サル痘(さるとう)の原因や感染経路・症状・死亡率について解説

こんにちは、一之江駅前ひまわり医院の伊藤大介です。

2022年5月から風土病でない国から報告されており、今世界中で拡大がみられる「サル痘」(さるとう)。WHOでも世界中で拡大傾向が認められたことから、7月6日に緊急事態宣言が出されました。。

さらに、7月25日から日本でもサル痘の感染者が認められ、今後の感染拡大が懸念されるところです。

そんな「サル痘」とはどんな疾患なのでしょうか。サル痘の原因や感染経路・症状・死亡率(致死率)や治療法に至るまで幅広く解説していきます。

サル痘(さるとう)とは?サル痘の原因は?

サル痘の電子顕微鏡写真

サル痘は「サル痘ウイルスによる人獣共通感染症(ヒトと脊椎動物の間を自然に感染しあう感染症)」のことです。サル痘の読み方は「さるとう」であり、「サル天然痘」を略して「サル痘」と呼ばれるようになりました。

その名前の由来からわかる通り、サル痘は原因ウイルスや天然痘のウイルスを同じ「おルソポックス」に分類されるウイルスです。

天然痘はワクチンの効果もあって1980年に根絶されましたが、その後天然痘の予防接種が中止されたことで、サル痘が公衆衛生にとって最も重要な「オルトポックスウイルス」として浮上してきました。

ここ最近話題になったので「新種のウイルス」と思われる方もいるかもしれませんが、古くは1970年ザイール(現在のコンゴ民主共和国)での感染が初めてであり、新しいウイルスではありません

しかし、中央アフリカと西アフリカにとどまってきていたものが、2022年5月からヨーロッパ・アメリカを中心に拡大するようになり、7月25日に日本でも初感染が認められたように、世界中に広がってきていることから、WHOでも緊急対応を要するウイルスとして取り上げられるようになりました。

日本の感染症法では「4類感染症」に位置付けされています。

(参照:厚生労働省「サル痘」について
(参照:World Health Organazation「Monkeypox outbreak」

サル痘の感染経路は?

サル痘の感染経路は「動物から人への感染」と「人から人への感染」に分けられます。特に日本で気を付けなければならないのは「人から人への感染」です。

「人から人への感染」の場合、だ液や痰などの呼吸器分泌物・感染者の皮膚病変や汚染された物体への密接な接触(性的接触を含む)で起こる場合があります。

「呼吸器分泌物」というと「近づいただけで感染する」と思われるかもしれませんが、そうではありません。サル痘の感染は非常に長時間での対面接触を必要とするので、濃密に接しなければ感染しません

実際、16か国で診断された528例の解析結果によると、感染者の95%が性行為のよる感染が疑われおり、感染者の98%がゲイまたはバイセクシュアルの男性、75%は白人、41%はHIV(ヒト免疫不全ウイルス感染者)でした。(年齢中央値38歳)

しかし、医療従事者や同じ世帯の方・常に行動を一緒にしている方に関しては、呼吸器分泌物と通して感染する可能性があります。

英国で診断されたサル痘患者7人の感染者に関する論文によると、4人は男性で3人は女性でした。1人は病院内で感染された医療従事者であり、1人の方は同じ家族の成人や子供にもウイルス感染を引き起こしたということです。

他にもリネン類を介した医療従事者の感染の報告や、母親から胎児への胎盤を介しての感染のリスクも言われています。

一方、「動物から人への感染」はアフリカのリスやウサギなどのげっ歯類やサルに噛まれたり、直接接触したりなどして感染します。また、調理が不十分な肉や感染した動物の動物製品を食べることもリスク要因としていわれていますね。

特に森林地帯やその近くにすむ方は動物に間接的に接する機会があるので、動物からの感染に気を付ける必要はありますが、日本での「動物からの感染」は「特殊な事情」を考えなければ問題視しなくてもよいでしょう。

(参照:World Health Organazation「Monkeypox FACT sheet 」
(参照:New England Journal of Medicine「Monkeypox Virus Infection in Humans across 16 Countries — April–June 2022」
(参照:The Lancet Infectious Diseases「Clinical features and management of human monkeypox: a retrospective observational study in the UK」

サル痘の潜伏期間や症状は?

サル痘の皮膚症状の特徴と具体的な画像・写真。
(サル痘の代表的な皮膚症状の画像所見その1:体幹部よりも顔や足の裏などの四肢に出やすいのが特徴)

サル痘の潜伏期間(感染から症状の発現までの間隔)は通常6〜13日ですが、5〜21日の範囲で発症する可能性があります。その後、サル痘による全身症状が出現し、欧米の報告例では95%の方が皮膚症状へと移行します。

① 全身症状が主体の時期

潜伏期間のあとに発熱(62%)や激しい頭痛(27%)、リンパ節の腫れ(56%)、筋肉痛(31%)、激しい無力症(エネルギー不足)(41%)を特徴とする全身症状が「1~5日間」続きます。その後、皮膚症状(発疹[ほっしん])が主体の時期に移行します。

② 皮膚症状が主体の時期

発熱から1〜3日以内に95%の方が発疹症状が出現してきます。発疹は、体幹よりも顔や四肢に集中しやすく、顔(95%)・手のひら・足の裏(75%)に出やすいが特徴ですね。

サル痘の顔面症状
(サル痘の代表的な皮膚症状の画像所見その2:顔面や粘膜面、生殖器(肛門を含む)などにも同様な症状が生じる)

また角膜だけでなく、口腔粘膜(70%の症例)、生殖器(30%)、結膜(20%)も皮疹ができることがあります。

発疹自体は「底が平らな状態」から「わずかに隆起した固い病変」になり、小胞(透明な液体で満たされた病変)、膿疱(黄色がかった液体で満たされた病変)を通して、徐々にかさぶたのようになってきます。

病変の数は数千から数千までさまざまです。重症の場合、皮膚の大部分が剥がれるまで病変が合体することがあります。こうした一連の症状が2週間~4週間くらい続くとされています。

通常は、徐々に軽快されていきますが、一部の方は重症化して入院する場合があります。欧米での論文によると、主に以下の理由で入院されています。

  • 重度の肛門直腸痛
  • 皮膚・軟部組織の重度の感染症
  • 経口摂取できないほどの重い咽頭炎
  • 眼の病変(視力喪失を伴う角膜の感染)
  • 急性の腎障害
  • 心筋炎
  • 感染管理の目的

他の合併症としては、敗血症、気管支肺炎、脳炎などを併発することがあります。

(参照:World Health Organazation「Monkeypox FACT sheet 」
(参照:New England Journal of Medicine「Monkeypox Virus Infection in Humans across 16 Countries — April–June 2022」
(参照:The Lancet Infectious Diseases「Clinical features and management of human monkeypox: a retrospective observational study in the UK」

サル痘の死亡率・致死率は?

WHOのサル痘の死亡率は「一般人口で0%~11%であり、最近の致死率は3~6%」としています。特に妊婦・幼児や免疫不全の方では致死率は高くなりやすくなります。

天然痘に対するワクチンにより予防することができますが、日本では1976年以降、天然痘に対するワクチン接種は行われていません。(天然痘ワクチン接種により約85%発症予防効果があるとされています)そのため、天然痘ワクチン接種をされていない方は、病気にかかりやすくなる可能性がありますね。

サル痘は感染症法で「4類」に該当する感染症であり、医療機関も保健所に届け出が必要です。感染経路を理解し「サル痘かな?」と思ったら、感染拡大防止や早期治療のためにも医療機関に受診するようにしましょう。

(参照:厚生労働省「サル痘について」

サル痘の治療法は?

薬

多くの場合は対症療法です。非常に疼痛が強く、食事も喉を通らないこともあるので、栄養状態を維持しながら、二次細菌感染症をコントロールし、痛みに対して症状緩和を行います。

海外では天然痘様に開発された「シドフォビル」「テコビリマット」が投与されるケースもあります。2022年に欧州医薬品庁(EMA)からサル痘の認可を受けており、米国でもサル痘に対して「Investigational New Drug」として使用することができます。

ただし2022年7月現在日本では薬事承認された治療薬はなく、流通もしていないので注意が必要ですね。

また、感染した後でも暴露後4日~14日以内に天然痘ワクチンを接種した場合は重症化予防効果があるとされています。

(参照:World Health Organazation「Monkeypox FACT sheet 」
(参照:CDC「Monkeypox」
(参照:国立感染症研究所「サル痘とは」

サル痘についてのまとめ

いかがでしたか?今後感染拡大が懸念される「サル痘」について解説していきました。まとめると次のようになります。

  • サル痘(さるとう)は、アフリカで発生していたが、近年欧米にも広がり、日本にも感染例が認められたウイルス感染症である
  • 95%は性的接触による感染であるが、同居されている家族や医療従事者、リネンなどの寝具を介した感染なども報告されている。
  • 頭痛や発熱、リンパ節の腫れなどから95%は皮膚症状に移行する。皮膚症状は多彩であり、2週間~4週間で軽快される。
  • ただし、一部腎障害や激しい疼痛や二次感染などにより合併症が生じ、後遺症が死亡する可能性がある。WHOでは最近の症例では致死率は3%~6%としている
  • 治療薬はあるものの、国内では流通していないため、対症療法が中心である。暴露後でもワクチン接種を行うと重症化予防効果がある

新型コロナのように感染するには濃密な接触がないと感染しない分、新型コロナより致死率が高く、見慣れない分、医療従事者としては気をつけたい感染症の1つですね。

皮膚症状はかなり特徴的ですので、ご心配な方は最寄りの医療機関に相談するようにしましょう。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。かかりつけ医として、内科皮膚科中心に幅広く診療しております。プロフィールはこちらを参照してください。

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