甲状腺機能低下症の原因や症状・気を付けるべき食事について解説

  • いつも疲れがだるさが続く
  • 冷え性で、普段から汗をかかない
  • 眠気がいつも強く、動作が遅くなっている
  • 皮膚も乾燥しやすく、髪の毛がぬけやすい

こうした方は、甲状腺の病気の中でも比較的多い「甲状腺機能低下症」かもしれません。今回は、だるさから皮膚の乾燥まで、多彩な症状を示す「甲状腺機能低下症」について、原因から症状・治療・気を付けるべき食べ物まで幅広く解説していきます。

甲状腺とは?

甲状腺とは首の真ん中、のどぼとけのすぐ下にある大きさ4~5㎝大の臓器の1つです。空気の通り道にある気道に張り付いています。

15gくらいの小さな臓器ですが「甲状腺ホルモン」という、細胞や体の活動を調節する化学物質を脳の指令を受けて作り、量を調節しています。

甲状腺ホルモンの役割は?

甲状腺ホルモンの役目を一言でいうと「からだの『新陳代謝』を調節する」こと。主な役割としては以下の通りです。

  • エネルギーの消費を高める
  • 皮膚や粘膜・消化管の新陳代謝を高める
  • 自律神経の働きを調節し、脈拍や体温を一定に保つ
  • 脳の働きを活発にする:低下すると認知症やうつの方の原因にもなる

などです。これだけ書くと、なんだかすごく良い効果ばかりに見えますね。しかし、過剰になりすぎても、落ち着かなくなったりやせすぎたりなど体に様々な有害な影響が出るので、厳密に調節されています。

具体的には脳の下垂体という臓器から「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」が分泌されると、甲状腺が刺激され、甲状腺ホルモンが作られるようになります。検査データでは「fT4(遊離サイロキシン)」「T3(トリヨードサイロニン)」などの言葉で表記されることでしょう。

さらに甲状腺ホルモンの量が十分体に入っているかを脳が常にモニタリングしており、「十分ホルモン量が足りている」と判断すれば、脳から刺激されなくなりホルモン量を調節しています。

このように、体のさまざまな機能を支えているホルモンの1つが甲状腺ホルモンなのです。

甲状腺機能低下症の原因は?

〔甲状腺のホルモンバランスの調節:著者作成)

甲状腺機能低下症とは、文字通り「甲状腺の機能が様々な理由で低下する疾患」のこと。甲状腺機能低下症の原因は、大きく分けて2つに分かれます。

① 原発性甲状腺低下症・橋本病

原発性甲状腺機能低下症は、甲状腺そのものの働きが低下することで起こるタイプのものです。TSH(甲状腺刺激ホルモン)が高いのに、fT4やT3(甲状腺ホルモン)が低値になるのが特徴です。

原因として圧倒的に多いのが橋本病(慢性甲状腺炎)。橋本病では、免疫の異常によって甲状腺を攻撃する抗体を自らつくっていまい、甲状腺が慢性的に炎症を起こすため、炎症が強くなると甲状腺の機能が低下します。

なぜ免疫の異常が生じるかはわかりません。もともと甲状腺に対する抗体を持っている方が、強いストレスや妊娠・出産・ヨードの過剰摂取などがきっかけで、甲状腺機能低下症を発症するのではないかといわれています。

橋本病は成人女性の10人に1人・成人男性の40人に1人といわれており、これらのうち甲状腺機能低下症になるのは4~5人に1人未満です。主に30代~40代の女性に発症します。(日本内分泌学会による詳細はこちら

橋本病のほかにも、甲状腺の手術後・ヨードの過剰摂取・薬物の影響・悪性リンパ腫などで生じることもあります。また産後やウイルス疾患で炎症が生じた場合、一時的に甲状腺の機能が低下することもありますね。

② 中枢性甲状腺機能低下症

中枢性甲状腺機能低下症とは「甲状腺を調節する脳の機能が低下して、甲状腺ホルモンが足らなくなるタイプ」のこと。具体的にはfT4やT3(甲状腺ホルモン)だけでなく、TSH(甲状腺刺激ホルモン)も低下します。

その中でも下垂体が原因か視床下部が原因かによっても分かれますが、脳腫瘍・自己免疫性下垂体炎・脳外傷・ラトケ嚢胞など脳に関わる疾患が多く、症状が強い場合などは適宜連携施設に紹介させていただくことになります。

甲状腺機能低下症の症状は?

甲状腺機能低下症の主な症状としては、以下の通りです。

  • 神経・全身症状:動作や言葉がゆっくりになったり、眠気・物忘れが多くなったりします。だるさや疲れやすいといった方も多いです。そのため「うつ病」と診断されてしまうこともあります。体温も低くなりがちです。
  • 消化器症状:腸のぜん動運動も低下するため、便秘になります
  • 循環器症状: 脈が遅くなったり(徐脈)、むくみが出てきます。重度の方は息切れや心肥大をおこすこともあります。
  • 皮膚症状: 甲状腺を大きくなる他、皮膚の乾燥や脱毛・汗がでにくくなることがあります。
  • 婦人科症状:月経不順や月経過多の原因にもなります
  • 血液検査所見:悪玉コレステロールといわれる「LDLコレステロール」の上昇します。他、貧血や肝障害をきたすこともあります。

このように全身のあらゆる症状がでる可能性があるのが、甲状腺機能低下症です。特に女性は有病率の高さもあり、疑わしい場合は甲状腺機能をチェックしています。

甲状腺機能低下症の治療は?

甲状腺機能低下症の治療は、甲状腺ホルモンを補う補充療法が一般的です。具体的な合成T4製剤である「チラージン®S」を内服し、体のホルモンを保ちます。

妊娠を始め生活スタイルや環境の変化でホルモンバランスは変化するので、定期的に甲状腺ホルモンをモニタリングしながら、投与量を変えていきます。特に妊娠中は、甲状腺機能低下症を急速に改善する必要があるので注意が必要です。

また亜急性甲状腺炎や無痛性甲状腺炎のように、一時的に甲状腺機能が低下している場合はホルモン治療を中止することもあります。

さらに、橋本病のように甲状腺の炎症が続いている場合は、甲状腺腫瘍の合併なども含めて超音波で評価するようにしています。超音波検査については超音波検査(エコー検査)でわかること【原理・目的・費用】を参照して下さい。

甲状腺機能低下症の中には、甲状腺ホルモンが正常範囲内でも甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高い『潜在性甲状腺機能低下症』と呼ばれる方がいます。治療すべきか議論が多い所ですが、持続的にTSHが高い方・症状がある方・妊娠を前提とした場合などはホルモン療法を開始することがあります。

いずれにせよ長い治療が必要になりますので、個別に相談させていただながら治療方針を決定していきます。また甲状腺に関する合併症がある場合は、適宜関連施設に紹介させていただきます。

甲状腺機能低下症の食事で気をつけるべきポイントは?

甲状腺機能低下症で気を付けたほうがよい食事としては以下の通りです。

① ヨウ素を「過剰に」摂取しない

ヨウ素は甲状腺ホルモンの主原料になる成分で、甲状腺の中にヨウ素が取り込まれ、甲状腺ホルモンを合成します。主に昆布やわかめ・のり・ひじき・昆布だし・寒天などに含まれます。

日本では、幸い和食で昆布も使われることもあり、推奨量0.13mg/日に対して推定1~3mg/日摂取されています。環境庁発表による)そのため、世界ではヨウ素が不足している中、日本では十分とられている状況です。

しかし、ヨウ素が大切な甲状腺ホルモンを作る栄養素であり、不足すると甲状腺の障害を起こす一方(詳細はこちら)、過剰にとりすぎても甲状腺の障害を起こすことも知られています(詳細はこちら)。

そのため、今の日本の現状も考えると「過剰に摂取しないほうが望ましい」といえます。具体的には、過度なヨードうがい液の使用や、昆布やわかめ・海苔の過剰摂取は控えたほうがよいでしょう。

ただし、甲状腺ホルモンの主原料である点は変わりないので「ゼロ」にはしないほうがよいです。「ほどほど」が大切ですね。

② セレン

セレンは甲状腺ホルモンの代謝に必要な微量栄養素の1つ。主に肝臓や腎臓に含まれ、甲状腺ホルモンの活性化を行います。(詳細はこちら)主にマグロや全粒粉・イワシ・たらこ・ネギなどに含まれています。

幸い推奨量が20~35μg/日に対して、通常の食事から十分摂取していると考えられるため、食生活に偏りがない場合は、セレンについて特に考えなくて大丈夫です。

逆にあまりに食生活の偏りが激しい場合は、セレンの摂取を食品からとってもよいでしょうね。サプリメントで摂取する場合は、摂取基準を超えないように気を付けましょう(東京都福祉保健局の注意喚起もあります)

③ 亜鉛

亜鉛もセレン同様に甲状腺ホルモンを活性化するのを助けると考えられている微量元素の1つです。(詳細はこちら)日本人は逆に亜鉛不足の傾向があるので、有用かもしれませんね。

ただしサプリメントでとりすぎるのも過剰症になり、体によくありません。きちんともモニタリングする必要がありますね。詳しくは亜鉛の効果と亜鉛不足について【症状・摂取量・食べ物・治療】も参考にしてください。

④ ゴイトロゲン

ゴイトロゲンとはヨウ素の取り込みを阻害し、甲状腺腫を引き起こすものの化合物の総称のこと。主に、大豆食品や芽キャベツ、ブロッコリー、松の実、ピーナッツなどが含まれています。

ただしヨウ素欠乏症の方やゴイロトロゲンを大量に食べる場合だけ問題されるべきであり、例えば高濃度のゴイロトロゲンが含まれる芽キャベツを1日150g、4週間(ゴイロトロゲン220㎎)食べても甲状腺機能に影響を与えなかったとする報告もあります(詳細はこちら

もちろん過剰に摂取すると問題になることもあります。繰り返しますが「ほどほど」が大事ですね。

甲状腺機能低下症のまとめ

いかがでしたか?甲状腺機能低下症の原因から治療にいたるまでまとめました。

全身に作用する甲状腺ホルモンは頭の先からつま先まで、至る所に影響を及ぼすホルモンの1つ。女性に特に多い疾患なので、該当される方はぜひ相談していただくとよいでしょう。

治療には長くかかる場合があります。食事はヨードを過剰にとりすぎなければ、過剰に気にする必要はないでしょう。偏った食生活はしないように、バランスよい食事が大切ですね。

当ひまわり医院でも甲状腺機能低下症に関する治療も行っております。場合によっては連携施設に紹介させていただきますので、気になる方はぜひご来院ください。

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【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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