高血圧緊急症の状態を除けば、将来、心筋梗塞や脳卒中などを予防するためのいわば「未病」ともいえる状態です。将来の健康を守るためだからこそ、薬の治療を続けることも大切ですが、生活習慣で薬をやめられるように普段の生活を日々見直すことも大切ですね。
当院では、一人ひとりに合わせて生活習慣についてのアドバイスも行っております。ぜひ健康についてご心配なことがありましたら、ぜひご相談ください。
(参照:日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン: 2020」)
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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