切り傷の応急処置や血がとまらない時の対処法、早く治す方法について【ワセリン】

日常生活で思わぬケガをすることもありますよね。特によくあるのが、包丁、スライサー、ピーラーやカミソリで切った「切り傷」。

切り傷は初期治療が大切。「大丈夫だろう」と放置しておくと、意外と血が止まらなかったり、傷の治りが悪く痛みが長引いたりなど、後遺症が残る可能性があります。

正しい切り傷に対する応急処置を知っておくことはとても大切です。

ここでは、切り傷を早く治すための応急処置や血が止まらないときの対処法、病院を受診する目安などを含めて解説していきます。

やけどや擦り傷などについては、下記を参照してください。

切り傷の応急処置は?

切り傷とは、包丁やナイフ・ガラスなどで切った直線的な傷のこと。さまざまなシチュエーションや方向で生じるので、多種多様な切り傷ができます。まずは傷口の種類によらない応急処置方法を教えます。

① よく傷口を洗い流し、異物を取り除く

汚染された状態で切り傷ができた場合、まずは慌てず流水で洗浄しましょう。消毒や軟膏を塗るよりも流水で洗い流すほうが、大きい異物も取れますし効果的です。

流水は滅菌された水は必要なく水道水で十分です。実際、傷口を洗う際に滅菌された水を使っても水道水でも感染予防効果に差がなかったとする報告もあります。

もし出血がひどい場合には止血から行い、その後流水で優しく洗い流すようにしましょう。

② 止血する

出血している場合、止血を行います。応急処置で最も効果的な止血方法は直接圧迫止血です。清潔なガーゼやハンカチ・シーツ等を直接傷口に当てて手のひらや指先で圧迫して止血しましょう。

落ち着いて、じっと圧迫すれば多くの場合止血されますから慌てないで。後述する「切り傷で血が止まらない時は?」も参考にしてください。それでも出血がとまらない場合は、早めに病院に受診する

なお、出血している部分ではなく、出血している上流の部分をおさえることで止血する間接圧迫止血もあります。しかし、間違った手技で行うと、かえって出血を助長させ時間のロスにつながります。

特に、一番カン違いしてしまうのが「輪ゴムで指の根本を圧迫する」などの方法です。多くの場合、血が心臓にかえる「静脈」だけふさぎ、肝心の動脈を圧迫できずにかえって傷口を悪化させてしまうケースが見られます。絶対に行わないようにしましょう。

③ 傷口を保護する

最後に傷口を保護します。切り傷では、皮膚が本来持つバリア機能が一部破綻してしまっています。そこから菌が容易に入りやすくなっている状態なので、皮膚の代わりを作り保護してあげるのがとても重要なのです。特に「えぐれたような傷」の場合は傷口の保護が最重要といっても過言ではありません。

安全な方法としては白色ワセリンや抗生剤の軟膏などで傷口を覆い、その後ラップや創傷被覆材(ガーゼやフィルムなど)で覆う方法です。

ステロイド軟膏のみの外用は傷口に対して逆効果なので行わないようにしましょう。(安易に使うと免疫を抑えてしまうので、特に汚染された傷口では悪化してしまいます。ステロイド軟膏は取り扱いに注意が必要です)

脱脂綿やティッシュは繊維が傷口に入ってしまうので保護には適していません。明らかに感染の可能性もなく、病院に受診するほどでもない浅い傷をのぞき、病院に受診するようにしましょう。病院に受診する具体的な目安は後述いたします。

(参照:Tap water for irrigation of lacerations.
(参照:Simple Effective Ways to Care for Skin Wounds and Incisions

切り傷で血が止まらない時は?

では切り傷の止血の段階で血が止まらない時はどうすればよいでしょうか。以下の3つを試してみるとよいでしょう。

① 傷口を「点」でおさえるように意識する

傷口は自分自身がもつ「血小板」や「凝固因子」などが働き「のり」のように接着することで止血されます。ボンドやアロンアルファで物をくっつけた経験がある人はわかると思いますが、しっかり適切に圧力をかけると接着されやすいですよね。(傷口にアロンアルファで止血するのは、傷の内部に異物を混入させる原因になるので行ってはいけません

しかし、傷口になると傷口自体を怖がるあまり「なんとなくここら辺かな」と抑える人が少なくありません。それでは傷口はふさがりません。

適切な圧力でしっかり傷口をピンポイントで抑えるようにしましょう。

② 心臓よりも高い位置でおさえる

浅い傷の場合、出血はたいてい「静脈」から出血します。そして静脈の圧力(静脈圧)が高ければ出血は止めにくくなります。逆に静脈圧を下げれば出血は止まりやすくなります。

静脈圧をもっとも手軽に下げるのが、「心臓よりも高い位置でおさえる」ことです。心臓より高くすると、重力に逆らうことになり、その分静脈圧を下げやすくなります。

そのため、手台や机を使いながら楽な姿勢で手を上にあげられる環境を作り、なるべく心臓よりも高い位置でピンポイントで傷口をおさえるようにしましょう。

③ おさえる間は動かさない

最後に大事なことは「おさえる間はじっと動かないこと」です。ボンドなどで物をくっつける時、よく動いてしまいなかなかくっつかなかった経験をしたことはありませんか?

これは人間の傷でも同じです。動かすと、せっかく「のり」の役目を果たしていた血小板や凝固因子がはがれてしまい、再度出血させやすいのです。正常な方でも「血小板」と「凝固因子」が働き自然と固まるのには、2分~6分は必要とされています。血液を固まりにくくする薬を飲んでいる方は、血が固まるのにもっと時間がかかります。

ついつい傷口を見たいと思って動かしがちですが、ここはじっと我慢。10分くらいを目安におさえるとよいですね。傷口から手を放すときもゆっくり優しく放すようにしましょう。

切り傷にワセリンは有効?

切り傷にワセリンは有効であり、多くの論文で「傷口の応急処置にワセリンを塗ること」が推奨されています。

2019年の切り傷の応急処置に関する論文でも、「清潔なシャワーや清潔な水で傷口を洗い流した後、ガーゼに清潔なバターナイフでワセリンを塗って保護する」方法が紹介されていますね。

切り傷を含めた生傷の第一原則は「組織を乾燥させて壊死させないこと」。角質層の内部は乾燥で非常に痛みやすいのが特徴。そして切り傷で表面のバリアが崩れると乾燥が進みやすくなります。

そのため、ワセリンは傷口の表面に油膜を張ることで乾燥を防ぎ湿潤環境を整えるほか、菌を内部に入れない役割もありますね。

しかし、ワセリンはあくまで「傷ついた皮膚の一時的な代用品」にすぎません。どんな傷もワセリンを塗ればよくなるわけではないので、注意が必要です。

(参照:Simple Effective Ways to Care for Skin Wounds and Incisions

切り傷で病院に受診する目安は?

では、切り傷はどれくらいで病院に受診すべきでしょうか。結論から言うと病院に受診する基準は「汚染され感染している傷の場合」「傷が深い場合」「異物の混入が考えられる場合」「傷がなかなか治らない場合」になります。

① 汚染されている傷・感染している場合

  • 痛みが強い
  • 傷口が熱をもって腫れている
  • 汚染された状況で傷ができた

こうした場合は、傷口が感染している可能性があります。抗生剤の内服や外用が必要なケースがほとんどなので、なるべく早く病院に受診してください。

特に汚染されている場合は、抗生剤加療に加えて破傷風トキソイドの接種が必要なことも。詳しくは怪我で破傷風ワクチン(トキソイド)を打つ場合は?効果や保険適応・投与間隔についても解説も参考にしてください。

② 傷口が深い場合

傷口が深い場合や、汚染されていなくても縫合処置をすることで傷口が早く治る可能性が高くなります。包丁で指をきったなど、縫合閉鎖が必要な場合には「皮膚科」「外科」「形成外科」を標榜しているクリニック・病院に受診するようにしましょう

特に、きれいな切り傷の場合、受傷から6時間以内に洗浄、縫合すると、創部の感染を引き起こさず傷あとがきれいに治りやすいとされています。そのため、感染されていない傷でも早めの受診が大切です。

また、神経や腱(けん)・関節・内臓を損傷していると思われる場合は、クリニックでは対処できないことも多いので、画像診断ができる病院をオススメします。もちろん当ひまわり医院でも傷口を見極めて、場合により紹介させていただきます。

③ 異物の混入が考えられる場合

特にガラスでの切創の場合「一見異物が入ってないように見えて、実はガラスが入っていてなかなか治らない」ということをよく経験します。念入りに洗浄する必要があり、詳しく拡大鏡も用いながら取り除いていく必要があるので、病院に受診したほうがよいでしょう。

もちろん異物の混入が考えられる傷は汚染されていることも多く、その点からも病院に受診したほうが無難です。

④ 傷がなかなか治らない場合

通常、傷は修復過程に問題がない場合、1週間から最長2週間くらいで通常の皮膚になります。1週間で治ることがほとんどで、1週間たっても治らないのは何か修復過程に原因があるはずです。

  • 様子見てたけど、かえってジクジクしてきた
  • 傷口がだんだん白く汚い感じになってきている

こうした場合は、例えば死んでいる組織が蓋をして傷口の再生を邪魔していることもあります。適切な処置が必要なので、一度病院に受診するようにしましょう。

切り傷を早く治す方法やふさがる時間は?

切り傷を早く治すには、とにかく初期治療・初期対応が非常に重要です。特に

  • 傷口の出血を早く止めること
  • 傷口の感染を防止すること
  • 傷口が再生する環境を整えてあげること

が大切ですね。環境を整えてあげるために「縫合処置」や「汚染された部分を取り除く処置」などが必要になってきます。創傷被覆材も適切に使うなら有効です。(逆に適切に使わずにかえって悪化してしまうケースもたびたび経験します)

前述したとおり、傷の修復過程に問題がない場合、健康な方で軽い切り傷でしたら、1週間~最長2週間くらいでふさがります。しかし、深い傷の場合は6~8週間かかるケースもあります。もしなかなか切り傷が治らない方、切り傷に関して心配な方は早めに「皮膚科」「外科」「形成外科」に受診するようにしましょう。

(参照:形成外科診療ガイドライン

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【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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