薬剤耐性菌(AMR)の種類や原因、対策について【抗菌薬を正しく使うために】

こんにちは、一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介です。

「風邪をひいたから、念のため抗生物質をください」――診察室で、こんなご要望をいただくことが少なくありません。みなさんも、過去に風邪で抗菌薬(抗生物質)を処方された経験があるのではないでしょうか?

しかし実は、その「念のため」が、いま世界中で大問題になっているのです。

抗菌薬が効かない細菌――「薬剤耐性菌(AMR:Antimicrobial Resistance)」が世界中で静かに広がっています。2050年には、薬剤耐性菌が原因で年間1,000万人が亡くなると予測されており、これはがんによる死亡者数を上回る数字です。あまりに静かに進行することから「サイレントパンデミック(静かなる世界的流行)」とも呼ばれています。

「自分は風邪でしか抗菌薬を飲んだことがないから関係ない」と思っていませんか? 実は、私たち一人ひとりの抗菌薬の使い方が、この問題に大きく関わっているのです。

今回は、最新の医学論文と厚生労働省『薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2025』をもとに、薬剤耐性菌の正体から、なぜ生まれるのか、そして私たちが今日からできる対策まで、わかりやすく解説していきます。

薬剤耐性菌(AMR)とは?

薬剤耐性(AMR)とは、本来効くはずの抗菌薬(抗生物質)が、細菌に対して効かなくなる、あるいは効きにくくなる現象のことを指します。「Antimicrobial Resistance」の頭文字をとって「AMR」と表記されます。

細菌は、抗菌薬の刺激を受け続けると、自らの構造や仕組みを変化させることで薬の効果を逃れる能力を獲得します。これを「耐性化」と呼びます。一度耐性を獲得した細菌は、次世代の細菌にもその性質を受け継がせていきます。

つまり、薬剤耐性菌とは「進化した細菌」と言ってもよいでしょう。本来であれば医療現場で使われる抗菌薬が、彼らには通用しなくなってしまうのです。

(参照:Wong CTH et al. Antimicrobial resistance: a concise update. Lancet Microbe 2025

薬剤耐性菌の種類は?〜代表的な4つの耐性菌〜

ひと口に「薬剤耐性菌」と言っても、いくつもの種類があります。ここでは特に医療現場で問題となっている代表的な4つの耐性菌について、それぞれの特徴をお伝えします。

① MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)

院内感染で最も問題になる代表的な耐性菌です。健康な人の鼻の中などにも普通に存在する黄色ブドウ球菌が、メチシリンという抗菌薬に耐性を獲得したものです。手術後や免疫が低下した患者さんに感染すると、肺炎・敗血症などを引き起こすことがあります。

2024年Lancet誌の報告では、MRSAによる全世界の年間死亡者数は1990年の57,200人から、2021年には130,000人へと約2.3倍に増加しています。

② ESBL産生菌

大腸菌などの腸内細菌が、第3世代セフェム系という強力な抗菌薬に耐性を獲得したタイプです。「Extended-Spectrum β-Lactamase」(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)の頭文字で、要するに「βラクタマーゼという酵素を出して薬を分解する菌」のことです。尿路感染症や胆道感染症の原因となります。

③ CRE(カルバペネム耐性腸内細菌)

「最後の砦」と呼ばれるカルバペネム系抗菌薬すら効かない、最も厄介な耐性菌です。感染した場合の致死率は40〜50%とも報告されており、世界中の医療機関で警戒されています。日本でも近年、報告数が増えてきています。

④ MDRP(多剤耐性緑膿菌)

複数の抗菌薬(イミペネム・アミカシン・シプロフロキサシンなど)すべてに耐性を持つ緑膿菌のことを指します。緑膿菌は元々、健常人にはあまり病気を起こしませんが、免疫力が低下した患者さんに感染すると重篤化することがあります。

(参照:Global burden of bacterial antimicrobial resistance 1990-2021. Lancet 2024

薬剤耐性菌の死亡率や死亡者数は?

新型コロナのように、テレビで連日報道されるパンデミックとは違い、薬剤耐性菌は静かにゆっくりと世界中で死者を増やしています。その実態は驚くべきものです。

2024年9月にLancet誌で発表された最新のGBD研究では、以下のような衝撃的な数字が報告されています。

  • 2021年時点:細菌の薬剤耐性に関連する死亡者は世界で年間471万人、AMRに直接起因する死亡者は114万人
  • 2050年予測:AMRに関連する死亡者は年間822万人、AMRに直接起因する死亡者は191万人に達する見込み
  • 厚生労働省・WHOの試算:対策がとられない場合、2050年には全世界でAMR関連死者数が毎年1,000万人を超え、がんによる死亡者数を上回る可能性

参考までに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の2023年時点での世界累積死亡者数は約688万人。つまりAMRは、コロナを上回るペースで毎年人命を奪う可能性があるということになりますね。

特に懸念されているのが「高齢者」への影響です。1990年から2021年の間に、5歳未満の小児ではAMRによる死亡は50%以上減少した一方、70歳以上の成人では80%以上増加しています。日本のような高齢化社会において、このトレンドは深刻な意味を持ちます。

厚生労働省が2026年3月に公表した『薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書2025』によれば、日本では国を挙げたAMR対策によって、おおむね耐性率は低下傾向にあるものの、一部の耐性菌では依然として他国より高い水準にあると報告されています。

(参照:厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策

薬剤耐性菌が生まれる原因は?

では、なぜ耐性菌は生まれてしまうのでしょうか? 主な原因は、「抗菌薬の不適正使用」にあると言われています。

厚生労働省は、抗菌薬の不適正使用を2つに分類しています。

  1. 不必要使用:抗菌薬が必要でない病態(例:ウイルス性の風邪)に抗菌薬を使用すること
  2. 不適切使用:抗菌薬が必要な病態であっても、薬の選択・量・期間が標準的な治療から外れていること

耐性菌が生まれるプロセスはこうです。例えば、ある細菌の集団に抗菌薬を投与すると、99%の細菌は死滅します。しかし、たまたま薬に強い性質を持つ1%が生き残ります。この生き残った細菌は分裂を繰り返し、やがてその集団全体が薬に強くなるのです。これが自然選択による「耐性化」のメカニズムです。

不適正使用がこのプロセスを加速させる要因は、主に以下の通りです。

  • ウイルス感染(風邪・インフルエンザなど)への抗菌薬使用 ― 効かないのに細菌に「練習試合」をさせている状態
  • 処方された抗菌薬を途中でやめてしまう ― 「症状が良くなったから」と中断すると、中途半端に生き残った菌が耐性化
  • 家族や友人にもらった抗菌薬を自己判断で使う ― 適切な量・期間ではない使用
  • 家畜への過剰な使用 ― 畜産業界での抗菌薬使用も、耐性菌の発生源となる

2025年にBMJ Public Healthで発表されたMulchandaniらの大規模スコーピングレビューでは、2000年から2021年の世界における抗菌薬の不適正使用が体系的に分析され、特に外来診療現場(プライマリ・ケア)における不適正処方が耐性化の主要因であることが指摘されています。

また、Lancet Microbe誌に2024年に掲載されたWongらの総説でも、AMRは「個人レベル・集団レベルの両方で抗菌薬使用の最適化なしには止められない」と結論づけられています。

(参照:Mulchandani R et al. Global trends in inappropriate use of antibiotics, 2000-2021. BMJ Public Health 2025

かぜに抗生剤は効きません ― よくある誤解について

ここで、最も重要なポイントをお伝えします。

「かぜに抗生剤は効きません」

厚生労働省が令和7年度(2025年度)に展開している啓発キャンペーンも、「かぜに抗菌薬 効かへんで!」という関西弁のキャッチフレーズで広く呼びかけています。

なぜなら、ほとんどのかぜ(急性上気道炎)はウイルスによる感染症だからです。抗菌薬は「細菌」を殺す薬であって、「ウイルス」には全く効果がありません。これは医学的にも明確な事実です。

しかし驚くべきことに、AMRアライアンス・ジャパンが実施した日本国民への意識調査では、「抗菌薬はウイルス感染症には効かない」という事実を正しく認識していたのは、わずか約18%に留まりました。さらに、薬剤耐性に関して「特に何もしない」と答えた方が約60%に上ったことも報告されています。

つまり、多くの方が「念のため抗菌薬」を希望し、それが処方されてしまうことで、耐性菌の温床となっているのが現状なのです。

かぜの症状で受診されたとき、医師から「抗菌薬は出しませんね」と言われると、不安になる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これは決して「適当に診ているわけ・手抜き診療ではなく」、むしろ最新のエビデンスに基づいた、責任ある医療判断ともいえるわけですね。

もちろん、二次性の細菌感染(副鼻腔炎・中耳炎・肺炎など)を合併していると医師が判断した場合は、適切に抗菌薬を処方します。「症状によって使い分ける」――これが現代の感染症診療の基本です。

(参照:AMRアライアンス・ジャパン「サイレントパンデミックを乗り越えるために」
(参照:厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き第四版(医科・外来編)」

私たちにできる「薬剤耐性菌」対策 ― 今日から始められること

「世界規模の問題なんて、自分には関係ない」――と思われるかもしれません。しかし、AMR対策は実は私たち一人ひとりの日常的な行動から始まります。今日から始められる5つの対策をお伝えします。

① 抗菌薬は医師の指示通りに、最後まで飲みきる

処方された抗菌薬は、症状が改善しても、医師から指示された日数・量を必ず飲みきってください。途中でやめてしまうと、中途半端に生き残った細菌が耐性化する原因になります。

② 抗菌薬を自己判断で要求しない

「念のため」「早く治したいから」という理由で抗菌薬を希望することはやめましょう。ウイルス性のかぜには効きませんし、不要な使用が将来「効く薬がない」状況を作り出します。

③ 残った抗菌薬を保管・転用しない

「前にもらった抗菌薬がまだ余っているから飲もう」「家族にもあげよう」は絶対NGです。種類も量も病気によって異なるため、不適切な使用となり耐性菌を生み出します。

④ 感染症にかからないための予防

そもそも感染症にかからなければ、抗菌薬も必要ありません。手洗い・うがい・マスク・ワクチン接種・十分な睡眠と栄養――これらの基本的な感染対策こそが、最大のAMR対策です。

⑤ ワクチン接種で予防可能な感染症を防ぐ

インフルエンザ、肺炎球菌、麻疹、帯状疱疹など、ワクチンで予防できる感染症は積極的に予防接種を受けることをおすすめします。感染症にかからなければ、抗菌薬を使う機会も減らせます。

WHOは2024年9月の国連総会で、加盟国に対して「2030年までに人の抗菌薬の不適正使用を20%削減する」という目標を提示しました。これは医療者だけの努力では達成できません。患者さんお一人おひとりの理解と行動が不可欠です。

(参照:Mendelson M et al. Ensuring progress on sustainable access to effective antibiotics at the 2024 UN General Assembly. Lancet 2024

まとめ

今回は、いま世界で問題となっている薬剤耐性菌(AMR)とサイレントパンデミックについて、最新の医学論文と公的データをもとに解説しました。

大切なポイントを整理します。

  • 薬剤耐性菌にはMRSA・ESBL産生菌・CRE・MDRPなど複数の種類があり、それぞれ深刻度が異なる
  • 2021年時点で世界年間471万人がAMRに関連して死亡しており、2050年には1,000万人を超える可能性
  • かぜなどのウイルス感染症に抗菌薬は効かない(事実を正しく知っている日本人は約18%のみ)
  • 抗菌薬は医師の指示通りに、最後まで飲みきることが重要
  • 「念のため抗菌薬を希望する」ことは、将来の医療を脅かす行為になりうる
  • 感染対策とワクチン接種が、結果的にAMR対策につながる

当院では、患者さんの症状を丁寧に診察した上で、本当に必要なときだけ抗菌薬を処方することを心がけています。抗菌薬についてのご不安や疑問があれば、いつでも診察時にお声がけください。

関連するコラムは以下も参考にしてください。

みなさんの「適正な抗菌薬の使い方」が、未来の医療を守る大切な一歩になります。

【この記事を書いた人】 
一之江駅前ひまわり医院院長の伊藤大介と申します。プロフィールはこちらを参照してください。

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