- 突然チクっとした痛みが胸にある
- 寒い所にいくと顔がピリピリ痛むことがある
- 帯状疱疹にかかった後からの痛みがなかなか治らない
このような方は「神経障害性疼痛」かもしれません。一之江駅前ひまわり医院では「神経障害性疼痛」についても患者さんのニーズに合わせて治療を提案しています。
神経痛・神経障害性疼痛とは?
神経障害性疼痛とは「神経が障害され過敏になることで、痛みの信号が出すぎてしまう状態」のことです。そもそも痛みは全部で3種類あります。
- 侵害受容性疼痛
- 神経障害性疼痛
- 心因性疼痛
よくケガしたときに痛みを感じますよね。これは侵害受容性疼痛といって、体の正常な反応です。
炎症が起こった時に「体に異常なことが起こっている」サインとして痛みの形で脳に伝えます。そのため「痛み」は本来、人間を外の脅威から身を守る「危険信号」として大切な役目を担っています。
それに対して、神経障害性疼痛では「痛み」と感じる必要がない状態でも、神経が過敏に反応して脳に「異常」を知らせます。この場合、体に炎症が起こっているわけではないのですが、「痛み」のサインだけ間違って出してしまっています。そのため「炎症を抑える薬」を抑えてもなかなか効果がありません。
少し似た概念ですが「心理社会的疼痛」というのもあります。(慢性疼痛治療ガイドラインの記載に準拠)これは、心理的要因や社会的要因が絡み合った結果、「痛み」として出てくるものです。この場合、痛みをさまざまな角度からアプローチして治療する必要があります。
神経障害性疼痛(神経の痛み)は悩んでいる方はどれくらい?
5000人を対象に行われた臨床試験では、神経障害性疼痛を持っている方は10.6%もいると報告されています。10人1人持っていると考えると、意外と身近な疾患といえまますね。特に
- 女性の方
- 60歳以上の方
に多いという結果になっています。さらに同研究では、神経障害性疼痛は痛みの強さ」「持続時間」ともに他の慢性疼痛よりも高い傾向にありました。
痛みによる生活の質の低下を考えると、早急に治療されるべき疾患と言えるでしょう。
神経障害性疼痛(神経の痛み)の症状は?

日本で開発された「神経障害性疼痛スクリーニング質問票」では、以下の7項目の質問に対して5段階評価で回答するものです。(全くない0点~非常に強くある:4点)
- 針で支えるような痛みがありますか?
- 電気が走るような痛みがありますか?
- 焼けるようなヒリヒリする痛みがありますか?
- しびれの強い痛みがありますか?
- 衣類が擦れたり、冷風に当たったりするだけで痛みが走りますか?
- 痛みの部位の感覚が低下していたり、過敏になっていたりしますか?
- 痛みの部位の皮膚がむくんだり、赤や赤紫に変色したりしますか?
0点~28点中、9点以上で神経障害性疼痛の可能性が高くなります。(詳細はこちら)「自分は神経障害性疼痛なのかしら」と気になる方は、ぜひスクリーニングしていただくとよいでしょう。他には以下も神経障害性疼痛の症状の特徴になります。
- 何もしていないのに痛くなる
- 突然痛くなったりうずいたりする
- 痛みを感じる部位を動かしにくいこともある
痛みにより、不安やうつ・不眠・イライラが出てしまうのも、神経障害性疼痛の合併症になります。
神経障害性疼痛(神経の痛み)の原因は?
前述の通り、神経が勝手に興奮して痛みを感じるのが神経障害性疼痛ですが、その原因はさまざま。主に以下の病気が基礎疾患の原因としてあげられます。
- 糖尿病: 神経への血流が悪くなり、神経が傷ついてしまいます
- アルコールの飲みすぎ: 神経の栄養状態が悪くなります
- ビタミン不足: 神経の機能を保てなくなります
- 甲状腺機能低下: ホルモンが減少すると神経に栄養が行き届きません
- 感染症:帯状疱疹ウイルス・HIVウイルス・梅毒など
- 自己免疫疾患: ギランバレー症候群・シェーグレン症候群など
当院では神経障害性疼痛の原因を問診や血液検査などで、基礎疾患を検索するようにしています。
また、以下の状態の場合、障害された部位だけ神経障害性疼痛が部分的に出ることがあります。
- 坐骨神経痛:坐骨神経の出口が狭く、神経が直接圧迫されます
- 頚椎症性神経根症: 首の神経の出口が直接圧迫されます
- 外傷: 神経が直接圧迫されたり傷ついたりすることで痛みを生じます
- 腫瘍: 腫瘍が直接神経を圧迫したり、神経自体に腫瘍ができたりします
これらの場合は、MRIなどの画像検査が必要になるので、連携している整形外科に紹介させていただきます。
神経障害性疼痛で特に多いものとして「帯状疱疹」があげられます。帯状疱疹や帯状疱疹ワクチンについては、帯状疱疹や帯状疱疹ワクチン【弱毒水痘ワクチン・シングリックス®】についてを参照してください。
神経障害性疼痛(神経の痛み)に対する薬は?

神経障害性疼痛に使われる薬は非常に多岐にわたりますが、代表的な薬は以下の通りです。
① プレガバリン(リリカ®)
プレガバリンは、神経同士の伝達物質であるカルシウムイオンの量を減らすことで、神経の興奮を抑えて鎮痛作用を発揮する薬です。日本ペインクリニックの神経障害性疼痛ガイドラインでは第1選択薬の1つにあげられている薬です。
帯状疱疹後の神経痛の方にプレガバリン300mgを13週間投与した結果、疼痛スコアが有意に減少したというデータがあります。(詳細はこちら)糖尿病の方の末梢神経のしびれにも効果的です。
主な副反応としては、不眠・めまい・頭痛などがみられることがあるため、徐々に投与量を増やしながら見ていく必要があります。減量の場合も同様です。
② ミロガバリン(タリージェ®)
ミロガバリンもプレガバリン同様、神経でのカルシウムイオンの流入を抑えることで、鎮痛作用を発揮する薬です。2019年に販売が承認されまた比較的新しい薬です。
帯状疱疹後の神経痛の方に同様に13週間投与した結果、痛みの程度が改善した臨床試験があります。(詳細はこちら)プレガバリン同様、糖尿病の末梢のしびれにも効果があります。
副反応もプレガバリン同様、眠気やめまい・むくみなどがあるので、徐々に量を増やしながら反応を見る必要があります。減量の場合も同様です。
③ 三環系抗うつ薬(トリプタノール®など)
三環系抗うつ薬は、脳の神経伝達物質である「セロトニン」「ノルアドレナリン」を神経に再度回収するのを防ぐ薬です。量が多くなった神経伝達物質は「下行性疼痛抑制系」(痛みに関わる末梢側にいく神経のこと)の機能を高めて、痛みの伝達を遅らせます。
こちらの薬も神経障害性疼痛の方に投与すると、8週前後で改善が認められた(詳細はこちら)ため、 神経障害性疼痛ガイドラインでは第1選択薬の1つにあげられています。
ただし閉塞隅角緑内障の方・心筋梗塞回復初期の方・前立腺肥大のある方は投与できない他、
多くの併用注意薬がある点・循環器系や精神神経系に副作用がでる可能性があるため、低用量から開始し、慎重につかわれるべき薬です。
④ セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(サインバルタ®など)
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬も、三環系抗うつ薬同様、 「下行性疼痛抑制系」 を活性化させて痛みの伝達を遅らせる薬です。こちらも 神経障害性疼痛ガイドラインでは第1選択薬の1つにあげられています。
こちらも糖尿病性の神経障害を中心に、神経根症を伴う腰痛症などにも効果を発揮します。(詳細はこちら)
副反応に吐き気や眠気などがあるため、徐々に増量する必要がありますが三環系抗うつ薬 よりも軽度になっています。ただし、高度の肝機能障害や腎機能障害がある方・コントロール不良の閉塞隅角緑内障の方は使用できないので注意してください。
⑤ ノイロトロピン®
ノイロトロピン®は「ワクシニアウイルス接種家兔炎症皮膚抽出液」が一般名称です。文字通り兔の皮膚から抽出したエキスを用います。
特に帯状疱疹後の神経痛に対して日本で臨床試験が行われ、鎮痛効果が示されている薬です。(詳細はこちら)
作用機序は分かっていない部分も多いですが、20年以上の臨床使用の歴史を持ち、安全性が高いことが特徴です。副反応に、発疹・肝機能障害などがあります。
⑥ オピオイド鎮痛薬(トラマール®)
トラマール®は、オピオイドとよばれる系統でがんの痛みを抑える特殊な薬ですが、神経障害性疼痛としても第2選択薬として用いられます。がんに用いられる特殊な薬で、精神依存は少ないですが、長期使用には注意が必要とされています。(添付文書はこちら)
副反応に吐き気や便秘・嘔吐があるので、短期的に使用してみて効果を確かめながら使用します。
また、神経の修復を助ける薬やビタミンを使用したり、漢方薬(牛車腎気丸・抑肝散・桂枝加苓朮附湯など)を使用することもありますが、当院では患者さんの「証」や状態を見て判断しています。
神経障害性疼痛(神経の痛み)の他の治療法は?

神経障害性疼痛の薬物以外の治療方法として、下記が考慮されます。(その場合、専門施設に適宜紹介させていただきます)
- 神経ブロック: 痛みで傷ついた神経の周辺に麻酔薬を注射することで、痛みをなくす方法です。すべての神経に行えるわけではありませんが、神経に直接麻酔するため1-2時間程度で痛みは消失します。持続時間は、1日できれてしまう人もいればそのまま痛みが改善する人もおり、人それぞれです。
- 理学療法・作業療法: 痛みによって、活動が制限されている場合に、効果的なことがあります。痛みに応じたストレッチやエクササイズプログラムを行うことで、痛みの軽減や、痛みに対する恐怖を取り除くことができます。
- 手術:脊髄硬膜外電気刺激療法・後根切断術・脊髄交連切断術など様々な治療法がありますが、これまでの治療でどうしても改善せず、手術の適応となる病気については、手術が選択されることもあります。
神経障害性疼痛についてのまとめ
神経障害性疼痛(神経障害性疼痛)の症状や原因・治療法について解説してきました。
神経障害性疼痛は治療も時間がかかり、痛みや違和感がずっと続くのでかなり辛い思いをする疾患ですよね。当院では患者さんの生活状況をお聞きしながら、薬物療法を中心にケアをさせていただきます。
時間はかかりますが、一緒に寄り添って診療させていただきますので、ぜひご相談ください。
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【この記事を書いた人】
この記事は、当院院長の伊藤大介と麻酔科医師と共同で作成しました。プロフィールはこちらを参照してください。
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