更年期のつらい症状を和らげたい、いつまでも若々しくいたい、そんな願いを持つ女性の間で注目されやすいのが「プラセンタ注射」ですよね。
しかし、プラセンタ注射と一言で言っても、その効果や適切な頻度、副作用のリスクについて、よくわからないのではないでしょうか。実際、当院でも
- プラセンタ注射で本当に更年期に対して効果があるのか
- 美容目的の場合、どれくらいの頻度で打つのが理想的なのか
- 男性もプラセンタ注射は効果的なのか
- プラセンタ注射により、体への負担や副作用はあるのか
などプラセンタ注射の質問はよくされますね。
今回、こうしたプラセンタ注射の効果、推奨される頻度、そして知っておくべき副作用について、更年期の方向けの情報や男性への効果も含めて、わかりやすく解説していきます。
Table of Contents
プラセンタ注射とは?

プラセンタ注射とは、胎盤(プラセンタ:Placenta)から抽出した有効成分を含む薬剤を注射する治療法のこと。「プラセンタ」は、妊娠中の母体と赤ちゃんをつなぐ器官で、赤ちゃんの成長に必要な栄養分や酸素を供給し、老廃物を排出する役割を果たします。
実は、このプラセンタ自体にも細胞を活性化する「ペプチド」や「アミノ酸」、細胞分裂を促すさまざまな「成長因子」など多くの成分が含まれています。
そのため、赤ちゃんの成長を助けるプラセンタの成分を打つことで、さまざまな薬理効果が得られるのではないかとして、臨床応用されているというわけです。
プラセンタ注射で使われるのは、ヒト胎盤を医薬品として厳格に管理・処理した「ヒト胎盤抽出エキス」です。日本で医薬品として承認されている代表的な製品に「メルスモン(Melsmon)」と「ラエンネック(Laennec)」があります。
実際、多くの効果を期待され投与されがちですが、論文上で実際に効果は確かめられているのでしょうか?
プラセンタ注射の効果その①: 女性の更年期障害に対する効果

プラセンタで最も有名な効果の1つが「更年期障害」に対する効果でしょう。
更年期障害とは、閉経前後約10年間の更年期に、女性ホルモンの急激な減少によっておこるさまざまな体調不良のこと。代表的な更年期の症状として
- ほてり、のぼせ(ホットフラッシュ)
- 冷え
- イライラ感、抑うつ感、集中力の低下
- 頭痛、肩こり
- めまい、不眠
- 関節痛、腰痛
などさまざまな症状が更年期に起こりやすくなります。
実際、プラセンタ注射はこうした更年期障害に対する効果があることが様々な論文でいわれていますね。
例えば、2008年に韓国で行われた二重盲検ランダム化試験によると、8週間のヒトプラセンタ皮下注射により更年期症状の評価スコアも改善し、疲労感も軽減したというデータがあります。この研究では、プラセンタ注射を打つと、女性ホルモンである「エストラジオール」の値も上昇し、ホルモン自体も改善しています。
また、2017年に行われた日本人女性50名を対象とした多施設共同のランダム化試験では、12週間にわたりプラセンタを1日300mg経口投与することで、更年期症状が12週後に改善したとされています。本試験では、特に「イライラ感や抑うつ」などの心理症状や、ホットフラッシュやめまいといった血管運動症状などに効果がありました。ちなみに、同試験では女性ホルモンの改善は認められていません。
また、プラセンタ注射(メルスモン)の国内第4相試験では、「更年期障害31例を対象に1回2mlを1週間に3回、2週間継続して合計6回皮下投与したところ、有効率77.4%(24例/31例)を示した」とされています。
このように、プラセンタは女性の更年期障害にも効果がありますが、多くの臨床試験では週3回くらいを目安として、8週間~12週間行われています。
したがって、「1回の注射で劇的に改善する」というわけではないので、根気よく治療が必要です。
(参照:Effect of human placental extract on menopausal symptoms, fatigue, and risk factors for cardiovascular disease in middle-aged Korean women)
(参照:Effect of porcine placental extract on the mild menopausal symptoms of climacteric women)
(参照:メルスモン添付文書)
プラセンタ注射の効果その②: 慢性疲労に対する効果

ヒト胎盤抽出液は古くから「滋養強壮」に用いられ、現代でも疲労回復目的の注射が行われてきました。実際、プラセンタ注射にはさまざまな炎症を改善する物質が含まれているので、疲労症状に対する効果も、特に韓国で研究されていますね。
例えば、2011年の韓国で315人に対して行われた臨床試験では、4週間のプラセンタ注射後の疲労回復率がプラセボ群の44.2%に対し治療群では約71%と有意に高く、プラセンタの疲労軽減効果が報告されています。
また2017年に韓国で行われた78名の慢性疲労症候群に対してプラセンタ注射を行った論文によると、6週間、週3回、プラセンタ注射である「ラエンネック」を打つことで、慢性疲労症候群の「疲労重症度スケール」などがベースラインよりも大幅に低下したとされています。
ちなみに、同試験では、8割が女性でしたが、2割は男性が含まれていますので、男性に対しても慢性疲労については有効性が期待されますね。
他にも肩こりやひざの痛みなどにもプラセンタは使われていて、小規模ながら有効性がいわれていますので、普段から「なんとなく疲れやすい」「肩がこりやすくて重だるい」などの方はプラセンタ注射はオススメになります。
(参照:Human Placental Extract as a Subcutaneous Injection Is Effective in Chronic Fatigue Syndrome: A Multi-Center, Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Study)
(参照:Efficacy and Safety of Human Placental Extract Solution on Fatigue: A Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Study)
プラセンタ注射の効果 その③: 肌や美容での効果

実は、プラセンタでよく研究されているのが「肌」への効果です。特に40歳~59歳くらいの更年期の日本人女性に対する美容におけるプラセンタの効果がよく研究されています。例えば、次の通りです。
- しわの改善:123名の更年期症状がある日本人女性に対して、プラセンタを投与したところ、24週の時点でシワの幅が、非摂取群と比べて大幅に低下した。
- 弾力性や水分の保持力が強くなる:20名の40~59歳の日本人女性に対して、プラセンタを投与すると、頬や腕の水分量や弾力性が高くなり、肌の表面から水分が失われにくくなった。
- 色素沈着(シミ)の低下:日本で行われた臨床試験で、平均年齢32歳の男性21名、女性14名に対して、プラセンタを投与して、肌画像診断でシミの量を測定したところ、シミの増加が抑制され、特に女性では2カ月目から低下する傾向にあった。
としています。いずれも小規模の臨床研究ですが、特に日本人についてはプラセンタは美容面でも有効性はあると考えられますね。
もちろん一朝一夕で肌が改善するわけではありませんが、継続的に投与することでシミやしわ・肌の水分量が改善することが期待されます。
(参照:日本補完代替医療学会誌 第 17 巻 第 2 号 2020 年 12 月:99-104)
プラセンタ注射の効果 その④: 男性の更年期障害への効果

これまで、女性中心にプラセンタ注射の効果をお伝えしましたが、何もプラセンタ注射は女性だけに効果があるわけではありません。男性にも効果があるとされています。
例えば、前述した慢性疲労に対する効果の他には、「男性の更年期障害」が言われています。
男性も加齢にともない男性ホルモンが低下することで、身体的、心理的、性的にさまざまな症状がでてきます。例えば、次の通りですね。
- 身体症状:疲れやすさ、腰や肩の痛み、関節や筋肉の痛み、体重増加、ほてり、動悸、めまいなど
- 精神症状:集中力の低下、やる気が出ない、イライラ、不安感など
- 性的症状:勃起障害、性欲の低下、朝立ちの減少など
これらを総称して「男性更年期障害(LOH症候群)」とよび、近年注目されていますね。
その男性更年期に対して、プラセンタが有効であったというのが、2019年の日本の試験で行われています。同試験では14名の男性更年期患者に対して、プラセンタを含む試験食品を毎日摂取し、男性加齢症状スコアや男性ホルモンを採取して、効果を見ています。
すると、プラセンタ投与により男性更年期による身体的スコアが8週目には改善し、腎機能とLDLコレステロール値が改善しました。ちなみに男性ホルモン自体には変化はありませんでした。
このことから、プラセンタは男性ホルモンとは違う作用機序で男性更年期症状を改善していることがわかります。
男性更年期はなかなか治しにくい疾患なので、プラセンタの有効性が大規模試験でも証明されることを期待しますね。
プラセンタ注射の頻度は?

プラセンタ注射の最適な頻度はどれくらいか。結論からいうと「週2回~週3回」が望ましいといえます。
例えば、更年期障害に対する多くの臨床試験では週2~3回投与となっています。プラセンタ注射を例えば保険診療で行う場合、1日あたり1本で月15回まで注射できます。
もちろん例えば週1回投与がまったく効果がないわけではありません。例えば、症状が落ち着いてきて維持期に入ってきたら週1回程度で来院される場合が多いですね。
すべての治療がそうですが「続けること」が大切だと思いますので、ご自身のライフスタイルや症状に合わせてご活用いただければ幸いです。
プラセンタ注射の副作用は?

結論から、プラセンタ注射は比較的副作用の少ない薬剤です。例えば、メルスモンの場合、以下の副作用が言われています。
- 5%以上の副作用:注射したところの疼痛、発赤など
- 0.1~0.5%未満の副作用:悪寒、悪心、発熱、発赤、発疹など
ラエンネックの副作用は以下の通りですね。
- 1~5%未満の副作用:疼痛
- 0.1~1%未満の副作用:発疹、発熱、そう痒感、女性化乳房など
- 頻度不明:肝機能障害、頭痛
実際、韓国で行われた315名に対して行われた安全性試験では、プラセンタ注射とプラセボ(偽薬)との間で副作用がでる確率は同じだったとされています。
ラエンネックの方が、プラセンタの含有量がやや多く、製剤のpHがやや酸性のため注射時の刺激感がメルスモンより強い傾向がありますが、それでも一時的な軽い痛み程度であるとされていますね。重篤な副作用は注意事項としては、アナフィラキシーショックですが、非常にまれです。
ただし、1つ注意事項があります。それは、プラセンタ注射を打つと献血ができなくなってしまうことです。これは、プラセンタが生物由来の製剤だからですね。
もちろん、ヒト由来プラセンタ製剤はウイルスやプリオンなど病原体の不活化処理が厳重に施されていますし、過去にプラセンタ治療による変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)の発症例は世界的にも報告されていません。ほかの感染症に関しても、非常に厳重に管理されており、「プラセンタ注射をきっかけに感染症が発症した」という例は報告がありません。
しかし理論上は感染症伝播の可能性を完全に否定できないため、厚生労働省の指導によりプラセンタ注射を受けた人は以後、献血を行えない取り決めになっているのです。
実際は、これまでも多くの臨床試験で取り扱っている製剤であり、実臨床でも非常に多くの方がうっていますので、感染症についてもご安心いただけたらと思います。
(参照:プラセンタは赤ちゃんからのプレゼント ――プラセンタに対する誤解を解く)
(参照:Efficacy and Safety of Human Placental Extract Solution on Fatigue: A Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Study)
(参照:メルスモン添付文書)
(参照:ラエンネック添付文書)
プラセンタ注射の費用は?
プラセンタ注射の費用は自費の場合
プラセンタ注射 | 1,000円(税抜き) |
で行っております。ぜひ更年期障害や慢性疲労、更年期に伴う美容などにお悩みの方はぜひご利用ください。
なお、当院では保険診療でプラセンタ注射をすることもできます(その場合は500円程度)が、「婦人科で更年期障害であり、プラセンタ注射の適応であると診断されている方」に限らせていただきます。
また当院では更年期障害に対しての漢方薬治療は行っておりますが、HRT(ホルモン補充療法)は原則行っておりませんので、ご了承ください。
【この記事を書いた人】
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。
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