ストレスによる咳「心因性咳嗽」のチェックリストと特徴・治し方について解説

ストレスは私たちの身体にさまざまな影響を与えることがありますが、意外に知られていないストレスによる症状の1つが「ストレスによる咳」。

実は、ストレスは様々な理由から「長引く咳」とつながっていきます。

中でも「心因性咳嗽」はストレスや心の問題が原因で咳の症状が引き起こされることが特徴です。

しかし、心因性咳嗽の診断はなかなか難しく、背景にある生活環境に関する問診や特別な治療が必要なケースもしばしば経験します。

この記事では、心因性咳嗽のチェック方法やその原因・治療方法について解説します。これを機に、自分の咳の原因を見つめ直し、適切な対処法を見つける手助けにしてくださいね。

ストレスによる咳「心因性咳嗽」とは?

ストレスによる咳の1つである心因性咳嗽とは「心理生理的メカニズムにより、発作的または連続的に起こる乾いた咳」ことです。

日本咳嗽学会で提示される「あまい基準」によると、以下の1~4のすべての基準を認めた場合、「心因性咳嗽」として診断されます。

  • 犬が吠えるような、きんきんしたあるいは霧笛のような大きな音のする咳嗽が反復性発作性に生じる
  • 身体所見、画像所見、検査所見に明らかな異常を認めず、H1-拮抗薬、β2-刺激薬、マクロライド系抗菌薬、ステロイド薬、プロトンポンプ阻害薬など、しばしば咳嗽を呈する基礎疾患や病態に対して有効な薬剤がいずれも無効である
  • 以下の3つの所見のうち、1つ以上を認める:
    1. 咳嗽により日常生活や社会生活が障害される一方で、副次的な利益が患者にもたらされる
    2. 咳嗽の音が大きい割に重症感が乏しい
    3. 咳嗽は睡眠中は消失する
  • 治療では、マイナートランキライザーの投与、勇気づけ、行動変容示唆療法、リラクセーションテクニック、精神療法、言語療法、身体的療法および催眠療法などが有効

小児によくみられる咳の1つですが、ストレスの多い現代社会では大人も心因性咳嗽を発症することがあります。特に成人では女性が多いです。

さらに、心因性咳嗽は気管支喘息との合併率が26%認めている報告もあり、ストレスは後述する気管支喘息や咳喘息なども増悪させますので、診断にしばしば難渋します。

(参照:日本咳嗽学会HP「咳について」
(参照:心因性咳嗽の臨床的検討。日耳鼻 124: 1485-1491, 2021

心因性咳嗽の症状の特徴とチェックリスト

では、実際どういった方が心因性咳嗽の可能性が高いのでしょう。心因性咳嗽の症状の特徴をチェックリスト方式で記載してみました。実際、チェックリストに当てはまっているかチェックしてみてください。

  1. もともと非常にストレスが大きい環境にいる
  2. 最近ストレスが強い環境に変わってから
  3. 咳の音が大きくて、犬が吠えるような、きんきんした、または霧笛のような音がする
  4. 咳はくりかえし発作のように起こる
  5. 病院で診てもらっても、身体や検査で異常が見つからない
  6. いろんな薬を試しても、効果がない
  7. 咳があっても、他の病気の症状(発熱、鼻水など)はあまり感じない
  8. 咳が日常生活や学校生活に影響している
  9. 咳が眠っている間や集中しているときなどは咳がでない

このチェックリストのうち、例えば5個以上当てはまる場合、心因性咳嗽の可能性が高いと思います。ただし、後述しますがストレスによる増悪する咳は心因性咳嗽だけではありません。自己判断せず最終的には病院できちんと診断してもらうようにしましょう。

心因性咳嗽の原因は?

ストレスや心の問題が引き金となる「心因性咳嗽」はなぜ起こってしまうのでしょうか。具体的には、以下のような理由が考えられますね。

  1. ストレス: 仕事や学業、家庭などのストレスが溜まると、自律神経が乱れ、脳幹にある咳中枢を刺激して咳が出やすくなることがあります。
  2. 感情の抑圧: 悲しみや怒りなどの感情を抑え込むことで、身体がその感情を咳として表現することがあります。
  3. 注意を引くため: 無意識のうちに、自分に注意を向けさせたいという気持ちから咳が出ることがあります。これは、他人からの関心やサポートを求めているサインとも考えられます。
  4. 習慣性: 咳が一度出始めると、身体がその動作に慣れてしまい、ストレスや感情とは関係なく咳が出るようになることがあります。

そもそも咳といっても、

  • 末梢咳受容体から迷走神経を通して『つい出てしまう』不随意咳反射
  • 大脳皮質から『咳を出そう』として出す随意的な咳衝動

の2つがあります。そして、その背景にある原因としては

  1. 異物(ウイルスや痰など)を出そうとして反射的に咳がでるから
  2. 異物以外の気道への何らかの刺激(アレルギー反応など)があって咳衝動に駆られるから
  3. そのほかの理由で「咳を出すこと」によって社会的・心理的に有利になるから

があげられます。このうち、心因性咳嗽は3番の「咳を出すことで何かしら利益があるから」ということになります。

しかし、咳で困っているのに「利益がある」というのは矛盾しているように見えますよね?深層心理に関わることなので、本人も無自覚なことが多いのです。

例えば、心因性咳嗽の原因を検索した論文によると、

  • チック症候群
  • うつ病
  • 不安症
  • 適応障害

また、心因性咳嗽に気管支喘息などが合併している方は1~3すべての理由で「咳」が出ていることがあります。その場合、咳の原因すべてに対処しなければならないので、「どの原因で咳が出ているのか」を詳細に考える必要があり、治療としてかなり難渋しやすくなるのです。

ストレスは「心因性咳嗽」以外の咳も悪化させやすい

ストレスは、私たちの心と体にさまざまな影響を与えます。咳に関しても、ストレスは心因性咳嗽だけでなく、他のタイプの咳も悪化させることがあります。

例えば、アトピー咳嗽や感染症による咳も、ストレスの影響を受けることがあります。ストレスは自律神経のバランスを崩し、免疫システムにも悪影響を与えることが知られています。結果、アレルギー反応が強まったり、感染症が悪化したりすることで、咳の症状が増悪することがあるのです。

また、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息などの疾患による咳も、ストレスによって悪化することが報告されています。ストレスが炎症を促進し、気道の収縮や粘液の分泌を増加させることで、これらの症状が悪化する可能性があります。

肺とは関係ない「胃逆流性食道炎」も実は咳が出やすい原因の1つですが、ストレスによって悪化しやすいです。ストレスで胃酸の分泌量が多くなるからですね。

このように、ストレスは心因性咳嗽だけでなく、他の咳も悪化させる要因となることがあります。だからこそ、ストレスによる咳の診断は意外と難しいことが多いのです。

したがって、特に難渋しやすい咳の場合は「原因はどこにあるのか」をよく考えながら診療するようにしています。

ストレスによる咳「心因性咳嗽」の治療法は?

したがって、ストレスによる咳の治療法は、診断や併存疾患にもよりますので、ここでは心因性咳嗽の治療について述べます。大きく分けると薬物治療と非薬物治療の2本柱になります。

① 薬物治療(精神科薬・漢方薬)

いわゆる「咳止め」でも一時的に収まることはありますが、根本原因が「深層心理」や精神疾患にかかわるもののため、解決策として適切ではありません。したがって薬物療法としては、精神的な西洋薬や漢方薬などが考慮されます。

心因性咳嗽で主に用いられる精神的な薬としては

  • 塩酸セルトラリン(ジェイゾロフトⓇ)
  • エスシタロプラム(レクサプロⓇ)
  • スルピリド(ドグマチールⓇ)
  • フルペンチキソール
  • メリトラセン
  • 塩酸パロキセチン(パキシルⓇ)
  • オランザピン(ジプレキサⓇ)
  • アルプラゾラム(ソラナックスⓇ)

など多種多様であり、背景となる精神疾患によっても様々です。後述するように非薬物治療による「催眠療法」「暗示療法」などが必要なケースもあります。したがって、心因性咳嗽が長引くと予想される場合は、適宜専門施設に紹介させていただきます。

気管支喘息などの疾患と併存されている場合は、各科が連携しながら行うことになり、喘息やアトピー咳嗽などの治療をしながら心因性咳嗽の治療も行っていくという形になります。

また、心因性咳嗽で漢方薬が用いられることがあります。東洋医学では心因性咳嗽は「気の滞りである気滞をきっかけとした症状」と考えられます。

精神的ストレスが強くかかると気の巡りをコントロールしている肝の働きが悪くなり、気の巡りも悪くなって「咳」として表出されるとされているのですね。

もっとも心因性咳嗽に用いられやすい薬は「半夏厚朴湯」です。主に「のどのつかえ感」に使われる漢方薬ですが、胃腸が弱く、気分がふさいで、咽喉・食道部に異物感があり、ときに動悸、めまい、嘔気などを伴う方の不安神経症にも用いられるため、心因性咳嗽としても使われます。生薬として

  • 半夏(ハンゲ):悪心、嘔吐、消化不良、咳嗽、去痰などの改善に使われます。
  • 茯苓(ブクリョウ):食欲不振、消化不良、動悸、不眠などに使われます。
  • 厚朴(コウボク):整腸、健胃、去痰作用などがありますね。
  • 蘇葉(ソヨウ):気のめぐりをよくして気分を爽快にする作用があります。
  • 生姜(ショウキョウ):ショウガのこと。体を温め、免疫力を高めるとされます。

の5つからなるシンプルな漢方薬。全体的に「咳を取り除きながら、気分を整える」といった作用があることがうかがえますね。

実際は、他にも様々な漢方薬があり、おなじ心因性咳嗽でも全く違う漢方薬を処方することもよく経験します。

ただし繰り返しますが、他の疾患が隠れている場合などは単一では治りません。なので「ストレスだから漢方薬でとりあえず様子をみよう」というのはオススメしません。(実際、心因性咳嗽と思われた患者の52.2%は別の疾患だったというデータもあります)

必ずクリニックに受診してきちんと診断を受けながら治療していくようにしましょう。

気管支喘息やその他の治療方法については、下記も参照してください。

② 非薬物療法(催眠療法・暗示療法など)

非薬物療法は薬物療法以上に効果的とされています。さまざまな治療法がありますが、暗示療法や認知行動療法などがあげられますね。純粋な「心因性咳嗽」の場合、96%の方が咳症状を改善するのに効果があったとしています。

暗示療法とは文字通り「咳は、最初の刺激物から始まり、現在は消え、咳自体が刺激を引き起こし、さらなる咳を引き起こす悪循環である」と説明しながら、ステップを踏むことでゆっくり「咳は異常なことではなく、自分でコントロールできるものだ」と認識させるのが目的になります。

これは特別なカウンセリングが必要であり、それなりの時間を必要としますので、専門の施設を紹介させていただきます。

(参照:Somatic cough syndrome or psychogenic cough—what is the difference?
(参照:Management and diagnosis of psychogenic cough, habit cough, and tic cough: a systematic review

ストレスによる咳についてのまとめ

いかがでしたか?今回はストレスについての咳について解説していきました。まとめると

  • ストレスによる咳は「心因性咳嗽」が有名であるが、他の疾患でもストレスにより増悪しやすい
  • 心因性咳嗽の特徴としては、夜間に症状がでにくいことや、新しくストレスがかかった段階で出やすい事、集中していると咳が出にくいことなどがあげられる
  • ただし、気管支喘息と併存している場合などはしばしば診断に苦慮しやすい
  • 治療法としては、精神にかかわる薬や漢方薬、非薬物療法などが用いられる

といえます。とにかく「ストレスだから」というのは簡単ですが、対処法がさまざまなので長引くようならきちんと診断を受けることが大切ですね。

当院でも心因性咳嗽を含めて呼吸器疾患での治療も行っておりますので、ご相談いただけたらと幸いです。1人で抱え込まず、ぜひお気軽におっしゃってください。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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